第18話 闇の閃光・ブライト
※覚醒者に関して、『あくまで確認されてる情報でなのだが。』と追記しました。
「お前、黒夢に入らないか?」
「………はい~い?」
突然の提案に、光輝はどこぞの紅茶好きな刑事の様な声をあげた。
「普通に考えて…お前は既に俺の前で加速系と斬撃系の能力を見せた。その上、あれだけの怪我がもう直ってることから、治療か回復系の能力まで発現してると思われる。同時に複数のギフト持ちなんて、かなり希少だからな。
そして何より、お前は今何処にも属して無い上に、国防軍に良い感情を持っていないみたいのもポイントだ」
光輝の中でこのスカウトは突然の事で驚きはしたが、なんとなくだが事前に予測出来ていた事でもあった。
自分でも、自分のギフトは有能だと思っている。もし光輝の能力が他者に知られれば、考えるであろう選択肢は仲間に取り込むか、抹消するか、二つの選択肢しか無いだろう。放置するにはあまりにも危険すぎる。
今回、フィルズの組織・黒夢のボスは、光輝を仲間にして取り込もうと考えたのだろう。
「正直、お前が勝手に突っ込んで来て自滅して死んだかな?と思った時、俺は近年無い程に後悔したんだ。有望な若者の力はいつの時代も、何よりも貴重だからな」
光輝的には正体を隠す最大の理由が、能力がバレた際に抹消される危険だった。だからボスの申し出は、ある意味光輝にとって悪い話では無い。
だが、光輝はずっとヒーローになりたかったのだ。悪の組織に属すると云う事は、ヒーローとは正反対の存在になると云う事を意味している。それだけが胸に引っ掛かっていた。
「これは、どうしても言いたく無ければ詮索するつもりは無い、だが、一応聞こう。お前、本当は“特質系”のギフト能力者じゃ無いのか?」
特質系…。数あるギフトの系統の中で、最も異質で、最も稀少な能力。
光輝が見たギフト大全にも、特質系の能力は数える程しか載っていなかった。まあ、リバイブ・ハンターは載ってすらいなかったのだから判別出来ないのだが。
「何故、そう思ったんですか?」
「さあな…強いて言えば、俺の勘だ」
(勘って…。でもこれ、絶対に確信してる感じだよな~)
途端に光輝の顔が青くなる。勘だと言いながら、桐生のその表情には絶対の自信が垣間見えた。それこそ、歴戦の猛者の絶対的自信と経験から来る知識。ダンディズム溢れるその佇まいは、光輝の全てを見透かしてしまってる様にも見えた。
(駄目だ…これ、ここで嘘ついても絶対いつかはバレる…。これはもう…隠し通せないな…)
次の瞬間、光輝は諦めた様に口を開いた。
「白状しますよ。俺のギフト能力は、リバイブ・ハンター。殺された際、加害者側の能力を習得して蘇生する能力です……多分ですけど」
「…なんだと?」
光輝の告白に、桐生は暫し考え込む様に押し黙った。
「加速系。斬撃系。これは先の戦闘でもお前が使ってたから分かるが、どちらも高ランクなギフトだった。だとすると、その上で、俺の能力まで手に入れたのか?」
光輝は無表情を貫いたが、その額に脂汗が浮かぶ。自分の能力を頂かれたのだ。いい感情を抱く訳が無いのだから。
桐生は再び考え込む様に押し黙った。
…長い沈黙が続く。次、桐生が口を開いた瞬間、生か死か?自分の運命が決まるのかもしれないと、光輝は覚悟していた。
(もし、やっぱり殺すと言われたらどうする?この人から逃げられないのはもう充分分かってる。なら…やっぱり生き残る術は一つしか無い!)
