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第144話 決戦の火蓋

 ――二〇七二年七月。



 ギリシャとアメリカの上空に発生した巨大なゲートから、かつてない程のフェノムが発する強力な波動の数値を感知する。


 調査班がその予兆を計測した結果、遂に渦からアンノウン、またはそれに準ずる強力なフェノムが現れるであろう日が判明した……。



 ギリシャ側には、日本から国防軍と黒夢を中心とした元はフィルズとして活動していたスペシャリスト集団、中国、ヨーロッパ各国を代表するスペシャリスト一〇〇名がゲートの下で待機。


 アメリカ側には、北米、北中米、南米のスペシャリストと、光輝たちブレイカーズ、合わせて一○○名もまた、ゲートの下で待機していた。


また、どちらか一方がフェノムを撃退した際、もう一方へ助っ人として参戦出来る様に、特殊な転移石も用意されている。


 そして、そのどちらの様子も、衛生カメラにて全世界に生中継される予定だった。



 どちらも基本的な作戦は、低レベルのフェノムの大群を前衛部隊が相手し、高レベルのフェノムを主力部隊が、そしてアンノウンやそれに準ずるフェノムには決戦部隊が相手する作戦であった。 これは、過去のハルマゲドンでの報告から基づいた最善の方法と思われている。


 低レベルとはいえ、その危険度は平凡なスペシャリストでは無駄に死体を増やすようなものだ。 以前のハルマゲドンでもそうだった様に、一〇〇〇を超えるレベル4以上のフェノムに対するには、スペシャリスト側も非凡な実力を持たざるをえないからこそ、どちらも総勢一〇〇名程の精鋭たちが集められたのだ。



 アメリカ側では、特設ステージに立つ全体のリーダーを務めるヒクスンが、集まったスペシャリストたちに最期のスピーチを行っていた。


「間もなく、あのゲートからフェノムが来襲する! 敵はかつてない程強大だが、ここに集まった者は全世界から集められた真の勇者だ! だが、我々が敗れれば、それは即座に人類の滅亡に繋がるだろう」


 ヒクスンの口から出る言葉は、決して楽観的な内容ではなかった。


「こんな時、偉大なリーダーであれば、君たちには絶対に死ぬな、生きて帰ろう……と言うのかもしれない。 だが、我々が逃げ帰れば、人類に未来は無い。 だから、私は宣言する! 君たちがもし力尽きた時は、私も力尽きるまで戦おう! だから私が力尽きた時は、君たちにも力尽きるまで戦って欲しい! 人類の為にとは言わない。 自分の愛する人の為、守りたいものの為、それでいい! 死んでも、フェノムを倒そう!」


 誰からも……歓声も、拍手も、起きなかった。

 ただ、その言葉の意味を、重みを、自分たちの胸に刻み、スペシャリストたちは覚悟を決めた表情でヒクスンを見ていた。



「なんか、スベったみたいで笑えるな、ブラザー」


 場違いな程に緊張感のないフランキーが、光輝の耳元で囁く。


「……おまえ、これから死地に赴くってのに、随分と余裕だな」


「ん〜? そりゃあ、ブラザーみたいな強い奴がいるんだから、絶対負けないだろ? 俺の目標は、ブラザーがフェノムのボスを倒すまで生き残る事だからな。 頼むぜ〜?」


 呑気なフランキーに呆れた光輝だったが、良い意味で緊張がほぐれているのを感じていた。


 桐生の遺言。 そして、風香との未来。


 その為には絶対に勝たなければいけないし、生き残らなければいけない。 そう、入れ込み過ぎていたから。



「ま、おかげで気負い過ぎずに済んだからいいけど。 アンタはどの部隊なんだ?」


「俺は当然決戦部隊さ。 一応決戦部隊は、俺、ヒクスン、シヴァ、ケアールマン、ジョーズの五人だったが、当然ブラザーも決戦部隊に来るんだろ?」


 光輝は特に配置分けを聞いてなかった。 ジョシュアから、ブレイカーズは好きにして良いと言われていたから。


「私は能力的に大多数を相手に出来るから前衛部隊に参加するわ」


「俺は、兄弟が邪魔されずに戦える様に、主力部隊に参加しよう」


「……ま、おまえの言う通り、俺は相手の総大将を狙うが、ただ、他の人のギフトを詳しく知らないから、部隊とか連携とか求められても困るから、総大将が現れるまでは好き勝手やらせてもらう」


 瑠美、カズール、光輝はそれぞれ異なる部隊に参加すると決めていた。


 そして薫子は……


「薫子も主力部隊だ。 俺の傍で、生き残る事だけ考えていればいいからな?」


「ハイ。 出来る限りの事はします!」


 短い間だが、光輝たちと行動を共にした事で、薫子の気持ちは少しずつ変化していった。 そして、決戦に向かう三人を見て、自分だけ何もしないのは違うのではないかと思い直し、共に戦うと申し出たのだ。


