第34話 ボスって怖い
※第二回・能力考察回なので、いつもより長めです。
―土曜日。光輝は約一週間ぶりに黒夢本部に来ていた。
相変わらず端末には共闘の誘いが頻繁に来ているのだが、一切無視している。
「お?またメールだ」
端末を開く。差出人は瑠美の様なのでしっかり確認する。実は今日、一緒の任務を受けようと約束していたのだ。
《from:ティザー
もう着いた?早く会いたいなー!》
瑠美とはほぼ毎日会っていたのだが、ティザーとしてはネリマ支部の任務以来会っていない。
(あまり余計な事喋るとボロが出そうだし、クールキャラを貫こうかな?でも、瑠美とは今後も付き合いが長くなりそうだし…)
光輝は考える。確かに自分の正体を知る者が増えれば増えるほど、自分の存在が広く漏れてしまう確率は上がる。でも、プライベートでも黒夢でも正体を知る人間が一人位はいた方が過ごしやすいのではないかと。
(今日会った時、状況次第では告白してみようかな…。うん、このままだとなんか瑠美を騙してる様で気分が悪かったしな!)
待ち合わせ場所は1時間後にシドの店となった。
(さてと、1時間何してようかな…。ん?電話?黒夢の端末に電話が来るなんて珍しいな…)
「はい、す…ブライトです。」
「桐生だ」
電話の主は黒夢のボス・桐生だった。
(そういやネリマの件も、直接の報告はまだだったな…。あの時ボスは留守だったから)
「どうしました?」
「用件は分かってるだろう?今すぐ俺の部屋へ来い」
淡々と言い放ち、桐生は電話を切ってしまった。
(…せっかちだなぁ。ま、ボスの命令は絶対だろうし、俺も報告したい事があったから好都合だな)
「失礼しまーす。」
光輝はボスの部屋へやって来た。
因みに、漆黒の鳥人スーツはまとめてシドに預けている為、今日もサングラスとマフラーで顔を隠している。
「来たか。まあ座れ。」
いつもの様に向かい合ってソファーに座る。
「まずは前回の任務ご苦労だった。おかげで目的を達成する事が出来た。まぁ、あの冴嶋って中尉は少々厄介な存在だったんで、棚ぼただったがな。
成功報酬も振り込まれてるだろう。なんなら端末から口座を確認出来るハズだから見てみろ」
言われるがまま、光輝は端末から自分の口座を開く。すると…
「おおお…こんなに!?」
「あの冴嶋を含む中尉二人と、ほぼ100人の兵士を倒したんだ。その位は当然だろう」
正直、まだ学生の光輝にとっては破格の報酬だった。これなら、借金を返済出来る日はそう遠く無いだろう。
「でも…まさか最初の任務があんなにハードになるとは思いませんでしたよ。仲間も死なせちゃったし…」
「俺達は一応世間から見れば反社会的組織だ。自分達の理想の為にはいつ犠牲になっても文句は言わない。それに、元々あの任務は高難易度の任務だったのは知っていただろう。本来あの三人だけなら許可は下りなかった。だが、お前も参加する事が分かったから、俺の方で特別に許可したんだ」
確かに、あの任務は冴嶋がいた時点で、あの三人では本来無理ゲーだっただろう。それが、自分が参加した事で、結果的にヨガーとミストが命を落としたのだと考えると罪の意識を感じた。そして何よりも、あの三人は冴嶋がいる事を知らなかったのが問題だと思った。
「ボス、任務の依頼内容に、冴嶋がいる事は伏せてたんでしょう?…俺を試す為に…」
だとすれば、光輝はボスに怒りを覚えるだろう。あの三人を捨て駒として扱ったと云う事なのだから。
「お前の言わんとしている事は分かっている。お前を試す意味合いがあったのも理由の一つだ。だが、あの任務の目的はあくまで国防軍の戦力削減・中尉の殺害がメインで、お前はオマケだ。あの任務の依頼受注の条件は、4人以上10人未満と設定されていたんだ。その時点で簡単な任務ではない事はヨガーとミストも覚悟はしていただろう。お前が気に病む事では無い。
何より、駐在している中尉が冴嶋だった事は事前の情報では分からなかったんだ。もし知っていれば、少なくとも黒夢のナンバーズを投入してただろう」
黒夢は現場にいるのが冴嶋だと把握してなかった。光輝はそんな事あるのか?と思ったが、深く追及するのは止めた。
「…そう簡単には割り切れるもんでも無いですけどね」
ヨガーとミストの死は、光輝にとってもショックな出来事だった。だが仮に今、更に親しくなったティザーがそうなったら…簡単には割り切れる自信は無いだろう。
「そうだな。仲間を失うのは俺でも辛い。だが、それで下を向いて何もしないのは、死んでいった仲間達への冒涜だ」
そう言う桐生に、光輝は意外に仲間思いな所があるんだなと感心すると共に、桐生の本当の目的が気になった。
「さて、あれからリバイブ・ハンターに関して俺の方でも独自のルートで調べた。結果、過去に一例だけ、“死んでも蘇生する”ギフトの存在確認されていた。その名は“リバイブ・シフト”。
だが、 このギフトを発現した人物は実験中に死んだ。しかも、早い段階で。だから、詳しく解明もされ無かった…。これは国防軍による極秘の実験だった為、文献にも乗ってないのだそうだ」
死んで蘇生する…。リバイブ・ハンターと発動条件は同じと云う事になるが、その人物が直ぐに死んだとなると、やはり何か制約や条件があるのだろうか?
