第2話 恋の予感?
公立明宮高等学校。
新東京都港エリアに住む高校生の半数が通う学校で、偏差値は至って普通。
新東京都は、2020年まで23区にエリア分けされていたが、現在はノース・センター・サウス・イースト・ウエストの5エリアに分けられている。(エリアの中では更に細かく地名が分かれている。)
これは、人口が大幅に減ってしまった事や、フェノム対策として防波堤を作る際に工事の負担を減らす為に人が暮らすエリアを狭くした事に起因する。2070年になった現在、人口は順調に増えては来たが、それでも2020年の頃の3分の2と云った所である。
明宮高校の生徒数は1000人を超え、各学年基本的な組分けとして、有能なギフトを持つ生徒がA組、能力的に微妙なギフトを持つ生徒がB組、以下ギフト無しとなっている。
光輝は貼り出された自分のクラスの名簿を見ていた。ギフト無しの光輝はG組だった。
「よう、光輝。元気にしてたか?」
「崇彦か。またお前と同じクラスかよ…」
新しいクラス表が張り出された掲示板を眺めていた光輝に話し掛けて来たのは、的場崇彦。
光輝とは中学校からの腐れ縁であるが、比呂とは対照的な理由で面倒な存在だった。
「フッフッフッ…この俺がいれば、このクラスの女子のスリーサイズはおろか住所・LEINE(ソーシャルアプリ)・好きな物嫌いな物まで、どんな情報でも手に入るんだから!もっと感謝したまえ!」
的場崇彦。別名・ゴッドアイ。
当初は只の女好きのストーカーだと女子全員に警戒されていた彼は、只のストーカーでは無かった。
彼の持つ情報は恐ろしくなる程正確。何故そんな事まで知ってるんだと不思議になる程に。結果的に、彼の情報力は生徒達はおろか先生からも大いに重宝された。
好きな女の子に告白がしたい。よし!的場にアドバイスを貰おう!
好きなあの男子に告白がしたい。そうよ!的場にアドバイスを貰おう!
あの生徒の素行が知りたい。そうだ!的場に調べて貰おう!
昨年1年間で、男子も女子も、彼のアドバイスで恋愛が成就したカップルの数は、表沙汰になっているだけで30組を越える。その上、教師からもお願いされる事もあり、不登校の生徒やイジメの問題ですら何件も解決されているのだ。
「情報なんていらんわ。お前は他人の事より少しは自分の心配をしろよ」
「フッ!俺はこの学校の恋愛の神だぞ?皆が幸せになればそれだけで………良くない!俺も幸せになりたい!光輝、誰か紹介して!」
「馬鹿か?お前に紹介出来る様な女子を俺が知ってる訳ないだろーが。そもそも自分の情報力を自分に生かせば良いだけの話だろ?」
崇彦は決して顔が悪い訳では無い。情報を集める為の行動力も目を見張るものがあるし、何より恋愛のアドバイスは的確。彼に感謝してる男女はかなりの数がいるのだが…普通の生徒からしてみれば実際自分の情報も網羅されていると考えると、崇彦の存在は決して手放しで称賛されている訳では無い。己のプライベートを犠牲にしてまで崇彦と付き合おうなどとする強者はいない。だから、崇彦に彼女が出来る事など無いだろう。
「それが出来たら苦労せんわい!ああ…恋に落ちたい。俺のメモリーに情報の無い、可愛くて優しい彼女が欲しい!」
「…お前、だったら情報収集も程々にしとけよ…」
「それは断る!情報収集は俺のアイデンティティーだし、情報こそが世界を変えるのだから!それに…実は今日このクラスに転校生が来るらしいのだ!」
転校生…と聞いて、光輝は今朝の女の子を思い浮かべる。でも、この学年だけでも300人以上の生徒がいるし、新入生にしても同じ事が言える。転校生が今朝の女の子だと云う可能性は決して高くは無いのだ。
(それに、あの子も多分比呂の事が気に入ったみたいだったし、どーせ俺には関係無いよな)
…と、朝のホームルームの時間が来て、担任の先生が教室に入って来た。担任の名は黒沢といい、黒縁眼鏡の中年男性だ。
「……と云う訳で、転校生を紹介する。入って来て~」
新学期の挨拶を一通り済ますと、黒沢は転校生を教室に招いた。
にわかに色めき立つクラスメイトを余所に、光輝は特に期待せずに教室のドアを開けた転校生に目を向ける。
「……あっ…」
思わず声が漏れてしまった。そこには、少しだけ予想はしていた今朝の女の子が立っていたからだ。
可愛い…よりも綺麗な、ショートカットが似合う女の子。光輝の好きな女性のタイプとしてドンピシャなのだ。
「水谷風香です。センターエリアからイーストエリアに引っ越して来ました。宜しくお願いします。」
水谷風香の挨拶に歓声を上げる男子。女子にとってもまるで芸能人の様な美貌の水谷風香に、憧れの混じった溜息が漏れる。
そんな中、光輝も水谷風香に視線が釘付けになってしまっていた。
可能性は低い。だから期待してなかった。でも、そうだったら嬉しいとは思ってた。例え、比呂の事が気に入ってたとしても。それが現実になったのだ。
ギフトに目覚める事もなく、自分の人生に期待を抱く事を諦めかけていた光輝は、この小さな奇跡に驚きを覚えていたのだ。
「じゃあ、水谷の席はあそこだ。おい周防、お前隣の席なんだから色々教えてやれよ」
しかも、水谷の席は自分の隣だった。途端に緊張で表情が強張る。
水谷は光輝の隣の席に座り、そして光輝を見て微笑んだ。
「あの…今朝はすみませんでした」
「あ、いや、気にしないで」
「ありがとうございます。でも、まさか同じクラスでしかも隣の席になるなんて…奇跡みたいですね」
そう言って眩しい笑顔を浮かべる水谷を見ながら、光輝はちょっとだけ奇跡を信じても良い気分になっていた。
本日15時に、もう一話更新します。
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