第151話 決着
光輝とスペシャリストたちが奮闘する中、瑠美と薫子も戦列に加わる。
「へぇ〜、スペシャリストたちも少しはやるじゃない。 だったら、私たちも負けられないわよ!」
「ハイ! お姉様!」
瑠美が広範囲に雷を落とすも、流石に高レベルのフェノムは一撃では倒し切れない。
だが、痺れて硬直しているフェノムに、追撃で薫子がギフトを複数発動して直接トドメを刺していく。
「やるじゃん、薫子!」
「カズール兄さんに託されたんですから、これぐらいは!」
次々と、瑠美と薫子のコンビがフェノムを殲滅していくのを、精鋭部隊の面々も黙って見ていられなかった。
「チッ、女子どもに負けてられるかーっ!」
シヴァ、ジョーン、ケアールマンもまた、瑠美と薫子に触発されて最後の力を振り絞る。
「やるな、これは私も負けてられん!」
ヒクスンも気力を振り絞り、次々とフェノムをしとめていった。
……その頃、スペシャリストたちは夢中になっていて気が付いてないが、レベル10でも飛び抜けた力を持つ最強のフェノムが、何もせずに後方に控えていた。
ゴッドジーラ。 身長五○メートルを越す巨大な身体を持ち、これまで一度も姿を現した事の無い未知のフェノム。
ゴッドジーラが一度放射能のブレスを吐き出せば、この場にいる多くのスペシャリストは瞬殺されてしまうだろう。
その硬い皮膚は、どんな攻撃も弾き飛ばしてしまうだろう。
ある意味、スプリットよりも厄介な敵と言えた。
なら何故、ゴッドジーラが後ろに控えて動かないのか……。 それは、既に死んでいたから。
誰が殺ったのか、誰も見ていない。 でもその身体には、無数の穴が空いていた……。
ゴッドジーラを殺した男は、一人離れた場所で、光輝とスプリットを見つめていた。
「……やべ〜……なんか、面倒な事になって来たな……」
……光輝は、スプリットと向かい合っていた。 瑠美たちとスペシャリストたちの奮闘で、今は邪魔はいない。
光輝は、スプリットのデスボールによって肩や脚などに大きなダメージを負っている。 他にも何度か被弾しているので、決して万全の身体ではない。
そしてスプリットは、その、身体の性質上、表向きにはダメージは見受けられないが、何度も光輝の攻撃を被弾しているので、内部的なダメージは光輝よりも深刻だった。
「さて、そろそろケリ着けようぜ、分体」
「貴様ラ人間ハ、ドレダケコノ星ヲ蝕シバメバ気ガ済ムノダ!」
「なんだい? 急に泣き言か?」
「ウルサイ! 貴様ラハ、タッタ二○〇〇年ノ間ニ自然ヲ破壊シ、空気ヲ汚シ、イタズラニ種ヲ絶滅サセタ。 貴様ラ人間コソガ滅ビルベキナノダ!」
光輝は、胸の中ではスプリットの言葉に一定の理解を示す。
「確かに、この地球に意思があるとするならば、自分たち人間は害なんだろうな。 人間を創り出したのはこの地球で、邪魔になったからおまえらを創り出して人間を排除しようって事なんだろ?」
「ソノ通リダ。 ソコマデ分カッテルノナラ……」
「でもな。 人間は人間なりに生きてんだよ。 この地球が、俺たち人間に不満があるって言うのは分かったよ。 この戦いが終わったら、必ずその事実を全世界に俺が伝えてやる。 必ず、この地球を尊び、守れる人類にする努力を促すよ。 だから、もう一度だけ、人類を許してくれないか?」
「モウ一度ダト? 我々ハ、前回ノ降臨デ一度人類ヲ見逃シテヤッタダロウ。 ナノニ、人類ハ変ワラナカッタデハナイカ? 二度目ハ無イ!」
前回の最終決戦で生き残ったメンバー……得に鬼島とジョシュアは、その事実を公表すべきだと主張した桐生や財前の意見を抑え込み、隠蔽した。
結果的に、人類は能力者と無能力者で争いが絶えず、自然と生態系を破壊し、この地球を更には失望させてしまったのだろう。
「俺は……俺は、人類を信じる。 全てを知れば、反発する者も、絶望し自棄になる者もいるだろう。 それでも、人類は必ずこの地球を良い方向へと導いてくれると、俺は信じる」
……スプリットは、光輝の言葉に、目に、強い意志を感じた。 この男なら、信じても良いのかもしれないと。
「……クックックッ……人類ガ皆、貴様ノ様ナ人間バカリダッタノナラ、信ジヨウト思ッタカモシレヌ。 ダガ、全テヲ決メルノハ私デモ、リアルデモ無イ、コノ星自身ダ。 私ハ、私ノ役割ヲ果タスマデ……」
「そっか……なんか、最後の最期で、ちょっとだけアンタとも分かり合えるのかもって思ったけど……しょうがないか。 なら、俺は俺で、役割を果たすだけだ」
お互いが、次の……最期の攻撃に備え、力をためる……。
そのあまりにも強大な二つのオーラに、スペシャリストたちはおろか、フェノムたちまで固唾を飲んで、二人の戦いの結末を見守っていた。
だが、ここで思わぬ乱入者が現れる。 猛スピードで光輝に向かって突撃する、カイザードラゴンだ。
誰もが油断していて動けない。 光輝も、突然の乱入に一瞬気を取られる。
「光輝兄さんの、邪魔をするなーーっ!」
こんな事もあろうかと、しっかり一分間の準備を終えていたゴールデン·スターを発動し、黄金に光輝く薫子はカイザードラゴンに突進し、そのまま頭で突っ込んだ。
「薫子!?」
「光輝兄さんはスプリットに!」
小柄な薫子にふっ飛ばされたカイザードラゴンに、薫子の追撃が襲いかかる。
「これが、カズール兄さんに貰った力だーっ!」
強烈なアッパーが、カイザードラゴンの頭部を顎ごと吹っ飛ばした。
光輝が一瞬気を取られた間に、スプリットが頭上に、先程よりも一回り大きく、強大なデスボールを作り出していた。 もし、地面に激突すれば、恐らく辺り一面を無と化す程の威力だろう。
「コレデ最後ダ!」
そして、そのデスボールを、光輝に向かって放った!
