第161話 最高の贈り物
フランキーの言った事が事実であれば、自分が死ねば、人類の未来は守られる。 だが、多くの命がフェノムの犠牲になった上で得た共存で、守られると言えるのだろうか?
「ハッ、結局は全生物の未来より、自分の命が大事か? 大した英雄さんだなあ!」
共存とは互いの利害と妥協点の上に成り立つものだ。 人類だけの言い分を優先するのは共存とは言わない。 人類とフェノム、どちらの理も理解しているフランキーが世界を統治するというのならば、それこそが星の意志そのものなのかもしれない。
それでも、フランキーの言葉、そして態度に、光輝は違和感を覚えていた。
フラッシュを発動。 強烈な光輝の拳を、フランキーはしっかりガードする。
「っつ~、さっきまでのは本気じゃなかったってか? いや、気分で強さが変わるタイプか……」
「確かに、おまえは俺よりも強いかもしれない……。 だからこそ、人類とフェノムのパワーバランスを考えれば、おまえ一人フェノム側にいるだけでバランスが取れてる……むしろ、フェノム側に傾いてるんじゃないか? だったら、俺が死ねばその差は今以上に広がり、星の意志により人類側に何らかの補正が生まれる可能性があるんじゃないのか?」
フランキーの廻し蹴り。 これを光輝もガードした。
「かもな? だからそうならない為に、この俺がピラミッドの頂点に立って、全生物を支配してやるって言ってんだよ!」
フランキーのラッシュを、光輝は全てガードする。 だが、一発一発がロンズデーライトのガードを以てしても、衝撃を全て殺す事が出来ないほどの威力だった。
「そもそも、なんでおまえが生きてるのに、更に二体のアンノウンが生まれたんだ? 明らかにフェノム側の過剰戦力だ。 なのに、今回の決戦において、星から人類側にはなんのギフトも補充されなかった。 ……やっぱりおまえはまだ何かを隠しているんじゃない……か!」
光輝の強烈なボディーブロウは、フランキーをガードごと吹っ飛ばした。
光輝の違和感。 それは、フランキーが人類とフェノムの双方の立場にいるという言葉だった。 フランキーは過去、第一次ハルマゲドンの時は完全にフェノム側だったのだが、現在では共存こそが理想なのだと言った。 その言葉が、何故か引っ掛かったのだ。
「なあ、おまえってさ……今もフェノム側の存在なのか? もしかしたら、もう人類側としてカウントされたパワーバランスの輪の中にいるんじゃねーのか?」
フランキーは肯定も否定もせず、不敵な笑みを浮かべる。
「悔しいが、おまえの強さは間違いなく俺を……アンノウン・リアルとスプリットすらも上回ってた。 おまえがフェノム側だとして考えた時、現段階のパワーバランスは確実にフェノム側が上だ。 俺を殺しても、パワーバランスはよりフェノム側に傾くだけだ。 だが、もしおまえがもう人類側としてカウントされていたら……俺とおまえがいる人類側は明らかな過剰戦力となる。 だから俺が邪魔なんじゃないのか?」
それは、あくまでも光輝の脳内の仮説だ。 真相は、フランキーにしか分からないだろう。
だが……
「クフ……フハハハハハハッツ! そうなんだよ~、実は俺、もう人間側として、この星に認識されてるみたいなんだよ~。 でもまあ……おまえの見解はまだ七〇点ってとこだがな」
驚くほどアッサリと、フランキーは光輝の仮説を認めた。
「七〇点か……。 じゃあ、充分だ」
インビジブル・スラッシュがフランキーを襲う。 が、これをフランキーは辛うじて躱した。
「あぶなっ! だがそうなると、今回の決戦では俺とおまえがいたんだとすれば、逆に人類側の戦力がフェノムを大きく上回っていたと思わないか?」
会話をしながらも、お互いが攻撃の手を止めない。
「クッ……簡単には教えてくれないんだろう?」
「勿論。 聞きたかったら……力づくで聞き出してみな!」
お互い一歩も引かない攻防が続く。
「ハッハッハ、流石は英雄! ヒクスンのバフ無しでここまで俺と戦えるとは。 おまえはもう、鬼島、桐生、エルビンのスリーマンセルを一人でを超えてるぞ!」
「……光栄だねっ。 だが、おまえを倒せなければ、俺がその三人を超えた事にはならない!」
接近戦に乗じて、クァース・フレイムを発動。
一瞬だけフランキーの動きを止める事に成功すると、そのままロンズデーライトの刃を振り落とした。
「……ふぃ〜、危ないなぁ。 やっぱり、殺しに対する躊躇の無さ、そして、たまに出す二軍のギフトこそおまえの強みだな、ブラザー」
フランキーの右腕が地面に転がっている……。
光輝の刃は、フランキー脳天目掛けて振り落とされたが、フランキーはクァース・フレイムの束縛から逃れ、腕一本を失うだけで済んだのだ。
