prologue 漆黒の悪魔、異世界へ!
「……ブライト……ブライト……」
誰だ? 俺を呼ぶのは?
「ブライト……目覚めなさい……ブライト……」
ああ、これって天の声かな? 俺も漸く、本当に死ぬんだなぁ……
「……ブライト……ねぇ……目覚めてよ……」
……しつこいな。 なんだよもう、せっかく覚悟を決めて死のうって思ってるのに。
仕方ないから目を開ける。 そこには、ドアップで俺を覗き込んでいる子どもの顔があった。
「おわっ!? びっくりした!!」
「あ、おはようブライト。 やっと起きてくれたね」
周りを見る。 真っ白だ……床も天井も壁も無い、真っ白な空間。 そして、俺の前には少年か少女か分からない中世的な容姿の子どもが立っていた。
なんだこれは? ……ちょっと待て、冷静に状況を整理しよう。
俺の名は……周防光輝。 リバイブ・ハンターというギフト能力に目覚め、自分を殺したギフト能力者のギフトを習得し、世界を救おうとして自ら人類のラスボスとなり、死んだハズ。
と云う事は、目の前にいるのは……
「え~っと……死神?」
「酷い! 僕はあんな骨からびっきじゃないやい!」
死神じゃない? とすると……まさか!?
「じゃあ……神様?」
「……正解! 僕はこの星の神様……というか、君には星の意志って言った方が分かりやすいかな?」
コイツが……星の意志?
星の意志とは、俺の住んでいた星・地球の意志だ。 ある意味俺は、そんな星の意志に振り回された結果、死を迎えてしまったのだが……その星の意志が、神?
つまり、目の前の子どもは……
「テメエが星の意志かこの野郎! ぶっ殺してやる!」
「うわっ! うわっ! ストップストップ! 話を、話を聞いて!!」
怒りから神の胸倉を掴んだ俺に、神は必死に涙ぐむ。 ……子どもにそんな顔されたら、怒るに怒れないじゃねーか。
「……ちくしょう、そんな姿じゃなかったら速攻で首を掻っ切ってやりてー所だが……で、神様が俺に何の用だよ? おまえにとって俺は邪魔者なんだろ?」
「それに関しては謝らせてもらうよ。 ごめんちゃい」
「ごめんちゃいじゃねーだろうが! なんだちゃいって!?」
「うわっ! うわっ! ストップストップ! 話を、話を聞いて!!」
再び胸倉を掴む。 なんなんだコイツは!? まるで悪びれてねえ! なのに、そんな上目遣いで俺を見つめやがって……ズリーぞ!
「……はあ、もういいよ。 で、話ってなんなんだよ? おまえの意志に従って、俺はもう死んだんだろ?」
「それなんだけど、君はまだ死んでないよ? 君が溶岩に落ちる前に、ここに転移させたから。 傷も治してあげたし」
転移……だと? 死んでない……だと? だったら、俺は帰れるのか?
