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第168話 人類の希望

「オラオラオラオラオラァッ!」


「ウオオオオオオオオオオッ!」


 激しい攻撃が交錯する。 光輝は卓越した反射神経と身体能力、フラッシュを駆使して攻撃を繰り出し、比呂の攻撃を避ける。

 比呂も卓越した戦術眼と鬼神拳で高まったオーラで攻撃を繰り出し、ワールド・マスターで僅かに光輝に干渉しながら攻撃を逸らす。

 光輝が距離をとり、インビジブル・スラッシュや、プラズマ・ブラスターを放つが、これも比呂は軌道を逸らす。


「やるじゃねえか、このチート野郎!」


「だから、その言葉はそっくりそのままリターンフォーユーだって!」


 一進一退。 互いの全力は、拮抗した戦いとなっていた。



(まさか、全力の俺にここまでついて来れるとは……比呂め!!)


(いける! 戦えている! あの時は全然歯が立たなかったけど、今の俺はあのブライトと互角に戦えてる!)


 互いの拳が交錯する。


「比呂、テメェ……絶対に一人でもアンノウン・リアルを倒せてただろ! あの局面で力を出し惜しみするとは、相変わらず性根が腐ってんじゃねえか!」


「ぐっ……おまえが来てくれなきゃ、使う所だったんだよ! それに……」


 もしあの場面でアンノウン・リアルを倒す為に力を使えば、自分も無事では済まなかった上に、自分が倒れれば他のフェノムの相手が出来なくなるから躊躇していたと、事実を言うのを比呂は避けた。

 言えば、今の自分の力は時間制限があり、もう残り僅かである事を光輝に悟られるから。



「オラァッ!」


(なんにしても、このままじゃ先にガス欠を迎えるのは光輝じゃなく俺だ)


 ここで、比呂は賭けに出る。


「鬼神拳……五式!!」


 一旦間合いをとり、まだ一度も成功していない、鬼神拳・五式の発動を試みたのだ。


「更にパワーアップする……だと?」


 圧倒的なオーラ。 それは、アンノウンにも引けを取らない強大なものだった。



「一気に決めるぞ! 連・拳!!」


 スピード・威力共にパワーアップした拳の連打が光輝を襲う。


「くっ……まずい!」


 幾重にも叩き付けられる拳は光輝のガードを破壊して腹部に到達。


「ぐふっ!?」


「うおおおおっ連拳連拳連拳連拳連拳連拳連拳!!」


 勝機と見た比呂は、全てのスタミナを使い切る覚悟で、光輝の腹に連拳を叩き込む。

 その拳は光輝の腹の武装を打ち破り、何度も何度も打ち抜いた。


「ぐおおおおおおおおっ!?」


「……これで、終わりだあーーっ!」


 そして、渾身の一撃を打ち込むと、光輝はふっ飛ばされて地面を激しく転がされた。



「ハァ、ハァ、ハァ……どうだ?」


 手応えは充分。 これを受けて立てる者などいないだろうと思える程の攻撃が決まった。


 意識が朦朧とする中、比呂は光輝の転がって行った方向をジッと見つめる。


 これでもし、光輝が何事も無かったかの様に立って来たら……その時は、己の命と引き換えに切り札を出さなければならなくなる。



(立つな……)


 ……だが、比呂の願望は打ち砕かれる。


 倒れていた光輝が、比呂に背を向けたまま立ち上がったのだ。


(……でも、無傷ではないだろ?)


 そんな比呂の願望を嘲笑うかの様に、瞬きをした一瞬の間に、光輝は比呂の目の前に立っていた……。


「今の攻撃は……まあまあだったな」


 強烈なボディーブローが比呂の腹にめり込む。


「ぐふぅっ……」


 膝を着く比呂。 既に鬼神拳は解除されている。


(……は、ははは、あれで無傷? もう、笑うしかない……)


