第2話 リベンジマッチ
「フフフッ……ねえ、僕の名はエージ。 良かったら、君の名を教えてくれないか?」
冴嶋の本名は、冴嶋英治。 そして、この世界ではエージと名乗っていた。
名を聞かれ、貴様に教える名は無い……と言いたいブライトだったが、元々知らない仲では無いので言うのは止めた。
「……知りたけりゃ俺を倒してみな」
「言うねえ……。 これは是が非でも、君の名前を聞き出してやる」
「オ、オイ、アンタ。 魔族なのか?」
倒れている黒崎がブライトに声を掛ける。
「魔人では無い。 ……けど、俺は魔族の味方だ。 ……多分」
「……とにかく、敵じゃないんなら、姫さんを助けてくれ……」
フローラ・ウインダム。 風香にソックリな少女が、魔族の王、魔王の娘。
フローラが風香に似ている時点でブライトが彼女を助けるのは絶対だが、姫であるフローラを助ければ、味方である魔族側と接触するのにも好都合だとも考えられた。
「任せとけ。 姫様はちゃんと助けてやるよ」
「話は終わった~? そろそろ始めようよ。 もう我慢の限界なんだけど?」
流石は戦闘狂。 敵の会話中も手を出さず待っててくれていた。 ……ブライトとしては、わざと隙を見せて、攻撃を仕掛けて来たら返り討ちにするつもりではあったのだが。
「じゃあ、かかって来いよ……」
ブライトの今の状態は、この世界にて目覚めた時から、既に顔以外はロンスデーライトの武装を身に纏ってた。 いつでも戦える準備は万端だ。
冴嶋が居合いの構えをとる。 間合いは一〇メートル程……。 そこからインビジブル・スラッシュを放つのだろうと、ブライトは読んでいた。
「……シェアッ!!」
予想通りの斬撃。 だが、既にその場にブライトはいない。
「なっ!?」
サイレント・ステルスを発動してフラッシュで冴嶋の背後に移動。 冴嶋は完全にブライトを見失っている。
「こっちだ」
そして、アッサリと勝負を着けようと、ブライトは冴嶋の後頭部に手刀を放った……のだが、冴嶋は身を捩って躱した。
大きく間合いをとった冴嶋が、驚きの表情でブライトの方を見ている。
(マジか? 正直、今のが避けられるとは思ってなかったな)
「……ほう、やるな」
ブライトがサイレント・ステルスを解除し、姿を現す。
「ハ、ハハハッ……信じられない……消えたと思ってたら、本当に消えてた。 しかも、一瞬で僕の背後を取るスピード……君、何者なんだい?」
「言っただろ? 知りたきゃ俺を倒してみろって」
今の一撃を回避したのは野生の勘なのだろうか? いや、違う。 強者特有の勘……危機を察知する能力だろう。
手を抜いたつもりはなかったが、甘く見ていた自分を恥じる。 冴嶋は間違いなく強者だ。 前に自分が勝てたのは、本当に奇跡だったんだと再確認する。
(なら……一切手を抜かない。 本気で戦ってやる!)
「……俺の名はブライト。 ここからは、本気で行かせてもらう」
「え? まだ勝負は着いてないのに、名前教えてくれたの?」
「おまえを甘く見たお詫びだ。 俺はおまえを、強敵だと認める」
「へへっ、ブライトか……。 あれ? なんか、聞いた事があるような……まあいいや! 君に認められるなんて、こんな光栄な事はないよ! さあ、もっと戦ろう!」
(笑ってやがる。 コイツ……本当に戦闘狂だな)
「さっきは躱されたけど、これはどうだ!」
冴嶋が連続で刀を振るう。 すると、ブライトの立ってた位置を含め、周囲に全く同じタイミングで複数の斬撃が発生したのだ。
ブライトはこれを大きく跳躍して躱したが、余裕を見せて最小限の回避しか行わなかったら喰らってたかもしれない。
(インビジブル・スラッシュを、全く同じタイミングで複数を異なる場所に発生させるとは……こんなの、今の俺でも無理だぞ!?)
「勝機ぃっ!」
空中に逃げたブライトを、冴嶋がチャンスと見て、またも複数のインビジブル・スラッシュを放つ。
だがブライトは、空中でフラッシュとワールド・オブ・ウインダムを発動し、斬撃を回避した。
「と、飛べるの!? マジでバケモンじゃん! おもしれー!!」
ブライトは改めて……今だから気付ける。 あの時、多分冴嶋は本気じゃなかったんだと。
最終的には本気になったのだろうが、途中までは当時の自分のレベルに合わせて、戦闘を楽しんでいたんだろうと。
インビジブル・スラッシュにしても、冴嶋は元々が剣の達人である。 どれだけギフトの熟練度が上がっても、威力やスピードはブライトのインビジブル・スラッシュの方が上でも、素の剣術や使い方では冴嶋の方が上回ってたのだ。
(悔しいがインビジブル・スラッシュの面では俺の負けだ。 でも、俺のギフトはそれだけじゃない!)
