第28話 ヤラレタラヤリカエス
※ご好評につき、感謝の意を込めていつもより若干文量を多めにします。ホントに若干ですが(^^;
※ご指摘受けてましたティザーの能力名を修正しました。
「…や、やった!?」
比呂が間抜けな声を上げた。
「ブライトー!」
「腕を斬られたか!?」
「ブライト君!?」
ブライトは、ヘルメットの中で苦笑いをする。
(…助かった。比呂が横槍を入れ、それに対応したおかげで、一瞬だけ俺のスピードが落ちた。だから、俺は腕一本で済んだんだ)
俯いたままだった冴嶋が、血反吐を吐く。
その腹部を、ブライトの左手が刺し貫いていたのだ…。
ブライトは突撃の際、スピード・スターのギアを更にもう一段上げた。当然、冴嶋のカウンターはタイミングがズレるハズだった。だが、冴嶋はブライトがスピードを上げる事を見切っていた。
にも関わらず、本来ならブライトの胴体を袈裟斬りしていたであろう冴嶋が、実際に斬る事が出来たのは腕一本。
もし、比呂の妨害が無かったら、タイミング的にブライトは致命的ダメージを負っていただろう。冴嶋にとっては皮肉にも、比呂の掩護射撃に邪魔をされた結果になったのだ。
「くっ…この勝負、僕の…負けだね」
「…ああ。そうだな」
もし、比呂の横槍が無かったら…恐らく良くて相討ちだっただろう。だが、ブライトは悔しいから黙っていた。
「ああ~…楽しかったな……」
ブライトが左手を抜くと、冴嶋はうつ伏せに倒れた。
「……そうだな。冷や冷やしたけど、楽しかったかもな…」
冴嶋に対して最期の言葉を贈り、ブライトは比呂の方を見た。言わなくとも分かる程、殺気が漏れている…。
「なっ…冴嶋中尉…?」
冴嶋の敗北に、比呂は激しく動揺すると共に、ブライトに向けられた殺気に完全にビビっていた。
「さてと……やってくれたな…糞野郎」
ブライトがゆっくりと比呂に向かって歩き出す。
確かに、実状はどうあれ比呂の余計な行動のおかげでブライトは命拾いした。それでも、これだけの死闘を演じた冴嶋に何か思うものがあったのも事実。その冴嶋との決闘に、比呂は土足で踏み込んで来たのだ。
ブライトの中で、比呂に対する怒りが込み上げる。
「てめえは一瞬で殺してやるよ。戦ってやる価値も無いからな…」
「うっ……く、来るなああ!?」
ブライトから殺気が溢れ出す。一撃で、一瞬で、完全に殺すつもりなのだ。光輝としての幼なじみを。
「あばよ…比呂」
“それ”は、心臓を正確に貫いた…。
「…………………あれ?」
ブライトは自分の身体を貫いた刀を見て、不思議そうに首を傾げた。
「闇の閃光・ブライト。討ち取ったり」
後方から、伊織がブライトの心臓を貫いたのだ。
「……嘘?」
全く気付かなかった。見えなかった。感じる事さえ無かった。何故、後ろに居たのか、ブライトには全く分からなかったのだ。
「私のギフトは特殊でね…。サヨナラ、ブライト」
(あ…これ、死ぬ………頼む…蘇って…)
使命を果たした充実感に満ちた瞳で自分を見下ろす伊織を確認しながら、ブライトの意識は途絶えた…。
「…やった!ブライトを倒した!それにしても、恐ろしい敵だった…。まさか、冴嶋を倒す程とは…」
伊織は直ぐ様冴嶋の生死を確認する。
「……真田、一応、冴嶋中尉を今すぐ医務室へ。蘇生不可能な場合は…殉職を本部に報告して」
「…あ、はい!」
今回は素直に命令に従った比呂は、冴嶋を背負ったまま急いで建物の中に入って行った。
「さて…あなた達三人の相手が残ってたわね」
伊織は立上がり、黒夢の三人を睨んだ。
「ブライト…嘘だろ?」
「ヨガー。泣いてる暇は無い。仇を取るぞ」
「何言ってるのよ!まだ生きてるかもしれないでしょ!?早くブライト君を連れて撤退するわよ!」
念の為、伊織はブライトの生死も確認する。
「…悪いけど、心臓も呼吸も完全に停止してるわ。ブライトは死んだ」
「くうっ…!」
ティザーが、目に涙を浮かべる。
仲間になったばかりの新入り。それも、とびきり優秀なルーキーだった。自分達が誘ったせいで、これからの組織に必要だった人間が死んでしまったのだ。
「…ぐすっ、それでも撤退よ。この事を報告しなきゃ。ブライト君も連れてね」
「何故だ?確かに仲間の亡骸を放置するのは俺も悔しいが、それでもこの状況なら撤退だろう?」
