第15話 黒光りした鎧の男
遂にローファン日間1位!読んで頂き、そして評価・ブクマ・感想してくれた皆様、本当にありがとうございます!
今後も、皆様に楽しんで頂ける作品に出来る様、毎日更新頑張ります!
※街を徘徊してる時の光輝の服装の描写が分かりづかったので追記しました。
※母親との会話を追加しました。
あれからも、光輝は夜な夜な街に繰り出したり警察署の前で様子を見たりと、通りすがりの正義の味方として行動していた…のだが、そんなに頻繁に事件が発生してる訳でも無く…。
一応、街でナンパされていた女性を助けたり、恐喝されていた男性を助けたりはしたものの、光輝の姿を見ただけで変質者に関わるのを避ける様に加害者側が逃げる始末…ついでに被害者側も逃げていく。
と云う訳で、中々求めていたトラブルには遭遇する事が出来ずに一週間が過ぎようとしていた。
部屋の中で、光輝は今夜も街に繰り出すか悩んでいた。
(…ん~、正義の味方ムーヴは確かに楽しいんだけど…簡単過ぎて全然ギフトの練習にならないんだよなぁ。こんな事なら、また森で自主鍛練でもしてた方が良い気もするんだが…)
この一週間、自分が強くなったか?と考えると、然程強くなったか実感は無い。例え一人でも、特訓していた頃は毎日成長を感じられていたのに。
(よし!考えてても仕方がない。今日を最後に何も得る物が無かったら、明日からは自主鍛練に戻ろう)
そうと決めたら早速お決まりの装備に着替えようと考える。が、その前に少々小をもよおしたので、急いでトイレへ向かうと、そこで母と遭遇してしまった。
「あら、光輝。どうしたの?そんなに急いで?」
「え?見れば分かるだろ?トイレだよ、トイレ」
「ま、そりゃそうね。…ところで、最近何かあった?」
急に聞かれて考える。何かあったかと聞かれても、上手く説明のしようが無い。
「なんだよ、いきなり」
「ん?なんか…最近生き生きとしてるって云うか…そんな気がしただけよ」
「それだけ?~とりあえず、漏れるから」
会話を強引に打ち切ろうとした光輝に、母は尚も声を掛けた。
「なんか良い事があったのなら、それはそれで良いわ。でも、アンタは昔から調子に乗りやすい所があるから気を付けなさいよ?」
「分かったって!」
話もそこそこに、トイレに入る。
(…家ではあんまり変わった素振りは見せて無かったハズなんだが…流石は母ちゃん)
そんなこんなで、トイレから戻り、いつもの装備に着替えると窓から飛び出した。
街を徘徊する…。現在はニンジャースタイルだと流石に痛い人なので、普通にマフラーを首に巻いている。
歩けども、トラブルらしき火種はどこにも転がっている気配はない。
すると……
「光輝?」
…嫌~な声に呼び止められ、光輝は後ろを振り返る。そこには、皮被り糞野郎こと真田比呂が立っていた。
「…よう。塾の帰りか?」
「いや、塾なら国防軍に入隊した時点で辞めたよ。光輝だけは知ってるだろうけど、僕はもう勉強するよりも大切な立場に身を置いてるからね」
そう言って少しだけ笑みを浮かべる比呂。前はその笑顔が謙遜してる様に見えていたが、その胸の内を考えると今はムカついて仕方がない。
「…そっか。だったら、お前がこんな時間に街中を彷徨ってるなんて珍しいな。なんかあったのか?」
感情を圧し殺し、友人として接する。すると…
「…実は、軍から出動命令が下ってね。今から基地に向かう所なんだ」
「出動命令?だってお前、年齢的にまだ新兵…どころか見習いみたいなもんだろ?」
「まあ、本来の新入りならそうなんだろうけどね。俺は持ってるギフトが特殊だから現場の経験を積まされてるんだ。それに、今回の命令の内容…詳しくは話せないけど、どうやらこの近くで問題が発生したらしいんだよ。
だから、光輝も早く家に帰った方が良いよ。…あ、もうこんな時間だ!ヤバい!じゃあな!」
言葉の節々に自分への自慢エキスを感じた光輝は、良い機会だから比呂で実戦訓練してやろうかとも思ったが、そんな事より国防軍からの出動命令が気になっていた。
(国防軍が動くのって、警察じゃ対処出来ない様な問題が起こった時だよな……ニヤリ)
…期待に胸を高鳴らせながら、光輝は警察署までやって来た。すると、比呂が言ってた通り、何らかの問題・事件が発生したのだろう。何やら慌ただし気に警察官が大勢出動していた。
(大掛かりだな…。一体何が?)