 だが、そんな薫子の決意に、カズールが待ったをかけた。 どうしても着いて来ると言うのなら、自分の傍で、とにかく自分の身を守る事だけ考える事と言うのが条件だった。



 ゲートが、より激しく渦巻き始める……。


 ヒクスンがスペシャリストたちに演説を行っているのを見ながら、光輝は彼に感心していた。


「それにしても、あのヒクスンって人は大した人だな。 こんなにもスペシャリストの精鋭が集まってるのに、誰もあの人がリーダーだと言われて文句を言わないんだから」


「おいおいブラザー、ヒクスンのギフトを知らないのか?」


「ん? スマン、最近はあまり他の人のギフトに興味がなかったから」


「そうか〜。 じゃあ、もうすぐ面白いもんが見られるぜ」


 フランキーの思わせぶりな態度に疑問を持ったが、ヒクスンの最後の呼び掛けに意識を戻される。



「……そろそろ時間だ。 最後に、私から君たちにプレゼントを贈ろう」


 ヒクスンがスペシャリストたちに両手をかざす。 すると、ヒクスンの身体から黄金のオーラが溢れ出す。 そして、両手から一気にそのオーラが放たれ、スペシャリストたち全体を包み込んだ。


「なんだ!? 攻撃……じゃないよな?」


「バフってやつだよ、ブラザー。 感じるだろ? 身体が熱くなる感覚が」


 不思議な事に、光輝の身体に力が漲ってくる。



 ヒクスンのギフトは、ギフトランクS、ゴールド·キングダム。


 対象の身体能力を最大で二倍に。 そして、本人の身体能力は最大で一○倍にするギフトだ。

 身体能力の強化は、最大で一時間継続する。


 今回は対象人数も多かったが、しっかりと全員が二倍に。 そして本人は、流石に最終決戦と言う事もあり、しっかり一○倍に強化された。



「さあ、行くぞ、勇者たちよ! この世を滅ぼさんたするフェノムに、人類の意地を見せつけるぞ!!」


「「オオオオオオオオオオオオオオォッ!!」」


 力を与えられ、テンションが上がったスペシャリストたちが、ヒクスンの声に雄叫びで応える。


「こいつは……確かに凄い能力だな……」


 光輝もヒクスンのギフトを実感し、久しぶりに他人のギフトが欲しいと思ってしまった。



 ――ステージから降りたヒクスンは、肩で息をして用意されていた椅子に座った。


「ご苦労、ヒクスン。 これで我々の戦力は数倍になったな」


 己のギフトを存分に使ってくれたヒクスンに、ジョシュアが労いの言葉を掛ける。


「ハァハァハァ……まったく、無茶をさせますね、会長。 いくらなんでも一〇〇人同時にバフを掛けたのは初めてで、暫く休まないとまともに戦えませんよ」


「君は少数精鋭部隊だ。 出番までまだ時間があるだろう。 それまでしっかり休んでいてくれ」


「……そうしたいのは山々ですがね。 若者が散っていく姿を目の当たりにした時、自分を抑えられるか不安ですよ」


 前衛部隊と主力部隊は、捨て駒とまでは言わないものの、あくまで精鋭部隊の為のサポーターだ。

 当然、全員無事とは行かないだろう事は想像に容易い。


「勝つ為には犠牲も必要だ。 特に、今回の様な最終決戦ではな」


 ジョシュアは、自分の兄がそうした様に、勝つ為には己の命を犠牲に出来る者だけを集めた。 その精鋭がそれぞれの役割を、覚悟を以てやり切ってくれる。 そう信じていた。



 ――光輝とフランキーが話しているのを、瑠美はただ眺めていた。


「瑠美、無理しなくても良いんだぞ?」


 そんな瑠美を、カズール気遣う。


「無理? ここで無理しなかったら、今まで全てが無駄になっちゃうじゃない。 私は大丈夫、この間のでスッキリしたからさ」


「なら良いが……」


「ほらほら、私なんかに構ってないで、不安そうにしてるカワイイ妹を勇気付けてあげなさいよ」


「……強いな、お嬢は。 でも、本当に辛くなったら……」


「分かってるって。 その時はまた隣で愚痴でも聞いてもらうから。 その為にも、絶対に生き残らなくちゃね」


 気持ちの整理がついているかと言えば嘘になる。 瑠美はまだ、自分の気持ちにケジメを付けてなかったから。


(それでも……戦わなくちゃ。 アンノウンを倒すのに、私も貢献出来たなら……その時は、光輝と風香に笑顔でおめでとうって言えるかな……)



 それぞれがそれぞれ想いを抱き、遂に決戦が始まろうとしていた……。

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― 新着の感想 ―
[一言] つ、遂にアンノウンが来るのか。 個人的にはアメリカ側には来ないまたは二匹同時に出てくるかアンノウンを超える敵が出てくると予想。 最終決戦で苦戦してこのバフスペシャルをブライトに託すためにわ…
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