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第152話 憧れのヒーロー

 ――時を遡り、ギリシャ



 アンノウン·リアルが現れ、瞬く間にリバイブ・ハンター井上が殺された。


 その圧倒的な強さに、多くのスペシャリストたちは動揺を覚えながら、アメリカと同じくレベル8より上のフェノムが大挙し、乱戦となる。


 当初の財前の命令通り、鬼島とその弟子の比呂がアンノウンと。 他のスペシャリストたちは、フェノムと。



 強大なフェノムを相手に戦況は一変し、一人、また一人と、スペシャリストたちは倒されていく。 そして、日本のスペシャリストたちも。


 まず白夢の弦慈と世音が倒れ、国防軍大将の田村と桜庭も戦闘不能に陥った。


 次にナンバーズから、クロウがレベル10のフェノムと相打ちとなり倒れる。


「クロウ! おのれ……ヴァンデッダ、俺はワールド・ディメンジョン・ボックスの中で負傷者の治療にあたる! 重傷者から随時運んで来てくれ!」


「わかったわ! 流石にレベル10のフェノムに私のギフトは通じないみたいだしね!」


 この時点で、クロノスは仲間の治療の為戦線から離脱し、ワールド·ディメンジョンに負傷者を一時避難させる。 そして、そのサポート役としてヴァンデッダも。



 更には華撃隊の吉田も、致命傷を負って離脱してしまった。


「風……香……」


「吉田さん!」


 血だらけで倒れる吉田を、風香が抱き起す。


「私は……いいから、必ず……勝って、光輝様と……」


 そこへ、負傷者をサポートする為にヴァンデッダがやって来る。


「これは……危険な状態ね。 直ぐにクロノスの下に運ぶわ」


「よろしくお願いします ……ヴァンデッダさん」


「……どうやら立ち治ったみたいで安心したわ、水谷風香さん。 あの時はごめんね」


「あの時は敵対関係にありましたから……それに、光輝君も生きてますし」


「フフフ……じゃあ、絶対にこの戦い、勝たなきゃね」


「ハイ……吉田さんの事、頼みます」


 こうして、吉田もまた、ワールド·ディメンジョン内で生死を彷徨う事態に陥ってしまった。



「水谷! 吉田が気になるのは分かるが、ボヤッとしてる暇はないぞ!」


 仙崎に声を掛けられ、風香も戦線に復帰する。


 そして、残された風香、霧雨、ジレン、仙崎の奮闘で、なんとかフェノムに対抗していた。



 一方、鬼島と比呂は、師弟による連携でアンノウンとも互角に渡り合う。


 比呂のギフトでアンノウン・リアルの動きを制限し、その間に鬼島が攻撃を繰り出す。 クリーンヒットこそ与える事は出来ていなかったが、間違いなく戦況を優勢に進めていたのだが……アンノウン·リアルが形態変化すると戦況は一変する。


「小癪ナ人間ドモメ……調子ニ乗ルナ!」


 パワーアップしたアンノウン・リアルに、比呂の支配が僅かしか及ばなくなる。 一瞬は足止め出来ても、鬼島の攻撃が全く当たらなくなってしまったのだ。


「真田……このままじゃ埒があかん。 後は頼んだぞ」


「師匠、まさか!?」


 鬼島が全ての力を振り絞り、鬼神拳の限界を突破する七式を発動し、アンノウン・リアルに特攻を仕掛けたのだ。


 だが……鬼島の拳はアンノウン・リアルを捉える事はなく、逆にカウンターでデスボールの直撃を喰らってしまった……。


「グハッ……老いとは……虚しいものじゃ……のう……」


「師匠!!」


 鬼島が敗れ、戦闘不能に陥ってしまった……。



 鬼島を失った事で、比呂の己の弱点でもある火力不足が露呈。 一気に戦況は不利になった。


「鬼島さん! おのれ~!」


 ここで、仙崎がアンノウン・リアルとの戦いに加勢に入るも、自身のギフト、ワールド・デリートがリアルの攻撃に無効化され、粘りはしたものの、最期は比呂を庇うようにして倒れた。



 鬼島と仙崎、二人の実力者が倒れた事で、もう駄目かと思われたその時、遂に一人の男がベールを脱ぐ。 これまで戦わずに逃げ回っていたセブンが、勝負を懸け、ラッキーセブンを発動したのだ。


「俺なんかじゃ力不足かもしんねーけど、ここで戦わなきゃ男じゃないっしょ!」


 そこで、比呂は不思議な体験をした。 どれだけセブンが無謀な攻撃を仕掛けても、不思議とアンノウン・リアルに攻撃がヒットし、アンノウン・リアルの攻撃も、まるで運が味方しているかの如くセブンを避けていくのだ。


