第172話 ラストバトル
※章タイトルを変更しました
「まさか、こんな事が!?」
ジレンのギフトとは別次元の、星に眠る本物のマグマが、アンノウンの身体を飲み込みながら空高く舞い上げた。
「だが甘い! この程度で、この私が倒せるか……なにぃっ!?」
アンノウンがマグマの噴火から脱出しようと試みるが、光輝に操作されたマグマは、アンノウンを追尾して離れない。
「一○日間、マグマのシミュレーションを繰り返して来た成果だ。 俺のマグマから逃れられると思うなよ!」
光輝がアンノウンを飲み込んだままのマグマを、更に天高く上昇させる。
(昔、なんかの漫画で、このまま敵を大気圏まで吹っ飛ばしたりしてたけど……流石にそれは無理だろうな)
ならば最期は自分でトドメを刺すしかないと、自らも飛翔する。
「元はテメエのギフトだ! とくと喰らいな!」
身動きの取れないアンノウンに、プラズマ・ブラスターを乱打する。
「きさまっ!!」
無防備なアンノウンに次々とプラズマ・ブラスターが直撃した。
「ぐうっ!? 殺す……殺してやるぞ、ブライトオオッ!」
それでもアンノウンは止まらない。 マグマの噴火から飛び出し、光輝に向かって来た。
「チッ、バケモノが!」
ここが勝負所とばかりに、光輝も己の全てを懸ける。
「うおおおおっ、ゴールド・キングダム五倍、ロンズデーライト、そして……フラッシュ発動!」
両腕に最硬度の短剣を造り出し、アンノウンを迎撃する。
空中で互いの攻撃が交錯する。
アンノウンはダメージから、万全の最終形態時よりも確実に動きが鈍くなっているのに対し、光輝はもう後の事など考えずに全てを出し切っている為、ここに来て再び互いの力は拮抗した。
「貴様は! この戦いを生き延びて何を望む? 私を倒したとして、貴様を賞賛する者などもうこの世には存在しないのだぞ!」
アンノウンの手刀で、光輝の右腕が切断される。
「賞賛なんて、もういらない。 ヒーローに憧れ、回り道ばかりして来た。 この星が俺を拒むのなら……それで世界が救われるのなら、受け入れるさ。 それが、俺に全てを託して逝った仲間たちに出来る、唯一の贖罪なら」
光輝の短剣が、アンノウンの右腕を切断する。
「綺麗ごとを……この世界に、この星に救われる価値などあるのか? 過ちを繰り返す人類、本能のまま殺戮を繰り返すフェノム、自分の生んだものたちすら満足に制御できないこの星に!」
アンノウンの膝撃が、光輝の顎をかち上げる。
「正直、もうそんな大それた事は分かんねえよ。 世界を救うとか、そんなヒーローみたいな事、俺のキャパじゃ分かんねえ。 でもな、俺には守りたい人たちがいる。 その人たちが笑って過ごせるのなら、そんな未来を守りたい。 守れなかった人たちの分までな」
光輝の肘が、アンノウンの脳天に振り落とされた。
「フッ……」
……光輝の言葉を聞き、アンノウンは僅かに微笑む。
「いいだろう。 そんな貴様の小さな願望すらも、この私が蹴散らしてやる!」
「守って見せるさ。 俺にはもう、それくらいしか出来ないんだからな!」
互いが体力の限界を迎え、一旦大きく間合いを取る。
「ハッハッハ……滑稽だな。 星にとって邪魔者となった私たちが潰し合いとは。 星にとっては願っても無い展開だろうがな」
「……だな。 星の意志に振り回されっぱなしみたいで癪だな」
「なら、私は貴様をこの場で葬り、その後は星がリセットを実行するまで破壊の限りを尽くしてやろう」
「……させるかよ。 おまえは黙って、俺と共に消えろ」
アンノウンを包むオーラが一際強大となり、地鳴りが起こる。
