第25話 舞い降りた漆黒の鳥人
「軍人キラーに、俺はなる!」
ヨガーが両手を天に突き上げて吠える。その光景を、光輝=ブライトは空でマントの羽根を羽ばたかせながら眺めていた。
(…軍人キラーって…。そういやヨガーのギフトって、“テレス・コピック”って、手足が伸縮自在な能力だっけ?…さっきの台詞といい、ヨガーってあの国民的海賊アニメのキャラクターみたいな奴だな……)
国民的海賊アニメ。最高視聴率30%を越える、子供達にも大人達にも大人気のアニメだ。勿論光輝も昔は良く見ていた。ただ、あまりにも長く続いている為、最近は見ていないのだが。決め台詞は、「海賊の神に、俺はなる!」だ。
ヨガーに続くように、ティザーとミストも姿を現した。三人は御揃いのゴーグルを装着し、一応素顔は隠している。
(さて、取り敢えずは様子見だな)
今回の作戦。まずはヨガー・ティザー・ミストが思いのまま暴れる。そして、中尉が現れた段階でブライトが空から登場し、中尉の一人を不意討ちで仕留める…という作戦だった。
「貴様ら、何者だ!!」
伊織がヨガー達の前に飛び出す。光輝は目をこらして伊織の胸の星とラインの数を見る。
(ん?あの女の人…中尉じゃね?あれ?もう出番?…も少し様子を見よう)
「俺は、軍人キラーになる男だ!」
「…只のアホか…。アホはアホでもフィルズはフィルズ。新兵達は今すぐ撤退!早急に応援を呼んで来て!」
伊織の指示で、半数の新兵が逃げるように走り出すが、新兵とは云え、国防軍へ入隊出来た時点で彼らは能力者の中でもエリートの部類に入るのだ。逃げるのはプライドが許さない、そんな新兵達は一人の少年を先頭に、ヨガー達の前で戦闘モードに入る。
「くっ…何をしてる!新兵が敵う相手じゃ無い!早く退け!!」
伊織が必死で撤退する様促すが、新兵達の先頭に立つ少年が、薄ら笑いを浮かべながら口を開いく。…ブライトの視線はその少年に釘付けになった。
「そんなにビビらなくても、こんな間抜けそうな奴等、俺達で大丈夫ですよ、伊織中尉」
「真田…貴様、舐めるのも大概にしろ!これは命令違反だぞ!」
「でも、俺らで撃退すれば命令違反じゃ無いでしょ?さあ、行くぞ皆!」
その様子を上から見ていたブライトは…
(比呂め…。相変わらず空気を読まないって云うか、計算高いって云うか、自惚れてるって云うか、ムカつくって云うか、今すぐぶっ殺したいって云うか…なんか、あの伊織って美人中尉がかわいそうじゃねーか)
「へっ!新兵ごときがデケー事言いやがって!」
「身の程を教えてやるか…」
「よーし!若い芽を摘むのは可哀想だけど、報酬の為よ!私の為に死んで!」
ヨガー・ミスト・ティザーも臨戦態勢。
そして、50対3の戦いが始まった。
「ヨガ~…ショットガン!!」
ヨガーの腕が急激に伸び、拳の連打が新兵達10人を一瞬にしてボコボコにする。
「くそーっ!」
5人の新兵がミストに攻撃を仕掛けるが、全ての攻撃がミストのギフト“フォグ・フェーズ”によって、霧化した身体を通り抜け、動揺している所を巨大な十手で脳天をかち割られた。
「甘いな、若僧共…」
「キャー!怖いー!助けてー!」
ティザーに向かった新兵達10人が、泣き叫ぶティザーに動揺して立ち止まった。
「…助かるわー。止まってくれると、狙いやすくて。」
ティザーがギフト“ティザー・コントロール”を発動。新兵達の頭上に黒雲が出現し、そこから雷が落とされると、新兵達は黒焦げになって倒れた。
「くっ…やるな、コイツら…。分かっただろう?お前らが勝てる相手じゃない、退け!」
伊織が表情を歪める。一瞬にして残った新兵の半分近くが倒されたのだから。
「俺達は“黒夢”のフィルズだ!それでもかかって来る奴は殺してやるから安心しろ!逃げても殺すから安心しろ!」
黒夢。その名前を聞いて、新兵達の表情が恐怖に変わる。そして、殆んどの者達が逃げ出してしまった。
「逃がさん…」
身体を霧状にして新兵達を追いかけるミスト。だが…、突然風が吹き、身体の一部が流されてしまった。
「うおっ!?」
驚くミストの前に、新たな軍人が3人現れる。3人共胸に星が一つとラインが一本。
「…少尉か~。面白れー!俺も相手だー!」
ヨガーが少尉三人に飛び掛かって行った。
「ぬぅ、風系統のギフトとは相性が悪いんだが仕方ない…」
ミストもなんとか布散した身体を戻しながらヨガーに続く。
「…となると、私の相手は貴女ね。」
ティザーが伊織を見る。伊織は、苦々しい表情を浮かべながら、ティザーを睨み返していた。だがそこにまたも…
「よくも仲間を…。お嬢さん、貴女の相手は俺がしてやる!」
…比呂が横槍を入れた。
「今のを見て無かったのかしら?私の相手を新兵ごときが出来る訳無いでしょ?」
「そうだ真田。お前は下がってなさい」
「大丈夫ですって!俺はランクA+のギフト所持者だ。こんなフィルズ共に負けないですから!」
仲間の死に怒ってる様に見えるが、元々けしかけたのは比呂だし、本性を知った今では全てが薄っぺらく見えてしまい、空から見ていたブライトは舌打ちをした。
「へ~、ランクA+か。なら、手加減抜きよ!」
ティザーが出現させた雲から、突き刺す雨が比呂に降り注ぐ。
「エリア・マスター!」
…が、その雨は比呂を避ける様に地面に降り注いだ。
「なにっ!?」
「どうだい、俺のギフトは。まあ、種明かしはしないけどね!」
(なに!?物体だけでなく、他人の能力まで操作するのか!?…これは少し認識を改めないとな)
ブライトは、既に比呂など敵では無いと思っていたのだが、改めてそのギフト能力エリア・マスターの有能性を認識させられていた。このまま、比呂が能力の熟練度を上げて行けば、間違いなく厄介な敵になるだろう。
(…消すか。今、ここで!)
「へえ~、新兵のくせにやるじゃない!なら…これはどう!」
雲が光る。先程一瞬にして新兵達を黒焦げにした雷を発動させた。
「無駄だっ!」
エリア・マスターの力で、雷雲は比呂の方向では無くティザーに向けられ、放たれた雷はティザーに向かって落ちて行く。一瞬の出来事に、ティザーは認識が追い付いていない。
その時、空から漆黒の鳥人が舞い降りた…。
ティザーの前に立った漆黒の鳥人は、雷をマントで受け止めると、びくともせずに佇んでいる。
「ぬ…何者だ!」
比呂が叫ぶ。雷雲を支配して放たれた雷は確実にティザーを捉えるハズだった。なのに、突然現れた鳥人は雷を物ともしなかった事に脅威を感じたのだ。
「…我が名は、闇の閃光・ブライト。貴様を屠る者だ…」
これ、決めセリフです、はい。今後も随所に出てきます。