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第147話 アンノウン・スプリット

 対巨大フェノム用であるロンズデーライト·ロングソードの形状をショートソードへと変える。 こちらの方が手数が増すし、何より扱い慣れているから。


 フラッシュを発動、真ん中のスプリット……Aを貫くつもりの攻撃……が、スプリットAは難なく避けてしまった。


 と同時に、右から別のスプリット……Bが体当たりを仕掛けて来るが、光輝も対抗して身体と身体が激しくぶつかり合う。 光輝の動きが止まった一瞬を見逃さず、左のスプリット……Cがパンチを放つも、光輝は辛うじて腕でガードした。


 そして、両腕が塞がれ、身動きが取れない光輝の鳩尾に、真ん中のスプリットが前蹴りを入れた。


(グッ……やっぱ三人は厳しい!)


 自分を中心に竜巻を発生させ、その隙に大きく間合いを取った。



 今の攻防は、時間にすれば一秒に満たなかった。 それでも、スプリットの三体が如何に強敵かをまざまざと見せられた。


(あんな連携されたら、近接戦は厳しいか? でも、離れれば尚更ヤツラの好きにさせちまう気がするし……)


 一筋縄ではいかない敵。 思えば、そんな敵はいつ以来だろうと考える。


(ボスの時は自我を失ってたし……って考えると、比呂と風香の二人を相手にした白夢アジト以来か? 随分昔だなぁ……)



「おもしろい……。 かかって来い、この分体どもが!」


 インビジブル·スラッシュを三つ同時に放つ。 スプリットたちはそれぞれの方向に飛んで避けた。

 瞬時にフラッシュを発動し、スプリットBと一対一の状況を作った。


(流石に三対一じゃ分が悪いから……一人ひとり潰してく!)


「オーラオラオラオラオラァッ!!」


「小癪ナッ!!」


 互いが激しく打ち合うが、どちらもヒットを許さない。


(速い! し、強い! なら、これはどうだ!)


 スプリットBの身体を、黒き炎が包み込み、動きを一瞬だけか縛り付ける。


「くらえっ!」


 そしてロンズデーライトのショートソードを振り降ろそうとするも、スプリットAに脇腹を蹴られ、妨害されてしまった。



 武装していた為、ほとんどダメージを受けなかったが、光輝は軽く舌打ちをした。


「チッ……やり辛いな。 まだ、全然本気を出した雰囲気じゃないし……」


「諦メロ……。 貴様ラ人類ハ、一度滅ブベキナノダ」


「うるせーよ。 人間は、自分の未来は自分で決める。 テメーらはお呼びじゃないんだよ!」



 またも激しく交戦する光輝とスプリット三体。 その光景を眺めるしか出来なかった精鋭部隊は、今だ動けずにいた。


「三対一では、流石の兄弟も厳しいな……。 瑠美、行けるか?」


「ええ。 いつまでもただ見てるだけじゃいられないものね」


 カズールと瑠美が、精鋭部隊に先立って戦う準備を始める。


「お、おい、君たち、正気か? あんな戦いに参加したって、何にも出来やしないだろ?」


 ケアールマンが、戦いを挑もうとしている二人を、信じられないような表情で見ている。


「そう思うなら好きなだけそこでビビってれば? 私たちは、今日この日の為に準備をして来た。 どうやら貴方たちは違うのね」


「何言ってんだ! 俺たちだってそうさ! ただ、あんな桁違いな連中を……」


「御託はいい。 元より、俺たちブレイカーズは、アンタらには期待してなかった」


 瑠美の言葉を否定するジョーンに、今度はカズールが冷たく吐き捨てた。


 そんなカズールに、ケアールマンが悔しそうに呟いた。


「……あの戦いに参加するという事は、あのスピードに対応しなければならないって事だ。 あのブライトのフラッシュですら、アイツらにとっては対応可能なレベルで、加速系能力でも無い君たちが……」


「誰が加速系じゃないって?」


 カズールがギフトを……ランクA、ブースト·アクセルを発動する。


「俺とアンタらじゃあ死線を潜ってる数が違う。 ……まあ俺の場合、何度も死線の向こう側も見ちまってるがな」


 そう言い残し、カズールも戦いに加わった。



「スピードやパワーで勝てないなら、他の能力で勝つ。 それがギフト能力者の戦いでしょう?」


 瑠美がウェザー·コントロールを発動。 辺りに濃い霧が発生する。


「力が及ばなければ頭を使え……。 私のボス・桐生辰一郎がよく言ってたわ。 ……ま、そんなボスは誰よりも力を持っていたけどね」



 瑠美の発生させた霧は、スプリットたちの視界を妨げた。


 その間にカズールが光輝の下へと駆けつける。


「待たせたな、兄弟」


「すまん、最初は俺だけで戦って、ヤツラの弱点を見つけるつもりだったのに……予想と違った」


「な〜に、とてつもなく厄介な敵だと知れた。 それだけで充分。 じゃあ、プラン1だ」


 光輝が上空へとジャンプすると同時に、カズールがポイズン·フォーグと、ランクBのギフト、ナーバス·ヘモングを発動。 猛毒と神経毒が霧と同化し、スプリットたちを襲う。