「なんなんだ? 運……なのか?」


「へっへーん! これが俺のギフト、ラッキー・セブンだ!」


 ……だが、セブンの快進撃は唐突に終わりを告げる。


 ラッキーセブンは決して万能なギフトではない。 リアルが必殺のデスボールを放つと、ラッキーが発動して尚、セブンは余波によるダメージで気絶。 ギフトが解除されてしまった。 これは、ラッキーセブンが発動していたからこそ、気絶で済んだのかもしれない。



「クッ……どうやら劣勢だね……。 桐生さん、勝手に死んだりして、恨みますよ!」


 そして、桐生の意志を継ぐ意気込みでリアルに立ち向かった霧雨も、手持ちの影の軍勢ではアンノウン・リアルに対抗出来る術も無く、本体である自分が攻撃を受け、戦闘不能に陥ってしまった。



 残された人類側は、比呂、風香、崇彦、ジレンの他一○名。 対するフェノム側は、リアルの後ろにまだ数十体のフェノムがいる。


 絶体絶命。 それでも、比呂、風香、ジレンは諦めなかった。


「真田! 俺たちのギフトを操作して、的に当てろ! いくぞ、水谷!」


「ハイ! 真田君、お願い!」


「ああ……ワールド・マスター!!」


 ジレンと風香が、ありったけの体力を使い、マグマと風を巻き起こし、それを比呂が操作してリアルにダメージを与える。


「オノレッ……コノ私ヲ……舐メルナッ!!」


 反撃に出るアンノウン・リアルは、標的を風香に定め、集中攻撃を開始したのだ。


 無数に放たれるレーザービームの群れ。 虚を突かれた風香に、逃れる術はなかった……。


「……チッ、女を狙う奴は……許せない性分なんでね……」


 ジレンが、風香の目の前で全てのレーザービームを食い止めて見せたのだ。 その代償として、戦闘不能に陥ってしまったが……。



 気が付けば、立っていたのは比呂と風香、そしてフェノムを相手にしていた崇彦のみ。


 アンノウン·リアルはダメージを受けつつもまだ余裕が感じられるし、レベル10のフェノムも五体、その他のフェノムもまだ一○体以上。



「風香君……君は、逃げろ」


「……そんな訳にはいかないでしょ?」


「そうだな、風香はもういいだろ? 光輝と、一緒になるんだろ? アイツの事だから、今頃は向うでフェノムどもを殲滅してるだろうし。 だったら、おまえは生き残らなくちゃ」


 比呂と崇彦が、風香に撤退を進言する。 だが、風香は引かなかった。


「ここで自分だけ逃げて、それで光輝君と一緒になっても、私は幸せにはなれません。 私は、逃げずに戦い、光輝君に誇れる自分でいたいから」


 風香の意志が固いと知り、比呂も崇彦も苦笑いを浮かべる。


「まったく、頑固だね〜。 誰に似たんだか」


「そっか……。 じゃあ、光輝の為にも勝たないとな」


「ですね。 あと、私はまだ貴方を許した訳ではありませんから。 華撃隊の皆も」


「……そりゃそうだよね……とりあえず、こいつ等を倒したら、あらためて皆に土下座でもするよ」


「フフフッ、多分それでも許しませんけどね」


「なんだかな〜。 おまえらと一緒にいると、こっちまで緊張感がなくなっちまうぜ」


 追い込まれた状況にも拘らず、笑みを浮かべる三人。 状況は変わらず絶望的。 どんなに虚勢を張っても、三人はアンノウン·リアルを倒し得る一手が想像出来ないでいた。



 このレベルになると……と言っても最強レベルなのだが、ワールド·マスターはやはり火力不足なのだ。 あのエルビンも、鬼島や桐生が一緒だからこそギフトが活きたのだ。 今回の場合、鬼島が倒れた時点で詰んでいたのかもしれない。


(俺の鬼神拳を超える圧倒的な攻撃力……。 光輝だったら、コイツを倒せてたのかな……?)


 比呂の胸中には、光輝に対する嫉妬と、それ以上に尊敬の念が生まれる。 やっぱり、自分では光輝に叶わない。 そんな光輝が誇らしいと。



 だが……比呂はまだ、切り札を隠し持っていた。 ただ、それを使えば自分の身も無事では済まないだろう。

 例えアンノウンを倒せても、まだハイレベルのフェノムが大勢いるのだ。


(それでも……やるしかないな……)



 比呂が覚悟を決めた……その時、空から一筋の光が挿し込み、四人の人間が出現する。


「!? ……ハハハッ、このタイミングで現れるなんて、ホント、おまえは根っからのヒーローだよ」


 比呂の顔に浮かぶのは安堵。 それ以上に、子どもの頃から憧れたヒーローを見る羨望の眼差しだった。



「……我が名は、闇の閃光·ブライト。 全てに決着を着ける者だ……」

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