第7話 ラブストーリーは突然に?
※5月17日より、【Webマンガサイト comicブースト】様サイト内にて、コミカライズ連載開始が決定しました。
作画の担当は、『ジャアイアント・ギグ』や『女騎士、経理になる』などの“三ツ矢彰”先生です。
「キシャアアアアーッ!!」
牙を剥き出しにして向かってくる巨大な大蛇。
「ウザい」
が、次の瞬間、大蛇の首がインビジブル・スラッシュによる斬撃で両断された。
「スゴい……本当に強過ぎですよ、ブライトさん。 今のフェノム、危険度レベル8ですよ?」
「まあ……俺にとってフェノムの危険度レベルなんて10でも1でも変わりないから」
ブライトにとって、危険度レベル10のドラゴンであろうが、危険度レベル1のスライムであろうが、どちらも一撃で倒せるのだから大差はなかった。
ブライトがAランクハンターとして活動を始めて三日が経過した。 その間、グリーンと簡易パーティーを組み、次々と伊織からの強制任務を遂行していた。
「さて、日も暮れて来ましたし、さっさと帰って任務終了の報告をしよう」
「そうですね。 でも、報告ならスタンドプラウドじゃなくても、ここから一○分程の所に芸術の街・メルティーがあるので、そこのギルドで済ませちゃいましょうよ」
グリーンもブライト同様空を飛べるので、比較的遠方の任務でも、これまでは日が暮れてもスタープラウドまで帰っていたのだが、今日はいつもより遠くに来ていた。
「メルティーねえ……ま、たまには新しい街を見てみるのも悪くないか」
ブライトはこの世界に来て、スタープラウドしか街を知らない。 早く神のお願いを達成して元の世界に戻りたいとはいえ、新しい街に興味が無い訳ではなかった。
飛行する事一○分。 メルティーの街に到着する。
メルティーは、人口約五○万人で、芸術の街として知られている。 街の造りも、スタープラウドと比べてどこかオシャレな雰囲気があった。
ギルドで報告を済ませると、外はすっかり夜になっていた。
「ねえブライトさん、せっかくだから、今日はメルティーに泊まっていきません? マスターには私から連絡しておきますから」
「え? 泊まり?」
ブライトが全力で飛行すれば、スターブラウドまで数分で帰れる。 だが、グリーンの飛行速度だと数時間は掛かるだろう。
それに、メルティーは女性にも人気の街であり、グリーンも暇があれば遊びに来ていたのだが、最近は激務の為、来れていなかったのだ。
「メルティーには美味しいレストランがいっぱいあるんですよ。 一緒に行きましょうよ!」
(一緒にご飯? 一緒にお泊り? ……お、俺には風香がいるんだぞ!?)
「さ! 早く行きましょ!」
有無を言わさず、グリーンがブライトの腕に抱き付き、歩き出す。
「お、おい、そんな引っ張らなくても……」
「いいじゃないですか。 メルティーは芸術の街でもあり、恋人たちの街でもあるんですよ? ちょっとくらい恋人のフリして下さいよ」
三日間、グリーンと行動を共にして気付いたのだが、彼女は距離感が近いのだ。 それこそ、男なら誰でも勘違いしてしまいそうになる程に。
(む〜……俺に風香がいなければ勘違いしてしまう所だが、多分グリーンは無意識で、俺に気なんて無いんだよな)
実際グリーンがどう思っているかは分からないが、普通に可愛くて魅力的なグリーンに腕を組まれてる事に、満更でもない感情を抱いてしまうのは悲しい男のサガだった……。
グリーンに腕を引かれて連れて来られたのは、見るからに高そうな高級レストランだった。
「あの〜、ナツさん? 俺、こんな立派なレストランに来る格好じゃないんだけど……」
顔はそのままだが、首から下は真っ黒なロンズデーライトの武装。 高級レストランに漆黒の悪魔スタイルで入るのは、流石のブライトでも気が引けた。
「あ、ここってあんまり服装に厳しくないので大丈夫ですよ」
(いやぁ……にしたって……)
「いいからいいから! それに、ハンターなんだから服装なんて気にしなくて良いんですよ! 私だってハンター用の格好なんですから」
グリーンの服装は、緑を基調とした軽装。 ミニスカートから除く健康的な太腿へは、すれ違う男たちが皆一度は視線を送っていた。
(この子、なんつーか……天然なのか? 全部計算だとしたら、とんだ小悪魔だぞ?)
