第154話 最強コンビ
光輝と比呂がアンノウン·リアルを、崇彦、瑠美、風香が残りのフェノムを相手する布陣をとる。
光輝がフラッシュを駆使し、アンノウン·リアルに接近戦を仕掛けた。
激しい打ち合い。 だが、光輝のスピードがアンノウンをやや上回り、攻撃をヒットさせる。
「リアルって言うからどれだけのものかと思ったけど、スプリットAと大して変わらない……なっ!」
光輝の廻し蹴りでアンノウン·リアルが勢いよくふっ飛ばされて壁を突き破る。
「グッ……人間ノ分際デッ!」
「これからその人間に負けるんだよ、おまえは」
「ウルサイ! 喰ラエッ!」
アンノウン·リアルが、スプリットも使ったデスボールを光輝に向かって放った。
「流石に何度も見たから、この攻撃はどうすれば良いのか分かってる」
ロンズデーライトの盾を創り、斜めに構え、デスボールの衝撃を流す。
「……な? こうすりゃノーダメージだ」
いとも簡単に言ったが、そんな事が出来るのは光輝以外ほとんどいないだろう。
「さて、スプリットAと同じ位の強さなら、別にもうサシで戦う必要も無いな。 比呂、奴の動きを止めてくれ」
「ああ。 でも、長い時間は拘束出来ないけど……光輝なら一瞬でも大丈夫か」
「何人集マロウガ、ゴミハゴミダ! カカッテコイ!」
「言うね〜。 比呂、じゃあ頼む」
「よし、ワールド·マスター!」
比呂がアンノウン·リアルの動きを支配出来るのは、ほんの一瞬が限界だった。
鬼島の攻撃は、威力は申し分ないものの、老いからかスピードが足りず、決定打を与える事が出来なかった。 だが、光輝なら……
「なんだこれ? あのアンノウンがまるでサンドバッグみたいじゃねーか」
比呂が動きを止め、光輝が殴る。 比呂が動きを止め、光輝が蹴る。
比呂は、鬼島ともジレンとも本領を発揮出来なかった連携が、面白い様にアンノウン·リアルにダメージを与えていた。
そんな光輝と比呂の共闘を、崇彦はフェノムの相手をしながらも感慨深く眺めていた。
「なんだアイツら。 長い事嫌い合ってたのに、あれじゃ世界最強タッグ決定リーグ戦を全勝優勝する勢いじゃねーか」
「何訳わからない事言ってんのよ。 ま、確かに凄いわね。 てゆーか、転移石があるんなら最初からあの二人を組ませて、アメリカもギリシャもどっちも二人に戦わせれば良かったんじゃない?」
勿論、そんな簡単な戦いじゃなかった事は瑠美も身を以て知っているが、それでも、そう言いたくなる程に光輝と比呂のコンビは異次元の強さを発揮していた。
「崇彦君、瑠美さん、光輝君たちなら絶対大丈夫ですから、私たちは私たちのやるべき事をやりましょう」
風香の言葉に、崇彦と瑠美も頷く。 目の前にはレベル10のフェノム。 決して油断などしてはいけない敵が残っているのだ。
「そうだな。 じゃあ、一気に片付けてやるか!」
崇彦のイビル・アイからレーザービームが放たれる。 しかも、そのレーザービームは消える事なく宙を踊り、フェノムたちを貫きまくる。 イビル・アイは、覚醒を経てパワーアップしていたのだ。
「やるわね、流石は二代目ボス。 こっちも負けてられないわ!」
瑠美が広範囲に雷を落としまくる。
「流石瑠美さん! 的が止まってると狙いやすくて良いですね!」
瑠美の雷で感電したフェノムを、風香の、ウォーター·マスターの氷の矢が貫く。
「クソっ、流石にレベル10は硬いな!」
「当たり前じゃん! あんなの、私たちが一人だったら太刀打ち出来るレベルじゃ無いんだから!」
「ですね。 でも、一人では無理でも三人なら、きっと勝てます!」
崇彦も瑠美も、風香も……。 死力を尽くし、最後の力を振り絞っていた。
一方、アンノウン·リアルと光輝·比呂コンビの戦いは、佳境へと突入していた。
