第14話 通りすがりの正義の味方
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―1週間後
光輝は暇があれば自宅から5キロ程離れた人気の無い森に移動して己を鍛えていた。
元々様々な武術で身体を鍛えていた事もあり、今ではスピード・スターを発動して動き回れる時間は10分に到達する。…10分後には立てなくなる程バテてしまうが…。
そしてインビジブル・スラッシュの効果範囲は半径10メートル程に伸び、威力も今なら厚さ10ミリ程度の鉄板なら両断出来る程。因みに、威力は斬撃発生場所が遠くなればなる程落ちる様だ。
だが、まだまだ確実に冴嶋に勝てるとまでは思っていない。
冴嶋のインビジブル・スラッシュの効果範囲が10メートル以上だったら?そう考えると楽観視は決して出来ない。
だが、スピード・スターの能力とインビジブル・スラッシュの能力とでは、スピード・スターは相性が良い事にも気が付いた。
不意討ちで位置を特定されない限り、動き回って的を絞らせなければ良いのだから。
それでも、冴嶋にこちらの動きを予測されてインビジブル・スラッシュを発動される可能性も考えられる。
…総合して、自分には戦闘経験が圧倒的に足りていない事を再認識していた。
(実戦か…。俺の能力的に、正体がバレるのはまずいからなぁ…)
光輝は考える。もし実戦をするとすれば相手は国防軍・警察のスペシャリストか、野良も含むフィルズ。本来なら身バレする心配が少ないフェノムが理想なのだが、フェノムが生息するエリアへは許可が降りないと行けないし、許可も一般人にはまず降りない。
今、国防軍を敵に回してしまうと、冴嶋やそれ以上の強力なスペシャリストに狙われる可能性だってある。光輝としてもそれは避けたい。
フィルズに関しても、組織に属したフィルズを倒してしまうと、その組織からも狙われる可能性があるのだ。
よって、どちらも戦うならもう少し強くなってからが理想だろうとの結論に至る。
(……よし、野良フィルズを探そう!)
野良フィルズは、どの組織にも属さず、且つ、国からも犯罪者扱いされる存在だ。
(……あれ?そう考えると、今の俺の立場も野良フィルズになるのか?)
今後の方針は決まった。だが、直ぐに重大な欠点に気付く。…そもそも、野良フィルズが何処にいるのか分からないのだ。
国防軍や警察も、常に野良フィルズを追っている。それでも確保されるのは月に一人か二人程なのだ。なんの権限もネットワークも無い光輝に、野良フィルズを見付けられる道理は無かった。
(くそ~、あの黒崎って奴に会えたのはかなりの偶然だったんだなぁ)
考えても仕方ないので、光輝はひとまず帰路に着くのだった。
―夜の街。
ギフトに目覚めた今、あの日の様に誰彼構わず喧嘩を売る気にはならないが、黒崎と巡り会えたのは喧嘩が原因だった。
(またストリートファイトに明け暮れるか?でも、今更そんな気にもなれないしなぁ)
能力者となった光輝は既に一般人にとって絶対的な強者だ。国防軍には幻滅したが、光輝の目標だったヒーロー像は、弱い者苛めなどしない。必然的に光輝も弱い者苛め等もっての他だと心に誓っていた。
考えが纏まらないまま街を歩いていると、激安の殿堂“トンキホーテ”が目に入った。
「…………これだ!!」
光輝は閃いたとばかりにトンキホーテに入ると、ある物を探す。
「…あった!」
そこは、無数の“マスク”と、“コスプレ衣装”のコーナーだった。
正体がバレるのは不味い。かといって、内密にギフト能力者と実戦を行う機会がない。なら、正体を隠せば良い!…と云う短絡的な考えだ。
さてと、思案する。マスクを買うのは良いが、それだけだと購入履歴が残るだろうし、第一マスク等を買う人はそう多くないだろうから、監視カメラの映像などで買った人が特定される危険性がある。衣装も同じ。
なら、多くの人が購入する物を用いて変装すれば良いと考えた。
(………よし、これで行こう!)
