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第10話 罪悪感

 翌日……グリーンをマリーンに任せて一足先にスタンドプラウドに帰っていたブライトは、宿屋で睡眠を取った後、ハンターズギルドの伊織の下を訪れていた。



「そう、グリーンはマリーンの所にね……。 彼女にも最近忙しくさせてたから、たまにはゆっくりしてもらって良かったわ」


 ブライトの活躍で、貯まっていた高難易度の依頼の大部分が解決された事で、ギルドマスターである伊織にも余裕が生まれていた。


「でも、本当に貴方が来てくれて助かったわ。 むしろ、貴方がいなければ大変な事になってたわよ」


 ブライトがこなした任務は、全てが危険度レベル6以上のフェノム討伐だった。 対応が遅れれば、近隣の集落・住民に多大な被害が出ていただろう。



「それは良かった。 でも、そんなフェノムを放ってまで魔族と争うなんて、人族は愚かな事だな」


全てはアンノウンの意向だとは知っていても、それに従う人間たちに、ブライトは不満を抱いていた。


「……人王・シャムロックは、三年前突然現れて、あっという間に人族の王国中枢を乗っ取ったの。 私たちハンターズギルドは種族間の垣根を越えた組織だったから、シャムロックの侵攻には反対の立場を貫いてたけど……シャムロックの力は圧倒的で、反旗を翻したSランクのハンター数名が瞬殺されてしまったのを堺に、上層部はシャムロックに追従するかどうかで混乱してるの。 なのに、シャムロックの力に憧れた者や怯えた者など、個別でハンターズを離脱する者が後を立たないのよ」


(ん〜……でも、アンノウンがその気なら、三年もあったんなら全種族を制圧しててもおかしくないんだよな。 だとすると、魔族にはアンノウンも警戒する何かがあるのか……それとも、ただ遊んでるのか……)


「マスター、魔族の戦力ってどうなの?」


「魔族の魔人は、基本的に人間よりも戦闘能力は高い。 シャムロックを抜きにして考えれば、人族は魔族には敵わないでしょうね」


「でも魔族は、自分たちから人族に攻めては来てないんでしょう?」


「ええ。 あくまで平和的解決を求めてるわね……。 なんの大義もなく魔族に攻め入ったら、軍門に下ったとはいえ、獣人族やエルフ族が魔族側に着かないとも言い切れないから、今の所は牽制状態が続いてるみたいだけど……元々宣戦布告してるのは人族だし、そう遠くない内に戦争になるとは思うけど」


 戦争……。 ブライトは、国防軍とフィルズなどの組織同士の抗争や、人とフィルズとの争いしか知らない世代だ。 アースで人と人……国家間の大規模な戦争が起こったのはかなり前の事だったから。

 それでも、残された文献などで人と人との戦争を知る事は出来た。 同じ種族が、宗教の違いや領土を巡って血を流す。 その大多数は、罪のない人々の血なのだ。


 人間の、最も醜い欲望が垣間見えるのが、ブライトにとっての戦争に対する見解だった。


(……元々神も、戦争という過ちを繰り返し星をメチャクチャにした人間に対する為にフェノムを生んだんだ。 つまり、アンノウンは神が最も嫌がる行為として戦争を起こそうとしてるのか)


 ブライトも神に恨みを抱くアンノウンの気持ちが分かる気はしていたが、それでも、改めて考えると、戦争によって流れる罪のない人々の血と涙を黙って見過ごせず、この状況を作り出しているアンノウンに対して憤りを感じた。



(予定では、カズールや瑠美に会ってからでも良いかと思ってたけど……もうこちらからアンノウンに直接会いに行くか? )


「マスター、人王の居場所教えてくれない?」


「ん? 人王は普段なら王都・キングダムにいるだろうけど……まさか、一人で会いに行く気?」


「ああ。 実は……人王とは知らない仲じゃないんだ。 この戦争を引き起こしてる理由も、多分知ってる。 だから、話し合いで済むなら、説得してみたいんだ」


「人王・シャムロックと知り合いなの? それは意外だったわね……でも、止めた方が良いわ。 現在シャムロックの周辺には、ウチのハイランクハンターも含め、人族屈指の実力者が軍隊としてシャムロックを守ってる。 君が如何に強くて知り合いでも、おいそれと会ってはくれないと思うわよ?」


(いや、俺が行けばアンノウンなら絶対に会ってくれると思う。 アンノウンが神にムカついてる様に、俺だってムカついてるんだから。 なんなら一緒になって神が嫌がる事を考えてもいい……戦争をするくらいなら)



「ま、行くだけ行ってみるよ。 会えなければその時はその時で考えるからさ。 それで、出来れば地図なんか貰えるとありがたいんだけど」


「……止めても無駄か。 貴方がいなくなるのはギルドマスターとしても痛いんだけと、充分仕事して貰ったしね。 そうだ、だったら今晩お別れ会でもしよっか! 私も貴方には本当に助けてもらったから、ご馳走させてよ」


 国防軍時代から伊織にはお堅いイメージが付いていたので、この申し出はブライトとしても以外だった。


(つーか、伊織さんと飯って、なんか別の意味で緊張するな)


 ブライトから見て、伊織は純和風美人といった印象の、カッコいい大人な女性だ。 昨夜のグリーンとはまた別の魅力を持っている。


(まあ、奢ってもらえるなら御言葉に甘えよう)



「ありがたく奢ってもらいます」


「そう。 じゃあ今日は早めに仕事切り上げなきゃ。 あ、取り敢えず渡しておくわね」


 そう言って、伊織は地図をブライトに手渡した。


「王都キングダムはここから馬車で三日はかかるけど……貴方、メルティーまで数分で移動できるんだっけ? ……ホント、とんでもないわね。 だったら一~二時間で到着すると思うわ」


「そんなもん? だったら、別に日帰りでも大丈夫そうだな……」


 ブライトは伊織の紹介で、飯も旨くて設備が整ってる宿屋を格安で提供してもらっていた。 移動時間が一~二時間であれば、面倒なのでわざわざ拠点を移動する必要もないと考える。



「え? 今から行くつもり? ……無理に止めはしないけど、一応準備して明日にするのをオススメするけど……」


 普段凛とした伊織の表情が残念そうに見えたブライトは、考えを改める。


「そうですね。 向こうで何があるか分かりませんし、今日は伊織さんに奢ってもらって、明日改めて王都に行こうかな」


「そうね! そうしましょう! そうと決まれば、早く書類整理を終わさなきゃ!」


 笑顔で仕事を始めた伊織に、かつて自分が殺してしまった負い目を感じる。


(俺は、自分の自己顕示欲の為に、こんなイイ人を殺したんだな……)


 国防軍ネリマ支部での任務は、ブライトにとっては初期の任務であると共に、自分の強さを試す為の場だった。

 その中で、伊織という国防軍でも素晴らしい部類に入る人材を殺してしまった事に、かつての自分が精神的に幼かったとはいえ、大きな罪悪感に苛まれていた……。

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