第31話 生きてる意味
合コンの相手、瑠美は、黒夢のメンバーであり、先日命を懸けて共に戦った仲間であるティザーだった。
(え?なんで?…あれれ?いや、でも髪の色が違うし…)
状況が整理出来ずに、光輝は口を開けたまま瑠美を見つめてしまった。
「…なに?どうかした?」
「え?え~っと…瑠美さんって、お姉さんとかいる?」
「いないけど。それに、さん付けで呼ばなくて良いから」
瑠美は、ジュースを一口飲むと、再び自分の世界に入ってしまった。
(本人?…だよなぁ。でも髪の色が…でもでも、いくらなんでも昨日の今日で顔を見間違える訳無いし。声もソックリだし)
ティザーには、明るく活発なお姉さんキャラの印象を受けていた。だが、今の瑠美はクールなお姉さんキャラの印象を受ける。
(そう言えば今日は元気が無いから連れてきたって言ってたよな…)
光輝もそうだった。しかも、光輝とは違って、ティザーにとってヨガーとミストは付き合いが長かったハズだ。
よし!と、光輝は気を取り直す。
「ちょっと電モク借りるよ」
勇気を出して電子リモコンをゲットすると、曲を入れた。
軽快なイントロが始まり、皆の視線がモニターに集中する。
“仮面ニンジャー”。
一世紀に渡って地球の平和を守る大人気特撮ニンジャシリーズ。その記念すべき第一作目のオープニングソングを光輝はチョイスした。
仮面ニンジャーこと服部剛は、秘密結社・甲賀極悪の里の手によって改造忍者にされる。
その後、甲賀極悪の里を倒す為、そして世界の平和を守る為、仮面ニンジャーとして戦うが、その正体がバレると、守っていたハズの人間からも迫害されてしまう。
それでも、仮面ニンジャーは甲賀極悪の里を壊滅させた後、人知れず姿を消す…という、ちょっと寂しい話なのだ。
「迫る~コウ~ガ~、極悪の~さ~と~♪世界の平和を守る為~♪…」
フィルズもまた、仮面ニンジャーの様に世界から迫害されている存在だ。でも、フィルズはフィルズで己の信念を持ち、精一杯生きている。
何故か光輝は、瑠美=ティザーにこの歌を聞いて欲しかったのだ。
すると、何かを思い詰めていた様な瑠美もマイクを持ち、光輝に微笑んだ。
「「ニンジャー、手裏剣!ニンジャー、忍刀!かめーんニンジャー、かめーんニンジャー、ニーンジャー、ニーンジャー♪」」
そして、見事なデュエットが完成したのだった。
「おおおーっ!何だよお前ら!息ピッタリじゃねーか!」
「瑠美ちゃん…凄い唄知ってんだね…」
崇彦と美沙子が驚きながらも光輝と瑠美に拍手を送る。舞は少しだけ頬を膨らまし、ムスッとしているが…。
「なんか、ちょっと元気になったかも?ありがとね、光輝君」
「いや、俺も一緒に歌ってて気持ち良かったし!」
「よーし!んじゃあ俺も一発、アニソン行こうかなー!」
調子に乗ってきた崇彦がマイクを持つ。流れる曲は、あの国民的海賊アニメのオープニングソングだった。
(…あれ?これはまた、色んな意味で危険な香りがする唄を…)
「…この唄、ヨガーが好きだったな…」
誰にも聞こえない様なボソッとした呟きだったが、光輝は聞き逃さなかった。
(確定!この子、絶対にティザーじゃん!)
すると、瑠美は立ち上り、無理やり笑顔を作った。
「ゴメン、やっぱ今日は帰るね。誘ってくれてありがとね!」
そう言って、瑠美は部屋を出ていった。
突然の事に、崇彦も歌う事を止め、ミュージックだけが部屋に響き渡る。
「あれ?…俺の選曲が不味かったのかな?」
(まさしくその通りだよ!)
光輝は瑠美を放っておけない気がして、席を立つ。が、その手を舞が掴んでいた。
「放っておいて良いと思うよ?瑠美ちゃん、今日はちょっと変だったから。ねえ光輝君、良かったら私ともデュエットしてくれない?」
舞は上目遣いで光輝を見つめて来る。
(…可愛い。何だよこの子!清楚なのに色っぽいって云うか…舞ちゃんは、間違いなく可愛い。でも…)
「ごめん。俺、ヒーロー物しか歌えないからさ。また今度ね」
優しく舞の手を離し、瑠美の後を追って部屋を出て行った。
崇彦は演奏を中止し、苦笑いを浮かべる
「……やっぱ、俺の選曲が不味かったんだな…」
だが、光輝を見送るその表情は、何処か晴れやかだった…。
光輝は瑠美を追いかけた。彼女はティザーだ。予想は確信に変わった。
(俺がブライトだって事は言えないし、追いかけて行っても何が出来るか分からない。けど…)
けど。光輝は瑠美と一緒に歌っている時、とても楽しかった。そして、先日はブライトとティザーとして、共に戦い、仲間を失った。
光輝の中で、瑠美はもう完全に仲間だった。仲間が辛い想いをしてるなら、少しでも力になりたい。そう思ったのだ。
店を出て辺りを見渡す。遠くに、瑠美の後ろ姿を見つけた。
瑠美は走っている。このままだと直ぐに見失うだろう。
(仕方ない。伊織中尉から得た新たなギフト、“サイレント・ステルス”、そしてスピード・スター、発動!)