「コンナ……マサカ、コノ私ガッ……!?」
アンノウン·リアルも、あまりにも一方的にやられる展開に理解が追い付いていない。
展開は一方的。 だが、比呂は改めて光輝の凄さを実感する。
アンノウンに対するには、どんなに奇抜なギフトも通用しない。 火力やスピードなど一方に偏ったギフトでも効果的では無いし、一撃で致命傷を負ってしまう様では話にならない。 最強のギフトと言われるワールド·マスターも、それのみでは火力不足でアンノウンにダメージを与えるのは無理だった。
アンノウンに対するには、パワー·スピード·ディフェンス能力の全てが、アンノウンと同等でなければ話にならない。 そして、全世界のスペシャリストの中で唯一、光輝だけがその条件を満たしてると言えた。
「よし、比呂! 一気にケリ着けるぞ!」
「……ああ! まかせてくれ!」
比呂は思う。 今、光輝と共に人類の存亡を懸けて、共に戦っている。 互いが認め合い、肩を並べて。
光輝の隣で、共に戦う……。 そんなポジションに立っている今こそ、比呂が長年憧れ続けた、夢見た瞬間だった。
今まさに、決着を迎えようとしている。
その状況を、第一次ハルマゲドンの生還者である財前とジョシュアが、じっと見ていた。
「桐生が、ブライトに全てを託した理由が分かったよ。 ブライトは、完全に桐生やエルビンを超えている」
ジョシュアは、光輝が英雄である桐生やエルビンを凌ぐ強さだと認めざるを得なかった。
「……桐生が生きていても、真田との連携で今頃ギリシャのアンノウンは倒せていたハズだ」
それでも、財前は認めようとしなかった。 桐生が、自分の命よりも光輝を選んだ事を。
「いい加減に認めろよ。 ただ……あれは本当に、ハルマゲドンで兄たちが戦ったアンノウンなんだろうか?」
ジョシュアの疑問。 それは、実際に対峙した鬼島も感じていた事だった。
「……充分驚異的な強さだ。 だが……確かに、俺たちが見たあの時のアンノウンは、もっと桁外れのオーラを纏っていた。 それこそ、俺や貴方ではまともに立ってられない程にな」
財前も同じ。 アンノウン·リアル、アンノウン·スプリットは、共に破格の強さを誇っている。
だが、それでも第一次ハルマゲドンの時の初代アンノウンを見た、戦った経験のある三人ともが、今回と過去のアンノウンとでは強さが違うと感じていた。
「これが杞憂であって欲しいが……まだ油断は出来んな。 この戦いに勝利した後も……」
ジョシュアの不安をよそに、決戦はいよいよ決着を迎えようとしていた。
「いくぞっ、ワールド·マスター!!」
「クソッ、小癪ナアアアッ!?」
またも、動きを制限されるアンノウン·リアル。 ほんの一瞬なのに、その僅かな時間が、アンノウン·リアルにとって致命的な隙となる。
「これで終わりだっ! フラッシュブレイドォッ!!」
閃光が、アンノウン·リアルを突き抜ける……。
「バ……バカナッ……コノ、私ガ……」
「スプリットにも言ったが、後は人間を信じてくれ。 もう、この星を壊す様な行為は、この俺が絶対にさせないから」
「グッ……クックックッ……貴様ラナド、信ジラレルカ。 ……コレデ終ワッタト……思ウナヨッ! 貴様ラガ封印シタ我ガ主·アンノウンハ、トウニ復活シテルノダカラナ!」
「何? どういう意味だ?」
「クックックッ……貴様ラノ、絶望スル顔ガ、目ニ浮カブハ! クアッハハッ……」
そして、アンノウン·リアルは、粒子となって爆散した……。
着地した光輝に、ギフトの多用で肩で息をしながら、比呂が近付いた。
「光輝、流石だな」
「おまえこそ、本当に腕を上げたな」
そして、笑みを浮かべながらハイタッチをした。
……アメリカ同様、フェノムたちもゲートに吸収されて消え去った。
「ふうーっ! 終わったかー!」
