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第6話 女に弱い男

「じゃあ、はじめるわよ。 準備はいい? ブライト君」


「ええ。 いつでも、どこからでも、どうぞ」


ブライトは目的を最速で成し遂げる為なら、この世界で実力を隠すつもりなどサラサラ無い。

相手が誰であろうとも、残酷なまでに実力差を見せつけるのに躊躇は無いのだ。 だが……伊織だけは負い目から、あまり気が乗らなかったが。



(でも、やるしかないよなあ。 なら、せめて直接戦わなくても良いようにビビらすか……)


ブライトが、凶悪なオーラを身に纏わせる。 並の実力者なら、これで戦意を失ってもおかしくはない。


「……新人らしからぬオーラ。 これは最初から全力で行かせてもらいますね」


だが伊織とナツは威圧を感じつつも、戦意を失う事はなかった。 これは、ブライトがまだ全力では無かった上に、やはり伊織への負い目が作用していたのだろう。



Aランクハンター・ナツが、両手に風を纏わせる。 そして……


「ウインドカッター!」


(!? これ、見た事あるぞ!)


ナツから放たれた風の刃を、ブライトは難なく避ける。 だがその攻撃は、過去に見た事のある技だった。


(まさかこの人も!?)


ブライトは、彼女の素顔を知らない。 だが、Aランクハンター・ナツは、ブライトが連想した通り、あのネイチャー・ストレンジャー・グリーンだった。


グリーンは本名を緑川奈津子といい、エレメンタル・ウインダーのギフト能力者であった。


(まいったなぁ……伊織さんに加えて、この人があのネイチャー・グリーンだとしたら、申し訳なさ過ぎて戦えねえよ……)


グリーンにはショッピングモールにて、このままでは自分が死ぬと悟ったブライトが、どうせならグリーンのギフトが欲しいと考えて敢えて自分を殺させたのだ。 ある意味、彼女はブライトの都合でリバイブ・ハンターの弊害に巻き込んでしまった被害者でもある。


(しかも、当時はエレメンタル・ウインダーが欲しかった理由って、空飛べたらいいなあ〜程度だったんだよなぁ。 今ではすっかり重宝させてもらってるけど)



そう考えながらも、ブライトはエアカッターを難なく手で弾く。


「……やりますね……。 なら、これならどう!」


巻き起こる巨大な竜巻。 だが、ブライトは覚醒を経て、エレメンタル・ウインダーの上位ギフトであるワールド・オブ・ウインダムを習得しているのだ。


ブライトが手を一振り。 それだけで発生した竜巻は、グリーンの放った竜巻よりも遥かに小規模なものだったが、ぶつかり合ったと同時に相殺してしまった。


「なっ!? 貴方も風系のギフトを!?」



驚くグリーンを余所に、ブライトの注意は既に伊織に向いていた。


「伊織さん……いや、マスター。 すみませんが、もう終わりにしましょう」


ブライトが短剣を伴った腕を上げ、何気なく空中で止める。 すると、その剣先で、サイレント・ステルスにより姿を消していた伊織が、姿を現した。


「……何故、気付いたの?」


「俺の申請書を見たなら分かると思いますけど、俺も隠密行動は得意なので……」


伊織的には、努力で身に着ける事の出来るスキルは、所詮スキルでしかない。 天より与えられたギフトとは似て非なるものであり、スキルはどれだけ努力しても同質のハイランクギフトには及ばないと考えている。 なのに、ブライトはスキルの隠密で、自分のギフトによる隠密を見抜いたのだと考えた。


「……規格外か……。 まいったわ、降参よ」


戦意を解いた伊織に、ブライトは内心で怪我を負わせる事なく終わらせる事が出来てホッとした。



「本当なら貴方にはSランクを与えたい所だけど、Sランクは協会本部の認定が必要だし、このご時世では申請も通らないでしょうから、Aランクで我慢してもらうわよ」


このご時世……。 間違いなく人王による影響で、ハンターズ協会の上層部も混乱しているからであろう。


「全然大丈夫ですよ。 なんなら、ランクなんてそんなに気にしてないので」


「オッケー。 なら、Aランクで決まりね。 マイ、早速ブライト君をAランクで登録する申請を通しておいて」


「ハイ、マスター!」


実際、ブライトはランクなど気にしてないのだ。 ブライトの事が、ギルドを通じてアンノウンやカズールに伝われば、記憶を失っていてもカズールなら同じリバイブ・ハンターかもしれないと気付いてくれるだろうし、記憶の残っているアンノウンなら間違いなくブライトだと気付くだろうから。


