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第142話 世界の猛者

 ――アメリカへ向かう飛行機にて。



「その表情だと……風香とうまくやったみたいね」


「え? え? 何言ってんだよ〜。 別に何もないって〜」


「合流してからずっとニヤけちゃって、何もなかったはないでしょ? ……なんかムカつくなぁ」


 ……といったやり取りを瑠美と繰り返しながら、光輝たちはアメリカに到着後、すぐにヒューストンへ向かった。




 ヒューストンの特設キャンプでは、光輝たちをジョシュアが出迎えてくれた。


「やはり、日本で財前と一悶着あった様だな」


 財前がシュトロームと共同でリバイブ・ハンターを生み出す研究をしていると光輝たちに教えたのがジョシュアだった。


 ジョシュアは言った。 桐生が亡くなってから、財前は変わってしまったのだと。


 リバイブ・ハンターの量産。 それが実現すれば、確かに強力な戦力になるだろう。 だが、その為に多くの命を犠牲にする事など、本末転倒なのだ。 そんな事は、桐生が生きていれば絶対に許していないだろう。 それに気が付かない程、今の財前は余裕を失ってしまったのだと。



「あれは、何を言っても無駄でしょうね。 全てはアンノウンを倒す為。 その為なら、何をやっても大義名分になるって信じてるんだから」


「……財前に代わって謝ろう。 君たちリバイブ・ハンターにとっては、とても辛い出来事だっただろう。 ……ところで、このお嬢さんが例の?」


 光輝たち三人に、もう一人、小柄な女性が帯同していた。


「ハ、ハイ! 相楽薫子でつ! ヨ、ヨロシクお願いしまっしゅ!」


 噛みながらも勢い良く頭を下げたのは、新たにリバイブ・ハンターとなった三人の内の一人、相楽薫子だった。


「あくまで彼女は付き添いだ。 ハルマゲドンには参加しない予定だからな」


 光輝同様、薫子の事も家族として妹だと言って溺愛し始めたカズールが、ジョシュアに念を押す。


「勿体ないけど、仕方ない。 それじゃあ、君たち以外の優秀なスペシャリストたちを紹介するから、着いてきてくれ」



 ジョシュアに案内され、トレーニングルームに移動する。

 そこでは、既に到着したスペシャリストたちが、トレーニングに打ち込んでいた。


 ジョシュアはまず、長身のアフリカン・アメリカンの男を指差した。


「彼がアメリカナンバー3のスペシャリスト、ジョーン・ジョーズだ」


 次に、筋骨隆々の男を指差す。


「次に、彼がアメリカナンバー2、マーク・ケアールマン」


 次に、スキンヘッドで全身入れ墨のブラジル人を指差す。


「彼は南米最強の男、バレンタイン・ジヴァ」


 次に、端正な顔立ちのメキシコ人を指差す。


「彼はメキシコのナンバー1、フランキー・シャムロック」


 最後に、瞑想しながら一人だけ異質なオーラを醸し出している中年を指差す。


「そして、あれがアメリカナンバー1、ヒクスン・グレースィーだ」


 数多くいる実力者の中でも別格な五人。 この五人と、光輝・瑠美・カズールの八人が、決戦の際の主要メンバーとなるのだろう。



 すると、こちらに気付いたバレンタイン・ジヴァがジョシュアに近付いて来た。


「よう、会長。 なんだか弱そうな奴等連れてるみたいだが、まさかコイツら、作戦の参加者じゃねえよな?」


 ジヴァが、光輝たちに見下したような笑みを浮かべる。


 一応ロスでの生活のおかげで、片言程度なら英語を話せる様になった光輝は、ジヴァの言葉を理解する事が出来た。


「……ブライトです。 宜しく」


 風香との件で、光輝は桐生の為にも、自分に誇りを以て生きようと心に決めた。 だから、自分の事を、桐生が名付けてくれたブライトだと名乗ったのだ。


「ブライト……? まさかあの、漆黒の悪魔じゃねーよな?」


「……貴方が言ってるあのがどのあのかは知りませんが、多分その漆黒の悪魔です」


 ジヴァの表情が、次第に狂気的な笑顔に変わる……。


「まさか、死んだと聞いていたが……生きていたのか? にしても、漆黒の悪魔がこんなヒョロいガキだったとは驚いたぜ」


 ジヴァのあからさまな挑発に、カズールが反応する。


「ブラジル最強と言われて調子に乗ってるようだな。 俺の兄弟を愚弄するとは、命がいらないのか?」


「ああん? テメェは……見覚えがあるな。 だが、どーせ大した事ねーもやし野郎だろ? あ? なんか文句あんのか?」


「貴様……」


 カズールとジヴァが、互いの額をくっつけて睨み合う。



「まあまあカズール、そう熱くなるなよ。 俺は別に全然気にしてないし、決戦を前に仲間同士で揉める事もないだろ?」


 見かねた光輝が二人の間に入るが、それがかえってジヴァの癇に障ってしまった。


「ガキは引っ込んでろ!」


 ジヴァが、跳ね除ける為に放った光輝への肘打ち。 だが、その肘打ちは光輝の顔面を捉える事はなく、途轍もなく硬い腕に直撃した。


「うぎっ!?」


 ロンズデーライトで武装した光輝の腕に肘がぶつかったジヴァは、痛みで表情を歪める。


「て、テメェ! ギフトを発動しやがったな!? ……許さねえ」


 ジヴァの身体から、砂が溢れ出す。


 ギフトランクA、サンド・ストーム。 砂を自在に発現·操作する能力。


 ジヴァのサンド・ストームの最大出力は、砂嵐で街一つ灰燼と化す程の威力を誇る。


「建物内でそんなギフト使うとか……馬鹿なのか?」


 このままだと、ジヴァのギフトで建物内が砂まみれにしてしまう事は明らか。 そんな能力を使おうとするシヴァに、光輝は呆れてしまった。


(……仕方ない。 穏便に済ませたかったが、一瞬で意識を刈り取ってやるか……)


 光輝もロンズデーライトで手刀を硬化させた……。



「止めなさい」


 すると、一触触発の雰囲気の中、先程まで瞑想していたアメリカナンバー1の男・ヒクスンが、二人の間に入っていた。


(いつの間に!? この俺が、全く気付かなかった!?)


