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第35話 スカルとジョーカー

 修理された漆黒の鳥人装備を身に付け、シドの店の前に設置されたベンチに座ったブライトは、ガックリと項垂れていた。


(今回の修繕費が900万…。また借金が増えたけど、今回の様な任務を続ければ…でも、スペシャルミッションって言う位だから、そんなに頻繁には無いんだろうしな…)


 今回の任務の報酬を全て借金に充てれば、あと数回で完済出来るのだろうが、今回の様な任務はそう頻繁には発生しないだろう。

 普段の単価で仕事を続けても、借金は中々減らないだろう。むしろ増える可能性だってあるのだ。

 そもそもの装備が金がかかり過ぎているから必然的に修繕費が高くなるのは仕方がない。

 しかし、この装備でなければ、桐生の猛特訓も、冴嶋との闘いも乗り越える事が出来なかったであろう事を知っているので文句も言えない。


(…そういや俺って、まだ普通の任務ってやった事無いんだよな。平均単価とかどーなってんのかな?)


 何が普通なのかは分からないが、考えてみるとブライトはまだ一度も普通の任務を行っていない事に気が付く。


(あとでティザーに聞いてみよう。)



 ―そして数分後。



「あ!お久しぶりー!ブライト君!元気だったー?」


 すると、一応ゴーグルで素顔を隠したティザーが待ち合わせ場所であるシドの店の前にやって来た。髪の色は綺麗な金髪である。


「…久しぶりだな」


「だねー!メールではやり取りしてたけど!」


 走ってきたからか、ティザーの頬は赤らんでいる。


(なんか、普段の瑠美はお姉さんキャラなんだけど、今日はどこか幼い感じがするな…。まあ、いいけど)



「さて、今日はどうするー?」


「任せる」


「じゃあ…簡単な任務受けようか?フェノム退治とか?」


 フェノム退治と聞いて、桐生と同行した地獄の任務を思い出す。だが、あれは特殊な状況だったので、本来はあそこまで過酷なフェノム退治の任務は多くはない。


「…軽いやつならいいぞ」


「軽いやつ?…よし、決まり!じゃあインフォメーションに行こう!」


 そう言って腕を絡み付けてくるティザー。ついでに、形の良いバストも押し付けて来た。


(む、胸が!?普段は制服で着痩せして見えるけど、今日はタイトな服だからナイスバデーが強調されてやがる!?)



 インフォメーションフロアには様々な任務・依頼がモニターに映し出されており、タッチパネルで操作出来る様になっていた。


(既に二回任務を受けているのに、そういや俺、ここに来るの初めてだわ)


 手慣れた感じでタッチパネルを操作するティザー。


「あ!これなんかどうかな?アルミラージ退治!サクッと倒せるし!」


 アルミラージとは、角の生えたウサギの魔獣だ。個体なら一般人でも武器を持っていれば討伐可能な程弱い。


(幾らなんでも簡単過ぎるだろ?こんなん報酬もたかが知れてるし、借金が減らないだろ?)


「…何を考えてる?」


 あまりにも簡単な任務の為、ティザーには何か別の目的があるのかと探ってみる。すると…


「…バレた?実は、今日お弁当作って来たんだ。で、サクッと任務終わして、ピクニックでもしたいなーって……駄目かな?」


 瑠美とは思えない様な、甘えた雰囲気を醸し出すティザー。


「…構わん」


「うそ?やったー!じゃあ決まりね!」


 ブライトは、つい頷いてしまった。


(なんか調子狂うなー。瑠美の時は案外サバサバしてるのに)




「おい、てめえがブライトか?」


 背後から声を掛けられ、振り向く。そこには、二十代前半の青年らしき人物が二人並んでいた。


「…そうだが?」


「あの冴嶋を倒したって聞いたからどんな野郎かと期待してれば、俺達の誘いを散々シカトしといて、そんなお嬢ちゃんとウサギ退治とは…唯のスケベ野郎じゃねーか。なんかガッカリだぜ。なあ、“ジョーカー”?」


「羨まし…ん?いや、なんだっけ?“スカル”」


 身体の露出した部分全てにタトゥーを刻んでいる、スキンヘッドでスラッとした長身のスカル。白黒左右対称のマスクで顔を隠しているジョーカー。黒夢屈指の凶悪タッグと言われる二人。別名・“デンジャラズ”と呼ばれる厄介者だった。


(スカルとジョーカーって?ティザー以外のメールは未読スルーだから覚えてないんだけどなぁ)



