第160話 イレギュラー
フランキーから……とてつもない濃密なオーラが溢れ出す……。
「俺が……イレギュラー? どういう意味だ!」
「……おまえは良い奴だ。 でも、おまえの存在は邪魔なんだよ」
フランキーが光輝に人差し指を向ける。 すると、一筋の、音速を超える速度のプラズマ・ブラスターなるギフトのレーザービームが放たれた。
「!?」
これを光輝は、辛うじて躱す。
「なんで……なんで俺が!?」
「さっきの説明が分かりにくかったかい? 五○年前、第一次ハルマゲドンで人類はアンノウンを撃退はしたが、この俺は封印されていただけだったからその後のパワーバランスも保たれていた。 その上、人類は生活圏を都市部に集中していたから、計らずして人類とフェノムは共存していたんだ」
会話を続けながらも、フランキーは合間にプラズマ・ブラスターを放ち続ける。
「くっ……だから、なんで俺が邪魔なんだよ!」
フランキーの攻撃を躱しながら、光輝もインビジブル・スラッシュで反撃する。
「まだ分からないのか? おまえなんだよ、ブライト。 おまえが圧倒的な力を得た事で、アンノウンの誕生を誘発したんだ」
インビジブル・スラッシュを軽々と避けながら、フランキーは何故光輝がイレギュラーなのかを突き付けた。
「俺が……アンノウンを?」
光輝が立ち止まると共に、フランキーも攻撃を止めて話し始めた。
「ああ。 正確には、ハルマゲドンを生還した英雄たちが、いつか来るとも分からない俺の復活に向けて人類の戦力を上げ続けた。 そして、決定打となったのがおまえだ。 おまえが力を得れば得る程、戦力のバランスは偏っていった。 そして星の意志が、今の人類を上回る戦力として二体のアンノウンを生んだんだ」
「そんな……だったら、アンノウンを倒す為に動いていたボスの行動は無駄だったって事か!?」
「そうだ。 桐生たちは俺の復活ばかりを恐れ、最も重要なバランスの部分を軽視した。 奴が全体の戦力を充実させればさせる程、アンノウンの誕生を促していたのだ。 皮肉なもんだがな」
桐生が対アンノウンの為に行った努力は、全くの見当外れだったとフランキーが告げる。
「だったら何故、もっとハッキリ伝えなかったんだ! おまえが遺したバランスという言葉の意味を!」
「俺は元々フェノム側の存在だぜ? 確かに星の意志は人類とフェノムの共存だが、あくまで俺たちフェノム側の存在の深層心理に植え付けられた指令は、“人類を駆逐しろ”なんだから。 あの時点での俺にとっては、人類がバランスを乱して星がフェノム側に更なる力を与えてくれた方が良かったんでな……」
「あの時点って……だったら全部おまえが招いた現在だろう! それを、俺のせいにすんな!」
「い〜や、おまえは今回、本来なら勝てるハズが無いと星が判断したハズのアンノウン・リアルとアンノウン・スプリットを完全に倒してしまった。 これにより、人類とフェノムの戦力のバランスは致命的なまでに偏ってしまった。 このままだと一○年以内に、この俺を遥かに上回るアンノウンが誕生するだろう。 だから、その偏りを軽減させる為には、おまえがいなくならなければならない」
「俺が……俺が生きているせいで、また人類が危機に陥る?」
自分の命と引き換えに、人類の未来を守る……。 少し前の光輝ならば、なんの抵抗もなく自らの命を差し出しただろう。
だが今は、風香との未来を思い描いてしまった。 自分自身の未来に希望を持ってしまった。
それが、光輝を激しく動揺させた。
「さあ、もう分かっただろう? 潔く死んでくれ、ブラザー。 俺は何もおまえを憎くて殺す訳じゃないんだ」
「……いきなり、俺のせいでアンノウンが生まれ、俺のせいで世界のバランスが乱れてるなんて言われて……納得出来る訳ねーだろうが!」
光輝はフラッシュを発動し、渾身の飛び蹴りを放ったが、フランキーはそれをいとも簡単に片手で弾き飛ばした。
「じゃあ、このまま生きてみるか? この俺にさえ敵わないおまえが、次に生まれるアンノウンに勝てると思うか? それどころか、今度は人類も致命的なダメージを負う事になるぞ?」
「クソッ……だったらそれまで、戦えるだけの力を磨けばいいじゃねえか!」
