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第3話 魔族の御姫様

 冴嶋が去った後、ブライトはセル・フレイムで黒崎を治療した。


「……アンタ、一体どんだけのギフトを持ってんだ?」


 どうやらこの世界でも、能力の事はギフトと呼ぶらしい。


 続いて、倒れてる魔人たちを見て回る。 残念ながら、全員既に死亡していた。



「さて……大丈夫ですか? お姫様」


 そして、座り込んでいた風香……ではなく、フローラ姫に手を差し伸べる。


「あ……危ない所を助けて頂き、本当にありがとうございました」


 すると、フローラは深々と頭を下げ、ブライトに礼を述べた。 ……頬を朱く染めながら。



「アンタ……いや、ブライトって言ったか。 改めて礼を言わせてもらうぜ。 俺は魔王軍親衛隊長のクロマサだ。 本当に助かったぜ」


 黒崎の本名は、黒崎政夫。 冴嶋は名前でエージだったが、黒崎は苗字と名前が微妙にミックスされたクロマサと名乗った。


「ブライトだ。 無事で良かった」


 黒崎と握手する。 前の世界では自分の事をいきなり殺した相手との握手に、不思議な感情を抱きながら。


(でも、なんかこっちの世界では味方みたいだし、姫さんの事も本気で心配してたみたいだから、事を荒立てるつもりはないけどな)



「あの……ブライト様。 宜しければ、我が城までお招きさせてくれませんか? ……その、馬車こんなだし、徒歩と云う事になるんですが……」


 馬車は破壊され、馬も死んでる。 となれば、移動手段は徒歩しかないのだろう。


 それに、フローラの申し出はブライトにとっても願ったり叶ったりであった。 魔族側のギフトとしてこの世界に送り込まれたのだから、いきなり魔族のトップと接点が出来たのは幸先が良いと。


「ありがとうございます、フローラ姫。 実は私も、魔王様に謁見を申し込むつもりだったんですよ」


「そうなんですか? それはまた、どうして?」


 ここで、黒崎の俺を見る目が鋭くなった。


「今、世界の情勢は大きく変化しています。 その原因となる人族の暴挙を止めるべく、私は魔族側の力になりたいと思ってるんです」


 流石に、神にお願いされてとは言えないが、魔族の力になりたいと思っているのは事実である。


「それは本当ですか!? ありがとうございます、ブライト様程の実力者なら、御父様もきっとお喜びになりますわ!」


(うわっ……笑顔がメチャクチャ風香に似てる……)



 だが、ここで黒崎が会話に割り込んで来た。


「わりぃがブライト、それが本当ならこれ程力強い事は無いんだがな……俺も魔王軍の親衛隊長だ。 その言葉を鵜呑みにする訳にいかねー」


(何言ってんだよ、コイツ。 俺が人族の回し者だったとでも思ってんのか? だったら助けたりしなかっただろ?)


「確かに、おまえは姫を助けてくれた。 けどよ、見た所おまえは人間みてえだし、人族と結託して姫の懐に忍び込み、魔王様を暗殺しないとは言い切ねえ。 おまえが本当に魔族の味方をしてくれるって言うんなら、何か証拠になるものはないか?」


(いや、おまえも人間じゃん! ……とツッコむのも面倒だな。 でも、そう言われれば俺はまだ怪しい人物と言われても仕方ないのか……)


 人族と魔族は現在、険悪な関係にある。 そんな中、いくら助けてくれたとはいえ、黒崎は人間であるブライトを完全に信用しきれなかったのだ。



「クロマサ! 私たちを助けてくれたブライト様に失礼ではないですか!」


 すると、フローラが可愛い顔で怒りながら黒崎を叱責した。


「姫さん、だけどよう……」


「だけどもカカシもありません! 命の恩人におもてなしもしないとなれば、ウインダム家の名折れ。 貴方は、魔王であるお父様にまで恥をかかせるおつもりですか!?」


(いやぁ……黒崎にも立場ってもんがあるだろうし、そんなに怒らなくても……つーか、怒っても可愛い過ぎて怖くないけど)


「いや、俺は魔王様の為に……」


「為にもヘチマもありません! ブライト様には絶対にお城まで来て頂きます! これは決定事項です!」


 見るからに反社の黒崎が、可愛らしい少女であるフローラに責め立てられている。 それは、ブライトにとっても意外な光景だった。


(なんか、俺のせいで揉めさせちまって悪い気がするなぁ。 黒崎なんか、姫にタジタジだし……。 これが本当にゴロツキ野良フィルズだった黒崎かよ?)


