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第139話 光輝vs比呂

 比呂がギフトを発動する。 それだけで、周囲の空気がズシンと重くなるのを、光輝は感じていた。


「まさか、ここまでのオーラを感じるとは。 チッ……やっぱ、あの時殺しとけば良かったのかな?」


「最高の褒め言葉だね!」


 比呂の身体を真っ赤なオーラが包み込む。 それは、鬼島が体得していた奥義·鬼神拳だった。


「連拳!」


 そして、これも鬼島の得意技·連拳を放つ。


「当たるか!」


 光輝はそれを、フラッシュを発動して間合いを取ろうとするが、途中でフラッシュが強制解除されてしまった。

 比呂がワールド・マスターを発動させ、フラッシュを掻き消したのだ。


「何っ!?」


 足の止まった光輝を比呂の連拳が襲うが、それを光輝は辛うじてガードするものの、一撃で腕のロンズデーライトの武装にヒビが入った。



「チッ……喰らえっ!」


 光輝が間合いをとってインビジブル・スラッシュを放つ。


「ワールド・マスター!」


 だがこれも、ワールド・マスターに掻き消された。


「俺のギフトを勝手に支配して、強制解除してんのか? ……チートかよ」


「俺が支配出来るのはギフトだけじゃないよ!」


 一瞬だけ、光輝が金縛りにあった様に身動きが取れなくなる。 その間に比呂は連拳を叩き込もうとするが、動きを取り戻した光輝がそれを躱した。


「やっぱり光輝レベルの身体を支配出来るのは一瞬だけか……」


「何だ今の!? 一瞬だけでも充分脅威だぞ!」


 光輝と比呂。 人類最強クラスの二人にとって、ほんの一瞬でも命取りになる。 互いにその一瞬で勝負を決める力を持っているのだから。



 比呂の支配が及ぶ基準は、相手に大きく左右される。


 相手のギフトの場合、ランクや熟練度の低いギフトなら完全に支配出来るが、光輝の様にランクや熟練度が最高クラスだと、支配出来るが時間は一瞬に留まる。



 ここで、光輝はある違和感を覚える。 普段より空気が薄く、呼吸が苦しくなったのだ。 更には、随分と蒸し暑い。 確実に室内温度と湿度が上がっている。


(まさか、温度や湿度まで? なんでもありかよ……)


 比呂はギフトで空気中のあらゆる物質を操作出来る。 酸素を薄くして窒息させる事も出来るし、温度や湿度を操作して相手の動きを制限する事も可能。

 ただ、基本はピンポイントで相手の周辺だけを支配下に置き、変化を加える事も出来るのだが、光輝の様に動き回る相手には無意味となるので、現在は自分も含めて半径五〇メートルの範囲の空気に変化を加えていた。 当然自分にも効果が及ぶが、動き回るスタイルの光輝と、最小限の動きで戦える比呂のスタイルなら、明らかに光輝の方に影響を与えられる為に実行に移していたのだ。


 比呂のワールド・マスターは、あらゆるものを支配するギフトだ。

 自然、物質、酸素、水、温度、生物、ギフト……熟練度が上がった現在、ほぼ全てを支配し、変化を加える事が可能となった。 だが、それを実現する為には、支配する物質に対する綿密なイメージ力が必要となる。


 比呂はあらゆる物質の知識を得て実際に体験する事を通じて、自分の中のイメージ力を強化した。 結果、膨大な数の地上に存在する物質を支配下に置く事が可能となった。


 だが、光輝を相手にした時、どうしても比呂には欠けている部分があった。 それが、攻撃力。 それを補うために身に着けたのが、鬼島の極意である鬼神拳だったのだ。



「このままだと、ホントに命を懸けるやり取りになりそうだな……」


「そうかい? 光輝はまだ本気を出してないだろ? 約束では、光輝を本気にさせるって事だったハズだけど……」


「まだ本気を出してないのはおまえも同じだろ? 今、俺たちが本気を出して潰し合いをしちまったら、人類は終わりだぞ? それに……俺の兄弟が今回の主犯をとっ捕まえたみたいだしな」


