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第138話 当事者

「貴様ぁ〜、ブライトぉっ! よくも、この私の前に顔を出せたなぁっ!」


 ギフトを解除し、串刺しにされた手を抱えながら財前が怒りの形相で光輝を睨む。 それは、これまで醸し出していた元帥としての威厳とは掛け離れた表情だった。


 光輝は、日本で財前がシュトロームの研究に手を貸し、新たなリバイブ・ハンターを創り上げたと聞き、カズールと瑠美の三人ですぐに日本へ向った。

 そして、変装やサイレント・ステルスを駆使してこの会場に忍び込み、最初から状況を見守っていたのだ。



「ボスの事は、申し訳ないと思っている。 だがな……」


 光輝も、財前にとって桐生がかけがえのない相棒だった事をジョシュアから聞いていた為、複雑な心境ではあった。

 だが、リバイブ・ハンター量産の件もそうだが、風香に手を掛けた事は許せるものではなかった。


「財前……アンタのやった事は、只の大量無差別殺人だ。 そんな事、ボスが望んでいるとでも思ったか?」


「なぁにぃ〜? 貴様が、桐生を語るな!」


 財前がトランスセンデンス・ハンドを発動。 その握力でコンクリートすら破壊する財前にとって、武器を持たずとも充分な凶器となる。


 だが、現れた掌をロンズデーライトで武装した腕で受け止めた光輝にとって、財前の掌は恐れるに足らなかった。


「アンタは戦闘タイプの能力者じゃないんだろう? 無駄な攻撃はやめとけよ」


「……ふん、舐めるな。 これでも最終決戦を経験してる身だ。 戦う術など幾らでもある。 ……だが、確かに貴様相手では分が悪い」


 財前から怒りの形相が消える。 唐突だったブライトの登場に一瞬我を失ってしまったが、すぐに冷静さを取り戻したのだ。



「それで? 何故この場に姿を現した。 この日本では、貴様は当時の内閣を皆殺しにした凶悪殺人犯だぞ? 折角桐生が上手く治めてやったものを、生きていたと知られれば、貴様は再び全世界で指名手配犯になるんだぞ」


「それを俺に命じたのは財前、アンタとボスだっただろう? ……ま、今日はそんな事を言いに来た訳じゃないがな」



 ここで、光輝に支えられていた風香が意識を取り戻す。


「光……輝君? 何故ここに?」


 思えば、風香とまともな状態で会話するのは、あの海浜公園以来だった光輝は、自我を失っている間の事もあって照れてしまった。


「いや、その……な、山の中では色々と悪かった」


 自我を失っていたとはいえ、光輝は風香に子どもの様に甘えてしまった事に、心から申し訳無さを感じていた。


「悪かったって……」


 風香は、自我を失ってるなど関係なく光輝を受け入れた。 風香にとっても、二人きりで過ごした時間は、とても満たされた幸せな思い出だったのだ。

 なのに、光輝は風香の気も知らず、申し訳無さそうに謝罪して来た。 風香はかけがえのない思い出を踏み躙られた気分になってしまい……。


「光輝君……あとで、話があるので、絶対に時間設けて下さい」


「え? ……は、はい」


 光輝は久々に見た風香の氷の微笑に、思わず返事をしてしまった。



 気を取り直し、光輝が財前の方を見る。


「さて、リバイブ・ハンターの量産の件だが、確かに比呂のギフトを手に入れれば、そこの三人はワールド・マスターを手に入れる事にはなる。 でも、ギフトには慣れる時間が必要だし、何より個人の適性もある。 どんなに凄いギフトを手に入れても、相性が悪い能力では効果は半減するだろう。 得に、ワールド・マスターの様な複雑なギフトなら尚更だ」


 光輝はリバイブ・ハンターを除き、六つのギフトを所持している。

 だが、その中でも自分にとって使いやすい能力とそうでない能力はあるのだ。


 例えば、使いやすいギフトとして挙げられるのが、ブライトの代名詞でもあるインビジブル・スラッシュとフラッシュ。 次点でサイレント・ステルスがある。

 これらは、光輝自身が望む戦闘スタイルに合致していたし、熟練度の上昇も早かった。


 反してあまり使わないのが、ワールド・オブ・ウインダムとクァース・フレイム。

 ワールド・オブ・ウインダムは本来、風属性の強力な攻撃を様々なパターンで繰り出す事が出来るのだが、光輝は空を飛ぶ時にしか用いないし、クァース・フレイムも、対象の動きを止めるだけでなく、ジワジワと黒炎でダメージを与える事も可能なのだが、速攻型の光輝にとっては使い勝手が悪く、熟練度の上昇も早くはなかった。

 また、セル・フレイムも、ネイチャーホワイトが消えたのが影響してるからか、効果が半減してしまったし、自動発動もなくなってしまった。 そもそもダメージを負う事も少なかったからそれほど使用していなかったのだが。


 そして、ロンズデーライト。 攻撃型の光輝にとって、本来あまり相性の良いギフトではなかった様だ。 熟練度と共に硬度も上がったが、それでも桐生の様に使いこなせてはいないと思っているから。


 これは、実際に全てのギフトを用いて戦って来た光輝の持論だが、光輝以上のギフトを所持しているカズールも同じ意見だった。



「例えワールド・マスターを手に入れても、あの三人は真田比呂にはなれない。 もう、そんな時間は残されてないから。 幾つのギフトを所持しているのかは分からないが、今から無闇にギフトを増やすより、現状のギフトの中から自分に合ったギフトを探して熟練度を上げた方が、第二次ハルマゲドンでは役に立つだろう。 これは、リバイブ・ハンターの先輩としての意見だ」