「あの、姫様。 黒崎……クロマサさんにも立場があるんでしょうし、確かに俺みたいな怪しい男を簡単に魔王の懐に招くのを警戒するのは当然ですよ」


 ブライトがふと黒崎を見ると、黒崎は目で感謝を述べていた。


「……悪りいな、ブライト。 個人的には俺もアンタにお礼がしてえ。 だが、こんなご時世だ……警戒するに越した事はねえんだよ」


 魔王は、魔族の頂点だろう。 もし、ブライトが実は人族側のスパイであれば、そんな危険な人物を招き入れたフローラや黒崎の罪は免れない。 だからこそ、黒崎は警戒しなければならないのだ。 



「いいよいいよ、気にしなくて」


 ブライトにとって、神のお願いである世界のバランスを保つ為に魔族の手助けをするのも、確かに目的の一つだ。 だが、この世界に来た最大の目的は、瑠美と、カズールに会う事だった。


(そうだな……魔王に会いに行くのは、瑠美やカズールを見つけてからでも遅くはないし、考えてみれば、ここで魔王軍の一員にでもなったら、瑠美たちを探す暇が無くなりそうだもんな)



「じゃあ、俺はここで失礼するよ。 でも、そう遠くない内に魔王様には会いに行くつもりだから……」


「駄目です!」


 潔くこの場を去ろうと思ったのだが、いきなりフローラがブライトの腕にしがみついて来た。


「ブライト様は絶対に城に連れて行きます! だって……これはきっと運命の出会いですもの!」


 フローラは頬を朱く染めながら、力強い眼差しでブライトを見つめる。


(運命? ……ちょっと、何言ってんのか分かんないんですけど……)


「あっ!? ……いやその……運命というのはその……そう! きっとブライト様は、私たち魔族を救ってくれる、運命のヒーローなんです!!」


 はぐらかす様に言い切るフローラ。


 フローラ・ウインダムは、魔族の王・魔王オーフレイム・ウインダムの娘として生まれた。


 美しい外見もさることながら、心優しいフローラは魔族のみならず、世界的にも愛される存在でもある。 当然、魔王もフローラを溺愛しており、過保護ともいえる愛情を注いできた。 今回の移動にも、魔王軍でも実力者である黒崎を護衛にあたらせる程に。


 そんなフローラにとって、ブライトとの出会いは衝撃だった。 自分が何者かに襲われる経験も初めてだったし、初めて恐怖と絶望を味わった。 そんな危機に、颯爽と現れて助けてくれたブライトは、フローラの目には白馬の乗った騎士に映ったのだ。


 

(……俺も成長したし、鈍感な訳じゃないからなぁ。 フローラには申し訳ないんだけど、どんなに似てても俺には風香がいるし。 その気持ちには応えてあげられないな……)


 どれだけ風香に似ていても、フローラは風香ではない。 だが、ここでフローラを無下にしても話がややこしくなりそうだと判断した。


「ヒーローですか? ……買い被りすぎですよ。 でも、魔族の力になりたいというのは本当です。 いつの日か、信用に足る証が出来た時、改めて伺わせてもらいます……って事で、いいかな?」


 やんわり断りつつ、黒崎を見る。


(元々おまえが反対しだしたんだから、責任持って場を収めろよな)


 黒崎はバツの悪そうな表情を浮かべながらも、ブライトの意見に応える。


「そうだな。 そん時は、俺も喜んで迎え入れさせてもらう」


「なっ……クロマサ! 私はそんなの許しませんよ!」



 結局、フローラが最後までゴネて話が纏まらなそうだったので、ブライトはサイレント・ステルスを発動してその場を後にした。


 魔王との謁見は、少し勿体ない事をした気もしたが、ブライトは元々単身でアンノウンの下に乗り込めむつもりだったのだ。


(まずは瑠美とカズールを探す旅をしようっと)

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