第21話 初任務と云う名の特訓
※第一回・能力考察回です。
※フェノムの危険度レベルを修正しました。
※フェノムの素材の売買方法を追記しました。
いきなり借金1億円を背負う事になり、光輝は肩をガックリと落としながら、ラインに連れられて桐生の部屋にやって来た。
「失礼します。ブライトをお連れしました」
ボス・桐生辰一郎の部屋は、如何にも社長室にあるデスクと、来客用?のテーブルとソファーの他には一切余計な物が無いシンプルな部屋になっている。
(前来た時も思ったけど、ボスなのに殺風景な部屋だなぁ)
桐生は品定めする様に光輝を見て一言。
「ふむ……似合ってるじゃないか、ブライト」
「似合ってるじゃないかじゃ無いですよ!おかげでいきなり借金生活ですよ!?どーしてくれるんですか!?」
「その程度の借金、直ぐに返せるさ」
そう言うと、桐生はラインに視線を移す。ラインは「失礼しました」と言って、静かに部屋を出て行った。
「まあ座れ。さて、お前の能力に関してだが、こちらで少し調べさせてて貰った」
「リバイブ・ハンターですか!?」
ソファーに座りながら、光輝は身を乗り出す。
「ああ。リバイブ・ハンターのギフト能力は過去にも確認されていなかったが、同系統のギフトは存在していた。それが、“コピー・ハンター”という名のギフトだ。
この能力も他者の能力を使用出来るのだが、発動条件は殺される訳じゃなく、対象に10秒間触れる事。そして、別の能力をコピーすると元の能力が使えなくなる。更に、コピーした能力は24時間後には消失すると云う能力だった。
能力的に、リバイブ・ハンターの下位互換能力かもしれないので、この能力を参考にして俺なりにリバイブ・ハンターの今後の活用法を考えてみた」
リバイブ・ハンターの活用法。光輝にとっては何より必要な知識だ。
「リバイブ・ハンターが幾つの能力を同時に所持出来るのかはまだ定かでは無い。同じ様に、何度死んで良いのかも現段階では判別しようが無い。よって、現状を維持する方向で考えた方が良いだろうな。
幸い、スピード・スター、インビジブル・スラッシュ、ロンズデーライトの三つの能力は、非常にバランスが良い。もし仮に他の能力を手に入れた事で現状の能力が上書きされるのならば避けたい所だ。…手に入れるギフトが余程有能なら話が変わるがな」
言われて、光輝も納得する。確かにスピード・スターとインビジブル・スラッシュは一ヶ月間の特訓の成果で熟練度も少し上がっている。
今、全く熟練度が上がってない同等の能力を手に入れてスピード・スターとインビジブル・スラッシュのどちらかを失い、戦法がガラッと変わってしまうのは避けたい所だった。
そしてロンズデーライトに関しても、今は殆んど使いこなせて無いが、熟練度が上がれば恐ろしい能力に変貌する事は桐生が証明しているので、絶対に失いたく無い。
「お前の今回のボディースーツも、スピード・スターとインビジブル・スラッシュに相性の良い造りになっている。とりあえず現状の能力だけでもお前は破格のギフト能力者だからな」
ギフトの複数持ちはそう多くは無い。三つともなれば過去にも極僅かだ。しかも、その全てがギフトランクA以上で、能力間の相性も良いとなれば、無理に新しいギフトを手に入れる必要は無いと云う結論だ。
「分かりました。じゃあ、早く借金無くしたいので、早速任務貰えますか?初めてなんで出来れば簡単なやつ。とゆうか…そもそもフィルズ組織って、普段どんな活動してるんですか?」
「そこから説明が必要か?…まあ仕方ない。一口にフィルズ組織と言っても、それぞれの組織で全く異なってくるな。小規模な組織なら強盗窃盗等、小悪党な組織が多い。これが中規模になると、少しだけスケールが大きくなるが、まあ黒夢から見れば所詮小悪党に過ぎない。