「とんでもない攻撃出しやがって……」
避ければ地面に激突する。 かといって、どんなに強固な盾を作ろうとも、そのデスボールを防ぎきる事は出来ないだろうと判断した光輝は、全身をロンズデーライトで武装。 更には両手に分厚い鋭利な盾を創り出す。
「ウオオオオオオオオオオオッ!!」
そしてフラッシュを発動。 デスボールに、真正面から突っ込んだ!
「光輝!?」
「光輝兄さん!!」
「ブライトッ!!」
瑠美と薫子、スペシャリストたちが、あまりにも無謀な光輝の突撃に思わず声を上げる。
「馬鹿メ! 自ラ死ヲ選ンダカ!?」
「誰が死を選ぶって? 俺は、自分の意思で死ぬのが、大っ嫌いなんだよ!!」
光輝の鋭利な盾が、デスボールを貫く。 そして、貫かれたデスボールは、幾つにも分散し、弾け飛んだ。
「ナ、ナンダト!?」
「これで……終わりだああぁぁっ!!」
鋭利な盾は、デスボールとの衝突で削られ、完全なる刃へと形を変えていた。
そして……スプリットの腹を貫いた……。
「グギッ……マサカ……コノ私ガ……」
「……俺も死にそうだけどな」
貫いたとはいえ、デスボールに突進した光輝も、大ダメージを負っていた。
「オマエ……ソウカ、分カッタゾ……ソノ力、貴様ハ、ムシロ我々ノ……」
「さっき言った事は守る。 だから、安心して消えてくれ……」
「クッ……クックッ、星ノ意志トハ、ママナラヌモノヨ……。 貴様ガ、ドンナ結末ヲ迎エルノカ……見届ケラレナイノガ、残念ダヨ……」
そう言い遺し……スプリットは、爆発する様に、粒子になって消え去った……。
生き残った光輝が、地面に降り立つ。
誰もが唖然とする中、光輝は天に拳を突き出した。
「アンノウン·スプリットは、この手で倒した! この戦いは……俺たち、人類の勝ちだっ!」
そして、勝鬨を上げる。
高ランクのフェノムはまだ大勢残っている。 なのに、人類の誰もが喜びの歓声を上げた。
だが、フェノムたちも動かなかった。 自分たちの大将が……自分たちが敗れたのを悟った様に。
「光輝っ!」
瑠美が光輝に駆け寄り、怪我の具合を見る。
「大丈夫だよ。 致命傷は負ってないから、このぐらいなら自分で治せる」
光輝の無事を確認した瑠美は、涙を流して光輝に抱きついた。
「……まったく、無茶ばっかり……」
「ワリィ……瑠美、見てみろ」
光輝が、ゲートの方を指差す。 ゲートはブラックホールの様に、まだ生き残っているフェノムたちを吸い込み、そして消え去った……。
またも、大きな……大きな歓声が上がる。
最終決戦の、最終決着を確信して。
「……さあ、カズールを迎えに行こう」
「……そうだね。 カズールに、勝てたよって、ちゃんと報告しないとね!」
「…………」
勝利したにも拘らず、笑顔を浮かべずカズールの死を悲しんでいる薫子の頭に、光輝が優しく手を置く。
「さっきは助かったよ、薫子。 カズールも……俺たちの兄貴も、きっと喜んでるぞ。 だから、笑顔で見送ろう」
「……うう…………わ、わかりました!」
大粒の涙を流しながら……薫子も、瑠美も、無理矢理に笑顔を作った。
そんな光輝も、溢れ出る涙を堪える事は出来ていなかった……。
※突然ですが、明日はお休みして火曜日に更新します!誠にスンマソン!