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第159話 共存とバランス

「フフフッ……そうだよ、俺が、本物のアンノウンだ」


 フランキーの口から出た言葉は、光輝の思考を停止させた。


「ま、本物っつーか、最初に生まれたアンノウンって事だけどな。 驚くよな〜? そりゃ驚くよ。 でも、俺は今回の決戦の立役者であるブラザーに敬意を表してるからこそ、正体を教えてやったんだぜ?」


「……目的は? 俺を殺すのか?」


「ああ。 それが一番手っ取り早いと思ってね」


 どこか含みのある言い方をするフランキーに、光輝は違和感を感じた。


「嘘だな。 おまえからは強大なオーラは感じるが、まだ俺に対する殺気は感じられない」


「……流石ブラザー。 さて、じゃあ本題に入ろうか」


 そう言うと、フランキーは地面に腰を降ろし、光輝にも座れと促した。



 向かい合う光輝とフランキー……いや、アンノウン。


「まず、俺が復活したのは五年前。 その時点で、俺が遺した言葉を実践してなかった人類には深く失望したね。 毎日世界のどこかで誰かが殺されている……争いも絶えない。 もう、滅ぼしちゃおうかとも思ったけど、まだバランスが整ってなかったから無理だったんだ」


「バランス? バランスって何の事なんだよ。 アンタが残した言葉の中で、そのバランスって言葉だけは何を意味してるのか分からなかったんだが?」


「ま、あとで説明するよ。 それで、復活したは良いけど、まだ人類を滅亡させる訳にもいかなかったんで、この男の身体を拠り所にして、人間として生活してみる事にしたんだ……」



 フランキーは揚々と語った……。


 丁度良いタイミングでフランキー・シャムロックという青年が瀕死の状態だったので、身体に入り込んだ事。


 人間として生活してみて、人類を観察していた事。


 そして……自分の存在自体が、次第に人間寄りになっていった事……。



「人間寄り? 人間に理解を示したって事か」


「そういう括りじゃない。 存在として、フェノム寄りか人間寄りかって事だ。 で、それがさっきブラザーが気にしていたバランスに繋がっていくんだがね」


 ハルマゲドンでアンノウンが遺した言葉の中で、解明されていないのがバランスの文言だ。


 一体何のバランスなのか? それが分かれば、今後の行動にも大きく役立つ事になると光輝は考えていた。



「我々フェノムが生まれたのは、これ以上人類の好きにさせたら星が死んでしまうと、星自身が判断したからだ。 そして、人類を遥かに上回る我々が誕生した。 だが、我々の力は人類を凌駕し過ぎた」


 フェノムの誕生は、増え過ぎた地球を害する人類の間引き……。 そんな恐ろしい考えが、光輝の頭の中に浮かんだ。


 だとすれば、し過ぎた……の言葉に、光輝は違和感を覚える。 フェノムは星が誕生させた人類の処刑人ならば、凌駕して何が悪いのかと。


「星の意志……人間の言葉を借りれば、神とも言えるかな? 神は慈悲深いのだ。 昨日ブラザーもスプリットに言っていただろ? 地球が人間を生んだのだから、親みたいなもんだろって。 そう、星は我が子である人間にもチャンスを与えたんだ。 それが、特殊能力……ギフトだ」


 ギフト能力者は、フェノムによって人類が大打撃を受けていたある日、突発的に現れた。


「それもまた、星の意志……」


「そう。 ところが、ギフト能力者が次々と現れ、今度はフェノムが絶滅危機になった。 そして、俺が生まれたんだ。 つまり、人類にとってのギフトが特殊能力なら、フェノムにとってのギフトは、俺たちアンノウンなんだ」


「……フェノムもまた、星の……子どもって事か?」


 星にとって、人類がそうである様に、フェノムもまた自分が生んだ子どもなのだろう。


「随分心変わりの激しい親だな。 こっちの子どもが邪魔になったから、そっちの子どもに処分させて、今度は可哀そうだからこっちの子どもに武器を与えて……それこそ、ギフト能力者のバランス調整をすりゃ良かったんじゃないか?」


「それが出来たら人間は生まれてないさ、星を破壊する生物などな。 人間は何十億年もかけて生物の進化の上で生まれたんだから。 この星には意志はあるが、思考能力がある訳じゃないんだ。 大体、地球に意志があるなんて、今まで思った事があったか? この星に出来るのは、ほんの些細な事だけ……あとはただ見守る事だけなんだよ」


 もし地球が、自ら考え、自由に自分を創り上げる事が出来たのなら……もしかしたら知能の高い生物など誕生してなかったかもしれないし、文明が誕生する事もなかったかもしれない。 思考能力がなかったからこそ、地球は全てを自然の流れに任せ、その時々で必要な種が誕生し、その時々で災害が発生し、時を重ねて来たのだ。



「……それで、バランスって結局なんなんだよ?」


「星の意志をもっと詳しく教えてあげたい所なんだが……せっかちなブラザーだな。 まず、俺が……俺たちフェノムが生まれた時、本能に刷り込まれた星からの指令は”人類を駆逐しろ”だった。 俺も第一次ハルマゲドンの時は、その本能に従って人類と戦った。 まあ、人間として生活していく中で、その本能は段々薄れてしまったがな。 んで、俺は第一次ハルマゲドンでエルビンに封印されそうになった時に気付いたんだ。 星はフェノムを、人類を滅ぼすために生んだんじゃない。 ただ、人間の数を減らすだけで良かったんだと。 人間にだってこの地球に存在する意義が皆無と言う訳でも無かったからな。 だから、星は人類にもギフトを与えた。 そして、人類とフェノムによるハルマゲドンが勃発した訳だが……あれは、起こるべきではなかったんだと思っている」