 手応えはあった。 他の誰であろうと、例えアンノウン・リアルであったとしても、今の攻撃を喰らえば無事では済まないハズ。


 なのに光輝は、まったくダメージを感じさせずに立っていたのだ。



「フン!」


 光輝のサッカーボールキックで、蹲った比呂の顎が跳ね上がる。


「がはっ! くっ……」


「どうした? もう終わりか……国防軍最強」


 嘲笑う光輝を、比呂はもう見つめる事しか出来ない。 ……そう、見つめる事しか。



「さて、どうやらスタミナ切れを起こしたみたいだな。 それほど、今の攻撃はおまえ自身にも負担があったという事か。 なら……もう楽にしてやろう」


「うっ!?」


 比呂の身体を、クァース・フレイムの黒き炎が縛り付ける。 そして、光輝の右腕が、硬化された短剣に変わった。



 実際光輝の腹部のダメージは深刻なものだった。 相手が比呂だった手前、ロンズデーライトの武装で誤魔化した上に強がっていたが、このまま放っておけば死に至る程の。


(……正直、死ぬかと思った。 比呂め……俺の想像を遥かに上回る程に強くなってやがった。 でもまあ、目的は達したし、後は暫く眠ってもらおうか)



 勝負は決した。 そう思っていた光輝だったが、比呂の目はまだ死んではいなかった。


「ハァ、ハァ……流石だよ、光輝。 でも……まだだ。 あの時の約束、果たさせてもらうぞ」


 覚悟を決めた比呂が、切り札を発動する……。


 それと同時に、光輝は耳鳴りを聞くと共に、身体に違和感を覚えた。


(なんだ? ……なにか……身体が……)



 比呂の眼球が充血し、顔や身体に血管が浮かび上がる。


「なんだ? 往生際が悪……い!?」


 光輝は自分の身体に起こっている異変を明確に察する。 おかしい……おかしいのだ。 自分の心臓の鼓動が、身体中を巡る血流が、不規則な動きをしている。


「…………かはっ……」


 だが、その異常に気付いて間もなく、光輝は白目を剥いて卒倒してしまった……。



「……くっ、やったか……がはあっ!」


 光輝が倒れると、比呂にもまた、目、鼻、口から血が吹き出す。


 ワールド・マスター・エラー……。


 対象の体感時間はそのままに、体内のみ時間をズラす。 その僅かなエラーに身体は対応出来ず、あっという間に死に至らしめる……。


 これこそが、比呂の最終最期の切り札。 だが、その代償はあまりにも大きかった。


「ごほっ……約束……果たせた……かな?」


 只でさえ、比呂のスタミナは尽き欠けていた。 その状態でワールド・マスター・エラーを発動してしまった事で、比呂の身体も負担に耐えられなかったのだ。


(でも……光輝は蘇るんだよな……? 悔しいけど、俺の負けか……)


 地面に倒れた比呂は、それでも光輝を追い詰められた事に満足した様に、笑みを浮かべながら倒れた……。



 ………………



「……俺の体内を支配する能力か……」


 蘇った光輝は、瀕死の比呂を見下ろしながら、ライバルの成長に驚異と共に、頼もしさを感じていた。


「大したもんだよ、おまえは。 約束……ちゃんと守ってくれたじゃねーか」


 比呂にセル・フレイムを発動する。


「それにしても、ワールド・マスターか……。 このギフトは、駄目だな」


 手に入れてみて分かった。 このギフトは複雑過ぎると。


 物質を支配し、自由に動かすまでは出来る様になるだろう。 でも、生物を支配するのが難しい。 相手の動きやギフト、ましてや体内の細部を操作するなど、どれだけの知識とシミュレーションが必要なのか? ハッキリ言って、とてもアンノウンとの決戦までにマスターするのは無理だと。


 改めて、比呂に対してリスペクトを抱く。 最強のギフトを手に入れて、そしてこれだけ使いこなせる様になったのは、並大抵の努力ではなかっただろうと。



 光輝の治療の甲斐もあり、比呂の容体は安定した。 直ぐ意識を取り戻しはしなかったが、もう大丈夫だろうと、セル・フレイムを解除する。


「比呂、最後に一つ、約束してくれ」


 光輝は立ち上がり、まだ目覚めぬ比呂を見下ろした。


「……おまえこそ、人類の希望だ。 もし、俺の望みが叶わなかった場合……その時は、ちゃんと俺を殺してくれよ……」



 そう言い残し、光輝は去って行った……。

新たな魔王となったブライトの正体・光輝の両親は、生きていた息子に思いを馳せていた。


次回 『惜別の言葉』


「幸せだよ、俺は。 父さんと母さんの子どもに生まれて。 だから、生んでくれてありがとう……」

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