(種族間戦争とか、ぶっちゃけ興味ないし。 だったら元凶でもあるアンノウンに直接話をした方が早いから。 説得が通用すればそれに越した事は無いけど、もし戦うとなっても、その方が戦争で多くの人が犠牲になるよりいいからな)



「……さて、早速で悪いんだが、Aランクハンターには、ギルドマスターからの強制任務を受諾しなければならないルールがあるんだ。 見た所全然疲れてないみたいだし、早速任務をお願いしたいんだけど」


伊織の口から出た言葉は、ブライトにとって意外なものだった。


「え? 強制任務? ……いや、聞いてないんですけど?」


(冗談だろ? そんなヒマ無いって!)


「おや? 登録申請書の注意事項に記載されてたハズよ? Aランク以上は、その力を率先して世界のために行使しなければならないので、所属ギルドからの依頼は断れないって」


「ならAランクは遠慮します。 普通にEランクからで……」


「もう無理よ。 今頃マイが貴方をAランクとして登録を済ませてるもの」


「なっ!? さ、詐欺だ!! 申請書にそんな事書いてなかったぞ!」


ブライトだって馬鹿じゃない。 一応申請書は全て目を通した。 その中に、伊織が言った事項は記載されていなかったハズだ。


「詐欺? 人聞きが悪いわね。 ほら、ちゃんと書いてるわよ?」


そう言って、伊織が胸元から未記入の登録申請書を取り出して、ブライトに突き付けた。


もう一度、よ〜く申請書を見る。 すると、裏面にハンターの注意事項が記載されていて、確かに伊織の言った内容が書かれていた。


(しまった……裏面見るの忘れてた……)



「……ハンターは、その力を人々の平和を守るために使わなければならない。 今の協会の状態でそれを押し付けるのは、私も一支部長として思う所はあるわ。 でも、だからこそ……貴方の様な力のあるハンターには、種族間の争いなど関係なく、ハンターとして人々を救ってほしいのよ」


伊織が、縋る様な目つきでブライトの手を握る。


伊織としても、人王の政策によりハンターズ協会の立ち位置がおかしくなっているのを憂いていたのだ。



「あの……私からもお願いします。 一部のハンターが種族間の争いに参加してしまって、その中にはこの支部のAランクハンターだった二人も含まれてるんです。 とても私一人では凶悪なフェノムを退治しきれません……どうか、強力してもらえませんか?」


伊織とグリーン。 どちらも負い目がある上に、女性である二人のお願いを断る勇気など、ブライトにはなかった……。


「はぁ……分かりました。 もう全部速攻で片付けちゃうので、高難度の依頼持ってきて下さい」


「ありがとう! 助かるよ!」


「やった! 一緒に頑張りましょうね、ブライトさん!」


満面の笑みを浮かべて喜ぶ伊織とグリーン。


(……これも、せめてもの罪滅ぼしと考えるか……)


なんだかんだ言って、結局は女性の頼みを断り切れないブライトだった。

リバイブ・ハンター犠牲者の会


緑川奈津子ネイチャー・グリーン

享年/26歳 性別/♀

身長・体重/162㎝・--㎏

ギフト/エレメンタル・ウインダー(A)

国防軍の精鋭部隊・ネイチャー・ストレンジャーの一員、ネイチャー・グリーンとして活躍していたが、瀕死の傷を負った光輝の策略で光輝にトドメを刺してしまい、結果的にリバイブ・ハンターの餌食となってしまった。 ネイチャー・レッドと恋仲だったとの噂もあったが……。

登場/46~49話


※新作として、【レジェンド・オブ・ブレイブ~伝説の勇者が未来に行ったら、インフレが酷すぎて死にそうです~】を投稿しました。

https://ncode.syosetu.com/n3202hj/


こちらは短編ですので、気軽に読んで頂ければと思います。

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