「貴様ラノ毒ナド、我ラニハ効カヌ!」


 しかし、スプリットの状態に異常は見受けられない。 が、次の瞬間、スプリットBの頭上にショートソードを振り下ろした光輝が舞い降りた。


「……チッ、避けられたか。 でも、攻撃はちゃんと通るみたいだな」


 二重トラップからの攻撃すらも、スプリットBは避ける。 だが……地面には、斬られた左腕が転がっていた。


「小癪ナ人間ドモガ……」


 初めて、スプリットの声色が変わる。



「よし、カズール、瑠美、プラン2だ!」


 霧に乗じて、互いに透明化ギフトを持つ光輝とカズールの姿が消えると同時に、瑠美は霧を消し去った。


 突然姿を消した二人を、スプリットたちは首を振りながら探し始める。 まだ、気配を察知する事は出来ていない。


 すると、光輝たちに気を取られてるスプリットBに、瑠美が雷を落とす。 その雷を横に飛んで避けようとした先には……


「運が良かったな、俺で」


 カズールのマダー·アームが、スプリットBの脇腹を斬り裂く。 間髪入れずに反対方向から、姿を現した光輝がロンズデーライトでスプリットBの首を撥ねた。



「結局、どっちに飛んでも運が悪かったな」


 倒れたスプリットBを見下ろしてカズールが呟く。


 正直、プラン1と2がここまで上手く行くとは思ってなかったブレイカーズの面々にとって、無傷で一人倒せたのは幸運だった。



「ソノ程度デ我ラヲ……」


 その言葉に光輝は瞬時に反応すると、倒れたスプリットBの死体をロンズデーライトでグサグサに刺しまくった。


「キ、貴様!?」


 スプリットAとCが焦った様に光輝に向かって飛び掛かかる。


「邪魔はさせん!」


 カズールがギフトランクB+、アナザー·マントで光輝をスプリットBの死体ごと覆い隠し、自らもその場から離脱する。 すると、光輝がいた場所には誰もいなくなっていて、光輝と死体は数メートル離れた場所に移動していた。


 アナザー·マントは、覆った対象を別の場所にワープさせるギフト能力だったのだ。



 細切れになったスプリットBの死体を、光輝は更にクァース·フレイムの黒炎で燃やし尽くした。


「どうせおまえらは多少の傷や怪我は再生するんだろ? 残念だけど、そんなテンプレに乗っかってやる程、俺は甘くねーぞ」


 事実、あのままだったらスプリットBの首と腕は数秒で再生していた。 光輝は、スプリットAの反応でそれを確信し、咄嗟にトドメと言う名のオーバーキルを発動したのだ。


「ドウヤラ貴様ヲ甘ク見テイタヨウダナ。 今ノハ我々ノミスダ」


「ミスねぇ。 仲間一人失っといてミスで片付けるとは、可哀相じゃねーか」


「モウ、油断ハセン! 死ネ、人間ドモガッ!」


 スプリットの身体が一回り巨大になり、その身に纏うオーラはこの世のものとは思えない程に禍々しくなる。


「兄弟、ああなる前に一人は倒せて良かったな。 あれが三人だったすると……」


「……だな。 ここからが本番だ」



 気を引き締め直す二人とは対象的に、精鋭部隊……生き残った前衛·主力部隊のスペシャリストたちは、更に戦意を奪われる。


「しゃ、洒落にならん……」


 最早戦意など完全に消失してしまったジョーンとケアールマン。


「クソがぁ〜……」


 己の無力さを知り、悔しさで唇を噛み締めるジヴァ。


「分体といえど、これがアンノウンか……。 なるほど、第一次ハルマゲドンで英雄の三人は、こんな化け物と戦ったのか……」


 ヒクスンもまた、この戦はもう勝てないという言葉が、頭を過ぎっていた。


 第一次ハルマゲドンにて、最終決戦を、キャンプ内のモニターで見守っていたジョシュアは、複雑な心境を覚える。


「思い出した……これがアンノウンだ……。 桐生があれほど恐れていた理由が、今やっと分かった」


 ジョシュアは、決して楽観視していたつもりはなかった。 それでも、ヒクスンをはじめこれだけの実力者を揃え、桐生が全てを託したブライトまでいる現戦力ならば、必ずアンノウンを倒せると信じていた。


「兄さん……貴方は、こんな化け物と戦い、封印する事が出来たのですか……」



 本当に強い者は、相手の強さを測れる。 この場にいるスペシャリストたちは皆、世界有数の実力者だ。 だからこそ、自分たちとアンノウン·スプリットとの圧倒的なまでの実力差に、絶望してしまったのだ……。

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