誰にでも笑顔で、優しく、距離が近い……そして、可愛い。 正直、勘違いされる要素満載なのだ。
注文をグリーンに任せると、暫くしてアースで云うフレンチの様な料理が運ばれて来る。
どれも美味しいのだが、ブライトはお高い料理よりラーメンや焼肉などの方が好みだった。
「……ブライトさんって、もしかして覚者ですか?」
「覚者? ……それって、どういう意味?」
「えっと……ある日、目を覚ますと、過去の記憶を一切失っているんですけど、何故か自分のギフトだけは認識してる人たちの事を覚者って言うんですよ。 私やマスターのミユキさんも覚者なんですよ」
覚者。 神の言っていた通りだとすれば、覚者とは瑠美やカズール、アンノウンを除けば、ブライトのリバイブ・ハンターの餌食となった者たちの事だ。
「………………」
全て、自分が殺した者たち……。 それを思い出し、ブライトは目の前のグリーンの顔をまともに見る事が出来なくなってしまった。
「どうしたんですか? なんか……ブライトさんでも、そんな顔をするんですね……」
今のブライトの表情は、申し訳なさや後悔で思い詰めた暗いものだった。
(……事実を知ったら、グリーンや伊織さんはどう思うだろう。 言って、謝って、責められるならその方がいいけど……言ったら、あのクソガキは星をリセットするって言ってたもんな……)
神は軽い調子で言っていたが、ブライトは、あの神なら本当にリセットの決断をするだろうと思っていた。
やはり言えない。 だからこそ、せめてこの世界では彼女たちの役に立ちたいと、ハンターとして依頼をこなしているのだ。
すると、対面に座っていたハズのグリーンがいつの間にか横にいて、ブライトの頭を優しく抱き締めた。
「ブライトさんにも、辛い思い出があるんですね……。 良いですよ、私で良ければ、こうして慰めてあげるくらいなら、いつでも抱きしめてあげますから」
「!? いやいやいや、け、結構です!」
ブライトは慌てて立ち上がる。
(なんなんだよこの人! ホントに距離近過ぎだし! 危なく……いや! 俺には風香がいる、俺には風香がいる、俺には風香がいる……絶対に惚れたりしないんだから!)
「あ、あの、やっぱり俺はスタンドプラウドに帰るよ、うん。 本気出せば数分で帰れるし。 あ、グリーンは……いや、えっと、ナツは泊まって来なよ! マスターには俺から言っておくから!」
あからさまに動揺するブライトを、グリーンはキョトンとした表情で見つめる。
「あ……ゴメンナサイ! そうだよね……私……」
潤んだ瞳がブライトに向けられる……。
(……やめろ、言うなよ? 言ったら俺は……)
「……任務の後で汗臭かったですよね? 最初に宿に寄ってから来れば良かったですね」
ブライトは思わずズッコケてしまった。
でも、結果的に告白などされていたら、グリーンを悲しませてしまう事になっていたので、彼女の天然にホッとしたのだった。
「あら? ナツじゃない?」
すると、イケメンを三人引き連れた女性が、グリーンに声を掛けて来た。
「え? あ! マリーンちゃん、久しぶり〜」
(マリーン? ……マリーン!? まさか……)
ブライトは、声を掛けて来た女性を見る。 すると、その女性もまた、ブライトを見て驚きの表情に変わり……
「ブ、ブライト!?」
ネイチャー・ストレンジャー・ホワイトこと、篠田マリーンは、ハッキリとブライトの名を叫んだのだった……。
※度々すみません。コミカライズ化に関しては、幻冬舎コミックスのサイト上及びTwitterアカウント(https://twitter.com/comic_boost)で告知されてますので、興味のある方はそちらの方もチラッっと覗いて頂ければと思います。
ついでに、私個人のTwitterでも告知してますので、良かったらそちらもお願いします。