サイレント・ステルス。発動する事で自分が透明になり、物音が小さくなる能力。
このサイレント・ステルスは、スピード・スターとの相性が抜群で、併用する事で姿を隠しながら高速での移動を可能にする。その上、能力発動中は感知能力が高まると云う副産物付き。
ただ、発動中にインビジブル・スラッシュの様なアクションのある能力を発動すると効果が切れ、姿が現れてしまう。が、通常攻撃は問題ない。
光輝は建物の影に隠れ、人目に付かない様に気を付けながら、ギフトを発動する。そして、一気に瑠美の後方3メートル程の距離まで移動してから能力を解いた。
「瑠美ちゃん!待って!」
瑠美が振り向く。その目には、涙が滲んでいた。
「え?光輝君?…なんで?」
「いやぁ…もう少し話がしたくてさ。瑠美ちゃん、ヒーロー物好きそうだし」
「あ…アハハッ、じゃあ…公園で一休みしてこっか…」
「おう!」
公園のベンチに並んで座り、缶コーヒーを飲む二人。端から見れば完全にカップルに見えるのだろうが、光輝にはそんなつもりは一切無かった。
黙ったまま、お互いが空気を探り合うような時間が続く。
(…追いかけてきたのは良いが、俺がブライトだって事は知られてないんだから、昨日の事を話す訳にもいかないし…)
と、何を喋るか考えていると、瑠美が先に口を開いた。
「…実はね、昨日、仲が良かった友達が、遠くに行っちゃったんだ…。それで、今日はちょっとブルーだったの」
遠く…。瑠美は、流石に死んだと言ったら重く取られると思って言葉を変えたのだろう。
「へ~。そんなに仲が良かったの?」
「そう言われると、たまに行動を共にしただけだから、友達かどうかって言われると微妙なんだけど…。一番良い言い方は、“同志”…かな?」
「同志…か…」
光輝は、同志と云う言葉について考える。表向きな付き合いでは、きっと友達と比べたら会う頻度は少ないだろう。でも、そんな上辺だけでは語れない絆が、同志という言葉には秘められてる気がした。
「私、最期の時…何も出来なかった。ホント、自分の無力さに腹が立つやら悲しくなるやら…。あ、つまんないよね、こんな話し」
「いや。その気持ちは分かるよ。俺も、つい最近まで自分の無力さを呪って腐ってたからな」
無能力者だった頃の自分。何もかもが嫌になって、周囲にも壁を造っていた。
「でも、俺は生きてる事には意味があるんだと思う。こんな世の中だから、人間なんていつ死んでもおかしく無い。けど、俺達は生きてる。まだ生きてるんだから、それにはきっと意味があるんだよ」
「……光輝君って、見掛けに寄らず哲学的な考えを持ってるんだね」
「え?キ○ガサ?」
「それは鉄人でしょ!」
二人で笑い合う。まさか、半世紀以上前のプロ野球選手のネタにまで瑠美が反応するとは思ってなかったのだが。
「はー!笑ったら元気になってきた!いつまでもショボくれてるなんて私らしくないし、こんなんじゃヨガーやミストに笑われちゃうもんね!」
(おいおい、名前出すなよ。……まぁ、俺以外誰も気付きやしないだろうけど)
「なら良かった。実は俺も今日はちょっと気分が落ちてたんだけど、おかげで吹っ切れそうだわ」
「そうなんだ?じゃあ、私達が今日出会ったのにも、ちゃんと意味があったんだね!」
「お?そ、そうだな。さて!もう帰るか。今からカラオケに戻るのも面倒だし」
「戻った方が良いかもよ~?舞、きっと光輝君の事を気に入ったと思うから」
(……でも、制止を振り切って来ちゃったからなぁ。そうだ!今度また崇彦にセッティングして…いや!俺には風香が!!)
こうして、夕焼けの下、穴が開いてしまった二人の心は少しだけ癒され、明日もまた生きていく活力が沸いて来るのだった。