第29話 漆黒のダークヒーロー
「女を殺すのは本意じゃ無いが、お前には一回殺されてるから同情の余地は無いよな?」
リバイブ・ハンター発動により、新たな能力を得たブライトは、早速試してみたのだが、上手くいったらしい。
「た…しかに、死んでた…のに…」
ブライトが右手の刃を抜くと、伊織は力なく倒れる。目を開けたまま、もうピクリとも動く事はなかった。
伊織の死で、国防軍にも動揺が走り、全員が立ち止まった。
「ブライト君…生きて…」
「ティザー、ヨガーとミストは?」
「…二人とも、もう…」
「そうか…」
仲間が死んだ。ヨガーもミストも、まだ会って一時間程の仲だったが、行動を共にした仲間が死んだ事はブライトにとっても複雑な心境だった。
そして何より、身体から溢れ出てくる衝動を抑える事が出来なかった…。
「ブライト君、ヨガーとミストも連れて行きたい所だけど、早く撤退しよう!」
「…いや、ヨガーとミストの弔いをするぞ…」
「…え?」
「派手に…、ヨガーとミストに鎮魂歌を贈ろう…」
「…派手に…。うん、分かった!よーし!やるわよー!」
ブライトの意図を察し、ティザーは頷く。
ブライトは、不思議と目の前の兵士達に対して慈悲を感じる事は無かった。それはあの日、冴嶋に殺された日、国防軍の処理班を容赦無く殺した時の様に。
(…ヨガーとミストを、コイツらは殺した。仲間を殺された。だから…ヨガーとミストの分まで、殺り返してやる!)
ブライトは国防軍100人の前に立ちはだかった。
「我が名は闇の閃光・ブライト。お前ら全員を屠る者だ…」
目の前には100人の国防軍兵士。それぞれがギフトを擁するスペシャリスト達だ。
そんなスペシャリスト達を前にして尚、ブライトに怯む気配は一切無い。むしろ、溢れ出そうになる殺意を押さえ付ける必要が無い状況に、身体中が歓喜すらしていた。
「総員!ヤツは伊織中尉を戦闘不能にした程だ!気を抜かずぐぶあっ!?」
全体に指示を出していた少尉の横に突然ブライトが現れた!と同時に、少尉の首が斬り飛ばされた。
「さぁ…派手に送ってやる…」
一気にブライトに雪崩れ掛かる兵士達。それぞれが近接戦闘に長けたギフトの持ち主だった…が、ブライトのスピードについて行く事はおろか、目で追う事すら出来ず、顔面を殴られ、腹を貫かれ、蹴りで吹っ飛ばされていった。
「…おのれっ、俺が相手だ!!」
ブライトの目の前に飛び出して来たのは、少尉の鏑木。ブライトのスピード・スターの下位互換能力“ハイ・スピード”のギフト能力者だ。
お互い向かい合い、先ずは打撃の攻防を繰り広げる。
鏑木は国防軍内の能力を使わないボクシング大会でベスト4に輝いた猛者だ。更にハイ・スピードの能力を用いる事で、高速のパンチを繰り出す。
「ほう、中々速いな」
只でさえ軌道が読み辛いフリッカージャブの高速連打。が、それを上回るスピードを誇るブライトにとって、高速のパンチを見切るのは容易い。
「は…速い!?」
意気揚々と出てきたものの、同じ系統の更に上位互換能力者の動きに驚きを隠せない。
「ふむ、加速系のギフト能力者か…。流石は同じ系統だけあって、スピードにはギリギリ対応出来てはいる様だな。だが、残念ながら速さに付いてこれても、俺とお前とでは持ってる武器が違う!」
ブライトが同じ様に、高速…いや、光速のフリッカージャブを繰り出す。しかも、その拳をロンズデーライトで固めていた。
「ぐぼっ!いでっ!…あがっ!」
トドメの右ストレート。鏑木は速さでも圧倒され、その上ロンズデーライトで固めた拳により顎を打ち抜かれて、呆気なくダウンしてしまった…。
「俺には一撃必殺となる攻撃手段がある。ヒットアンドアウェイでチマチマ攻撃する手段がメインのただの加速系能力者とは違うんだよ」
「あ…悪魔!?」
「てっ…撤退!撤退だ!!」
鏑木は優秀なギフト能力者として将来を嘱望された兵士だった。その鏑木が成す術もなく倒された事で、国防軍に動揺が走る。
「なんだよ…俺はまだふたつしか能力を使って無いんだぞ?それでもお前らは、かつて俺が憧れた存在か?」
翼を広げながら跳躍すると、空から獲物を捕らえる鷹の様に、逃げ出した兵士の頭を蹴り飛ばす。その様は、まさしく漆黒の鳥人だった。
国防軍兵士による中・遠距離の攻撃は、ブライトを捉える事は出来ない。狙い打った次の瞬間にはもうその場にはいないのだから。
「くそっ…このままだと全滅だ!俺がヤツの気を引く、その隙に俺もろとも討て!!」
頑強な男がブライトの目の前に立つ。男の名は剛田。鏑木と同じく少尉だ。
「…面白い。なら、俺を止めてみせろ!」
「うおおおおおっ!」
