第26話 因縁の相手
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「…我が名は、闇の閃光・ブライト。貴様を屠る者だ…」
その男は、漆黒のマントに身を包んでいた。真っ黒なボディースーツに身を包み、マスクの眼だけが紅く妖しく光っていた。
「闇の閃光?なんだその中二病みたいな名前?恥ずかしく無いのかよ?」
ブライトは微動だにしない。…が、ヘルメットの中で顔は真っ赤になっていた。
「…遺言はそれだけか?」
気を取り直して比呂に凄む。
「遺言だと?このコスプレ野郎め…。お前が何をしようと、俺の能力で……」
それは、まさに閃光だった。ブライトは高速で3発のジャブを放つ。比呂は、全く視認出来ていない。だが、確実に鼻、顎、頬に、ほぼ同時に攻撃を受けたのだ。
「グッ……!?」
倒れそうになるも、必死に堪えてブライトを睨む…つもりだったが、そこにはもうブライトは居ない。
「…遅いぞ、鈍亀」
突然後方から聞こえて来た声に、振り向く…途中で顔面を殴られ、比呂は激しく転がってしまった。
(不思議だ。さっきまで、自分に人が殺せるのか不安だったのに…)
「お前を殺すのには、一切躊躇しないで済みそうだ…」
「かはっ…な、なんで!?」
全く認識出来ない攻撃は、比呂を動転させる。
「なんだ?何が起こってるんだ…?」
闇の閃光・ブライト。国防軍中尉の伊織をして初めて聞く名前だった。
大抵の危険人物は、国防軍でも情報が公開されている。だけど、黒夢には名前が知られていないフィルズでもかなりの実力者がいる事は伊織も聞いていた。だが、まさかこれ程のフィルズがいるとは思ってなかったのだ。
ブライトが危険人物だと云う事は、既に理解した。このままだと、新兵である比呂が危険な事も。それでも、驚きから伊織は動けなかった。
「くそっ…エリア・マスター!…プギャ!?」
今度は右ストレートが比呂の顔面に炸裂し、大きく後退して膝を地面に着く。
「くっ…エリア・マスターを発動する隙が無い!」
比呂が立ち上がる。が、いつの間にかブライトは目の前にいた。
「相性が悪いんだったか?俺の能力とお前の能力は」
「え?…まさか、お前は!?」
比呂は思い出す。“あの日”、“あの男”は、確かに冴嶋に真っ二つにされて死んだハズなのに、何故か死体処理班を惨殺し、自分と冴嶋に言伝まで残して消えた事を。
「そうか、あの時の!?やっぱり生きてたんだな!?」
「改めて確認する事か?言伝も残しておいたハズだろ?」
「くっ…やっぱり、フィルズなんてろくな奴がいないな!あの時の処理班も、今回も、何の罪も無い無実の人間を殺すなんて!」
「それはお前らも同じだろう?あの時、俺は何か罪を犯していたのか?」
「く、黒崎を殺しただろう!」
「殺らなきゃ殺られていたんだよ。お前らは、そんな俺の事情を聞こうともしなかった」
「うるさい!フィルズは国が定めた犯罪者だろう!お前らは、存在自体が悪だ!」
「そうか…。存在自体が悪か…。なるほど、あの時の俺を悪だと国が定めるのなら、俺はこれからも悪のままでいい…」
ブライトの右腕に、ロンズデーライトで硬質化された鋭利なの刃が具現する。まるで腕から生えた短剣の様に。
「悪のまま、自分の信じる意志を貫くさ…それが俺の新しい生き方だ!」
その瞬間、比呂の頭には確かに死の言葉が過った…。ブライトから溢れ出す刺々しいオーラに、まるで子供の前に腹ペコのフェノムが立っている様な絶望感を感じたから…
…が、ブライトがその場を飛び退いた事で、比呂は向けられた殺意から解放される。そして、間髪入れずに今までブライトが立っていた場所に斬撃が発生した。
ブライトが、斬撃を放ったであろう男を見て呟く。
「…まさかお前までネリマ支部にいるとはな…」
その男、冴嶋中尉は、先程までの気だるそうな表情から一転、生き生きした笑顔を浮かべていた。
「その能力…加速系だな?もしかして、あの時の、黒崎を殺った奴か!」
「…そうだ。お前を殺す為に地獄から蘇ったんだ」
自分の命が狙われてるにも関わらず、冴嶋は嬉しそうに微笑む。
「はははっ!いいねぇ~!実はあの時から期待してたんだよ!わざわざ言伝まで残して宣戦布告した君と、万全の状態で戦えるのをさ!
