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第163話 微笑み

 少しだけ時を遡る……。



 特設キャンプのBARで一人、カクテルを飲んでいた瑠美は、どこかから聞こえた音と、微かな振動を感じた。


「……何、今の音?」


 それは、フランキーが光輝をDDTで地面に叩きつけた振動だった。


 キャンプ内の何人かも、その振動に気付いていたが、些細な事だと気にする事はなかった。


 だが瑠美は……


(今の音……光輝が向かった方から聞こえた?)


 瑠美は、光輝がフランキーに呼び出され、どこへ向かったのかも知っている。

 そしてその音は、まさに光輝が向かった方向から聞こえたのだ。



 嫌な予感がした……。


 このまま、二度と光輝と会えなくなるような……。



 気が付けば、瑠美は光輝がフランキーから呼び出された場所へ向かって走っていた。


 嫌な予感は一向に収まらない。 むしろ、現場に近付けば近付くほど、瑠美の中で大きくなっている。



 数百メートル先で、一筋の光が見えた。 それは、前日に対峙したアンノウン・リアルやスプリットを遥かに超えた、強大なオーラを感じさせた。


 嫌だ……。 あそこに行きたくない……。 瑠美の本能が、ガンガンと警鐘を鳴らしている。


 それでも、瑠美は足を止めなかった。



 初めて光輝と……ブライトと出会った頃を思い出す。


 あの桐生辰一郎……ボスが目を掛けている新人。 ならば、どれだけのものだろうと、ヨガーとミストと共に確かめてやろうと共闘の誘いをした。 結果、期待の新人は、想像以上の実力者だった。 そして、死んだヨガーとミストの仇討ちもしてくれた。


 その時にはもう、瑠美はブライトに惹かれていたのだ。


 時が経ち、そのブライトの正体が光輝だと知った。 複雑な気分だったが、それでも死んだとされていた光輝が生きていた事はなによりも嬉しかった……でも、光輝は風香の想い人だ。 ブライトを好きになると云う事は、光輝を好きになると云う事。 それは、妹の様に可愛がっていた風香に対する裏切りだった。 だから、瑠美はその想いに蓋をした。


 光輝が完全にブライトとして生きるようになり、崇彦と共に行動を共にするようになると、光輝はギフトの弊害から、瑠美の理想でもある冷静で頼もしい存在となって行った。 いつしか、そのあまりの変貌に、むしろ心配する様になったが、それでも胸の中に押し込めた感情が消える事はなかった。


 ドイツから帰国した直後、ブライトは姿を消してしまった。 何故、ブライトが消えてしまったのか? リバイブ・ハンターについて無知だった瑠美は、ブライトを恨んだりもしたが、突如世界各地に現れたフェノムの撃退に追われ、深く考える暇もなかった。


 そして……漸く会えたと思ったその場所で、ブライトは桐生を殺した……。 瑠美にとっても、桐生は恩人だ。 でも、状況的に光輝が殺したくて殺したのではない事は明確だったし、その思いつめた表情は、決して放っておけるものではないと思った瑠美は、行動を共にする決意をする。 ……それが、光輝と一緒にいる為の言い訳だと、本人も気付いてはいたが。


 光輝は、昔の様な人間らしい性格に戻っていたが、どこか心に影を持っている事に気付いていた。 ブレイカーズとして活動している間もずっと。 でも、瑠美は特別な事はしなかった。 一緒にいれば、いつか自分の気持ちが伝わるのではないかと、淡い期待を抱きながら。


 でも……光輝は立ち直った。 明確に何が変わったのかは口に出来なかったが、明らかに未来に希望を抱く様になった。 そして、それを成したのは……いつも一緒にいた自分ではなく、風香だった。


 祝福したい気持ちはあった。 でも、それ以上に、選ばれなかった……何も出来なかった自分への怒りが胸を支配した。 カズールに愚痴を言った事もあったが、第二次ハルマゲドンを前にして、結局自分の気持ちに蓋をする事しか出来なかったのだ。


 戦いが終わり、日本に帰れば、光輝は風香と本格的に結ばれる事になるだろう。 帰りたくない。 光輝を風香に渡したくない。 そんな事を考えてしまう自分が嫌で嫌で仕方なかった。



 瑠美は走りながら考える。 もし、光輝と二度と会えなくなるとしたら、自分は気持ちを伝える事が出来るだろうかと。


(伝えたい……でも……多分、伝えられないな。 私は結局、光輝以上のヘタレだもん)