光輝も、残る全ての力を振り絞る。
「さあ、ラストバトルだ!」
アンノウンの身体が宙に浮く。 そして、左手を天高くつき上げると、膨大なオーラの塊が出現した。
「これが地面に落ちれば、ここら一帯のみならず、北海道全域は破壊されるだろう。 どうせ捨てられた地だ……この私の復活を世に知らしめる為に、貴様諸共消してやる」
「させるかあああああああっ!!」
光輝は瞬時に、全パワーを込めたフラッシュブレイドを発動する。
黄金のオーラとに包まれた漆黒の光は……アンノウンがオーラの塊を振り下ろす間もなく、アンノウンを貫いた。
「なん……だと……? この、私が……」
フラッシュブレイドにより身体が爆散したアンノウンは、頭だけの状態で呟く。 オーラの塊も空中で霧散してしまった。
地面に転がるアンノウンの頭部。 そして、全ての力を使いだした光輝もまた、着地に失敗して地面に叩きつけられた。
「フッフッフッ……よくぞ、この私を倒した……ブライトよ」
「……おい、そこから復活なんてするんじゃねーぞ?」
アンノウンは最早頭部だけとなっている。 それでも尚、光輝はアンノウンが復活するのではと恐れていた。
「フッ、残念な事に、流石の私も……ここから身体を再生するのには半年は時間を擁するだろうな」
「復活出来るんだ……。 ま、そんな時間は与えないけどな」
光輝は、半年あれば復活するのかと驚いたが、どうしても解せない事があった。
「アンノウン……アンタ、最初から俺を殺すつもりなんてなかっただろ?」
首だけとなったアンノウンは光輝をジッと見つめ、そして微笑んだ。
「……私は、星の意志に最も近しき存在だった。 星の意志を汲み、この星を立て直すために創られたな……」
「だから、俺に殺させようと? だったら、本能のまま暴れるつもりなんて……」
「全ては、おまえへの挑発さ。 私はどこまで行っても、星の意志の代弁者だ。 星が死ねと望めば死ぬしかない、なのに星の意志により限りなく無敵な存在となり自死すら選べない。 だから、おまえを利用したのだ」
「はじめから……おまえも死ぬつもりだったって事か」
「僅かな望みだったがな。 見事だ……闇の閃光・ブライトよ。 よくぞこの私を打ち倒した。 認めてやろう、おまえこそ、この星を救うかもしれないヒーローだとな」
「救う……かもしれない、か。 残念だけど、ヒーローになるのは俺じゃない」
アンノウンは、光輝の表情から全てを読み取る。
「そうか……。 なら、おまえにはもう一仕事残ってる訳だな。 ……悲しいな、そこまでしても、おまえは人類にとって……」
「いいんだって、俺だけが分かってれば。 いや、ボスや瑠美、カズールはあの世で褒めてくれるだろうよ。 それでいいんだ」
そう言うと、光輝は再生させた右腕にロンズデーライトの短剣を創り出す。
「こんな形だったけど、俺たちは唯一の同志だったな。 星に嫌われた者同士の」
そして、呆れたように微笑んだ。
「フッフッフ、そうだな。 そんなおまえと、最期に全力で戦えて、私は満足だよ。 さあ、トドメを刺してくれ……でないと、私の忌々しい細胞が再生をはじめてしまう」
「ああ。 俺も直ぐに行くから、あの世ではゆっくり会話でも楽しもうや」
「楽しみにしてるよ、ブライト。 ああ……これで、私はこの星の呪縛から解放される……」
光輝の短剣が、アンノウンの頭部を貫いた……。
僅かに微笑みながら絶命したアンノウンの頭部を、光輝は崖下の溶岩へと放り投げる。
「…………」
独り、残された光輝は、崖下の溶岩を眺めながら、決意を新たにする。
「さあ……早く来いよ、比呂」
次回 『ラスボス』