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第156話 打ち上げ

 光輝がキャンプを出ると、外はすっかり陽が暮れていた。


 アメリカでは、光輝たちの帰りを薫子が首を長くして待っているだろう。 国家間を移動できる転移石はギリシャ側にも用意されていたハズなので、転移石を借りてアメリカへと戻ろうかとも考えたのだが、逃げる様にキャンプを出てきてしまった手前、ジョシュアに転移石の事を聞きに戻るのも気まずい状況だった。



「光輝君!」


 すると、風香と瑠美、そして身体中に包帯を巻いた吉田が光輝を待っていた様だ。


 吉田の事をあの吉田だと認識してない光輝は、吉田に軽く会釈しつつ、風香と瑠美に話し掛けた。


「よう、二人とも。 そういえば、二人がまともに会うのって、結構久しぶり?」


「アンタが山籠りしてる間に一度会ってるわよ。 ま、そん時の風香はいろいろあって暗〜い顔してたけど、私が黒夢のティザーだって知って驚いてたよね?」


 光輝が山籠りしている間……桐生や財前の先導で、日本はスペシャリストとフィルズとの垣根を撤廃し、平等な社会を掲げ始めた頃だった。


 その際に、フェノムの大量発生において国防軍と黒夢は協力する事となり、もう正体を隠す必要がないと判断した瑠美が風香の下を訪ねていたのだ。


「それは驚きましたよ。 まさか、瑠美さんまで黒夢の一員で、しかもナンバーズだったなんて」


「まあね〜。 でも、私だって光輝がブライトだって知ったのは白夢の件の後だったし、風香と遊んでた頃は知らなかったもの」


 ここで光輝は、会話に着いて来れず黙っている吉田が気に掛かった。


「……ところで、こちらの方は風香の同僚の?」


「……お久しぶりです、光輝様。 その節は、大変失礼な事を……」


 失礼な事と言われても、身に覚えがない光輝は首を傾げる。


「えっと……初対面ですよね?」


「あっ……失礼しました! 私は吉田成美です」


「吉田? えっと……成美さん? ……!? …………!?!? あの、もしかして随分とお痩せになられました?」 


「ハイ。 当時より更に身体を引き締めましたので、ちょっとだけ風貌が変わってしまいましたが」


 どこがちょっとだ!? と、ツッコミたくなるのを我慢しつつ、同性受けしそうな麗人に変身した吉田に驚きを隠せない光輝だった。



 その後、四人はキャンプの食堂に移動し、昔話で盛り上がりつつ食事を楽しんでいた。



「お〜? なんか懐かしい顔ぶれだな〜」


 そこへ、崇彦もやって来た。 ちなみに比呂は、崇彦と共に食堂まで来たのだが、この輪の中に入る資格はないと言って、割り当てられた自室に帰って行った。



「それにしても、まさか俺たちがアンノウンとの最終決戦に参加して無事生き残るどころか、光輝がメインとはいえアンノウンを倒しちまうとはなぁ。 学生時代には想像もしてなかったわ」


「そうだな〜。 俺なんかギフトに目覚めなくて腐ってたもん。 思えば、リバイブ・ハンターが発現してからは瞬く間に時が過ぎて行った感覚だな」


「私も。 まさか私が最終決戦のメンバーになるなんて思ってもなかったわよ」


「……私は、こうしてまた皆で集まれた……それだけで、これまでの苦労が報われましたけどね」


 風香の言葉に、しみじみとしてしまう光輝たち。



 そこから、話はここ最近のそれぞれの話題に移る。 途中から、崇彦が祝杯だと言って酒を飲みながら。


 まず崇彦が、何故黒夢のボスになったのかを語った。


「今だから言うけど、ボスは本当はおまえに黒夢を託したんだ」


「俺に? なんで?」


 崇彦は、ボスの部屋に置き手紙があり、そこに光輝を後継者にする事が書かれていたと説明する。


「でもさあ、光輝に新たな黒夢のトップは無理だろ? ただでさえ、ジレンさんとか多くのメンバーは今だに光輝の事を許せてないんだし。 それに、光輝は優柔不断なのに暴走しがちだし、周りをあんま見ないし、ぶっちゃけ組織のトップってガラじゃないじゃん? その部分だけ、ボスの目は節穴だったと思うぜ?」