 そんな瑠美の目の前に現れた光景は、アンノウンであろう存在が、今まさに光輝を攻撃しようとしている瞬間だった。



 走った……無我夢中で。 アンノウンの手が光る。 間に合わない。


 飛んだ。 飛んで、光輝の背中を押して、地面に倒した。


 そして……アンノウンから放たれた光線は、瑠美の胸を貫いた……。



 突然倒された光輝が、背後を振り返る。 そこには、胸に風穴を空けた瑠美が立っていた……。


「あ……ああ!? 瑠美っ!!」


 倒れる瑠美を抱きかかえる。 ……既に、息は無かった。 


「嘘だろ? なんでおまえが? オイ!」


 必死でセル・フレイムを発動するが、もう、瑠美の意識が戻る事はなかった。



「……邪魔が入ったか。 可哀そうに……」


「クッ、テメエエエエエエッ!!」


 光輝がアンノウンを睨みつけるが、瑠美の治癒が最優先だった為にセル・フレイムの発動を止める訳にはいかなかった。


「天海瑠美か……。 君にとって、大切な仲間だったのだろう? ……彼女に免じて、君に猶予をあげよう。 彼女の仇を取る為の、力を蓄える為の期間を。 そう……一ヶ月。 きっかり三一日後、私は全ての始まりの地にて、君を待つ。 そして、君を倒した後、人類を根絶やしにする為に動き始めよう……」


「ふざけんな! ちょっと待ってろ、瑠美を治したら、直ぐにテメエをぶっ殺してやる!!」


「無駄だよ。 彼女、もう死んでいるだろう? 死んだ者を蘇らせるギフトなんて存在しない……自らを復活させるリバイブ・ハンター以外にはね。 さて、それじゃあお暇させてもらうよ。 君がこの一ヶ月をどう使うか? そして一ヶ月後、イレギュラーな者同士、正真正銘の一対一で戦い、命運を決しよう。 ……それでは、その日を楽しみにしてるよ」


 そう言うと、アンノウンはまるで蜃気楼の様に消えてしまった……。



「待てよ!! クソッ! ……瑠美、目を覚ませよ……瑠美い」


 瑠美は目を開けたまま……息を吹き返す事はなかった。


「なんでだよ……なんで? なんで俺じゃ無く、おまえが……」


 涙をボロボロ流しながら、光輝はそれでもセル・フレイムを止めなかった。


 瑠美の傷口は完全に塞がった。 それでも、既に死んでしまった者を蘇生させる事は、セル・フレイムにも不可能だった。



 光輝は、初めて瑠美と出会った頃を思い出す。


 突然、共闘の誘いが来た。 誘いに乗って出会った瑠美……ティザーは、大人びた綺麗な女性だった。 その後、カラオケで再会した時には驚いたが、ヨガーとミストを亡くした任務を共にした同志として、直ぐに心を許せる関係になった。


 すると、瑠美は風香とも仲良くなり、三人で遊ぶ事が増えていった。 一歳年上の瑠美は、光輝にとっても風香にとっても、面倒見の良い姉貴分だった。


 時が経ち、自分が生きていて、ブライトだったと告げてからも、瑠美との関係は変わる事はなかった。 光輝はそんな瑠美に感謝していた事を思い出す。


 それから、崇彦と三人で行動するようになっても、ブレイカーズとして行動を共にする様になっても、瑠美は変わらず自分の隣にいてくれた。 そんな瑠美に、光輝は恋愛とは違う、家族の様な感情を抱いていた。



 失うかもしれないと分かって、自分の中での瑠美の存在の大きさに愕然とする。 それこそ、カズールも死に、唯一の理解者がいなくなってしまった絶望感を感じていた。


「死ぬな……死なないでくれよ……瑠美ぃ……」


 そこで、ふと気が付く。 瑠美が、僅かに……微笑んでいた事を。

 それが、光輝を救う事ができたからの笑みなのかどうかは、もう知る由もないが。


「あああ……ああ……る、瑠美いいいいいいいいいっ!!!!」



 月明かりが照らす夜空に、光輝の咆哮だけが、ただ寂しく響き渡っていた……。

第二次ハルマゲドンから一〇日が経過した頃、世界中である事件が多発した。


姿を消した光輝に、風香が、比呂が、崇彦が、それぞれの思いをはせる。


次回 『予言』


……奈落へと続く崖の上で、漆黒の翼を持つ男が立ってるんじゃ……。

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