僕は冴嶋栄治!良かったら君の名も教えてくれないか?」
冴嶋を見た瞬間、ブライトの中に沸々とあの感情が沸き起こる。
「…クックックッ…まさか貴様にここで会えるとはな…。我が名は、闇の閃光・ブライト。貴様を…地獄に叩き落とす者だ!」
「ブライトか~。フフフ…じゃ、早速死合おうか…」
冴嶋が鞘から刀を抜く…次の瞬間、ブライトが後方に飛び退くと、またも斬撃が発生する。
(流石インビジブル・スラッシュのオリジナル!現段階の俺のインビジブル・スラッシュより斬れ味も効果範囲も初動の速さも遥かに上だな!)
「ひゃー!速えー!やっぱり黒崎を同じ土俵で倒しただけあるね!」
冴嶋に的を絞らせない様に高速で動くブライト。彼が通った場所に一瞬遅れて斬撃が発生する。近付こうとすれば、進行方向を予測したかの様に放たれる斬撃が接近を許さない。
「どうした?逃げてるだけかい?」
(コイツ…呑気な顔して考えてやがるな。俺が間合いを詰めれない場所に攻撃を放って来やがる!)
同じ展開が続く。その光景を、既に少尉3人を撃破したヨガーとミスト、ティザーが固唾を飲んで見守っていた。
「冴嶋が出て来た時は、撤退しかねーと思ってたけど、やるなー新入り」
「むぅ…俺をして、ブライトの動きが見えん」
「てゆーか、あの冴嶋と渡り合える奴なんて、黒夢にもそんなにいないでしょ?凄いよブライト君」
傍目には同じ展開に見えたが、その間ブライトはオリジナルのインビジブル・スラッシュの確認作業を行っていた。
(冴嶋のオリジナルは、100メートル放れた場所でも斬撃を飛ばせるのか。威力は落ちるが、これは現状俺の倍以上だ。
一概には言えないかも知れないが、威力も倍近くあると考えると、この距離でも充分なダメージになるし、もっと近い位置でなら一発でもまともに喰らえばアウトかな?となると、あとはどれだけヤツのスタミナが持つかだな…)
「どうしたんだ?ブライト!僕の体力が切れるのを待ってるんだとしたらお門違いだよ?僕はまだまだこの展開を続ける事が出来る!君の方は、いつまでその加速力を維持出来るかな?」
(考えが読まれてたか。確かにこのままだと、俺の方が先に体力が尽きるかもしれない。スピード・スターはインビジブル・スラッシュに比べてあんまり燃費の良い能力じゃ無いからな…)
ブライトが一旦立ち止まる。すると、警戒してか冴嶋も斬撃を放つのを一旦止めた。
「…遊びは終わりだ」
「フフフ…そう?なら、もっと楽しませてくれるんだね?」
今までの展開で、ブライトは一つの罠を張っていた。
「いくぞ…」
「いいよ…」
一つ目は、スピード・スターの移動速度。
ここまで、ブライトは一定のスピードで移動を続けていた。冴嶋の脳裏にも、確実にこれまでのスピードが残っているだろう。
なので、スピード・スターのギアを一段上げる。すると、やはり冴嶋の反応が一瞬だけ遅れた事で一気に間合いを詰める事に成功した。
「喰らえっ!!」
「!?これは!?」
そして二つ目。これまで温存していた冴嶋と同じ能力、インビジブル・スラッシュ。
スピード・スター一つでさえ有能なギフトだし、そもそも複数能力者は少ないのだ。その上、自分と同じ能力を相手が持っていたら?…僅かでも動揺してくれれば良い。その、ほんの一瞬が勝負を左右するのだから。
この二つを組み合わせた一連の攻撃は、ブライトが考える現在の必殺パターン。これを、ここで発動したのだ!