第173話 ラスボス
比呂、風香、仙崎、朝日、薫子。 崇彦、ジレン、ヴァンデッダ。
旧北海道室蘭港に着いた八人は、二台の軍用車で十勝岳へ向かっていた。 道中、目的地の方向から、明らかに人外のオーラがぶつかり合ってる気配を感じながら。
……誰もが、光輝が何者かと……いや、アンノウンと戦ってるのだと気付いていた。 やはり光輝は人類の敵などではなかった。 人類を救うために、今もアンノウンと戦っているのだと。
「やっぱり光輝は……。 早く助けに行かないとな、風香さん」
比呂の言葉に、風香は拳をギュッと握る。
「光輝君……すぐに行くからね……」
だが……十勝岳山頂に辿り着いた彼らを待っていたのは、彼らが知る周防光輝ではなかった……。
「来たか、雑魚ども」
溶岩の崖上に立つ光輝は、余裕の笑みを浮かべながら比呂達を見下す様に眺めていた。
「光輝君!!」
誰もが光輝の威圧に飲まれて動けないでいる中、風香が光輝に駆け寄る……が、足元に放たれた斬撃により立ち止まってしまった。
「光輝……君?」
「……動くな……動けば殺す」
風香にとって、光輝から放たれたその視線は、信じられない程に冷たいものだった。
「クッ……光輝、おまえ、自分の彼女に……」
「黙れ」
比呂には有無を言わさずプラズマ・ブラスターが放たれるが、比呂はこれを辛うじて避けた。
そして……視線を崇彦へと向ける……。
「光輝……おまえ……ぐおっ!?」
一瞬戸惑った表情を見せた崇彦を、クァース・フレイムの黒炎が包み込む。
「崇彦、テメーは余計な事すんな」
崇彦のゴッドアイは相手の心を読める。 崇彦が光輝の心を読み、本心を他の者に伝えれば光輝の思惑は丸潰れになってしまう為、死なない程度に身動きを取れなくしたのだ。
「さて、黙って聞け、雑魚ども。 もう知ってると思うが、たった今、俺はアンノウンを倒した。 これで、俺の邪魔をする奴はもう、この世界にはいない……おまえら以外にはな」
「……オイ、ブライト。 貴様は、ボスの意思を継いだんじゃなかったのか? 何を勘違いしてやがる……」
ジレンが戦闘モードになり、両拳に炎を纏わせる。
「継いでるさ。 おまえらがどこまで知っているかは分からないが、この星は意志を持っていて、その意志は人類とフェノムの共存を望んでいる。 そのバランスを保つ為には、多くの人類を犠牲にしなければならないだろう」
「犠牲……? どういう事?」
ヴァンデッタが問い掛ける。
「パワーバランスだ。 人類とフェノム、どちらか一方のパワーが強くなれば、反対の勢力に星からギフトが贈られる。 それで反対の勢力のパワーが強くなれば、また一方の勢力にギフトが贈られるんだ。 パワーバランスが崩れる度に、そうやってキリのない争いが続いていく……だから、この俺が新世界の神となり、パワーバランスを保つ。 全ては、星の意志だ」
光輝の口から語られた星の真実に、誰もが言葉を失う。
「新世界の神だと? 多くの人間を犠牲にして、パワーバランスを保つだと? 思い上がるな!」
だが、光輝の言葉に納得出来なかったジレンが、光輝に飛び掛かる。
「フン、ジレン……もう、アンタじゃ俺の相手にはならないんだよ」
ジレンの攻撃を、光輝は武装した腕で全てブロックし、カウンターの掌底でジレンをふっ飛ばした。
「ジレン! ……ブライト、人類を犠牲にするって……どういう意味?」
意味は分かっている。 それでも、ヴァンデッタは改めて光輝に問い掛ける。
「簡単な事。 無能な者、邪魔な者たちをフェノムの生贄にするのさ。 そして、不必要に力を持つ者もな。 全ては、バランスを保つ為に」
