第9話 異世界での協力者
「それで話を戻すけど、人王の正体がアンノウンだっていうのは、間違いないのかい?」
「ああ、十中八九、そうだと思う」
マリーンがこの世界に転移して来たのは四年前。 その頃のこの世界・アムスは、種族間の争いも無く平和な世界だった。 フェノムの存在は脅威だったが、それもあってバランスは取れていた様だ。
だが、その一年後……突然人族の王が、クーデターにより失脚する。 そして、新たな人王となったのが今の王・シャムロックなのだという。
シャムロックは全世界に宣戦布告し、人族が世界を支配すると宣言した。 これに異を唱えた当時の獣人族の王が、万の軍勢を引き連れてシャムロックの城に攻め込んだのだが、なんとシャムロック率いる僅か数百の軍に全滅させられてしまったのだ。
これにより、獣人族は人族の軍門に下り、エルフ族も白旗を上げた。 だが、魔族だけは納得せず、一触即発の状況になっているらしい。
「なるほど……。 あ〜あ、神への恨みで戦乱に巻き込まれたと知ったら、この世界の人たちは神を恨むかな?」
ブライトも神に言った通り、全てメチャクチャにしたいと思ったアンノウンの気持ちも理解していた。 でも、まだ数日だが実際にこの世界で過ごし、マリーンたちとも再会出来た。 瑠美やカズール、それにあの人だってこの世界にいるのだ。 今となっては、なんとかアンノウンの暴挙を止めたいと考えている。 それが神のお願いだとしても。
「正直、私は人族だから実害は与えられてないけど、何の罪も無い元々この世界に生まれ育った他の種族が犠牲になってる現状には腹が立ってるわ。 まあ……おまえの話を聞いてたらアンノウンの気持ちも少し理解できるけど……そうと知ってればあの時神様をぶん殴っておけば良かったわね」
「ああ、ギッタンギッタンにしてやりゃあ良かったんだよ」
憎むべきは神だという結論に至り、意気投合する二人。
「それで、私は記憶は残ってるけど、カズールと瑠美って人は、流石に分からないわ。 面識がないもの」
「だろうな。 あの二人は神が特例で転生させたって言ってたし。 で、それ以外でこの世界に転生した者が俺のリバイブ・ハンターの犠牲になった人たちだとすれば、元国防軍の黒崎、中尉だった冴木と伊織さん、グリーン、ホワイト、そして……」
「……あの人なら、何らかの注目をされててもおかしくないけど……私が会ったのは伊織さんとグリーンだけね。 だけど私以外の二人に共通するのは、記憶を失い、ある日突然この世界で目覚めた事。 でも、自分のギフトに関する記憶はあり、元の世界の存在など微塵も知る事無くこちらの世界で生きている……。 そう考えると、貴方の狙いが巧く行けばカズールって人に会えるかもしれないけど、瑠美って人は運任せね……」
「マリーンはこの世界に来て四年が経つけど伊織さんとグリーンの二人にしか会ってないのに、俺はこの世界に来て初日に冴嶋、黒崎、伊織、グリーンに会った。 これって、リバイブ・ハンターによるなんらかの因果が働いてるとしか考えられないな」
「ん~……かもね。 だとすれば、やっぱり瑠美さんに会うのは難しくなるかもね?」
「ま、なんとか探してみるさ。 さて、結構時間経ったよな……」
気が付けば、個室に移動してからもう三○分が経過していた。 流石にグリーンを放っておきっぱなしにしておくのはマズイので、ここらで一旦お開きとなった。
「これ、私の魔導携帯電話の番号。 なんか用があったら連絡して」
「サンキュー。 でも俺、この世界で魔導携帯電話持ってないけど……」
「……じゃあ、これあげる。 私の非常用魔導携帯だけど、使ってなかったから」
「え? 悪いよ貰うなんて。 最近ハンターとして高難度の任務をこなしてるから、金ならあると思うし……」
「馬鹿。 年上のお姉さんには黙って甘えておけばいいのよ。 それに、その全部一人で背負う癖、もう治したら? 多分風香も、頼られない=必要とされてないって思うタイプだからね?」