 運動場の扉が開き、そこからシュトロームの首根っこを捕まえたカズールが現れた。



 今やドイツの英雄でもあるカズールの存在は、この場にいる者であれば誰でも認識していた。 彼もまたリバイブ・ハンターだとは知る由もないが。


「遅くなっちまったな、兄弟。 この野郎、随分厳重に警備されてたもんで、少し時間くっちまった」


 カズールに放り投げられ、光輝の目の前にシュトロームが転がって来た。


「き、貴様ら! この偉大なる天才・シュトローム様にこんな扱いしやがって!」


「随分強気だな? さっきは命だけは助けてくれとか媚びてたクセに、後援者の前で勘違いしてんのか?」


 言いながら、カズールが視線を財前に向ける。


「君はドイツのカズールか……。 なるほど、ブライトと行動を共にしているとの情報は本当だったか」


 周囲は、何故英雄であるカズールと、死んだとされていた国際的犯罪者であるブライトが一緒にいるのか理解できなかった。



「さて、本題に移るか。 もうライバルとの戯れは済んだんだろ?」


「……そうだな。 これ以上続けたら、熱くなってとことん戦り合わなきゃ気が済まなくなる」


「兄弟にそれを言わせる程か? 流石だな、真田比呂」


 突然目の前で繰り広げられている光景に、比呂の意識はまだ追い付いていない。


「えっと……貴方はあのカズールだよね? 複数のギフトを自在に操り、ドイツでのフェノム撃退に多大な貢献をした…………複数のギフト……そうか、もしや貴方も?」


「そうさ、俺と兄弟は同じリバイブ・ハンターの能力者だ」


 カズールは複数ギフト所持者だとは認識されていたが、リバイブ・ハンターの能力者だとは公にはされてなかった為、その事実とブライトとの繋がりに周囲が騒めく。


「俺はドイツで、このマッドサイエンティストによって生み出された。 だからこそ、今回のリバイブ・ハンターを量産したプロジェクトが、どれだけ非人道的で、対象者にとって地獄の苦しみなのかを知っている。 財前大将、どれだけアンタがアンノウンを倒す為だと大義を訴えても、俺は絶対に許す訳にはいかない」


 カズールと財前が、互いに睨み合う。 どれだけ互いの主張をぶつけても、決して分かり合えないだろうが。



 ここで、倒れていたシュトロームがカズールに向かって叫ぶ。


「おのれ~、カズール! 貴様は私のおかげで今の力を手に入れたんだぞ!? もっと私に感謝しろ! 私を敬え!」


「はあ? 確かに貴様のおかげで今の力は手に入れたが、それ以上にあの地獄の日々の記憶が貴様への感謝など微塵も感じさせんわ! あの実験で何人が死んだ? 何人が、地獄の苦しみの末に死んでいったのか、貴様こそ少しは他人の命を敬え!」


「ぐぬぬぬ~おい、おまえ達、この二人をやっつけろ! 同じリバイブ・ハンターだろ!」


 いきなり振られて、三人の兵士も戸惑っていた。 三人は、例え同じリバイブ・ハンターの能力者だとしても、光輝とカズールになど絶対に敵わないと本能で悟っていたから。


「オイオイ、アンタ本当にリバイブ・ハンターの研究してたのか? 俺たちとこの三人とじゃ、ギフトに発現した期間も密度も全然違うんだぞ?」


 光輝が呆れたようにシュトロームを見下す。


「ぐぬっ、財前さん! 助けてくれ! 私は……、約束通りリバイブ・ハンターの兵士を創り出しただろ? 貴方の望みどお……ぎおはっ!?」


 財前のギフトにより現れた貫手が、シュトロームの腹に風穴を空けた……。



 光輝とカズール、比呂も、財前に視線を移す。 財前は、何食わぬ顔で三人を見下ろしていた。


「茶番は終わりだ。 まさか、この実験が多くの人間の命を犠牲にして成り立っていたとはな。 国防軍元帥として、知らなかったとはいえ、亡くなった者には哀悼の意を示し、その家族には充分な保障を約束しよう。 今日はこれまでだ、第二次ハルマゲドンに向けて各々準備を怠らぬように」


 そう宣言し、財前はその場を立ち去った。


 白々しい……誰もがそう思っても、将軍たちは何も言えず財前に従うしかなく、光輝とカズールもまた、目の前に迫ったハルマゲドンに向けて、これ以上事を荒立てるのは得策ではないと判断した。



 だが財前は、運動場を後にする間際、再び光輝を睨む。


「ブライト。 貴様がどれだけ強くても、それでも生き残るべきは桐生だった。 桐生を失った事が、我々人類の最大の損失だ」


 そう言い残し、今度こそ運動場を後にした。



「最後の言葉は気にするな。 それにしても、あそこまで力技で場を収めるとは……呆れて何も言えなくなるな」


 カズールの呆れた様子に、光輝も同調する。


「な。 でもまあ、財前のアンノウン打倒に懸ける想いは本物だから、今は見逃してやろう。 でも、全てが終わったら……」


 光輝もカズールも、このまま有耶無耶にするつもりはない。 それでも、究極の目的であるアンノウン打倒の為、シュトロームの命を落とし所として妥協するしかなかった。



「せめて、このクズ野郎はこの俺の手でぶっ殺したかったんだがな」


 カズールは既に息絶えたシュトロームを見下ろしながら、あの地獄の日々と、亡くなって行った仲間を思い出し、複雑な心境を浮かべていた……。

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