安心して寝転ぶ崇彦。
「私、無傷で済んだのが奇跡みたいな戦いだったわ。 でもこれで、全部終わったよって、カズールと薫子に報告出来る……」
瑠美も、安堵から涙を流す。 もう、カズールの死を悲しんでも大丈夫だと。
そして風香は……
「光輝君!」
戦いを終えた光輝に勢いよく抱き着いていた。
「風香、怪我してないよな?」
「うん、大丈夫」
「そうか。 じゃあ、後始末を済ませるか……」
光輝は風香の頭を優しく撫で、崇彦たちの下へと向かう……。
アメリカとギリシャの上空に出現したゲート。
そこから現れたフェノムの大群とアンノウン。
人類の存亡をかけた戦いは、多くの犠牲を出しながらも、漆黒の悪魔·闇の閃光ブライトの活躍により、人類の勝利で幕を閉じたのだった。
「……崇彦」
神妙な顔つきで、光輝が崇彦の前に立つ。
「ん? もうそういうのいーから、何も言うな。 世界を救った英雄さんに今更謝られても困る」
光輝は、桐生を死なせてしまった事を、機会があれば崇彦や黒夢のメンバーに、自分の口で説明して謝罪したいと考えていた。
だが、それを崇彦は遮った。
「とりま、そろそろクロノスさんが出てくるから、皆を治療してくれよ……っと、噂をすれば……」
崇彦が喋り終える前に、ディメンジョン·ボックスからクロノスが姿を現した。
「久しぶりだな、ブライト」
「クロノスさん……お久ぶりです」
クロノスは黒夢本部に顔を出す事がほとんどなかった為、二人がまともに喋るのは今回が二度目だった。
「ボスの事は……」
「謝るな。 謝れば、桐生の決断を否定する事になるぞ。 現におまえは、桐生の代わりに人類を救ったんだからな」
クロノスもまた、光輝の謝罪を拒否した。 崇彦同様、決して蟠りが無い訳ではないが、自らの命よりも光輝を救ったのは桐生が自分で選んだ道なのだと理解していたから。
クロノスは次々と戦闘不能に陥った者たちを異空間から表に出す。
ジレン、セブン、クロウのナンバーズだけでなく、鬼島や仙崎、吉田などの国防軍。 ヨーロッパのスペシャリストなど総勢一五名。 そこには、クロノスとは遺恨のある霧雨の姿も。
「治せるか?」
「ハイ、やってみます」
光輝は、まだ意識を失っているジレンたち一人ひとりに、セル·フレイムを発動して回復させる。
「……ここは? アンノウンは!?」
まず最初に目覚めたのはジレンだった。
「戦いは終わったよ、ジレンさん。 アンノウンはブライトがやっつけましたよ……ボスの遺言通りにね」
崇彦の言葉を受け、ジレンは光輝を睨む。
「お久しぶりです、ジレンさん」
ジレンは黒夢メンバーの中でも、特に光輝に対して怒りを抱いていた。 だが……
「俺は、おまえを許そうとは思わん。 だが……ボスの考えは正しかったんだと証明してくれた事には感謝する」
俯きながら、そう呟いた。
「……ええ、俺は黒夢の皆には一生恨まれても仕方ないと思ってます……」
次に、鬼島が目を覚ました。 鬼島は辺りを見渡し、光輝の存在に気付くとの、全てを察して笑った。
「ガッハッハ! やはり老いぼれの出る幕ではなかったのう。 それにしても、あのアンノウンを倒すとは……大した奴じゃな、おまえは」
「いえ、鬼島さんたちがアンノウンを弱らせてくれてたからですよ」
「謙遜せんでよい。 ワシの攻撃など、まともに当たりもしなかったんじゃからな。 それにしても……風香、なんでブライトとくっついてるんじゃ?」
風香は今も、光輝の腕を掴んで寄り添っていた。
「え? べ、別にくっついてなんか……」
「ふむ……。 ブライトよ、孫が欲しくば、このワシを倒してからにせい……」
「えっ? その……」
「お、お祖父様! 無理しないで下さい!」
たった今復活したとは思えない威圧を放つ鬼島に、光輝は焦りを隠せなかった……。