剛田がブライトを捕まえようとするが、もうその場にはいない。
「…んなっ!?」
そして気が付けば、ブライトは剛田の頭上に立っていた。
「ふむ、立ち辛い踏み台だな」
怒りから暴れた剛田だったが、ブライトは跳躍して大きく距離をとった。
「さて、役に立たない踏み台には用無しだ」
ブライトがスピード・スターで剛田に接近すると、前蹴りで腹を打ち抜く……が、ガチガチに固められた腹筋が、ブライトの足を弾き飛ばした。
「…ほぅ、頑丈だな…。だったら、これはどうだ!」
剛田の腹に百烈拳を叩き込む。だが…
「ぐぅぅ~…俺の能力はハイパー・マッスル!鋼鉄よりも硬い筋肉には、貴様の攻撃も効かない様だな!」
すると、剛田の両腕がガッチリとブライトの胴体を抱き込む。
「今だ…討て!!」
全方位から一斉に中・遠距離の攻撃が剛田もろともブライトに向かって放たれる。
爆発系から斬撃系、炎や氷まで様々な攻撃が容赦なく襲い、爆煙と砂煙が二人の姿を隠した。
…次第に視界が晴れ、二人を見ると…そこには黒焦げになった剛田のみが立っていた。その両腕は、綺麗に切断されている。
「惜しかったな。今のはちょっとだけ危なかったぞ…」
上空へと脱出したブライトは、少しだけ冷や汗をかく。
実際はかなり危なかった。辛うじてロンズデーライトの刃で、強引に剛田の腕を斬り落とす事が出来たから良かったのだが…。
(ロンズデーライトで硬化した刃…やっぱり斬れ味も硬度も抜群だな)
上空からの声に兵士達が上を向くと、翼をはためかせ、両腕を鋭利な短刀の形状に変えたブライトが宙で羽ばたいていた。
「…おまけだ。三つ目の能力も見せてやろう!」
言いながらブライトが腕を振ると、地上にいた兵士の身体がインビジブル・スラッシュの斬撃で斬り裂かれた。
着地すると、ブライトは軍人の群れに突入しながら腕を振りまくる!
「ほら、ほら、ほら!逃げないと全員真っ二つだぞ?」
次々と斬り殺されて行く兵士達。最早、地上は阿鼻叫喚だった。
「弱い…弱過ぎるぞ、スペシャリスト!正義の味方なんだろ?国民を守るヒーローなんだろ?だったら、少しは俺を困らせろよ!やっぱり国防軍は凄いんだって、思い知らせてみろよ!なあっ!」
その後も漆黒の鳥人による一方的な虐殺は続き、気が付けば100人いた国防軍兵士達は最後の一人を残して全員地に伏していた…。
「ほう…よく生き残ったな?」
「俺のギフトがあれば、貴様の攻撃など掠りもせぬ!」
男の名は『荒方』。ギフトランクB+のインビジブル・ボディの能力者。先程までの攻撃も、身体を透明にしてやり過ごしたのだが、発動時間は10秒、その後は次回発動まで3秒のタイムラグが必要となる。
「いくぞ!インビジブル…あれ?」
…荒方は、能力発動する事が出来ず、ブライトによって首を切断されてしまった…。
「俺は物語の主人公じゃ無いんだ。能力発動を待ってやる義理は無い」
(それに、下位互換能力に興味は無いしな…)
その光景を、ティザーは呆然として見ていた。
「……ま、まるで悪魔ね…。でも、これはヨガーとミストに贈るレクイエムだもん…。あの二人、派手に暴れるのが大好きだったから…きっと喜んでるよね?」
横たわる無数の亡骸の上に立ち、ブライトは辺りを見渡す。殆んどの兵士は既に死んでいる。だが、中にはまだ動いている者もいた。
「…今日はこの位にしてやる。まだ生きてる運の良い奴等、よく聞け!もう一度だけ言ってやる。我が名は闇の閃光・ブライト!貴様ら役立たずのスペシャリストどもに代わって、この世界のヒーローに…」
言い掛けて、ブライトは流石にヒーローじゃ無いなと思い直す。
「この世界の新たなヒーロー……じゃなくて…ダークヒーロー…?
…おほん。我が名は闇の閃光…」
「言い直すんかい!?」
思わずツッコミを入れるティザーに、ブライトは仮面の下で顔を真っ赤にしながら舌打ちをする。
「…我が名は闇の閃光・ブライト!」
ティザーは、結局言い直すんかい!?…と、もう一度ツッコミたかったが、一応空気を読んで止めておいた。
「…貴様ら役立たずのスペシャリストどもに教えてやる。俺がこの世界に新たな正義をもたらす…“ダークヒーロー”だ!」
満足げに翼を広げながら叫ぶブライト。そんな彼をティザーは、あ…ブライト君って絶対中二の人だ…と思うのだった。
この日、国防軍ネリマ支部では、中尉2名、少尉2名を含む、総勢149名の死傷者を出した。
中でも、中尉2名、他100名を屠ったブライトの名は、この日を境として急激に全世界へと広がって行くのだった…。
※本日も文量多めでお送りしました(^^;
更に!感謝御礼と云う事で、本日15時に、第一回キャラクター紹介を投稿します!