第19話 馬鹿にしないでね?
フィルズによる日本最大の組織・黒夢。
リーダーの桐生辰一郎をはじめ、多数の高ランクギフト能力者を有する。
構成員は、確認されているだけで500人を超え、日本各地に秘密基地を持ち、国からフィルズとして犯罪者扱いされている現況に反発し、国に対して敵対行動を取りつつも、フェノムの脅威とも戦い、日々暗躍している。
昨夜、そんな黒夢に入団した“闇の閃光・ブライト”こと周防光輝は、何事も無かったかの様に学校へ向かっていた。
(はぁ…。まさか俺がフィルズ組織の一員になるとはなぁ。この間までヒーローになるって言ってたのに…。でも、今更国防軍に入るのは何か違う気がするし、何よりもボスも昨日言ってたもんな…)
昨夜、黒夢のアジトから帰る際、光輝はボスに言われた事を思い出す…。
「リバイブ・ハンターか…。それにしても国防軍に知られなくて良かったな。知られてたら、間違いなくお前は一生実験材料として扱われてただろう」
(……あの話しが本当なら、国防軍こそ秘密結社じゃないか。まあ、敵対組織を必要以上に悪く言ってる可能性もあるんだろうけど…)
結局アジトから転移石を使用して帰ってきたのが朝5時だったので、非常に重い瞼をこじ開けながら光輝は歩いていていると、前方で水谷風香が光輝を待っていた。
「おはよう、光輝くん。」
…風香が待ってる。既に日常になりつつあるが、だからこそ寝不足でも光輝は学校をサボらないのだ。
この一ヶ月で、光輝の学生生活は大きく変わった。
ギフト能力者となった余裕と比呂に対する劣等感が無くなった事により、光輝自身が明るくなった。それにより、今までは敬遠されていたクラスメートとも交流を持つ様になり、一躍人気者になったのだ。
風香とは正式に付き合ってる訳では無かったが、既に公認の仲になりつつある。呼び名も水谷から風香へと進展している。
「おはよう風香。ふあ~あ、眠いわ…」
「また夜更かし?ゲームも程々にしないとね」
ゲームじゃなく、殺されてました…とは言えず。
「はいよ~」
その後も雑談をしながら登校する二人。
自分の隣を楽しそうな笑顔を浮かべながら歩いている風香を見て、光輝はこれは夢なんじゃないかと思う。
つい一ヶ月前まで、自分は周囲を遮断して生きていた。その頃から考えれば、今の現状は幸せ過ぎた。
この幸せは、多分長くは続かない。自分はギフト能力者として、フィルズ組織・黒夢の一員として、新たな人生を歩む事になってしまったのだから。
(こんなんだったら、無能力者のままでも良かったのかもな…)
例えば…、と考える。風香と将来結婚し、普通に子供が生まれ、普通の家庭を築く。それでも良かったのかもしれないと思うのは、恐らくその幸せがもう手に入らない物だと知っているから…。
「…もう!歩きながら寝ないでね?」
「ん?ああ、起きる起きる」
だからこそ、今だけはこの平和な幸せを満喫しようと、心に誓うのだった。
―放課後。
「光輝~。今日も風香ちゃんと放課後デートか~?」
崇彦が光輝に話し掛けて来た。が、その質問に風香が応える。
「あ、私ちょっとだけ用事があって…」
「そうか?なら、今日は先に帰ってるよ。崇彦、一緒に帰るか?」
「あ…えっと…光輝君…」
「…はぁ~。最近大分社交的になっては来たみたいだが、お前は女心を知らないなぁ」
「ん?なんだよ?」
「風香ちゃんの顔を見ろよ」
崇彦に言われるがまま、光輝は風香を見ると、風香は困ったような、小動物みたい仕草でモジモジしていた。
「用事はちょっとだけって言ってんだから、待ってて欲しいんだよ。な、風香ちゃん」
「えっ?あの…光輝くんさえ迷惑じゃなかったら…」
「ゴメンゴメン。全然待ってるよ!」
「ありがとう。じゃあ、直ぐ戻って来るね!」
風香は嬉しそうに教室を出ていった。
水谷風香は、校舎裏に呼び出させれていた。
「水谷風香…。再三の忠告も聞かず、光輝様と宜しくやってるみたいだね…」
霊長類ヒト科最強のメスと言われる吉田が、怒りに満ちた表情を浮かべていた。
その後ろには、渡辺、大久保、近藤。吉田同様我慢の限界と云った表情だった。
「前にも言ったけど、光輝くんが誰を好きになろうが、誰が光輝くんを好きになろうが、貴女達には関係無いでしょう?」
男子生徒でも、この4人に囲まれたらビビるだろう。だが、風香は毅然とした態度を崩さない。
「アンタ、私達に対して良い度胸だね。光輝様のお気に入りだからって、私達がアンタに手を出さないとでも思ってんのかい?」
「…別に。私は事実を述べたまで。でも、仮に貴女達が私に暴行を働いたとしたら、貴女達は光輝くんに軽蔑され、それこそ嫌われると思うんだけど」
「んな事ぁ分かってるわ!でも、どうせ私達には脈は無いもの!
ちょっと前までは、光輝様に好意を抱いてそうな女子は軽く脅してやっただけで逃げてったのに、最近は光輝様が社交的になったおかげで光輝様の事を好きになる奴が増えすぎて手に負えないし、極めつけはアンタよ!
私達を差し置いてちゃっかり光輝様の隣をゲットしやがって…」
「べ、別に私達、まだ正式にお付き合いしてる訳じゃ…」
「まだってなによ!!結局アンタは光輝様の事好きなんでしょ!?」
「す…………好き…だけど…」
顔を真っ赤にしてモジモジするその姿は、吉田以外の女達がちょっとだけキュンとする程可愛かった。
「…ぐぬぬ、もう、嫌われても良い。いざとなったら、光輝様をレイプでもなんでもしてやるわ。だって、私達は能力者で、彼は無能力者だもの!どうにでもしてやれるわ!」
その言葉を聞いた瞬間、風香の雰囲気が変わった。
「…今、なんて?」
「うるさい!先ずはアンタを裸にひん剥いて晒し者にしてやるわ!あの方からも許可をもらってるしね!やるよ!皆!」
ゴリラ4人が一斉に風香に飛び掛かった。
「…愚かな人達。あんまり私を馬鹿にしないでよね?」
……………
「…これに懲りたら、もう光輝くんに関わらないで。あと、私にもね。…分かった?」
一人、涼しい顔で立ち尽くす風香の足元には、4人の倒れた女達が呻き声を漏らしていた。
「わ…分かりました…」
吉田が泣きながら風香に謝罪する。
「あと、無能力を馬鹿にするのもやめなさい。彼は…自分がギフト能力に目覚めなかった事をかなり気にしているんだから。分かった?」
「はい…もう、馬鹿にしましぇん…」
「よろしい。じゃあ最後に、さっき言ってたあの方って…真田比呂の事かしら?」
吉田は、戸惑いながらも…静かに頷いた…。
「なるほど。やっぱり性格に問題ありね…。
じゃ、ここであった事は、絶対に秘密だよ?もし光輝くんにバレたら…分かるよね?」
4人全員が顔を青ざめて首を縦に降った。
「うん!じゃあ、私は帰るね。光輝くんが待ってるから!」
誰もが見惚れる様な笑顔を浮かべ、風香はその場を去って行った…。