「うっ……耳が痛いよ。 でもなぁ……」
「おまえはこの世界を救って元の世界に戻るんだろ? 風香を幸せにしたいんなら、あの子が本当に欲しいものが何かを考えるんだね。 それは、自分を犠牲にして彼女だけ守るなんて行為じゃあ、絶対ないから」
「……チェッ、なんかアンタには全て見透かされてるみたいで調子狂うんだよな」
「ま、なんだかんだ半年近くおまえの精神世界に住んでたんだから、おまえの思考くらい読めるのさ。 あと、絶対にグリーンに勘違いするんじゃないよ?」
「分かってるよ。 グリーンはこの世界での良き相棒って所だから」
「……の割にはイチイチ動揺してるんだろ? 女に免疫が無い男って奴はこれだから……」
「わーかったって! アンタは俺の姉ちゃんか!?」
「フフフ、みたいなものでしょ」
と、和気あいあいと個室を出て、グリーンの席に戻ると、グリーンを中心にメンズの三人が疲れた表情で座っていた。
「あ〜! 遅いですよ、ブライトさん! こんな可愛い相棒を放ったらかしにして、まさかマリーンちゃんとエッチな事してたんじゃないれすよね〜?」
テーブルにはワインボトルが一○本。 メンズの様子から、たった三○分の間に全て一人で飲んだと考えられる。
「……大分酔ってるみたいだな」
「そういえば奈津子は昔から酒癖が悪かったわね……。 いいわ、今日は私の所に泊まってもらうから、アンタは適当に帰りなさい」
「頼んでいいの? 助かるよ。 正直、酔っ払いの扱いには慣れてないからさ」
「な〜に二人でイチャイチャしてるんれすか〜? さ、皆で呑みましょ〜よ!」
……ブライトは適当な所でレストランを抜け出し、グリーンをマリーンに任せて、メルティーの街を後にする。
飛行中、ブライトはマリーンの事を考えていた。
(それにしても、まさかマリーンが記憶を持ったまま転移してたとは……。 彼女とは色々とあったけど、最終的には風香を助けてもらったし、頭が上がらないな。 なのに、こっちの世界でも気にかけてくれてるみたいだし。 俺に出来る事なら協力してやらないとな)
今後の事を考える。
(冴嶋もボスに報告するって言ってたし、ギルドからの情報も公開されてる訳だから、そろそろアンノウンかカズールがコンタクトを取ってくる可能性もあるな……)
そして……もし、アンノウンとの交渉が決裂し、戦闘になった場合を考える。
(……最終決戦で俺が勝てたのは、地の利が働いたのと……そもそもアンノウンに勝つ気が無かっただけ。 正直、実力では全然及ばなかった。 そう考えると、なんとしても説得を成功させるしか無いな。 うん、それしか……)
最終決戦でアンノウンとは分かりあえた気がした。 だから、自分が説得すれば応じてくれると考えている。
でも……心の奥底で、小さな闘志の炎が揺らいでいるのを、ブライトは気付いていなかった。
リバイブ・ハンター犠牲者の会
⑤篠田マリーン
享年/25歳 性別/♀
身長・体重/169㎝・--㎏
ギフト/セル・ホワイト(S)、クァース・フレイム(A)
ネイチャー・ストレンジャー・ホワイトとして、回復役をになっていた。恋多き女であり、意中のレッドと恋人のイエローをブライトに殺され、その身を犠牲にして復讐を果たすが、リバイブ・ハンターによるバグで光輝の精神世界に居ついてしまった。
自我を失い、同じく精神世界に閉じ籠った光輝と時間を共にする内に情が沸き、最期は良き理解者となった。
登場/46~128話
※comicブースト様で漫画版の連載が開始しました! 更新は月刊連載(毎月第3火曜日)となってますので、続きが気になる~といった方は毎月第3火曜日をお忘れなく!
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※追記・ついでに活動報告を久々に投稿しましたので、気が向いたら是非。