「馬鹿だなぁ。 おまえらが鍛えれば鍛える程、それに比例して強大なアンノウンが生まれるんだよ。 今回は勝てたのが奇跡だったし、間違いだったんだ」
星の意志では、今回のフェノム側の戦力は人類側を上回っていたハズだったのだろう。 なのに、人類は……光輝はアンノウンを倒してしまった。
「ここで俺がおまえを殺せば、戦力のバランスは保たれる。 心配しなくとも、後の事は俺がフランキー・シャムロックとして、おまえがやろうとしていた以上の事を実現してやる。 人類とフェノムの理想的な共存をな!」
「くっ…………クッソがあああっ!」
光輝がサイレント・ステルスとフラッシュで、フランキーの背後をとり、ロンズデーライトのショートソードで首筋を狙う。
「残念! 見えてるよ〜ん」
だが、フランキーは身を屈め、カウンターで光輝を蹴飛ばした。
「ちっ……くしょう!」
インビジブル・スラッシュを放つ。 これを、フランキーは身体にバリアを纏い、弾き飛ばした。
「どうした、漆黒の悪魔よ。 二体のアンノウンを倒した英雄の力はその程度か?」
強い……あまりにも強い。 どう考えても、二体のアンノウンよりも強い。
戦力のバランス……星の意志……。 フランキーの強さにどこか違和感を抱きつつも、今の頭に血が登った光輝には、答えを見付ける暇はなかった。
「涼しい顔してんじゃねえっ! だったら、これならどうだっ!」
必殺のフラッシュブレイドを放つ……だが、それをフランキーは見切り、光輝の首を脇で捉える。
「ぐっ……はな……せっ!?」
首が折れそうになる程締め付けられても、身動きが取れない。
「新たな世界に、英雄は二人もいらない。 俺はアンノウンだったという事実を隠し、人間として生きていく。 ……この星の、全生物の王様としてな」
そして、そのままDDTで光輝の頭を地面に叩き付けた。 その衝撃は、辺り一面の地表に広範囲な溝を作る程の威力だった。
一撃……。 たった一撃で、二体のアンノウンを撃破した光輝が、戦闘不能に陥ってしまう程の大ダメージを負ってしまった……。
「がはっ……」
頭部と首に甚大なダメージを負い、意識朦朧とする光輝を、フランキーが見下ろす。
「どうだい? おまえは確かに強かった。 だが、本来なら俺にも、二体のアンノウンにも、まともにやってたら勝てなかったんだよ」
光輝を見下した様に笑みを浮かべるフランキーに、光輝の心を大きな屈辱が満たす。
「ふざけるな……俺は……」
言葉が続かない光輝に、フランキーは笑みを浮かべる。
「悔しいか? だよなぁ。 だって、おまえは折角アンノウン倒して英雄になれたのに、本物の俺には全然歯が立たないんだもんなあ?」
「ぐっ……」
屈辱……。 その二文字が、光輝を支配する……。 沸々と、怒りが身体を支配する……。 体内で、セル・フレイムの炎が光輝の身体の中を燃やす。 全ての傷を癒す様に……。
「無駄な抵抗はやめろよ、ブラザー」
光輝の顔を、フランキーが踏み付ける。 光輝は……声も上げず、されるがままに顔を踏み付けられた。
「おまえが死んだ後、俺がじっくりと時間を掛けて、人類に新たな価値観を植え付けてやるよ。 フェノムとの共存の為にな」
フランキーが踏み付ける足に力を込める……が、その足首を、漆黒の手が掴んだ。
「……しつこいな……まだやるつもり?」
余裕ぶってはいたが、フランキーの笑みは引きつっていた。
「……あんま調子に乗んなよ、フランキー。 テメエがアンノウンだろうがなんだろうが、もう知ったこっちゃねーよ」
そして、掴んだ足を振り回し、フランキーを地面に叩きつけた。
「ぐはっ!? いって~!」
立ち上がり、フランキーを見下ろす。
「大体、おまえの話には矛盾がある。 まだ何か隠してる事があんだろ?」
「……ヘッ、ただの脳筋って訳じゃなかったんだな、ブラザー。 ならば、それを聞きたかったら俺を倒してみろよ? ま、無理だろうけどよ」
「上等だ。 俺かおまえか……この星の全生物の未来を賭けたサバイバルマッチを始めようぜ……」
皆様今年一年ありがとうございました! ……あまり更新は捗りませんでしたが、こんな私の作品をまだ覚えて下さった皆様の為にも、このまま完結まで走り続けます!
次回投稿は、少し正月休みを挟んで1月4日を予定してます。
それでは皆様、良いお年を!