「なんで? 俺は、おまえにとって邪魔者だったんじゃないのか?」
「まあ……そうだったんだけどね、君がここに来て眠ってる間、君の意志を継いだ仲間たちが頑張ってくれててね。 どうやら僕が星をリセットする必要が無くなりそうなんだよね」
眠ってる間って……どのくらい眠ってたんだ? 神がリセットを辞めようとするって、少なくとも一日や二日じゃないのは確かだろうけど。
「君がここに来てから、三年が経過しているんだ。 その間、君の仲間たちが中心となって、君が遺した忠告を守ってフェノムとの共存計画を実行に移し、このまま行けばバランスの調整が僕の満足出来る成果を期待出来そうでね」
三年……。 三年寝てるって、どんだけだよ……。
「まあ、僕にとって三年なんてあっという間だからさあ。 君の身体が万全の状態に戻るのにそれだけの時間がかかったって事さ。 ……ホントは、別の事に気を取られてたら三年経ってて、君が寝てんの忘れてたんだけどね、テヘペロ」
「……忘れてた? テメー勝手にこんな所に人を連れてきて、忘れたとかぬかしてんじゃねーぞ!」
「うわっ! うわっ! ストップストップ! 話を、話を聞いて!!」
どんなに可愛い顔をしてるからとはいえ、コイツが星の意志だって思うと、些細な事でも怒りが込み上げてくるな。
「ふーふー、で! 俺をこんな所に連れて来て、おまえの思惑は何なんだよ!?」
「あ~、え~っとね……実は君に頼みたい事があってね。 さっきも言ったけど、僕は神であり、この星の意志でもある。 でも、僕が管理する星は他にもあるんだ」
「管理する星? ……つまり、おまえは地球の他にも管理してる世界があって、俺がいた世界は、数ある世界のうちの一つでしかないって事か?」
「スゴーイ! 今の説明で全てを理解してくれるなんて!」
あたりまえだろ。 無駄に文字数増やしたくねーって、どこかから聞こえてきたんだからよ。
「それでね、僕が管理する別の世界が、今滅亡の危機に陥ってるんだ」
「は? 滅亡の危機?」
その後、神から語られたのは……
その世界の名は“アムス”といい、人間の他にも獣人やエルフ、魔人が存在し、幾度かの戦争を経て、ここ五〇〇年はバランスが保たれてたらしい。
だが、この三年で急激に一つの種族が勢力を拡大し、均衡が崩れ始めた。 その上、その種族のトップに君臨する者が、世界を破滅させようと企んでいるらしいのだ。
ちなみに、俺の住んでた世界は、アースと言うらしい。
「……なるほどねえ。 おまえ、ハッキリ言って星を管理する資格が無いんじゃねーか?」
俺の世界だって、コイツの管理不足が原因でバランスが崩れたんだし、しかも嫌になったら全てをリセットするとか。 ……あ~あ、やっぱコイツ、嫌いだわ~。
「交渉決裂。 なんでテメーのせいで死んだ俺が、テメーの管理不足で破滅に向かってる世界の尻拭いまでしなきゃなんねーんだよ」
「そんな〜。 僕ら神は、ある制約によって、あんまり星に干渉出来ないんだよ……」
「僕ら? って事は、テメーの他にも神が存在して、その神たちを監視するみたいな上位の存在もいるって事か?」
「凄い理解力……。 その通り、僕は神の一人でしかないんだ」
ま、文字数削減だがな。 それに、そんな途方もない領域の話など、俺には全く関係ない。
「結局は自業自得だろ? 他をあたってくれ」
「そんな~。 もちろん、ただとは言わないよ! 君はこの世界・アースを救ってくれた! だからアムスも君なら救ってくれると信じてるんだ! もちろん、ただとは言わないよ? 無事にアムスを破滅から救えたら、君を元の世界・アースに戻してあげるよ! 勿論、能力はそのまま、ギフトの弊害もリセットしちゃおう!」
…………なんだと?
「オイ……それ、本気で言ってんのか?」
「僕は神だよ? その程度の事、造作もないさ。 それに、君の肉体はまだ死んでいないんだし」
願っても無い話だ。 また、風香に……みんなに会えるなら!
「……でも、それって過干渉になるんじゃないのか? 神はあんまり世界に干渉しちゃいけないんだろ?」
「神が世界に干渉する数少ない方法……。 君もよく知ってるだろ?」
「……ギフトか?」
「そう。 君は、今ア厶スで劣勢に立たされている種族……魔人族に贈られるギフトになるんだ」
え? こういう場合、魔族に魔王が誕生して他の種族を支配しようとするってのがラノベのテンプレだろ?