「何故蘇ったその人物死んだか?ハッキリとした答えは神のみぞ知るのだ。この能力を発現した能力者は、国防軍の実験材料にされたんだ。
他人のギフトをコピーすると云う意味では前に言ったコピー・ハンターと同じで、異なる能力者に殺される事で能力が変わる所までは解明された。だが、三度目に殺した後、蘇生する事は無かったんだ。殺した相手側の能力者は、最初にその能力者を殺した相手だったらしい。
このギフト能力がリバイブ・ハンターの下位互換だったとすると、単純に三度しか蘇れない能力だったか、もしくは、同じ相手に再度殺されれば蘇らない能力であった可能性があると考えられる」
光輝は既に四度蘇っている。そして、黒崎に一度目、冴嶋に二度目に殺された際には、比較的短い間隔で殺されたので、殺される間隔が短いと発動しない条件もクリアしている。なので可能性があるとすればもう一つの説、同じ相手に二度殺されると蘇る事は無い…が該当する。
要約すると…
リバイブ・シフト。ギフトランクⅩ(※Ⅹは未知数・不明の意味)。
・死んだ際、蘇生する。
・蘇生した際、自分を殺した能力を習得し、別の者に殺された際に新しい能力に上書きされる。
・同じ相手に殺されると、蘇生しない。
(という事は、冴嶋との戦闘で死んでたら、リバイブ・ハンターは発動しなかったって事か?いや…それどころか、あの黒崎と戦った時も…)
冴嶋との戦いは、どちらが死んでもおかしくない紙一重の戦いだった。今思い出しても背筋が寒くなる感覚を覚える程に。
だが、それ以上に黒崎の時は危なかったのだ。なにせ、あの時は能力の発動方法が分からず、ギリギリの所でスピード・スターが発動して九死に一生を得たのだから。
「何にしても、今後もリバイブ・ハンターの蘇生をあてにするのは止めといた方が良いだろうな。冴嶋が死んだ事によって、お前を殺した人物は、あと…俺だけか?」
「ですね…。でも、ボスには絶対勝てないと分かってるので、絶対戦わないから大丈夫です」
「フッ、その言い方だと、勝てるなら戦うと解釈出来るが?」
「あ…訂正します!ボスとは戦いませんよ。恩義も感じてるし…」
黒崎、冴嶋、伊織…。桐生以外は既に死んでいるので、現状気を付けなければならないのはボスである桐生のみとなる。だが、光輝は桐生と戦う意思は無いのだ。
ここで、桐生は何か思い出したかの様に光輝を見る。
「……ところでお前、前回の任務で死んでないよな?」
言い出すタイミングを見計らってはいたのだが、いきなり聞かれて光輝は戸惑う。
「まさか、死んだのか?」
光輝は観念した様に頷いた。
「……心臓を一突きでした」
「……まあ、相手が冴嶋じゃあ仕方ないだろう。となると、同じ相手に二度殺されたら蘇生しないと云う条件は関係無いのか?」
「あ、俺を殺したのは伊織って中尉です。冴嶋を倒して油断してました」
「…冴嶋以外にお前を殺せるとは、その伊織って中尉も今回始末出来たのは幸運だったのかもな。……とすると、また新たなギフトを?」
正直、桐生の事を信用してない訳では無いのだが、桐生が唯一自分を殺せる可能性があると知った今、全ての能力を教えてしまうのは危険な気もしていた。
「俺が現状で唯一人お前を殺せるかもしれないと聞いて心配か?安心しろ。俺がお前を殺す気なら、直ぐにでも殺してる。むしろ、いつでも殺せる」
桐生にとってはほんの少しだけなのだろう。ほんの少しだけ、光輝に殺気を放った。
次の瞬間には、光輝は桐生に対して逆らう事がどれどけ愚かな事か気付く。
(安心しろの使い方間違ってるっつーの!)