トンキホーテで買い物を済ませ家に帰ると部屋に閉じこもる。
「これをこーして…ここはこーして…これを着ければ…出来た!」
鏡に映った自分を見て、光輝は満足そうに笑った。
スポーツタイプのタイトなインナー。その上に、上半身はモトクロスバイクの競技用プロテクター。手には革のグローブ。
下半身も膝から下にかけてモトクロスバイク競技用のプロテクター。靴は動きやすいよう運動靴。
顔は目元は出しているが口元を布で隠し、額当てを巻いた忍者スタイル。
…プロテクターに関しては、然程購入者が多いとは思えないので、購入履歴で特定される危険性はあるものの、戦闘になった際の防御力を考えれば必須アイテムだと割り切った。
完成した中二心溢れるその姿は、冷静になって見るとちょっと恥ずかしかった。
「…よし、早速だけどこの格好でどの位動けるか、散歩がてら外出するか!」
買ったばかりの服を着ると何故か外に出掛けたくなる衝動に駆られ、光輝は自室の窓から飛び出した。流石にそのままの格好だと変態?だと思われるので、丈の長いコートを羽織って。
スピード・スターを発動しながら屋根伝いに移動する。そして、向かった先は警察署。そこに行けば、何らかのトラブルの情報が得られるかもしれないと思ったのが一つ。または、正体がバレなければ、殺さなければ警官を相手に実戦を積んでも良いかな~と云う安易な考えだった。
警察署の前まで来たが、門の前に門番の様なお巡りさんがいるのみで、至って静かだった。
(……何も起こりそうにないなぁ…。警察署は意味無かったかな?)
すると、刑事らしき男が慌ただしく警察署から出てきて、パトカーに乗り込む。
(む!?事件の匂い!)
そんな匂い嗅いだ事は無いのだが、すっかり中二病を発症してしまった光輝は心の中で呟いた。
急発進で飛び出したパトカー。事件の匂いを嗅ぎ付けた光輝の行動は一つ。
(よし…追跡だ!!)
刑事が向かったのは、湾岸にある倉庫街。単身で倉庫内に刑事が入ると、そこには武装した男達が10人程いて、ロープで縛られている女性が1人。女性の解放求める刑事。どうやら女性は人質の様だ。
(おおお~!なんか、テレビドラマみたいな展開だ!!)
不謹慎ながらもワクワクが止まらない17歳高校生男子。
銃声が鳴り響き、刑事は肩を抑えて踞る。どうやら撃たれた様だ。
光輝はその様子を窓の外から眺めている為、声は一切聞こえてない。でも、場の流れは脳内で勝手に補正されていた。
(…とある犯罪組織に人質を取られ、単身で乗り込んで来た刑事…。これは、絶体絶命だな!)
光輝は静かにコートを脱ぎ捨て、首に巻いていたマフラーで口元を隠す。最後に忍者風鉢巻を額に巻くと…
突然、倉庫内の窓ガラスが割れた。中にいた男達、刑事も人質も一斉に窓の方を振り向くが、そこには割れたガラスだけが地面に落ちていた…。
「…こっちだ…」
男達が声のした方を向く。男達と刑事の間には20メートル程の距離があったが、ちょうどその中間地点に、その男はいた。
忍者みたいな変装をしたプロテクターを着た男…。その傍らには、ロープで縛られていた人質の女性が立っている。
「い、いつの間に!?」
「てめえ…何者だ!?」
まるで台本通りの台詞に光輝のテンションが上がる。
「何者だ?…俺は…通りすがりの正義の味方だ…」
もはや完全に悦に入った光輝に、恥ずかしいと云う概念は存在しない。
「…刑事さん、この女性は任せたぞ」
「え?あ…ああ…」
人質の女性を刑事に預け、光輝は男達の方に振り返る。
(さて、何にしてもコイツらは悪党だ。悪党には容赦しない!)
「さあ…お前らの罪を数える時間だ」
!?
突然目の前から消えた謎の男に、男達は動揺して辺りを見渡す。
「ぐえっ!?」
「がはっ!?」
「ぎゃっ!?」
次々と短い悲鳴を上げながら倒れる男達。
「こいつ…能力者だぞ!?」
「おい!なんとかしろ!」
なんとかしろと言われた一人の男が男達の視線を集める。だが、恐らく能力者であろうその男は、光輝の動きを捉える事が出来ずに戸惑っていた。
「なんとかしろって言われても、見えない…うぎゃあっ!?」
…なので、アッサリと倒されてしまった。
時間にして1分…。1分で、武装した10人の男達は光輝の手によって戦闘不能にさせられてしまった。
(…強い!やっぱ、スピード・スターって凄い能力だな!…でも、ちょっと攻撃した拳や足が痛いな…)
今回、光輝はインビジブル・スラッシュを使っていない。全て、スピード・スターを駆使した素手での攻撃で男達を気絶させたのだ。だが、スピードに身体が耐えられないと云うデメリットもあった。
(やっぱ普通のグローブは駄目だな…。今度総合格闘技のグローブでも着けようかな)
光輝は刑事と人質の女性を見る。二人とも何が起こったか分からずにポカ~ンとしている。
「……礼はいらない。さらばだ」
何か気の効いた台詞でも言おうとしたが、思い浮かばずにいたたまれなくなり、光輝は足早に入って来た窓から出て行ったのだった。
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