「魔人族といっても、姿は人間と然程変わらないよ。 強いていうなら肌の色が違うのと、人族と比べて繁殖能力が低いけど、平均的に身体能力や魔力が強い位で」
神の話によると………
身体能力・獣人>魔人>人間>エルフ。
魔力・エルフ>魔人>人間>獣人。
知能・エルフ>魔人=人間>獣人。
繁殖能力・獣人>人間>魔人>エルフ。
平均寿命・エルフ>魔人>人間>獣人。
……となるらしい。
そして、文明レベルはラノベでいう剣と魔法の世界らしい。
「で、今は人族が勢力を拡大してるって言ったけど、なにか理由があるのか?」
俺の質問に、神は急にバツの悪そうな表情を浮かべる。 ……コイツ、また何かやらかしたんだな。
「言え。 全部言え」
「……えっと……分かったよぅ……だから、そんな怖い顔しないでよぅ……」
怖い顔? 無表情で睨んだだけなのに失敬な奴だな。
「実は……アンちゃん、知ってるだろ? アンノウンのアンちゃん。 彼にも今回の件では凄く迷惑を掛けたからさ……第二の人生を謳歌してもらおうと思って、ア厶スに転移させたんだよ……人間の肉体を与えて。 そしたらさ! ア厶スに転移した瞬間、僕を苦しめる為にこの世界をぶっ壊してやるって言うんだよ!? 酷いと思わない?」
確信した。 コイツは絶対ポンコツだ。
「思うか!? 話を聞けば聞く程ムカつくわ!」
俺だってコイツにはこれだけムカついてんだ。 アンノウンは俺よりもコイツと付き合いが長く、代弁者として生きて来たのに、最終的に邪魔者扱いされたんだ。
なのに、実際喋ってみればコイツは信じられないくらいポンコツだし、そりゃグレるわ!
「悪いが、俺はアンノウンの味方だ。 なんなら俺もその世界をぶっ壊してやりてーくらいだ」
「ちょ、ちょっと待ってよ〜! 君の世界にも多くの命がある様に、ア厶スにだって多くの命があるんだ! そんな尊い命が僕への恨みで失われようとしてるのに、君はなんとも思わないの?」
「知るか! なんで見ず知らずどころか生まれも育ちも星も違う人の事まで気に掛けにゃならんのだ!」
ちょっと薄情な気がしないでもないが、何度も言うが、俺は……いや、俺たちはコイツの気紛れで運命を左右されたんだぞ?
「……君の気持ちは分かるよ。 僕なんかのお願いを聞きたくないってのは。 でもね……ア厶スには、君の仲間も転生してるって言ったらどうだい?」
仲間? アンノウンの他にも、アムスって世界に転生されてるっていうのか?
「実は、アンちゃんだけじゃなく、君たちの世界で、リバイブ・ハンターでギフトを奪われた能力者には率先してアムスに転生するのを提案してたんだ。 まあ、僕のギフトのせいで命を落とした可哀相な人たちだったからね。 勿論全員では無いけど、何人かはアムスで第二の人世を謳歌してもらってる。 で、ついでと言っちゃーなんだけど、君たちの言う所の第二次ハルマゲドン……そこで、著しい活躍をしたのに命を落とした二人にも、新たな世界で生きてみないかと提案したのさ。 一人は渋々で、もう一人は嬉々として、僕の提案を受けてくれたよ」
リバイブ・ハンターで……つまり、俺に殺された奴らがア厶スで生活してるって事か? ……で、最後の二人ってもしかして……
「瑠美とカズールも生きてるのか!?」
「ビンゴ〜! そう、二人ともア厶スの住民として生きてるよ!」
なんってこった!? 瑠美とカズールにまた会えるってのか? ……いや待て、つまり、二人が暮らしてる世界が、アンノウンに滅ぼされようとしてる……って事か。
「……テメェ、まさか全部見越して、俺が断れない状況を作り出したのか?」
だとしたら、あどけない顔してやっぱりコイツはとんでもねえ野郎だ。 これが、神か……。
「うううん、違うよ。 全部ただの気紛れ。 テヘペロ」
「テメエ舐めてんのかコノヤロウ! やっぱぶっ殺してやる!」
「うわっ! うわっ! ストップストップ! 話を、話を聞いて!!」