「ははは…そりゃそうですね…。じゃあ、今回手に入れたギフトは、サイレント・ステルスと云う能力で、身体が透明に近くなり、移動の際に一切物音がしなくなる能力です。」
「…ほう、中々有能なギフトだな。よし、ちょっとやってみせろ」
「今ですか?…まだ全然慣れてないんですけど………えいっ!」
光輝はサイレント・ステルスを発動する。
「…なるほど…。透明ではあるが、若干お前の身体の部分の空間が歪んでみえるな…。俺は今、お前が目の前にいると認識してたから、お前が透明になっても存在を知ることは出来ているが…これが最初からお前の存在に気付いて無い状態で能力を発動されてたら…普通の奴等なら捉える事は難しいだろう。…よし、今後潜入や暗殺の任務はお前に任せよう」
「え~?潜入はともかく、暗殺は嫌だなぁ」
「100人も殺しておいて今更何言ってやがる。俺達フィルズは、殺らなきゃ殺られるんだ。お前だって分かってるだろう?だからお前は俺の誘いにも乗ったんだろう?」
「そうですけど…って、あれ?」
光輝は今の桐生の会話に違和感を覚えた。
「もしかしてボス、俺の事調べました?」
「ああ。ウチには優秀な情報系ギフト能力者がいるからな。だが、ギフトを使わなくても、概ね予想は出来た。
まず、俺と初めて会った時、お前は既にスピード・スターを発現していた。それにリバイブ・ハンターの情報と関連させると、元国防軍で残虐性が問題視されて除隊した黒崎と云う人物に辿り着くのは、そう難しい推理では無い。
お前はその日、何らかの理由で黒崎に殺されたが、ギフトが発動して蘇った。そして、お前が黒崎を殺した。殺らなきゃ殺られてたからだ。違うか?」
「………ボスは名探偵ですか?」
「俺はお前と直接話をして、色々と聞いていたからな。だが、俺以上に頭が回る奴は幾らでもいる。当然、国防軍にもな。だから、お前の正体は絶対に誰にもバラすな。ティザーにもだ」
ティザーと言われて、光輝は悟る。ボスには、完全に自分の身元が知られていると。
「俺の身元まで…」
「そうだ。ほんの些細なヒントでも、例えば、俺と出会う前に、何らかのタイミングで体毛を残したり等の痕跡を残さなかったか?それだけでも…周防光輝=ブライトと結び付ける事は可能なんだぞ」
思い浮かべれば、体毛は分からないが指紋を残してたり購入履歴を残してたり…数える程心当たりがあった。
「…分かりました」
ふと時計を見ると、大分時間が経っている事に気が付いた。
(やっぱり瑠美に本当の事は言わない方が良いだろうな…)
光輝は、桐生に対して不信感を抱いた訳では無い。だが、やはり恐ろしい人だと再認識し、部屋を後にした。
…光輝が部屋を出ていった。全てを調べていた事で、自分に対して不信感を抱かれる事も、桐生は計算には入れていた。
(一応、信頼はしてくれてるみたいだがな)
確かに少しは不満もあっただろうが、それでも、明確な敵意までは抱いてなかった様に見えた。
周防光輝…闇の閃光・ブライトのリバイブ・ハンターの能力は、桐生をして異常だ。偶然の要素もあったが、手に入れたギフトが強力なものばかりなのも運が良かった。いや…そうとも言えないのかもしれない。自分を殺した奴が強大であればある程、再度殺されるリスクが上がるのだから。
今思えば、鬼門だったのは最初の黒崎だったのだろう。同じ相手に二度殺されてはいけない説が合っているのならば、能力の扱いに慣れていなかった光輝が再び黒崎に殺されてた確率の方が遥かに高かったハズだ。
(なんにしても、国防軍全体にブライトの正体がバレるのは時間の問題だろうな…)
桐生は、国防軍のある男の顔を思い浮かべる。
「既にブライトの正体を知っている“アイツ”がどう出るか?…だな」