第158話 正体
翌日明朝、光輝と瑠美、ジョシュアとヒクスンは、転移石でアメリカへと帰還した。
光輝は風香に、日本へ帰ったら一緒になろうと約束をし、更に一皮剥けた男になっていた。
そんな光輝を見て、瑠美が二日酔いの頭痛に苦しみながら光輝の尻を無言で蹴ったのはご愛嬌。
「光輝兄さん、瑠美姉さん!」
アメリカのキャンプでは、もう深夜にも拘らず多くの報道陣が英雄の帰還を出迎えていたが、その人込みを潜り抜けて、薫子が光輝に飛びついて来た。
「待たせたな、薫子」
「いえ、向こうでも大活躍でしたもんね。 凄いですよ、ホラ」
そう言って薫子が報道陣を指差すと、盛大なカメラのフラッシュと共に、光輝に対しての賞賛や感謝、そして質問が飛び交った。
その光景を、ジョシュアが笑顔で眺めていた。
「ブライト、これも英雄の務めだ。 記者には愛想良くしておいた方が得だぞ。 これからおまえがやろうとしている事を考えればね」
「今ここで、公表しても良いんですか?」
「それなんだが、向こうの時間で間もなく、財前と鬼島が共同で事実を公表する事になっている。 鬼島や私への批判は免れないだろうが、それは甘んじて受けよう。 だから、君にはその記者会見の後に、自分の意思を伝えてもらいたい。 この世界をどうしたいのか? どうすればいいのかを」
今の光輝の影響力を考えれば、光輝が最初に事実を公表すれば、鬼島やジョシュアに対する不満を増幅する可能性がある。 ならば、先に本人の口から事実を公表した方がまだマシだとの判断だった。 光輝としても、鬼島やジョシュアに恨みがある訳でもないので、彼らが公表してくれるのならその方が好都合でもあったが。
「ただ……アンノウンが既に復活している件は、まだ内密にしていてほしい」
「え? でもそれじゃあ、もしアンノウンが姿を現した時、もうフェノムとの争いが終わってたんじゃないかってぬか喜びさせる事になるんじゃ……」
「そこは上手くやるよ。 アンノウン関係なく、まだフェノムは完全にいなくなった訳ではないから、引き続き警戒は怠らないって予防線を張ってね」
「そうですね。 じゃ、少しだけサービスしときますよ」
こんな事もあろうかと、光輝はロンズデーライトの武装を纏い、ブライトとして帰って来たのだ。
目の前にいるのは主に海外の報道陣だが、日本からも数名来ている。 もし、光輝の素性がバレれば、二年前にショッピングモールで殺されたとされる高校生が実は生きていて、しかもブライトとだったとバレる危険性がある。
(いきなり周防光輝が生きていたなんて事になったら、父さんと母さんにも迷惑がかかるだろうし、もう少し秘密にしとこう)
光輝は報道陣に笑顔で手を振り、後ほど記者会見を行う種の告知をしてその場を去った。
そして、東ヨーロッパ時間で正午。 アメリカでは明朝。 財前と鬼島が記者会見を行った。
フェノムが何故生まれたのか? そして、何故アンノウンが現れたのか?
