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第166話 新たな魔王

 世界各地で、優秀なギフトを持つスペシャリストやフィルズが襲撃を受ける事件が多発していた。


 倒された者は皆瀕死の状態で発見され、未だに目を覚まさない者が殆どだった。


 目撃証言も無く、襲われた者が誰も目覚めていない事から、犯人の特定には至っていなかったのだが、被害者があのヒクスンをはじめとした世界有数の実力者である事から、それ相応の強さを持った集団による犯行が疑われていた。



 ……世界はまだ、アンノウンが復活していた事を知らない。 


 その事実を知っているジョシュアや財前、鬼島は、今回の件にアンノウンが絡んでいるのではないかと考え、もう隠し通す事は無理だと判断。 事実を公表すると決めた。



 第二次ハルマゲドン終結から一○日が経過し、財前と鬼島による共同会見にて明かされた真実、そして、新たな英雄であるブライトによる宣言を経て、人類はフェノムとの共存に理解を示す者もいれば、反対する者もいる。 当面の危機が去ったと思っている人類では、想いを一つにする事など容易ではないだろう。


 ……そんな難しい状況の中、WSC会長のジョシュアは、ここで漸く初代アンノウンが復活していた事を公表したのだ。


 度重なる隠蔽に、世間は第一次ハルマゲドンの英雄たちを叩いた。 それと同時に、世界中でスペシャリストを襲撃しているのは、そのアンノウンなのではないかというのが共通認識となった。


 第二次ハルマゲドンの英雄であるブライトも、宣言をしてから表舞台に出てはいない。 新たな先導者がいなければ、このままでは星が望む人類とフェノムの共存など、到底実現する事はないだろう。 そして、ブライトこそが、人類の……この星にとっての、新たな先導者になってくれるだろうと、そう、誰もが思っていた……。



 だが、その希望は、予想外の形で覆される……。



 ジョシュアの会見から五時間後、全世界に、とある動画が発信された。


 そしてその動画は、世界中の人々を驚嘆させたのだ。



「……一体、どういう事なんだ!?」


 国防軍では比呂が、その動画の内容を信じられない思いで見つめていた。



「訳わかんねーよ……。 なにが起きてんだ?」


 黒夢でも、崇彦をはじめナンバーズのメンバーが、状況が理解出来ずに困惑していた。



「…………」


 そして、風香は……言葉を失い、呆然と立ち尽くすのみだった……。





 動画には、一人の男が映っていた。


 漆黒の武装に身を包み、顔を隠す事無く、堂々と素顔を晒して……。


「世界中の皆さん、ごきげんよう……。 まずは、この映像を見てくれ」


 そう言うと、映像が切り替わる。


 ヒクスン・グレイスィーを、漆黒の男が叩きのめす映像に。


 そしてまた、映像が切り替わる。


 ヒクスンと同様、バレンタイン・ジヴァを漆黒の男が叩きのめす場面が流された。


 その後も次々と、世界有数のスペシャリストたちが、漆黒の男によって倒される動画が流される。



 ……元の画面に切り替わり、漆黒の男はこう言った……。


「ヒクスン・グレースィーをはじめ、今回この俺に排除された者たちは無力なスペシャリストたちだ。 中途半端な力を持つ者は、これからの世界には……この俺が支配する世界には不要。 今後も、この俺の邪魔をする可能性のある奴は容赦なく排除する」


 漆黒の男が冷たい笑みを浮かべる。 整ったその顔は、冷血、冷徹、冷酷な素顔を強調し、より一層人々に恐怖を与えた……。



「……改めて自己紹介をしよう。 我が名は、闇の閃光・ブライト。 この世界を支配する者だ……」



 新たな英雄はこの日、新たな魔王となったのだ……。




 日本のとある場所、薄暗い倉庫の中で、配信を終えた光輝が、配信をサポートしてくれたエンジニアに、微笑みかける。


「ありがとう……助かったよ。 どうも機械には疎くてな」


 だが、微笑みかけられたエンジニアの表情は恐怖で引き攣っていた。


「や、約束通り、配信は行いました! だから、命だけは!!」


「……失礼な奴だな。 約束通り解放してやるよ。 もう行っていいぞ?」


 慌てて逃げ帰るエンジニアを、光輝は黙って見送った。



 光輝は世界中を飛び回り、第二次ハルマゲドンを生き残ったスペシャリストたちを狩りまくった。 その数、総勢一二名。


 アンノウンとの決戦に向けて光輝がとった行動は、やはり自身のレベルアップしかなかった。

 僅か一ヶ月の期間で、効率良く自分の力を上げる方法が、新たなギフトの習得。


 そして、最初のターゲットとして白羽の矢が立ったのがヒクスンだったのだ。


 ヒクスンの持つギフト、ゴールド・キングダムは、自身の身体能力を一○倍、他者を最大で三倍にまで引き上げるバフ能力。


 光輝も三倍のバフを受けたが、その効果の高さを実感させてもらった。 それが一○倍となったら……対アンノウンに向けて、必要不可欠なギフトだと判断したのだ。



 ヒクスンは光輝に対しても友好的だったし、人格者でもあった。 だから、光輝は非情になる必要があった。


 問答無用で戦闘を仕掛け、ヒクスンに自らを殺させた。 狙い通りにゴールド・キングダムを手にした後は、速攻で意識を狩り落とした。


 更には、気絶したヒクスンの体内に致死量にならない程度のセル・フレイムによる小さな炎を宿らせ、意識が戻るのを遅らせ、今回の動画に至る。


 だが、光輝はヒクスンのギフト以外は習得していない。 それは、他のギフトが必要ないからでもあったが、もう一つの理由があった。


 光輝の脳裏に、アンノウンの圧倒的な力、そして……瑠美の最期の光景が浮かぶ。


 あのアンノウンの前に、自分以外の者は無力だろう。 対峙しても、一瞬で殺されてしまう。

 下手に正義感を燃やしてアンノウンに立ち向かわれても無駄死にするだけならば、光輝としても居た堪れないし、邪魔でしかないのだ。


そしてもう一つ。 アンノウンを倒せた未来の為に、より多くの犠牲者が必要だった。



「瑠美、カズール。 ……おまえらに救われたこの命、必ず無駄にはしない。 その為なら、俺は悪魔にでも魔王にでもなってやるさ」


 自分自身を安心させるように、光輝は笑顔を浮かべた。 だが、その瞳の奥に隠された感情は……。

 アンノウンとの決戦の前に、光輝がどうしても必要としていたギフトの一つがヒクスンのゴールド・キングダム。 そしてもう一つが……


次回『約束の時』


「さあ、おまえの本気を見せて見ろよ……比呂」

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