「何よアンタ達!共闘するかしないかはブライト君が決める事なんだから関係無いでしょー!?」


 何故かティザーが前面に出て、スカルとジョーカーに対抗した事で、ブライトは出遅れてしまった。


「あん?そういやテメェ…いつもつるんでた仲間が死んだってのに、また直ぐ新しい男かい?尻の軽い女だなあおい!なあ、ジョーカー!」


「…ナイスバデー…美しい…ん?だな、スカル」


 ティザーが押し黙る。光輝との関係で、なんとか表向きは立ち直るキッカケは作られたが、まだヨガーとミストが死んでから一週間程なのだ。当然、忘れる訳が無い。


 …にも関わらずだ。確かに、スカルの言った事は、ティザーにとって的を得ていた。



「へっ!図星か?情け…うわっ!?」


 スカルが認識出来無い程の一瞬で、ブライトはスカルの胸ぐらを掴んでいた。


「…今の言葉、撤回しろ」


 ブライトは怒っていた。ティザーが…瑠美が苦しんでいる事は、光輝として接している間に重々感じている。そして、自分自身も二人の死をまだ完全には克服していなかったから。


「うぐっ…はなぜ!」


「おい、スカルを…離せ」


「え!?ぐぶらっ!?」


 隣からジョーカーがキレのある拳を振るったが、ブライトが避けた為、勢い余って()()()()()()()ジャストミートしてしまった。



「あ~!スカル!?…おのれ…よくもスカルをやってくれたな?」


 完全に気絶してしまったスカルを抱き起こし、怒りをブライトに向けるジョーカー。


(…え?俺が悪いの?)



「待ちなさい!メンバー同士のイザコザは御法度ですYO?」


 そこに、黒夢の事務を担うラインが仲裁に入ってきた。



「…また貴方達ですか?スカルにジョーカー」


「いや、私達は…」


「言い訳無用です。全てモニターで見ていました。そして、ブライト君。いくら頭に来たからと云って、少々手が早すぎますYO?」


「…ソイツ等が悪い」


 本当はもっと文句を言ってやりたかったが、一応キャラ設定を忘れてなかったので一言で我慢する。


「おや?ブライト君は案外頑固なんだね?意外だったYO」



 すると、ジョーカーに気絶させられていたスカルが意識を取り戻した。


「なぁっ!?ここはどこだ!?俺は誰だ!?何があった!?」


「落ち着けスカル。ここは黒夢本部で、お前はスカルだ。お前は私にぶん殴られたんだ」


「あん?……そうだ!テメェジョーカー!なんでオメーはいつもいつも…わざとやってんじゃねーだろーな!?」


「わざと?愚問だな。たまたまだよ。たまたま」


 スカル(ツッコミ)とジョーカー(ボケ)の関係が分かるやり取りを横目に、ブライトは少しだけ冷静さを取り戻していた。


(コイツらとこのまま揉めても何の得にもならないし、ティザーにもこれ以上辛い思いはさせたくない)



「…行くぞ、ティザー」


「え?あ…うん。」


 もうスカルとジョーカーに興味無さげに、ブライトはティザーを連れ立って任務を受注した。


「ねぇ、あいつら、ほっといていいの?」


「面倒だ。それに、お前を悲しませた分は、あのスカした奴の一発でチャラにしてやろう」


「…そうだね。うん!あいつら面倒だもんね!」


(まぁ、これ以上絡んできたら、こっちにも出方があるがな)



「…っと待てぃコラァッ!」


(…来るんだね、やっぱり)


「何シカトして行こうと…うおっ!?」


 ブライトがスカルの足元にインビジブル・スラッシュを発動させた。床に斬撃と共に亀裂が走る。


 その威力に、スカルは呆然としてしまった。


「…次は当てるぞ?」


 次は当てると言われて、スカルは動けなかった。能力が発動したタイミングも見えなかったし、もしまともに喰らえばタダでは済まない事も予想出来たからだ。



「さあ、行こう」


「うん!」


 最後にジョーカーにも一瞥送って、ブライトとティザーは転移されていった。



 そんな光景を見守っていたラインは、苦笑いを浮かべていた。


「闇の閃光・ブライトか…。ボスが彼の事をお気に入りみたいだけど、あんまり内部で揉め事は勘弁してほしいんだよなぁ。あ、スカルにジョーカー。この床の修理代は君達が払ってNE」


「ええー!?俺達かよ!?」


「スカル…ラインさんに逆らっちゃ駄目だ。任務が受けられなくなるし、報酬が少なくなるからね」


「分かればよろしい。じゃあよろしく~」


 そう言って、ラインは通常業務に戻るのだった。

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