 実際にリバイブ・ハンターの能力者として、世界トップクラスの力を手に入れた光輝の言葉には説得力があった。



「それに、風香が言った通り、一番肝心なリバイブ・ハンターの弊害を隠すとは……たちが悪いな」


 そんな説得力を伴った光輝の言葉に、周囲もザワつきだす。


「大方、その弊害を知ったら比呂があの三人を殺すのを躊躇すると思っての事だったんだろうが、そもそも比呂はこの人体実験に反対で、アンタらの策には乗らなかったじゃないか」


 比呂がもし、あの三人を殺していたら……あの三人は必ず比呂を殺さなければならなくなる。 そうなれば、比呂はあの三人を返り討ちにせねばならなくなるのだ。


「…………流石に、リバイブ・ハンターの能力者である貴様が言うと、こちらも何も言えないな。 確かに、我々はリバイブ・ハンター最大の弊害……貴様が桐生を殺した最大の要因を言わなかった。 だが、それがどうした? それでアンノウンを倒せるのならば、全ては許される」


 ジョシュアにしても、この財前にしても、桐生がそうだった様に、最終決戦を経験した者たちは一貫してアンノウンを倒す為ならどんな事も厭わない決意を秘めている。


「俺は確かに何人も人を殺して来た。 今更綺麗事を言うつもりはないし、アンタらがそれだけ恐れるアンノウンを舐めるつもりもない。 でも、なんの覚悟もない人間に、弊害も知らせずにリバイブ・ハンターに関わらせるのは、先輩として可哀想だと思うけどな」


「可哀想? 何をガキみたいな事を言ってる? アンノウンを倒せなければ、人類は滅亡するのだ。 もしそうなった時、可哀想などで済まされる問題ではなくなるんだぞ?」


「アンノウンの為ならなんでも有りって事か……。 その執念には感服しますがね」


 打倒アンノウンに凝り固まった財前とこれ以上話しをしても、どこまで行っても平行線だろうと、光輝は諦める。



「第二次ハルマゲドンは近いんだ。 俺がここでアンタらと争う事ほど無駄な事はない。 でも……あの三人は別だ」


 言うやいなや、光輝の姿が消える。 そして、光輝は三人の兵士の目の前に立っていた。


 突然目の前に現れた光輝に、三人の兵士は戸惑っている。


「何点か質問をする。 まず、おまえらを殺した者の中で、まだ生きてる者はいるか?」


 三人は戸惑いながらも、首を横に振る。


「良かった……。 なら、おまえらは今の自分の置かれた状況に満足しているか?」


 この質問には、男性兵士の二人はすぐに頷いたが、女性兵士は俯き、自信なさげに頷いた。


「最後に……自分にリバイブ・ハンターが発現して、良かったと思っているか?」


 これにも男性兵士の二人はすぐに頷いたが、女性兵士は……身体を震わせて泣き出してしまった。


 確かに、この女性兵士もギフトに憧れ、国防軍に憧れていた。 だが、リバイブ・ハンターの実験として何度も殺される痛みと苦しみを繰り返すうちに、こんなハズでは無かったと軍の募集に応募してしまった事を後悔していたのだ。



 光輝は女性兵士の肩に優しく手を置く。


「財前大将。 今回の件は、この女性兵士を争いから解放してあげれば黙認してやる」


「何をぬかしている? その兵士は、人類の大事な戦力だぞ?」


「覚悟の無い者が戦場に立っても何の戦力にもならない。 それはアンタら軍人が一番よく知ってる事だろう?」


 その、光輝の上からの物言いに、国防軍の精鋭たる将軍たちは一斉に光輝へ敵意を向ける。


「黙認するだと? 貴様に黙認される覚えなどない!」


「なら、ハルマゲドンを前にして殺り合うかい? それこそ、アンタの計算が狂っちまうと思うけど?」


 ブライトは間違いなく世界有数の実力者であり、この場にいる軍人達も強者揃いだ。 それがぶつかり合えば、お互い無傷では済むまい。

 第二次ハルマゲドンでの戦力が大幅にダウンする事になってしまうのは財前も分かってはいたが、元帥としてそんな横暴を認める訳にはいかなかった。


「舐めるなよ若造……貴様一人で、この国防軍の精鋭たちを相手にするというのか!?」


「勘違いするなよ? 後悔するのはアンタらだけ。 俺がその気になったら……この場にいる全員を一分以内で死止めれるんだから。 ……一人を除いてだけど」


 光輝から放たれた強烈な殺気が、会場全体に蔓延する。 全ての屈強な将軍たち、そして財前までもが、その禍々しいオーラをその身に受けて、金縛りに掛かった様に動けなくなってしまった。


 ……只一人、真田比呂を除いて。



 光輝と視線を合わせ、笑みを浮かべた比呂が、ギャラリーから光輝の前には降り立つ。


「久し振りだね……光輝。 多分生きてるとは思っていたけどね」


「ま、色々あったけどな。 それにしても、おまえ強くなったな……」


「ああ、約束だったからね。 次会う時は、真剣に戦うって。 光輝と対等に戦える様になる為に、結構頑張ったんでね」


「オイオイ、おまえが強くなったのは分かったかけど、ハルマゲドンの前に戦り合うのはマズイだろ?」


「正直、光輝が現れてから身体の震えが止まらないんだよ……武者震いってやつが。 自分がどれだけやれるか、試したくて仕方がないんだ」


「……はぁ、なんで俺の周りには戦闘狂ばかり寄って来るんだ……」


「類は友を呼ぶってやつじゃないかな?」


「仕方ない……戦るか?」


「ああ、戦ろう!」



 こうして、光輝と比呂の幼馴染みによる約束の戦いが、唐突に始まるのだった。

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[一言] ひろ君ブライトを間違えて殺しちゃわないよねw
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