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第175話 ハッピー・エンド

 的場崇彦は、光輝と比呂や風香たちとの戦いを、ただ見つめる事しか出来ずにいた。


 ゴッド・アイを持つ崇彦は、対象と視線を合わせる事で、その相手の心を読む能力を持ち、それを知っていた光輝が先手を打って、崇彦の動きを縛ったのだ。



 だが……光輝は知らなかった。


 桐生が死んだ時、崇彦も覚醒を経験した事を。 ゴッド・アイは、相手が意識さえしていなければ崇彦が望めばどの様な状況でも相手の心を読み取る事が可能となっていたのだ。


 光輝が比呂たちを打ち倒している時も、風香に対して厳しく当たっている時も、常に光輝の本心を見ていたのだ。


(やめろよ……光輝、なんでいつもおまえだけそんなに苦しまなきゃなんねーんだ? もっと、別の道に賭けてもいいだろう?)


 崇彦は光輝の心の中を読む事によって、何故光輝がこんな行動に出ているのかを知っていた。


(頼む……比呂、風香、光輝を止めてくれ! 光輝を助けてくれ!)



「さあ、全員まとめてかかって来い!!」


 光輝の咆哮で、最後の攻防が幕を上げる。


 だが、まともに正面から向かったとしても、光輝に勝てない事は明白。


 だから……偶然にも全員が同じ考えに至った。



 プラント・エクステンド。 ジレンが二つ目のギフトを発動させ、光輝の下半身に地面から飛び出した蔓が巻き付いた。


 当然、本来ならそんなものは光輝にとって無意味。 だが、そこへ朝日も電撃系のギフトを発動し、光輝を一瞬だけ感電させる。


 更に風香がウォーター・マスターで光輝の身体を氷で固めた。


「真田、受け取れ!」


 仙崎が己の武器である刀を比呂に投げ渡す。


 光輝と対峙し、ジレンも仙崎も、自分たちでは倒せないことは理解している。 なら、自分たちはサポートにまわり、光輝を倒せる可能性が最も高い比呂に託したのだ。



「ありがとうございます! 行くぞ光輝!」


 最後に比呂がワールド・マスターで光輝の身体の自由を奪い、飛び掛かる。


 そのどれもが、単発であれば一瞬足りとも光輝の動きを制限出来なかったであろう能力でしかなかったが、二重三重に同時に発動した事で、僅かながらも光輝の動きを制限する事に成功したのだ。



「目を覚ませ、光輝! 鬼神剣!!」


 鬼島の鬼神拳の中には、剣術の技も存在していた。 その名を鬼神剣。 己のパワーアップを刀にも伝達させる秘奥義だ。

 剣術に長けてる訳でもなく、普段得物を持たない比呂にとっては、実戦で使うのは初めての技だったが、一撃での殺傷能力は拳での攻撃を凌駕する。


 光輝……漆黒の悪魔・闇の閃光ブライトを倒す為には、必殺の攻撃であると考えたのだ。



「クッ……この雑魚どもがああああっ!」


 身動きのとれない光輝に、比呂の刀が迫る。


 だが、比呂は光輝の急所を狙うつもりはなかった。 心臓さえ外せば、光輝ならセル・ホワイトで回復が可能だろう。

 あくまで殺すのではなく、行動不能にする事で、光輝の目を覚まさせようと考えていたのだ。



 その光景を眺める事しか出来ない崇彦が、心の中で悲痛な叫び声を上げる。


(やめろ……やめろ、光輝っ!!!!)



 比呂の渾身の刃は、本人の意図とは異なり、正確に光輝の心臓を貫いた……。





「……なっ!?」


 比呂は見ていた。 心臓を外したハズの攻撃に、光輝が自ら心臓を差し出したのを……。



「な……なんで?」


 光輝の心臓を貫いたまま、比呂は唖然とした表情で光輝を見上げる。

 すると、先程まで傍若無人な振る舞いだった光輝が、安心した様に微笑んでいた。


(流石だな、比呂。 まだこんな隠し技を持ってたなんて……)



「……グッ、おのれっ貴様ら! この、新世界の神に向かって……」


 血反吐を吐きながら、光輝が比呂を突き飛ばし、己に突き刺さった刃を引き抜いた。


「こ、光輝君!?」


 傷口から大量の血が吹き出した光輝に、風香が駆け寄ろうとするが、それを光輝は手で制した。


「貴様ら……この俺がいなければ、これからの未来など、創れやしないぞ」


 未だ啞然と立ち尽くす比呂に代わり、仙崎が光輝に語り掛ける。


「人間は確かに同じ過ちを繰り返す、愚かな存在かもしれない。 でも、一歩ずつではあるが、成長する生き物だと、俺は信じている」


 そして、ヴァンデッタも……


「そうね。 ブライト、貴方はその可能性を捨てて、自分がこの世界の舵を取ろうとした。 でも、人と人とが手を取り合い、未来を紡いでいく世界を創る事こそが、ボスの願いだった。 貴方は……どこかで道を誤ったのよ」


「グフッ……笑わせる。 人と人とが手を取り合う? 笑わせるな。 そんな事は、無理だ! なにより、これからは人だけじゃない、人とフェノムが共存出来る世界を創らなければならないのだ。 そんな事、貴様らに出来るのか!?」


 満身創痍のジレンが、立ち上がる。


「やってみせるさ。 フェノムは想像外だったが、誰もが平等な世界を創る、それがボスの……俺たち黒夢の悲願なんだからな。 だから、おまえも一緒に、新たな世界を創ろうぜ」