「なんの罪も無い人間を、生贄にするだと? 光輝、正気か!?」
人間を生贄にする。 その行為に比呂は憤りを覚える。
「そんな偏った考えだから、俺が新世界の神となり、この星の舵を取る必要があるんだよ。 所詮おまえらはどこまでいっても人間、おまえらでは、非情な決断は出来まい?」
「だからって……」
「もういい! 真田、全員でブライトを止めるぞ。 もうそれしか手は無い」
納得のいかない比呂に、ジレンが共闘を持ち掛ける。
「そうね……ダーリンもそう思うでしょう?」
ヴァンデッタに話を振られた仙崎は、黙って光輝の言葉の意味を考えていた。
「ブライトの言った事が真実なら、確かに多少の犠牲は必要なのかもしれない。 だが、それはたった一人の独裁者が決めて良いものではない。 人は考える生き物だ。 知恵を出し合えば、必ず何か良い方法が……」
「んな甘い事言ってるテメーらには無理だって言ってんだよ!!」
ワールド・オブ・ウインダムの強風が発動し、その場にいる全員を襲う。
ジレンや仙崎、比呂、風香は衝撃をブロックしたが、この面子の中では戦闘力が劣るヴァンデッタや薫子と朝日は、ダメージをまともに受けてふっ飛ばされてしまった。
「テメーら人類は、自分たち以外の種族の事なんざお構いなしだろ? いや、同じ人類とですら争いを……過ちを繰り返すだろ? 新しい世界には、全ての種族を公平に扱える新しいトップが必要なんだよ! それが俺だ! 文句があるなら……俺を止めてみな!」
光輝がゴールドキングダムを発動。 更にはフラッシュを発動し、先ずはジレンに襲いかかる。
「!? グアッ!!」
圧倒的スピードに、ジレンが成す術なく倒された。
「くっ……ゴハッ!?」
そして、仙崎もギフトを発動する間もなく、一撃で倒された。
「クハハハハッ! 本当にどうしようもない程雑魚だな! その程度で、この俺を倒せるとでも思ったのか?」
残るは比呂、そして風香だが、風香は状況が飲み込めず呆然としていた。
「さあ、比呂。 今度こそ決着を着けてやる。 俺を止めたくば、俺を殺せ!」
「…………」
比呂もまた、風香程ではないにしろ、光輝の豹変が信じられずに動けなかった。
そんな比呂に、倒れている仙崎から叱咤が飛んだ。
「真田! 彼はもう、昔のブライトじゃない! 力に溺れた悪魔だ!」
「……なにか、なにか理由があるんだろ? そうだろ、光輝!」
だが、仙崎の言葉は比呂には届かなかった。
「……どこまで甘いんだ、テメーは。 だったら……これでどうだ?」
光輝の指先から、一筋の閃光が放たれる。
そしてその閃光は……風香の胸を貫いた……。
「こ……光……輝……くん?」
驚きの表情のまま、風香は倒れた……。
「風香……さん? ……光輝……おまえっ!」
「テメーが甘ちゃんだからこうなったんだよ! 俺に風香を殺させやがって……責任感じてんなら、かかって来やがれ!」
「光輝……本当に……うおおおおおっ!!」
比呂から強大なオーラが放たれる。
「おまえが本当に悪魔に魂を売ったんなら、俺がおまえを止めてやる! それが……ライバルとして、俺がおまえに出来る唯一の事だ!」
「上等だ……かかってこいよ」
対峙する二人。 その光景を、崇彦が表情を歪めながら眺める事しか出来ずにいた。
「ぐぅっ……ぐっ、ぐぐぐっ……」
(やめろ、やめろ光輝! 頼む、頼むから……)
※いよいよクライマックスです。 活動報告でも呟きましたが、最後は一気に見て欲しいので、本日もう一話、明日も二話投降致します。