「ハルマゲドンが……星にとって、良くない出来事だったってことか?」


「そうさ。 あの戦争は結果的に人類が勝利した。 でも、星の意志が望んだのは、人類もフェノムも共存する世界だったんだ」


 人類とフェノムの共存。 光輝はどう考えても上手く行く訳が無いと考える。 アンノウンはともかく、フェノムとは会話も成立しないのだ。


「そこは最初に生まれた人類が兄として、弟を上手く導いてやらないといけないだろ? 俺が遺したバランスの意味とは、そういう事なんだよ。 だが、結果はどうだ? 人類は自分たちの繁栄ばかりでフェノムを駆逐し続け、人類とフェノムとのパワーバランスは徐々に溝が空きはじめていた。 だから、また新たなアンノウンが生まれたんだ。 パワーバランスを保つためにな」


 人類とフェノムのパワーバランス。 それこそが、アンノウン誕生や人類へのギフトなど、星の介入の契機なのだと、フランキーは言った。


 逆に考えれば、仮にハルマゲドンや今回の決戦において人類が敗れ、フェノムによって人類の存亡を脅かす状況になってしまったとしたら……何年後になるかは分からないが、人間に現存するギフトを上回る更なるギフトが授けられていたのかもしれない。



「じゃあ……そのパワーバランスを保つ事が、これからの人類に必要な絶対事項なのか?」


「そう、人類とフェノムが共存し、その上で過度な自然破壊を避け、環境を大事に維持するのが星の理想だ。 どちらか一方の力が強くなり過ぎれば、どちらかに星の意志がギフトを贈る」


「ちょっと待て。 ハルマゲドンで人類が勝利した後、人類とフェノムとのパワーバランスは大きく崩れたんじゃないのか? それこそ、直ぐにでもフェノム側にギフトが贈られてもおかしくない程に」


「第一次ハルマゲドンから五〇年もの間、新たなアンノウンが現れる事はなかっただろう? それは、人類が俺にトドメを刺したのではなく、封印しか出来なかったからだ。 身動きは取れなくとも、俺は存在していた。 だからパワーバランスが保たれていたんだ」


 五〇年の間、決して理解してそうしていた訳では無いが、人類は生活スペースを二〇二〇年までより限定させ、フェノムとの棲み分けを絶妙なバランスで保っていたのだ。


 それに伴い、戦力のパワーバランスも、アンノウンが生きていたおかげで、ギリギリのバランスで保たれていたのだと、フランキーは言う。



 そして、光輝は人類とフェノムの共存という言葉の意味を考える。 それが、人類にどの様な影響を与えるかを。


「フェノムと共存って、どうすりゃいいんだよ? まさか、仲良く街を歩けとでも言うんじゃないだろうな?」


「フェノムの存在意義とは? それを考えれば自ずと答えは出るだろう?」


 フェノムは、人間を殺すために生まれた。 それが存在意義と考えると……


「フェノムが、ある程度の人間を襲うのを許容しろというのか!」


「エクサッテメンテ。  それが、人類とフェノムの共存する世界だ」


 フェノムとの共存とは、つまり多くの人の命を犠牲にした上で成り立つ、人類側にはなんのメリットもない関係だった。


「そんな……無理だ! 多くの人間の平和の為に、一部の人間に死んでくださいと言うようなもんじゃないか!?」


「おかしいか? だとしたら、やっぱり自分勝手だなあ、人間は。 立場をフェノム側にすれば、おまえらがどれだけ理不尽な事を言ってるのか分からないか?」


 フランキーがさも当たり前の様にした主張に、光輝は何も言えなかった。


 フェノムが殺されるのはともかく、自分たちが殺されるのは許せないと言ってるのと同じなのだから。



 だが、ここでフランキーは光輝に憐みの表情を見せ、静かに語りだした。


「俺も、もう五年も人間をしている。 人間として生きて来て、腐った人間は確かに多かったが、それ以上に善良な人間を多く見て来た。 今では自分なりに人間にも愛着が沸いてもいる。 だからこそ、人類とフェノムの双方の立場で冷静に物事を考えられる俺こそが、これからの世界を導いていくに相応しい存在だと思わないか? 俺だけが、この星の全生物のピラミッドの頂点で唯一の存在として、絶妙なパワーバランスを形成出来るのだ」


 光輝は完全に人類側の存在だ。 だから、共存する為に多くの人間の命が失われる事に抵抗が生まれる。 だが、フランキーにはその感情が無い。 容赦なく、不要な人間をフェノムに駆逐させるのだろう。


 星の意志としては、フランキーが統治する世界こそが理想なのかもしれない。 それでも、やはり光輝には到底納得出来るものではなかった。



「その顔だと、俺が頂点に立つのが納得できないみたいだな。 なら、おまえには死んでもらうしかないぞ、ブラザー。 そもそも、おまえはこの星にとってイレギュラーな存在になりつつあるんだから……」


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