ウチの様に大規模な組織になると、裏社会との繋がりも深くなるから様々な依頼が入ってくる。それこそ、国家転覆すらも視野に入れて活動している…。まあ、ここら辺は後に教えてやろう。
ただ、一つ確かな事は、俺達フィルズは世間からは犯罪者扱いの悪党だ。でも、その基準は根本が変われば全て覆るのだ」
国家転覆と言われてもサッパリ実感が沸かなかったが、それでも桐生がなんらかの思想や目的を持っている事は理解できた。
「さて、お前の初めての任務だがもう用意してある。今回の任務には、特別に俺も同行しよう」
「そうなんですか?」
光輝は、桐生が任務に同行するという意味を分かっていない。それこそ、他の黒夢メンバーが聞いたら目を丸くして驚く程なのだが。
「まあ、任務と云うより、特訓と言った方が良いがな」
「むしろありがたいです!早く能力に慣れておきたいですし」
スピード・スターとインビジブル・スラッシュは勿論だが、桐生が同行するのならロンズデーライトの能力を鍛えられるかもしれない。光輝にとってもありがたい話だった……が、一時間後、光輝は激しく後悔する事になる。
―立ち入り禁止エリア
光輝は桐生に連れられて、新東京エリアから転移し、無法地帯である立ち入り禁止エリア(旧栃木県山間部)にやって来ていた。
このエリアはフェノムが多数生息している為、人が住む事は出来ない危険なエリアだ。
「…ボス、まさか、これ全部、俺が倒すんですか?」
「そうだ。コイツらの素材は高く売買されるから、全部倒せばお前の借金は半分になるぞ」
…目の前には、危険度レベル4から6までのフェノムが100体以上。
フェノム1体の危険度は、4で国防軍の一般レベルの兵士と同等のクラス。6だと熟練の兵士が漸くレベルだ。※余談だが、例えば冴嶋ならレベル6でも難なく倒せるだろうが、現段階の比呂では勝てない。
どう考えても、ギフトが発現して一ヶ月の能力者が立ち打ち出来るレベルでは無い。
「……嘘でしょ?」
「お前は借金を早く返したい。その為に早く強くなりたい。死にそうになったら、俺が助け船を出す。お前にとってこれ以上に好条件の任務は無いだろう?」
言ってる事は分かるのだが、実際問題、光輝は黒崎と桐生と戦った以外、通りすがりの正義の味方は論外なので、実戦経験が無いのだ。流石に「はい、喜んで!」とは言えない状況だった。
「…それにしても、なんでこんなにフェノムが集まってるんですか?」
「なーに、この俺自ら事前に撒き餌をしておいたからだ。全て、お前の為だ」
満面の笑みを浮かべる桐生。だが、光輝にとっては死神が笑ってる様にしか見えなかった。
「ほら、奴等もこちらの存在に気付いたぞ?早く行って来い」
「う~~クソッ!こうなりゃヤケだ!」
スピード・スターを発動し、そのままの勢いで蜥蜴人間のリザードマンを殴る。リザードマンは殴られた勢いで吹っ飛んで行った。
光輝は己の拳を見る。これまでならスピード・スターの勢いに負けて拳を痛めていたハズだったが、今は無傷だった。
「これ、グローブのおかげだよな。クソッ、悔しいけど1億円の価値はあるみたいだな!」
リザードマンの皮はバッグの素材等として高く売れる。他のフェノムの素材も需要があるのだが、基本的に国防軍・警察以外は、生活エリア外でのフェノムへの接触は禁止・違法行為とされており、定期的に国防軍が間引きする以外、素材が手に入る事は無い。
なので、今回の様に国の法律を破って得た素材は、闇のシンジケートを通じて高く売買されるのだ。
光輝を敵だと判断し、フェノムの群れが一斉に襲い掛かる。
「よし…やれるだけ殺ってやるか!」
光輝も気合いを入れ直し、フェノムを迎え討つのだった。