第145話 開戦
……遂に、ゲートの渦からフェノムの大群が舞い降りて来た。 まずは全てレベル4以上のフェノムが……。
迎え討つは約五○名のスペシャリストによる前衛部隊。
流石に各国から集められた精鋭たちは、レベル4〜6のフェノムを相手に優勢に戦いを進めている。
「そこ! 危ないからどいて! ウェザー・コントロール……サンダー!!」
瑠美は大規模落雷攻撃で無数のフェノムを黒焦げにする。
「まだまだぁっ! 悪いけど、今の私はとにかくムシャクシャしてんのよ!」
八つ当たり気味に、瑠美の巻き起こす竜巻や落雷で、フェノムの大群は阿鼻叫喚。
仲間のスペシャリストたちでさえ、恐れをなして瑠美から距離を取るのだった。
光輝もまた、少し離れた場所にいて、瑠美の大量虐殺を見ていた。
「瑠美の奴、荒れてるな……。 なんか嫌な事でもあったのかな?」
そして、いよいよレベル7以上のフェノムが舞い降りて来た。 そのどれもが、単体で街一つ難なく崩壊させる事が出来る化け物たちだ。
「薫子、無理するなよ?」
「ハイ! でも……無理のない範囲でなら良いですよね? 皆さんが必死に戦ってるのに、私だけ守られてるのは申し訳ないので……」
「そうか。 なら、俺たちも必死で戦おう……でも、やっぱり薫子は無理するなよ?」
「ハイ! がんばります!」
相変わらずカズールは甘いなと思いながら、光輝は戦況を見つめる。
ハイレベルフェノムの登場により、争いは更には激しさを増して来た。
(さて……このまま黙って見てるだけってのも勿体ない。 決戦前の準備運動には最適だしな)
スペシャリストたちが必死で交戦している。 誰もが、命を懸けて。 それに触発され、光輝も戦場へと飛び込んだ。
「久々に、思う存分暴れるか!」
インビジブル・スラッシュが敵を両断し、フラッシュで加速したロンズデーライトでの近接攻撃で敵を次々なぎ倒す。
傍から見れば、もはやどちらが化け物なのか分からない程、光輝の力は圧倒的だった。
戦場を駆ける漆黒の悪魔を、待機する精鋭部隊のメンバーも驚きを隠せなかった。
「あれが漆黒の悪魔か……。 噂に違わぬ強さだな……」
アメリカナンバー2のケアールマンですら、遠目からなのに光輝の動きを目に捉えるのがやっとだった。
「チッ、あんなもの、捕まえりゃどうってこたねえ」
ジヴァが不満げに唾を吐く。
「ハッハッハ、鈍くせえオメーじゃ、一生ブラザーには触れる事も出来ねーよ」
「んだとテメェ!!」
フランキーにおちょくられたジヴァが、フランキーの胸倉を掴もうとするも、フランキーは軽快なステップで身をかわした。
「やめろ。 決戦を前に、精鋭部隊たる俺たちが揉めてどうする? 今、目の前で命を懸けている彼らに恥ずかしくないのか?」
そんな二人を、ヒクスンが厳しく嗜めた。
「……チッ、この最終決戦が終わったら覚えてろよ、フランキー」
「はっはっはー、それはおまえが生き残れたらの話だろ?」
ゲートからは止めどなくフェノムが地上に降り立って来る。 だが、スペシャリストたちは有限だ。 戦いが長引けば、それだけ体力も削られる。
優秀な回復系能力者の奮闘により、開戦後二○分が経過した現在の死者は〇人だが、一度何かのキッカケで均衡が崩れれば、なし崩し的に死者が増えてしまう可能性だってある。
そしてそのキッカケが、唐突に姿を現した……。
ゲートから現れたソレが放つのは火·水·風のブレス。 一撃で街を灰燼と化す攻撃が、前衛隊の半数をのみ込んだのだ……。
……全てレベル10のフェノムが一○体。
赤、青、黄、茶、黒……一体でも現れれば絶望的とされる、フェノムの危険度レベルの頂点でもある竜種が姿を現したのだ……。
それを見上げていた精鋭部隊も、混乱に陥る。
「竜種が一○体……。 どうする? それでもアンノウンが現れるまでは待機するべきなのか?」
先程までの荒々しい態度が消え、緊張感の漂うジヴァがヒクスンに問い掛ける。