「この場にいるスペシャリスト達は皆、世界を救う為なら己の命も厭わない勇者ばかりだ。 なのに、決戦の前に怪我をするなど、なんの得もないだろう?」


 すると、ヒクスンの落ち着いた雰囲気が気に食わなかったのか、ジヴァが噛み付く。


「テメェがヒクスンか……。 アメリカナンバー1だとか祀り上げられて表舞台には中々出てこねーから一体どんな奴かと思ったら、只のジーサンじゃねーか。 引っ込んで……ろぶっ!?」


 次の瞬間、ジヴァの顔面が床に叩きつけられる。 だが、ヒクスンに動いた形跡は一切見られなかった。


「私はまだ三○代だ。 君の発言の撤回を求める」


 怒りで青筋が浮き出ているヒクスンの表情は、武骨な侍そのもの。


 言葉の撤回を求めようにも、床に頭部がめり込んだまま失神してしまったジヴァに答えるすべは無かった。



(一瞬……このオッサンから一際大きなオーラが溢れた様に見えた……。 それにしても、三○代? 貫禄的にどー見ても五○代にしか見えねーぞ?)


 などと心の中で呟いていた光輝を、三九歳とギリギリ三○代のヒクスンが鋭く睨みつける。


「私は三○代だ。 君も、よ〜く覚えておいてくれよ? ブライト君」


「あ、ハイ! スミマセンでした!」


 自分としても失礼な事を思ってしまった光輝は、素直に謝った。 



 場が治まった事を確認したジョシュアが、笑みを浮かべながら光輝とヒクスンの肩に手を置く。


「さて、戯れは終わりだ。 もう説明はいらないと思うが、彼が我が国最強のスペシャリストであるヒクスンだ。 今回の作戦では、彼にリーダーを務めてもらう予定だ」


(戯れって……アンタこの場のまとめ役ならさっさと止めてやれば良かったのに……)


 などと、ジョシュアに理不尽な思いを抱きながら、床に突き刺さったまのジヴァを憐れみの目で見る光輝。


「ヒクスンだ。 死んだと聞いていたが、生きていてくれてありがとう、ブライト君。 君の力には大いに期待してるよ」


 落ち着いた印象で握手を求めるヒクスン。 光輝もそれに応える。


 ヒクスンはその後も、カズール、瑠美、薫子にまで握手を求め、紳士的な態度で接して来た。



 穏やかな空気が流れる中、一人の男がその空気を切り裂く。


「ヘーイ、ブライトといえば、確か一時国際指名手配されてたフィルズだよな? そんな奴が、人類の命運を懸けた戦いに参加するって? オイオイ、勘弁してくれよ」


 突然輪の中に入って来て光輝をおちょくったのは、褐色の美丈夫、メキシコナンバー1の男、フランキー・シャムロックだった。


「俺たちスペシャリストは、正義のために人を殺す事もある……そう、悪党のフィルズをね。 でもアンタが殺したのは、国の中枢を担っていた無能力者たちだ。 そんなのは只の異常殺人者だろ? こんなのと共闘しても、いつ後ろからズブッとやられるかと思うと気が気じゃない」


「貴様……それ以上兄弟を侮辱すると許さんぞ!」


「おっと~、ドイツの英雄様は犯罪者の肩を持つ訳だ。 ドイツ国民がそれを知ったら、貴方の地位は暴落するんじゃないですか~?」


 今度はカズールとフランキーに一触即発の空気が漂い始める。



 だが光輝は……


「……俺は確かに、無能力者を殺した。 だがそれは、日本においてギフト能力者が正当な人権を得るために必要な事だった。 革命とは、勝った側が正義であり、負けた側は悪だ。 それは歴史が証明してる……だろ?」


 あの時、光輝は感情が欠落しており、ただ言われるがまま当時の内閣を殺害した。 だが、それは全て桐生の目的の為、現在の平等な社会を創り上げる為の重要な要素だった。 なら、今の自分がそれを悲観視し、謝罪などすれば、今の社会も桐生の理想をも否定する事になる。


「俺たちは、必要な事をしたまでだ。 理想の社会の為、国の膿を吐き出した……それだけだ。 それでもまだ俺に文句があるというのなら……分からせてやろうか?」


 そう言うと、光輝から漆黒の悪魔のオーラが溢れ出す。



「お……おっとぉ……」


 その禍々しいオーラに、フランキーは全身から嫌な汗が流れ出るのを感じた。 それはこの場にいる多くのスペシャリストも同様で、全員が驚愕の眼差しを光輝に向けていた。


「そうだ……ジョシュア会長、俺がこの決戦に相応しい力があるのかないのか、彼に確かめてもらいましょう」


 そして、硬直しているフランキーに笑みを浮かべながら視線を送ると……


「ノオオオーッ!! な、なに言ってんだい!? 今のは只の冗談さ! ハ、ハハハッ、流石はブラザー! 一生着いて行くよ!」


 フランキーは全力で首を横に振ると、光輝の靴を舐めんばかりに媚びを売って来たのだった。

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