物影に隠れ、耳を澄ます。
「こちらフィルズ対策室!今から現場に向かいます!捕獲対象は囚人ナンバー1031!先程新東京刑務所から脱走が確認されてます!至急、国防軍にも応援をお願いします!」
(…刑務所から脱走?あれ?いつだったかテレビで見たけど、新東京刑務所って、ギフト能力を利用して絶対に脱走不可能って言われてなかったっけ?なるほど、テレビの誇張表現だったんだな…)
そこで、光輝は考える。待ちに待った野良フィルズとの遭遇のチャンス。今は変装もしているし、先回りして倒しても警察に目を付けられる心配は無いのでは無いか?と。
よくよく考えればそんな訳は無いのだが、姿をカモフラージュしている事で少しだけ強気になっていたし、最近退屈だった事も影響して、光輝はこの機会を逃すまいと考えたのだ。
(まだ国防軍は来てないみたいだし、ちょっと行ってみようかな)
そんな軽い気持ちで、パトカーの後を追う事にした…。
現場は光輝がいつも訓練をしている森に程近い廃虚だった。
物陰に隠れて建物の中の様子に耳を澄ませる…。
数年は人が住んで居ないであろう古びた洋館の前には、既に数台のパトカーが停めてあり、先程までは建物の中から拳銃の発砲音が鳴り響いていたが、今は辺りを静寂が包みこんでいた…。
(静かになったな。これ…警察は多分全滅したって事なのかな?…だとすると、かなり強い野良フィルズがこの中にいるって事か…)
自然と笑みを浮かべる。警察が全滅したのなら、今は邪魔する者はいない。思う存分、自分の力を試せる機会を得たのだから。
自分に目覚めたギフト能力は、間違いなく有能だと確信している。元々、様々な武道を通して培った戦闘スキルとも相まって、自分の力を過信していた。それを、光輝は直ぐに思い知らされる事になる…。
建物に入ると、広い一階ロビーのそこかしこに警察官の死体が転がっていた。
「おえっ…」
死体は頭部が潰れていたり、腹に穴が空いていたり…、光輝にとっては見慣れない物だった上に、血の匂いが充満していて少しだけ吐き気をもよおした。
「誰だ?どうやら警官じゃあ無いみたいだが…」
すると、ロビーの真ん中にある階段の上から声が聞こえた。
…その男は全身を黒光りした鎧に身を包んでいた。そして、どこからどう見ても強者の風格が漂っていた。
「…ああ、俺は警官じゃ無い。脱走した野良フィルズがいるって言うから見に来てみたんだけど…」
光輝はその男を見た瞬間から、自分の取った行動が浅はかだったと後悔していた。目の前にいる男には、絶対に勝てないと悟った。
今思えば、あの黒崎もかなりヤバイ相手だったし、それ以上に冴嶋も強者の風格を醸し出してた。でも、今目の前にいる奴からは、そんな冴嶋達が子供に見える程に圧倒的なオーラを感じたのだ。
「野良フィルズ?俺がか?馬鹿な…。だから追っ手にこんな雑魚共しか来なかったのか。フフッ…舐められたもんだ」
本当は間もなく国防軍が来るのだろうが、光輝は黙っていた。とにかく一刻も早くこの場を去りたかったから。
「ははは…で、ですね~。んじゃあ、俺は帰りますね?」
帰りたい。本気でそう思ったのだが、どうやら向こうにはそんな気が無かったらしい。
「待てよ小僧。俺の姿を見たんだ、逃がす訳無いだろう?」
「ははは、で、…ですよね~」
この男には絶対に勝てない。こんな化け物を相手にするなら、冴嶋と戦った方がまだ勝算があると第六感が警鐘を鳴らしている。
なのに、理解はしているのに…、いざとなったら自分がスピード・スターを発動して本気で逃げれば、逃げ切れるのではないか?と思ってしまった。
(ちょっとだけ…戦ってみるか?)