その事実に、世界は驚愕した……。
事前に予想していた通り、地球環保護団体などが早速騒ぎ出し、信心深い者の一部は神に見放されたと絶望した。
当然、何故その事実を隠していたのかと、ハルマゲドンの英雄であった鬼島たちを攻める声が世界中で湧き上がったが、そんな避難の声を治めたのは、新たな英雄だった。
光輝はブライトとして、アメリカ時間正午、会見を開き、世界に向けて、これからの人類の成すべき事を発信した。
フェノムを新たに生み出さない為に必要なのは、人類以外の種を守り、自然破壊を行わない事。
その際たるものとして、まず戦争を無くす事……。
人と人とが手を取り合い、協力して豊かな社会を作らねばならない事を。
それは、漆黒の悪魔と呼ばれたブライトから出た言葉とは思えない聖人の様な言葉の数々だったが……最後の一言で、一部の人種を震え上がらせる事になる。
「……以上の思想に反する者、意図的に争いを誘発する者は、この俺が自ら裁いてやる。 全世界の悪党ども、覚悟しておけ」
自らが法だと言わんばかりの宣言に、たかが一人の人間が横暴が過ぎる、思い上がるななど、多くの反対意見が出る事となったのだが、それ以上にブライトを支持する声が圧倒的に多かった。
漆黒の悪魔、闇の閃光ブライトは、完全に世界の英雄として、認知されつつあったのだ。
夜……そんな光輝が、キャンプでの自室で日本に帰る支度をしていると、いつからあったのか、机の上に置き手紙がある事に気が付く。
「なんだこれ? 差出人は……フランキー?」
フランキー・シャムロックは、最終決戦中に姿を消していた。 ヒクスンの話では、逃げたのではとの事だったが……。
ちょうどその時、瑠美が光輝の部屋を訪れた。
「帰り支度は出来た? 一杯飲みに行こうよ」
どうやら瑠美は、すっかり酒の味を覚えてしまった様だ。
「ん? ああ、支度はもう終わる所なんだけど……」
光輝はフランキーからの手紙を瑠美に手渡す。
手紙には、指定の時間と場所が書かれてあり、なにやら重大な話があるとの事。
「あのお調子者が、一体なんの話しよ?」
「分からん。 どうせアイツの事だから大した事じゃないんだろうけど、仕方ないから行ってやるかと思ってる」
「そう。 じゃあ先にBARでで飲んでるから、後から来てよ。 なんならフランキーも連れてくれば? アイツいつの間にかいなくなってたから説教してやるわ」
ギリシャから転移する前に、崇彦から瑠美の酒癖に注意しろと聞いていた光輝は、あまり気が進まなかったのだが……
「あ、ああ。 終わったら行くよ」
特に断る理由が見つからず、頷くしかなかった。
――キャンプから数キロ離れた夜の丘。
そこには、既にフランキーが光輝を待ち構えていた……。
「よう、ブラザー。 いや、もうスーパーヒーローって呼んだ方が良いかな?」
「相変わらず調子のいい奴だなぁ。 大体おまえ、気が付いたらいなかったけど、まさか本当に逃げてたんじゃないよな?」
まだ会って間もないが、フランキーには崇彦に似た雰囲気を感じていた光輝は、フランキーが逃げたとは思っていなかった。
「ちゃんと見てたぜ? ブラザーがアンノウン・スプリットをぶっ飛ばした所もね」
「だったら、なんで姿を現さなかったんだよ?」
ヒクスン曰く、フランキーは掴み所のない男だが、実力は確からしい。 なら、姿を隠す理由もないだろうと考える。
「そりゃあ、どっちが勝つか……見守ってたんでね」
「おまえ以外のスペシャリストたちが命を懸けて戦ってたっていうのに、高みの見物してたってのか?」
「ん〜、というより、今後の俺自身の身の振り方をな。 どっちが勝つかで変わるからさ」
なんとなく、掴みどころのない話しの流れなので、光輝は足早に去ろうと考える。
「……まあいいや。 本題がないんなら、もう戻るぜ? 明日にはもう日本に帰るけど、おまえとはまた会う機会もあるかもしれないしな」
「ふ〜ん……帰れるかなぁ、日本に」
急に、フランキーの雰囲気が変わる。 陽気で気楽なものから、張り詰めたものへ……。
「……どういうつもりだ?」
フランキーから溢れ出るオーラに、光輝は身の危険を感じた。
「どういうつもりだも何も、アンタを生かしとく訳にはいかないと思ってね……この星の為にも」
光輝の背筋が凍る様に冷たくなる。 フランキーから感じるオーラは、アンノウン・リアルよりも、スプリットよりも、遥かに強大なものだったから。
「フランキー……おまえ、一体何者なんだ?」
冷や汗が頬を伝う。 光輝は心の中で、フランキーの正体にもう気付いていた。
先の決戦で現れた二種のアンノウンを凌駕する者……。
「フフフッ……そうだよ、俺が、本物のアンノウンだ」
※いよいよ2021年も終わりですね……。と言う訳で、明日は二話投降しますのでお楽しみに。