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第165話 やるべきこと

 ――一○日前、アメリカ



 ニューヨークのとある人気のない倉庫に、光輝は身を隠していた。



 フランキー・シャムロックが、第一次ハルマゲドンにてフェノムの始祖と呼ばれた初代アンノウンだった。


 そして、アンノウンとリバイブ・ハンターである光輝が、星にとってイレギュラーな存在であり、全てをリセット……地上に生きる全生物を消滅させようとしている。


 その上で、アンノウンは一ヶ月後、リセットされるその日まで人類を駆逐し続ける為に動き出す。 それを止められるのは光輝だけ。


 更に、リバイブ・ハンターである自分の存在は、既に人間ではなくフェノムだったという事実。


 そして……自分を庇った瑠美……。



 薫子には、何も言わずにヒューストンを離れた。 瑠美の事もそうだが、自分たちがもう人間ではなくフェノムに分類されるなど、光輝の口からは伝える事は出来なかったから。

 アンノウンとの事も、言えば薫子を巻き込んでしまう。 だから光輝は、薫子には何も言わずに去ったのだった。



 光輝が……瑠美がいつも着けていたブレスレットを見つめる。 その瞳には、深い哀しみが潜んでいた。


 このままだと、リセットを待たずして、アンノウンが人類を滅ぼすだろう。


 それを止める事が出来るのは自分だけ。 だから、考えなければならなかった。 


 どうすればアンノウンを倒せるのかを。


 そしてアンノウンを倒せた未来、倒せなかった未来を。



 このまま、第二次ハルマゲドンの英雄として世界中のスペシャリストに協力を求めれば良いのだろうか? だが、アンノウンの要望は、あくまで光輝一人との決戦だ。

 もし仲間を連れて行けば、その時点でアンノウンは世界中でフェノムを暴れさせるかもしれない。


 やはり、一人でやり遂げなければならない……。


 では、アンノウン・リアルやスプリットをも凌駕するアンノウンを、一人で倒せるだろうか? 流石に、今の自分では勝てっこないと分かっている。 だったら……もっと強くなるしかない。 リバイブ・ハンターの特性を活かして……。



「やるべき事をやるしかない。 ……それが、悪魔に魂を売る行為であろうとも……」


 覚悟を決めた漆黒の悪魔が、闇夜に翼を広げて飛び出した……。



 ――グレースィー柔術アカデミー・ニューヨーク支部



 ヒクスン・グレースィーは、第二次ハルマゲドンの後、拠点としているニューヨークへ戻っていた。


 先の戦いで、アメリカ・ナンバー1としてのプライドはズタズタに引き裂かれた。 自分一人では、敵の大将たるアンノウン・スプリットに手も足も出なかったのだから。

 その上、そのアンノウン・スプリットを倒した漆黒の悪魔・闇の閃光ブライトは、明らかに人間を超越した力を誇っていた。


 自分より優れたスペシャリストがいる。 それは、長い間世界最高峰のスペシャリストと言われたヒクスンにとっては、耐え難い屈辱だった……が、あそこまで力の差を見せつけられれば、もう白旗を上げるしかない心境でもあった。



 ヒクスンは世界各地に自分の道場を持っている。 そして、今いるのはアメリカ・ニューヨーク支部。


 道場生が帰り、道場にて一人、瞑想をしている時だった……唐突に、ブライトが現れたのだ。



「ごきげんよう、ヒクスン・グレースィー」


「ん? おお、君はブライトじゃないか? よく来てくれたな」


 突然の来訪ではあったが、ヒクスンはブライトに最大限のリスペクトを抱いていた。 むしろ、ブライトの方から会いに来てくれた事に喜びを感じていたのだが……


 ヒクスンがたった今まで正座していた場所に、斬撃が走る。


「……これは、どういう冗談だ? ブライト」


 インビジブル・スラッシュの奇襲を辛うじて躱したヒクスンは、厳しい表情でブライトを睨みつけた。


「どうもこうも、貴方は強い。 そして人格者でもある。 だからこそ……これから俺が作る世界には邪魔な存在だ」


「……それは、おまえが新たな王となり、世界を支配すると云う事か?」


「そうだな……とりあえず、好きな様にやらせてもらうさ」



 ヒクスンがゴールド・キングダムを発動する。


「君の事はリスペクトしてたんだがな……。 やはり、過ぎた力は人を歪ませるか。 漆黒の悪魔は人類にとっての悪魔だったのだな。 ……私も一人のスペシャリストとして、敵わぬまでも一矢報いてやる」


 ヒクスンの中で、光輝がリスペクトすべき英雄から、世界に混乱を招く悪魔へと心象が変わる。


「面白い……せめて、全力でかかって来い」


 ブライトは一気に間合いを詰め、接近戦を仕掛ける。 これには、ヒクスンも驚きを隠せなかった。


 ヒクスンは近接格闘なら、自他共に認める世界最強の一人なのだ。 如何にブライトの攻撃が破壊力と鋭さを伴っていたとしても、武器無しの攻撃なら、ヒクスンならば幾つも戦い様がある。


「舐めてるのか、ブライト。 この私に格闘で挑むとはな!」


 ブライトの攻撃を掻い潜り、抱き付いてからテイクダウン。 ブライトも反応してヒクスンに脚を絡めようとするが、あっという間にマウントポジションに移行された。


 組み付いてしまえば、ブライトの爆発的なスピードは死ぬ。


「流石はグレースィー柔術の師範代……近接格闘では分が悪いか……」


 ブライトが下の体勢から、ロンズデーライトの短剣を突き出す……が、ヒクスンは流れる様な動きで躱しながらブライトのバックを取ると、チョークスリーパーを極めた。


「どういうつもりだ? 君の真意はなんだ、ブライト! 言わねば、このまま絞め落とすぞ?」


「かはっ……貴様を殺して、世界を……支配するだけだ!」


「……残念だよ、ブライト。 ならば、この千載一遇の好機を活かさせてもらう!」


 ヒクスンはそのままブライトの首を捻る。 グギッという音と共に、ブライトの身体から力が抜けていった……。



 技を解き、倒れるブライトを見下ろしながら、ヒクスンはブライトの意図を計りかねていた。


(一体何が目的だったんだ? ブライトがその気なら、私になど触れさせもせずに殺せたはず。 なのに、あえて私の有利な土俵で……)


 ここで、ヒクスンはブライトがリバイブ・ハンターなるギフト能力者だったと思い出す。 その能力は、蘇生。 それだけでも驚くべきギフトだが、更には……


「私のギフトを……手に入れる為か!?」


 気が付けば、倒れていたハズのブライトの姿はなく、首筋に鋭い刃が添えられていた。



「ゴールド・キングダム……確かに、頂いたぞ」


 ブライトの身体を黄金のオーラが包み込む。 


「さ、最初から私のギフトが目的か?」


「どうせ死ぬのだから、くれたっていいだろう?」


 次の瞬間、ヒクスンの意識は刈り取られた……。



 薄れゆく意識の中で、ヒクスンが最期に目にしたのは……無表情のまま、自分を見下ろすブライトだった。


「……改めて自己紹介をしよう。 我が名は、闇の閃光・ブライト。 この世界を支配する者だ……」


次回 『新たな魔王』

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― 新着の感想 ―
[一言] タイトル回収ですね
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