「…勿論、ブライト君を連れてくのは仲間として当然。だけど…今回の任務には条件が追加されてたの。
それは、“生死を問わず、ブライトが戦闘不能に陥った場合、何よりも優先してブライトを連れて撤退する事”…って」
「後から条件が追加だと?そんな難易度が変わる様な事を何故黙ってた、ティザー!」
「ごめんなさい。さっきブライト君が冴嶋と戦ってる最中にメールが来てさ…。言うタイミングを逃しちゃって…」
このティザーの行為は、命懸けの任務に挑むに至って、共に戦う仲間達に対して最も愚かな行動だった。
だが、そんなティザーを攻める事無く、ヨガーは笑顔を作った。
「分かった。じゃあ、俺があの女中尉を足止めすっから、お前らはブライト連れて撤退しろ!」
「抜け駆けは許さん。それに、あの女中尉、今まで実力を隠してたんだろうが、相当出来る。ティザー、撤退はお前とブライトだけで良い」
「ふざけないで!なんで私だけ…」
その時だった。ティザーは、ミストの胸から刀が生えて来たのを見た。
「…お話しに夢中になってくれてありがとう」
「が…がはっ!?」
心臓を貫かれ、血反吐を吐いてミストは倒れた…。
「これで二人目ね」
「ミスト!?…ウオオオオオッ!!ヨガーっ、トンカッチーーーーン!!」
ヨガーの、巨大化した腕が地面を陥没させるが、伊織は回避した。
「早く撤退してれば良かったのにね。…逃がさないけど」
伊織が指をさす。そこには、総勢100人はいるだろう、新兵などではない訓練された国防軍の兵士が此方に向かって来ていた。
「くっそーーっ!ティザー!ブライトは諦めろ!ここは俺が足止めする!お前だけでも逃げろ!!」
「ちょ、待ってよ、ヨガー!」
ティザーの制止も聞かず、ヨガーは国防軍の集団に飛び掛かって行った。
「ヨガーっ、ショットガンーーっ!!!」
「フィルズにも仲間を想いやる気持ちだけはあるみたいね」
「…アンタ達国防軍は、私達フィルズを何だと思ってるの?」
「国に仇なす犯罪者…もしくは犯罪者予備軍って所ね」
「ふざけるな!アンタだって、一歩間違えれば私達と同じになってた可能性だってあるのよ!」
「私は違うわ。中学生の頃にギフトが発現し、しっかりと国からスペシャリストとしての教育を受け、将来を見込まれて国防軍に入隊した。貴女達フィルズとは違うのよ」
「私も、国の教育を受けていたわよ。でも、私は国防軍入りを拒んだ。たったそれだけで野良フィルズ扱いされた!そんな私を、黒夢は拾ってくれたのよ!」
「何を言ってるの?国はギフト能力者に適した職業を斡旋してくれたでしょう?勝手にレールから逃げたクセに、国のせいにしてるだけでしょ?」
「呆れた…何も知らないのね。中尉って言っても、所詮は組織の歯車でしか無いから、知らないのも仕方ないのか…」
「なんですって…」
「ウェザー・コントロール発動!」
「むっ!?」
突如、伊織の視界が霧で覆われる。
(この隙にブライト君を救わなきゃ!)
だが、何処を探してもブライトがいない。
(確かこの辺に倒れてたハズなのに…)
「探し物は見つかった?」
後ろからで囁かれ、振り向くとそこには伊織が立っていた。足元にはブライトが倒れている。
「うそ…なんで霧の中を自由に動けるの?」
「ギフトの特性でね。私は必然的に気配の察知能力が高いのよ」
気配察知能力の高い伊織にとっては、ティザーの判断は愚策だった様だ。
「フィルズを討ち取ったぞーっ!」
遠くから聞こえて来た声に、ティザーはヨガーが倒れた事を悟る。
「…そんな…」
ヨガーもミストも、頻繁に任務を共にする仲間だった。自分より年上の彼らは、自分の事を妹の様に可愛がってくれたのだ。
(ブライト君も…皆、死んでしまった…。私が、こんな任務に誘ったばっかりに…)
「さて、投降するなら命までは奪わないわ」
「…冗談。アンタ達に投降する位なら死を選ぶわ」
「…そう。なら、せめて苦しまずにトドメを刺してあげる…」
(ごめんなさい。ヨガー、ミスト、ブライト君…。あの世で謝るから、許してね…)
死を覚悟して、ティザーは目を閉じた…。
「ぐふっ…」
「さっきのお返しだ…」
あり得ない声が聞こえた気がして、ティザーは目を開けた。そこには、伊織の腹を背後から刺し貫いているブライトが立っていた…。