「……我々でも、一人ではあの竜種一体を倒すのは至難だろう。 当然、主力部隊のスペシャリストでは荷が重い。 今、我々が行かなければ、前衛部隊も主力部隊も瞬く間に壊滅してしまう」
精鋭部隊は、対アンノウンの為に残された部隊だ。 だが、このままではアンノウンが出現する前に、スペシャリストたちは竜種に全滅してしまう危険性がある。
もはや、精鋭部隊が出ないという選択肢はなかった……。
ヒクスンが、改めて精鋭部隊の五人にゴールド・キングダムのバフを掛け、己にも最大のバフを掛けた。
「行くぞ。 まずは竜種を全力で葬る。 アンノウンは……それから考えよう」
全員が頷く。 だが、竜種が一○体でさえ、自分たちが死力を尽くさなければ倒せない相手だと理解している。
もし、その後にアンノウンが現れれば、そしてアンノウンの力が竜種を軽く凌ぐのであれば……戦況は絶望的なまでに厳しいものになると悟っていた。
「ギュオララララァーー………」
轟く悲鳴と共に、一体のレッドドラゴンの首が、続いてその巨体も地面に落ちた。
空を見ると、そこには竜種に比べれば明らかに小さい、マントを翼の様に広げた漆黒の悪魔が空に佇んでいた。
「流石はドラゴン……と言いたい所だが、俺にとってはドラゴンもゴブリンも一撃で死ぬのに変わりはないから一緒だな」
その手には、ロンズデーライトで創り出したロングソードを持ち、光の速さで次々と竜に斬撃を浴びせていた。
「……なんなんだ、あれは? まさか、これ程とは……」
空を自在に……しかも、有り得ないスピードで飛び回り、竜にダメージを負わせているブライトに、ヒクスンですら戦慄を覚えた。
ジヴァや他の者も言葉を失っている。 だが、フランキーは……
「クックック……フハハハハッ! スゲー! スゲーよブラザー! もう、俺たちなんていらないんじゃねえか!?」
フランキーもまた、おちゃらけてはいたが、その目は笑っていない。
この場にいる誰もが、この戦いに命を懸ける覚悟を抱いていた。 だが、そんな覚悟がバカバカしくなる程に、光輝の力は圧倒的だった。
それを見ていた瑠美は、呆れた口調で呟いた。
「あ〜あ、あんな活き活きとした光輝を見るの久しぶりだわ……」
瑠美は、国防軍ネリマ支部で、一〇〇人の兵士を圧倒したブライトの姿を思い出していた。
「……おっと、今は余計な事考えてる暇はないよね」
そして、胸のモヤモヤを晴らすかの如く、落雷を落とし続けるのだった。
「こ、光輝兄さん、凄いです……」
「そうだな。 流石は兄弟だ」
「カズール兄さん、光輝兄さんは、あんな凄いギフトを手に入れて、どうやって生き延びる事が出来たんですか?」
薫子もリバイブ・ハンターだ。 全ての弊害を知り、高ランクのギフトを手に入れて尚生き残る難しさを理解している。
「俺とおまえは、所詮シュトロームのクズ野郎の下で育った養殖のリバイブ・ハンターだ。 だが、兄弟は自らの手で強大な敵と相対して、その強大なギフトを手に入れて来た。 それは、運などと云う言葉では片付けられない、奇跡とも言える僅かな確率だっただろう。 もしかしたら兄弟は、神に選ばれたのかもな」
カズールは、特段信心深い訳では無い。 それでも、光輝が所持するギフトを知れば知る程、神の存在を信じざるを得なかった。
「神……ですか。 でも、あれじゃまるで……」
薫子は、次の言葉を飲み込んだ。 光輝が普段は、クールぶってるが心優しい男だと理解していたから。
カズールも、薫子の言わんとした言葉は分かっている。
だがら、今も竜種を相手に一人で圧倒し、返り血に塗れる光輝に、誇らしげな賞賛の意味を込めて、敢えて言葉にした。
「確かに、あれじゃ神じゃないな。 心優しき、人類の救世主たる……悪魔だな……」
※12月は毎日更新と言いながら誠に申し訳無いのですが、次回更新を14日にさせて頂きます。 ちょっと修正したい箇所がありまして……。
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