違った! コイツは計算高いんじゃない、どこまでも純粋なんだ。 一切の悪気がなく、残酷な決断も躊躇なく行う……本当にガキみたいなんだ。
それはつまり、俺たち人間や他の生物に対して、特別な思い入れが無いといえる。 コイツにとっては、俺たちなんて育成ゲームの登場人物みたいなもんなんだろう。
だから、深く考えず生命を誕生させたり消したり、与えたり奪ったり、最悪リセットボタンを押せば済むのだから。
「……クソがっ。 テメエの提案、受けてやる。 だが忘れるな? 俺は……俺たちは、テメエ等神の玩具じゃねえからな?」
「玩具だなんてそんな! 僕にとって君たちは大切な大切な存在だよ? 一つ星を滅ぼしちゃうと、その都度神王様から大目玉喰らっちゃうんだし」
釈然としねぇ。 でも、瑠美やカズールを守るため……そして、あわよくば元の世界に戻るためなら、このクソガキの提案を飲むしかないか。
「……さあ、とっとと俺をア厶スに送れよ。 気が変わらんうちにな」
「行ってくれるの!? やったーーマンモスラッピー! じゃあ、簡単なルール説明をするね?」
ルールって……どこまでもゲーム感覚なんだな……とりあえず殴っとこう。
「痛っ!? ぶったね? ……ぶったね!? オヤジにもぶたれた事ないだっ!? いたっ!? やめ、痛っ!? ごめ!? あうっ!? ゆるして!? お願い!」
「……さあ、早く決まり事とやらを言え」
「ううう〜頭にたんこぶの五重の塔が出来ち……ごめんなさい、言います。 えっと〜、君には世界のバランスを保つための障害を排除してもらいたいんだ。 方法は任せるよ。 説得しても、殺しても、他の方法でも構わない。 ただ、君とアンちゃん以外の転生者には、記憶が無い。 彼らは、アースで死んで、目が醒めたら何故かア厶スに転生してた感じだから、自分がアースで生きていた事も知らない。 そして、僕の存在は本来、知られてはいけないんだ。 だから、彼らに僕の存在を告げる事は勿論、匂わせる事も許されない」
記憶が無い? て事は、会っても俺だって気が付かない訳か!?
……関係ないさ、それでも俺は、瑠美やカズールに会って、謝りたいんだ。 俺のせいで死んでしまった二人に。 そして、御礼を言いたいんだ。 二人のおかげで、世界を救うことが出来たんだから。
……で、その際、アースから転生した人たちには神の意志が働いたって事も知られては駄目……って事は、俺が神の頼みでア厶スに来た事も目的も言っちゃ駄目って事か?
「……仮に、俺がおまえの頼みで世界のバランスを保つ為にアルスに来たって、記憶を失った転生者に知られたらどうなる?」
「ん〜……程度にもよるけど、その時はリセットしちゃうかな?」
一切邪気のない……混じりっけない、純粋な瞳で語る神に、俺は初めて恐怖を抱いた……。
……コイツはやっぱり、ムカつく。
「……なあ、一つだけ俺からも条件を言っていいか?」
「うん! 君のお願いなら聞いてあげるよ!」
「アムスの平和を守る事が出来たら、俺をアースに転移させる前に、必ずここに来させてくれ。 そして……俺をおまえに会わせてくれ」
「うんいいよ! じゃあ、ここでの時間は向こうでの時間と違うから、早速転移してもらうよ!」
「ああ……早くしろ」
「オケイ! じゃあ頑張ってね、ブライト!」
神が指を鳴らした瞬間、俺の視界が真っ暗になった。
まさか、異世界転移するとは……ホント、どこのラノベだよ。
でも新たな世界で、あの時守れなかった仲間を守るため、そして、元の世界で嘘をついてしまった仲間に会うため、俺は俺のやるべき事をやるまでだ。
そしてもう一人。 いるならば、絶対に避けては通れないあの人も……。
で……全てを片付けたら、テメエをぶっ殺してやるぞ、クソガキ。
※本日、もう一話投稿します。
新作として、【レジェンド・オブ・ブレイブ~伝説の勇者が未来に行ったら、インフレが酷すぎて死にそうです~】を投稿しました。
こちらは短編ですので、気軽に読んで頂ければと思います。