 ジレンは……仙崎もヴァンデッタも、光輝が例え一度は死んでも、リバイブ・ハンターで蘇ると思っていた。 だから、蘇った後、光輝が改心してくれる事を願っていたのだ。



「な、なにやってんだよ、早く、早く回復能力を使えよ! このままじゃ、死んじまうだろ!」


 だが、比呂だけが知っていた。 自分は一度、光輝を殺している事を。 そして、同じ相手に二度殺された場合、リバイブ・ハンターは発動しない事を。


 比呂のあまりの焦りようから、ジレンたちも異変を感じ取った。 そして、光輝が戦闘中に、ワールド・マスターらしきギフトを使っていた事に気が付く。


「……まさか、真田、おまえはブライトを……」


「先日、光輝と国防軍本部で戦ったんだ。 光輝は、俺のギフトを手に入れる為に一度死んだ! だから……」


「クククッ……クハハハハッ。 まさか、ワールド・マスターを手に入れたが為に、こんな事になるとはな……誤算だった……ガハッ!」


 光輝がまたも苦しそうに吐血する。


「いやっ……光輝君……」


「来るなっ!」


 またも、駆け寄ろうとする風香を、光輝が止める。


「ハァ、ハァ、新世界の神となる野望は……潰えた。 フッ、面白い、この俺抜きで、貴様らがどれだけ新たな未来を紡いでいけるか……地獄から見ててやる。 せいぜい俺を見返してみるんだな……」



 目の前が霞む。 ……いよいよ、その時が来たのだ。


 光輝は、ジレンたちを見る。


(ジレンさん、ヴァンデッタさん……ボスの事、スミマセンでした。 これからの黒夢を、宜しくお願いします)


 次に、薫子を見る。


(ごめんな、薫子。 俺は最後の最後で、酷い兄貴だった。 俺の事は忘れて、カズールと瑠美という素晴らしい家族がいたって事だけは忘れないでくれ)


 そして、崇彦を見る。


(崇彦……ありがとう。 おまえは、俺がギフトに目覚めない頃から、唯一の親友だった。 俺がいなくても、おまえならきっと、これからの世界を上手く纏めてくれるだろう。 頼んだぞ)


 そして、比呂を見る。


(おまえには、最後に嫌な役目を押し付けちまったけど……俺を殺せるのは、おまえにしか出来ない事だったから。 ……長年の復讐って事で、勘弁してくれよな)



 最後に、泣きながら自分を見つめている風香を見る。


(風香……約束、守れなくてゴメン。 こんな俺を、愛してくれたのに……ゴメン。 早く俺なんか忘れて幸せに…………)


 その時、風香が光輝に抱きついた……。


「嫌っ! 嫌……死んじゃ嫌……離れたくない、別れたくない!」


 そう言って縋り付く風香に、光輝は……


(……………………俺だって嫌だよっ! 風香と、もっと一緒にいたい! もっと二人で穏やかに過ごしたい! そして……いつかは子どももつくって、幸せに暮らしたいよ!)


 心の中で叫んだ。 本音を……死にたくなどないと。



 ……だが、決してそれを言葉にする事はなかった。



「……時間だ。 これ以上は生き恥を晒すだけ……。 いいか、よく聞け。 俺は見てるぞ……おまえらが、どんな世界を創るのかを!」


(俺という共通の敵を相手と戦って手に入れた団結力で……未来を、守ってくれ……)


 最後に、風香を突き飛ばすと、光輝は崖下の溶岩へと落ちて行った。



「さらばだ! 俺は……俺の人生に、悔いは無いっ!!」


 これまでの事が、走馬灯の様に蘇る……。


 ヒーローに憧れた。 でも、ギフトに目覚めず、絶望していた頃を。


 そして、リバイブ・ハンターに目覚めてからこれまでの事を。


 ギフトに目覚めた喜び。 友の裏切り。 仲間たちとの出会い。 自我を失う弊害。 恩人の死。 一時の栄光。 理解者との別れ。 定められた運命。


 そして……愛した人。



(悔いは……あるな。 でも、世界を救う事は出来た。 誰にも認められないだろうけど、最期の最後で、少しはヒーローになれたかな……俺)





「こ、光輝いいいっ!!」


 光輝が溶岩の渦へと落ちていった直後、クァース・フレイムが解けた崇彦が、崖淵にダッシュして崖下を見ながら叫んだ。


「……馬鹿野郎! ……独りでカッコつけやがって……この馬鹿野郎がっ!!」


 親友だったとはいえ、あまりにも取り乱した崇彦に、ヴァンデッタが声を掛ける。


「……イーヴィル。 悲しむのは分かるけど、これは仕方のない事だったのよ。 ブライトは、道を踏み外し……」


「んな訳ねーだろうがっ!! アイツは……アイツはなんにも道を踏み外しちゃいなかった! むしろ逆だ!!」



 その後……崇彦は、光輝の真実を語った……。



 そして、己を犠牲にするつもりで、最期の最後まで、強大な敵として振る舞った光輝に、誰もが愕然としたのだった。



「光輝……おまえは最初から……くっ……」


 涙を流し、膝を着く比呂。


「クソッ……クソッ!! 全部一人で背負い込みやがって!!」


 地面を叩きながら、悔しがる崇彦。



「うぐっ……いやっ……こんなの嫌っ……うわああああっ!!!!」


 ……そして、泣き叫ぶ風香を、誰も慰める事は出来なかったのだった……。

※本日もう一話投稿。 いよいよ最終回、光輝は本当に死んだのか? 風香は? 崇彦は? おまけに比呂は? お楽しみに!

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