「喰らえっ!」
プラズマ・ブラスターを放つ。 その一筋の光線は、冴嶋の肩を貫いた。
「ぐっ!? は、速過ぎる!」
(まさか……光速のプラズマ・ブラスターに反応した!?)
今、確かに冴嶋はプラズマ・ブラスターに反応して避けた。 でなければ、光線は冴嶋の右胸を狙っていたのだから。
「まいったね……マグレで避けれたけど、全然見えなかった。 だったら……」
冴嶋が目を閉じる。 前の戦いの終盤でもそうだった。 神経を研ぎ澄ませ、相手の攻撃に反応するつもりなのだろう。
(今のには反応出来たみたいだが、マグレじゃないよな?)
再びプラズマ・ブラスターを放つ。 すると冴嶋は、刀で光線を受け流した。
(……嘘だろ? だったら、これでどうだ!)
単発で駄目ならと、一気に五発のプラズマ・ブラスターを放つ。
だが、急所ではない二発は冴嶋の手足を貫いたものの、残り三発はしっかりと反応して刀で受け流してみせた。
「チッ……全部弾くのは無理か……」
(何悔しがってんだよ!? プラズマ・ブラスターに反応出来ただけでも異常だってのに! あの時の俺なんて今思えば全然大した事なかったのに、よくこんなバケモンに勝てたな)
「楽しい……楽しいよ、ブライト! でも、僕はこのままじゃジリ貧だ。 だから、寂しいけど、勝負に出るよ?」
またも冴嶋が居合いの構えをとる。 今度は目を瞑りながら。
あの時の……最後の場面がフラッシュバックする。 あの時も、こうやって冴嶋は目を閉じ、ブライトの攻撃を迎え撃とうとした。
「……面白い。 これでこそリベンジだ。 なら、真っ向勝負だ!」
右腕にロンズデーライトの短剣を創り出す。
(あの時は比呂の横槍に助けられたが、今回は正真正銘、自分の力だけで倒してやる)
フラッシュを発動。 あの時はまだ高速のスピード・スターだったが、今や光速のフラッシュを用いたアタックだ。
(反応出来るもんならしてみやがれっ!)
ブライトの時間がスローモーションに感じられた。 そして、冴嶋の目の前まで接近した瞬間、その動きに反応した冴嶋の刀が抜かれた……。
………………。
冴嶋が目を開ける。
「……殺さないのかい?」
冴嶋の刀は、ロンズデーライトで武装した左腕でガードされ、ブライトは短剣を冴嶋の喉元で止めていた……。
「俺の勝ちだ。 ……ま、無駄に死ぬ事はないだろう?」
「……意外だな。 君、随分と甘ちゃんだね?」
おそらく、冴嶋はこの世界においてもブライトの敵だ。 だが、ブライトは神の話を聞き、この世界へ来ようと思った時、一つだけ心に決めた事があった。
それは、前の世界で自分を殺し、ギフトをくれて、最終的に自分が殺した相手は、殺さないと。
ブライトがこうして生きて来られたのは、自分にギフトをくれた冴嶋たちのおかげと言える。 少なからず感謝の気持ちもあるし、申し訳ない気持ちもあった。
それに、既に一度殺してるのだから、二度も殺すのは……都合が良すぎる気もするし、やはり申し訳ない気がしていたのだ。
「……僕は生きてる限り、君に戦いを挑むと思うよ? 君みたいな素晴らしい敵は他にはいないから」
「ああ、何度でも受けて立ってやる。 ただ、おまえが俺に負ける回数が増えるだけだがな」
暫し、冴嶋と睨み合う。 すると……
「フフフッ……、僕は今まで、死合いってどちらかが死ぬものだと思ってたんだけど、また君と戦えるのなら、どんな屈辱でも受け入れるよ」
そう言うと、冴嶋は刀を鞘に納めた。
「ここは引こう。 でも、君の事は人王……僕のボスに報告させてもらうよ。 じゃあ、また会える日を楽しみにししてるよ」
そして、部下を引き連れて去って行った……。
(とりあえず、リベンジ達成か……。 にしても、強かった……。 アイツ、階級こそ中尉だったけど、国防軍でも五本の指には入ってたんじゃねえか?)
当時はまだ比呂は覚醒してない。 となると、あの時点で確実に冴嶋より強いと考えられるのは鬼島くらいで、仙崎と風香は互角か、多分ネイチャー・ストレンジャーの面々より上かもしれないと感じたのだ。
なんにしても、ブライトは改めて冴嶋の強さに感心するのだった。
※新作として、【レジェンド・オブ・ブレイブ~伝説の勇者が未来に行ったら、インフレが酷すぎて死にそうです~】を投稿しました。
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こちらは短編ですので、気軽に読んで頂ければと思います。