「なるほ…」
「すいませんっしたーーー!!!」
桐生が喋りだした瞬間、凄い勢いで光輝は己の額を床に擦り付けた。
「俺も能力が発現したばっかで、自分でもまだ良く分かって無い部分が多いんです!どんだけ調べてもリバイブ・ハンターなんてどこの文献にも載って無いからサッパリだし!それに俺、この歳で漸くギフト能力が発現したんです!どーか!どーか命だけは…」
「…おい、先ずは顔を上げろ」
「いえ!許してくれるまで上げません!」
「許すも何も、俺はお前を勧誘してるんだぞ?顔を上げろ」
恐る恐る顔を上げると、呆れた表情を浮かべるナイスミドルがいた。
「リバイブ・ハンター?…か。正直驚いたし、確かに俺も聞いた事もない能力だ。だが、むしろお前の評価は上がったぞ」
「…じゃあ、俺を殺さないでくれるんですか?」
「そうだな。もし、お前が能力を習得する事で俺の能力が失われていたら考えてたかもしれないが、そうでも無い様だしな。
リバイブ・ハンター。殺される事以外は、他者に影響が無い自己完結型の能力なんだろう。なら、特段邪険にする必要もあるまい」
「ほ…ほんとに?よかった~!」
安堵からその場にへたれこむ。
安心したからか少しだけ冷静になった光輝は、思っていた疑問を打ち明けた。
「でも、良いんですか?このまま色んな能力を手に入れて行けば、俺はいずれボスより強くなって組織に仇なす存在になる可能性だってあるんですよ?今だって…」
叶わないのは分かっている。それでも、光輝の奥底で、目の前の桐生に対して、殺さなければと云う感情が消えないのだ。
それは、リバイブ・ハンターの特性の一つ、“殺した者を殺せ”…つまり、殺られたら殺り返すと云う心理だと云う事を、光輝はまだ知らない。
「フッ、この俺よりも強くなるか。本当にお前は面白い奴だな。確かに、お前も俺と同じロンズデーライトが発現したんだから、その可能性はあるだろうが…そうなったらそれまでの事だ」
桐生は、もし光輝が力を付けて組織を裏切ったとしても、そうなったらそうなっただけの事だと割り切っている。だが何よりも、己の能力に絶対の自信を持っていた。
実際、ロンズデーライトは、ギフトのランクS。過去に発現したのは桐生のみ。ただ桐生の場合、初めからギフト能力がロンズデーライトだった訳では無い。
ギフト発現時の名称は、“ダイヤモンド・アクエイプ”で、ギフトランクはAだった。つまり、桐生辰一郎は、過去に日本では三人しかいない“覚醒者”なのだ。あくまで確認されてる情報でなのだが。
改めて、ロンズデーライトは単純だが汎用性が有り、尚且つ鍛えれば無敵の能力とも言えた。地球上でも屈指の硬度で身体を硬質化する事で防御力が異常に高いのは勿論、その硬度を攻撃にも利用できるのだから。
「……分かりました。でも、あまり身バレはしたくないので、黒夢で活動をする時は今回の様に変装させて頂きますね」
「それは自由だから好きにしろ。なら、名前も隠すだろう?ウチで与えるコードネームをそのまま使えば良い」
「コードネーム?」
「そうだな…。お前の真の能力は今の所俺しか知らない。他の奴に公表するつもりもない。だから、俺にだけ本名を教えてみろ」
「…周防光輝です」
若干の抵抗はあったが、桐生には現段階では何をしても敵わないだろうし、何より桐生はどこか信用に値する雰囲気を身に纏ってるから、素直に本名を打ち明けた。
「光輝か。なら、お前のコードネームは………漆黒の闇に光輝く、『闇の閃光・ブライト』。で、どうだ?」
闇の閃光…。いやに中二チックでちょっと恥ずかしかったが、それ以上に胸が高鳴っていた。閃光と云う言葉は、スピード・スターやインビジブル・スラッシュと云った現段階で有する能力にも兼ね合いがある気がしたから。
blight:粛殺、撃滅。
bright:光輝く、輝かしい、鮮やか。
読み方に因っては、光輝をそのまま英単語に訳した名前なので、光輝もすんなりと受け入れる事が出来た。
「分かりました。今日から黒夢ではブライトを名乗らせて頂きます」
「うむ。なら改めて歓迎しよう。ブライト、ようこそ黒夢へ」
こうして、光輝はブライトとして、黒夢の一員となり活動する事になったのだった。
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