「厄介だなぁ……本当に、厄介なギフトだよ、リバイブ・ハンターってのは」
フランキーのその口調は、リバイブ・ハンターの能力をよく知っている者のものだった。
「おまえにとっては普段はあまり使わないギフトでも、それ一つあれば世界でもトップのスペシャリストになれる。 今使ったクァース・フレイムも、ワールド・オブ・ウインダムも……。 ここまで成長するとは、星も想定外だったんだろうが」
「何が言いたい?」
星も想定外……。 その言葉の意味を、光輝は計り兼ねた。
「気付いてないみたいだな……。 クックックッ……まあいいや。 どっちみち、俺はおまえを倒さなきゃいけないんだからなぁ!」
フランキーが残された左手の指から、五本のブラズマ・ブラスターを放つ。
その五本の光速レーザーは、一発で光輝のロンズデーライトの武装を貫いた。
「ぐはっ!?」
光輝の右腕、左腕、左肩、脇腹、太腿の五箇所から血が吹き出す。
「残念ながら、この人間の身体では俺の右腕は自己再生する事は出来ない。 とっととおまえを殺して、回復系ギフト能力者に診てもらわないと」
「クッ……それは、おまえのギフトか?」
先程から時折放たれたプラズマ・ブラスターは、光輝にとっても恐ろしいギフトだった。 実際に喰らってみて、その思いは間違ってなかったと確信する。
「その通り。 プラズマ·ブラスターっつーランクSのギフトだ。 俺がこの身体を依り代にして三年経った頃、星が俺にくれたギフトだ」
「なるほど……」
光輝の眼でも追えない程のスピードと、ロンズデーライトを一撃で貫く威力。 ランクSどころか、殺傷能力だけで考えればS+のワールド・マスターをも超えている。
「ちょっと遊びが過ぎたかな〜。 おまえの強さは充分理解したから、もうお終いにするぜ」
「やれるもんならやってみろ!」
光輝はフラッシュでフランキーを撹乱しながら、徐々に間合いを詰めようとする。 そのあまりもの速さに、フランキーからは光輝が分身して何人にも見えていたが……
「だったら、全部撃ち抜いてやるまでだ!」
全ての分身にプラズマ・ブラスターが発射され、うち二発が、光輝の右胸と腹を貫いた。
「ガハッ……」
フランキーが、力なく片膝を着く光輝を見下ろす。
「やれやれ、苦戦しちまったな。 でも、もう終わりだ。 心配しなくても、ちゃんと二回、トドメを刺してやるよ」
リバイブ・ハンターは、その理屈を知ってさえいれば、穴の多い能力である。
フランキーがやろうとしている様に、一度死に、復活した瞬間にもう一度致命的なダメージを与えれば、それでお終いなのだ。
「それを聞いて……安心した」
光輝の傷は致命傷だった。 セル・フレイムで治療しても追いつかないだろう。
だが、それこそが光輝の狙いだった。
「そのギフト……貰うぞ!!」
「!? 何を……」
ワールド・オブ・ウインダムを発動。 巨大なハリケーンがフランキーを包み込む。
その間にサイレント・ステルスを発動して姿を消し、フラッシュを用いてその場を飛び去った。
「ぐぅっ、おまえ、まさかっ!?」
ハリケーンはフランキーにダメージを与えるまででは無かったが、時間を稼ぐ事には成功した。
……ハリケーンが止み、フランキーはその場に立ち尽くす。
「あの野郎……」
フランキーは光輝の、捨て身の狙いに気付いていた。
そして、それがどんな結果をもたらすかも。
フランキーは、全身をオーラで包み込む。 急所を出来るだけ腕と脚でガードし、蹲った。
そうして、数分が経過する。
フランキーの集中は途切れていない。 いつ、どんな方向から攻撃されても、瞬時に反応出来るだけの意識を保っていた。
が……同時に、全身を一○本のプラズマ・ブラスターが直撃。 ガードしていなかった部分は、フランキーの身体を容易く貫いた。
「ぐううぅぅ〜……ブゥライトオオオッ!!」
瞬時に攻撃が飛んで来た方向に、自らもプラズマ・ブラスターを発射するが、全く別方向から更に一○本のプラズマ・ブラスターがフランキーの身体を貫いた。
「か……かはっ……」
全身穴だらけで、血反吐を吐くフランキー。 その目は、既に虚ろだった。
ぼやけた視界……目の前に、光輝が姿を現す……。
「ありがとうな。 久々に最高のギフトを貰ったぜ」
その姿は、初代アンノウンであるフランキーをして、本物の悪魔が笑みを浮かべて立っている様に見えていた……。
※え~、皆様あけましておめでとうございます。 今年もよろしくお願いします!
さて、先月は“ほぼ”毎日投稿させて頂きましたが、今後は週二~三投稿でお送りさせて頂きます。 それに伴い、後書きでの次回予告も復活させようと思ってますので、次回投稿をお楽しみに!