 今だからこそ、崇彦も気軽に話せていたが、崇彦自身も桐生の決断に納得するまでは時間がかかった。


「……返す言葉もないよ……」


「それに……悔しかったんだ、俺。 ボスは俺にとっても父親みたいな存在だったのに、跡を託したのが全部光輝だったって事に。 だから、俺は俺が黒夢のトップになり、ボスを見返してやりたかったってのもあるな……。 俺が新たなボスで良かったろ? って」


 実際、崇彦が黒夢のトップとなってから、黒夢はフィルズとしてでなく国防軍に次ぐ力を持ったスペシャリスト集団へと成長していた。 それは、全て桐生の敷いたレールだったとはいえ、崇彦以外でこれ程スムーズにそのレール上を歩けた者はいなかっただろう。


「……ありがとうな、崇彦。 やっぱおまえは、お調子者で掴めない奴だけど、俺の親友だ!」


「お調子者ってなんだよ! 俺はこれでも、今は冷静沈着なボスキャラなんだぞ!」


 笑い合い、ふざけ合ってはいたが、光輝の目には涙が貯まっていた。 会ってない期間の蟠りがあったにも拘らず、また昔の様な関係で話せる事がとてつもなく嬉しかったから。



 次に、国防軍での風香の話題に移る。


「風香の頭の中は、いっっ……も光輝様でいっぱいで、その事で集中しきれないというか。 終いには梓たちにも誤解され、間に挟まれた私はもう板挟みでストレスから一キロ痩せてしまいました。 大体、将軍で隊長なのに、敬語はダメとか、仲良くしましょとか、一体誰がルールを作って対面を保ってたと思ってるんですか?」


「うう…………すみませんでしたぁ」


 主に吉田が華撃隊の様子を語ったが、出てくる言葉は風香に対する不満ばかり。 思い当たる事ばかりなので風香は何も言えず。


「……でもまぁ、最終的に光輝様と結ばれたんなら、私たち華撃隊のメンバー一同、祝福しますけどね」


 だが、吉田の……恐らく華撃隊全員の想いは、風香が光輝と結ばれて幸せになる事だったのだろう。


「……吉田さん、ありがとう……」


 その想いが伝わったのか、風香は一筋の涙を流しながら、吉田に礼を述べた。



 そして話題は光輝と瑠美の話に移る。


 カズールと合流し、アメリカ西海岸へ渡った事。

 スラム街でブレイカーズを結成し、悪党退治をしていた事。


「光輝って基本なん……にも出来ないのよ。 掃除洗濯食事の用意、全部まともに出来ないの。 ま、実は私もあんまりだから、そゆとこはウチの長兄であるパーフェクト超人が全部やってくれたんだけどね……」


 そして、そんなパーフェクト超人のカズールが、アンノウンとの決戦で光輝を庇い、この世を去った事に話が進むと……光輝も留美も俯いてしまった。


「ホント、カズールがいなかったら俺たち何も出来なかったよな……」


「うん。 あの人ってさ、あんな仏頂面なのに、身内には凄く甘くてさ。 私や光輝がどんな失敗しても、いつも笑ってた。 辛い時は、ただ傍にいてくれたりもしたし……」


 涙を流す二人に、崇彦もカズールとの会話を思い出す。


「そっか……。 カズールってさ、ドイツでも天涯孤独だったんだってさ。 で、シュトロームに捕まった研究所で、地獄を共有していた仲間が次々と亡くなったり、変わってしまったりするのを間近で見て来て、もし自分が自由の身になれたら、絶対自分の身内や仲間を大切にしようって決めてたらしい。 だから、光輝の事も凄く心配してた」


 カズールが光輝の生死を確認する為に日本へ来た際、最初に対応したのが崇彦だった。 そこで、崇彦は何故カズールが一度しか会った事のない光輝を気に掛けるのか聞いていたのだ。


「……そっか、だってカズールは最初、俺を殺しに来たんだぜ? あのデカブツを俺が殺したからって。 なのに、同じリバイブの能力者だって知った途端、ガラッと変わってさ…………」


 最後は笑顔で、カズールの極端な面を語り合い、笑いながら思い出話を語った。



 こうして、久しぶりに会った面々の近況報告会は、涙あり笑いありのまま酒も進み、夜が更けていくのだった……。

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