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第137話 軍の混沌

※連載再開に伴い、131話~134話までを大幅に修正しています。まだ読んでない方はの方はそちらから読んでいただかないと、話が繋がらないので、ご一読を御願い致します。

 ……真田比呂は考える。


 もし、リバイブ・ハンターに目覚めたのが光輝ではなく、自分だったらと。


 何度も蘇るという事は、その分何度も死ぬという事だ。 少なくとも光輝は、一回や二回ではない回数の死を乗り越えているのだ。 果たして自分は死して尚、正気を保てていただろうか?


 能力の特性上、相手が強ければ強い程生き残る確率は低くなるだろう。 今回の研究でも、まず能力を発現させるのですら一万人から少なくとも三人しかいないのだ。 光輝が手にした能力を鑑みれば、今でも光輝が生き残ってる事実を確率にすれば、奇跡の様な低い確率となるだろう。


(選ばれた者としての資質、強運、絶対に諦めない心……。 光輝は、そのどれもを持っていたんだろう。 ……昔の俺には無かったものばかりだ)


 だが……今の自分は違う。 ブライトと戦い、自分の殻を破った気がした。 その後、鬼島の地獄の特訓を耐え抜き、心身共に成長した自負がある。


 運動場にいる三人の兵士は、光輝と同じリバイブ・ハンターのギフト能力者だ。 全ての条件を加味し、温室で育てられた薔薇であったとしても、その力は人類にとって大きな助けになるだろう。



 それでも、今の真田比呂なら、自信を以て言える。


「そんな非人道的な事をしなくとも、国防軍は……俺は、アンノウンを倒して見せますよ」


 財前は、比呂の自信に満ちた口調に潜む、この実験の首謀者である自身への反感に気付く。


「流石は国防軍の最終兵器、頼もしい限りだよ。 だが、だからこそ君にはやってもらわなければならない事がある」


「アンノウンは倒します。 ですが、もう貴方の命令に従う気にはなれません。 第二次ハルマゲドンが終わった後、今回の件はしっかり世間に公表させてもらいますよ」


「クフッ、フハハハハッ! 偉くなったもんだなあ、真田。 この私に歯向かう気でいるとは。 ついこの間まで、私に睨まれただけでブルっていた青二才が!」


「……人は成長できる。 もう、他人を妬み、自分を過信する過去の自分ではないんです。 すみませんが、俺はもう貴方を慕えない。 失礼します」


 財前が何を言おうとも、もうこんな場所にはいたくないと思い立ち上がろうとした比呂だったが、財前が比呂の腕を掴んでそれを阻止した。


「調子に乗るなよ、小僧……。 貴様らは……アンノウンの恐ろしさを知らない。 貴様と同じワールド・マスターのギフト能力者だったエルビンは、今の貴様より遥かに強かった。 そのエルビンですら……鬼島と桐生との最強のパーティーですら、完全には勝てなかったのだ」


 腕を掴む力の強さに、比呂は表情を歪める。


「貴方に、今の俺の何が分かるんですか? 今の俺の本気を知るのは、鬼島さん以外いませんが?」


 鬼島との特訓は苛烈を極めていた。 毎日が死んだ方がマシだと言いたくなる程に。


「なら! 今のおまえなら、鬼島や桐生に勝てるのか? 老いた鬼島や桐生ではない、全盛期の彼らに!」


 特訓の最後……比呂は鬼島と真剣勝負を行っていた。 老いて尚、世界最高峰の力を保持していた鬼島を、比呂は死闘の末に倒していた。 決して全盛期ではない鬼島に。


「そんなタラレバは分かりませんよ。 でも、決して負けるとは思いません。 それだけ、今の自分を信じています」


「フン、ならおまえは、あのブライトを倒せるのか?」


 ブライト……。 比呂は、今でもあの日、覚醒したブライトと対峙した日を思い出し、何度も何度も頭の中でシミュレーションを繰り返して来た。


 自分の力には自信を持っている。 これ以上ない程に努力したと自負もしている。 それでも、ブライトにだけは、絶対に勝てると断言するまでには至っていなかった。


「……少なくとも、もしブライトが生きていたら、ブライトを相手にまともに戦えるのは自分しかいないと思っています」


「ブライトを倒せないのにアンノウンは倒せると? だから貴様はアンノウンの恐ろしさを知らんと言っているのだ!」



 二人の激しい口論は、いつの間にか周囲の注目を集めていた。 軍のトップ財前と、軍最強の比呂が、穏やかではない口調で言い合っているのだから。



「フン、決戦の前にこんな不毛な言い争いなど、全体の士気を下げるだけだ。 それも分からん青二才が」


 その注目に気付いた財前は、立ち上がって大きく手を広げる。


「皆の者よく聞け! この研究で、我々はあのブライトと同等の力を持った同志を三人も得る事が出来た! だが、まだ足りない。 アンノウンとは、それだけ強大な敵なのだ!」


 突然目の前で演説を始めた財前に、比呂は戸惑っていた。


「更にこの場には、あの三人を更なる高みへと引き上げるに相応しい男がいる! そう、この真田比呂だ!」


 そして、何故財前が自分にやってもらわなければならない事があると言ったのかを知る。


(まさか……ワールド・マスターをコピーさせるのか!?)


「真田比呂のギフトであるワールド・マスターは、かの英雄エルビン・クルーガーに発現した最上ランクS+の最強ギフトだ! そのギフトを持つ兵士が三人増えれば、これから始まる第二次ハルマゲドンにおいて計り知れない戦力となるだろう!」


 ギャラリーからは盛大な拍手が、財前と比呂に贈られる。



「……なるほど、これが貴方の真の目的ですか」


「何を戸惑っている。 彼らに貴様のギフトを分け与えた所で、貴様にはなんの弊害も無いのだ。 それとも、その偉大なギフトを自分だけのものにしたいのか? それはエゴなのではないか?」


 最終決戦に絶対に必要だとなれば、ギフトを分け与えるのも仕方ないとは思えたが、比呂はそもそも人体実験に反感を抱いている。 この状況で、財前の望み通り三人を殺してギフトを分け与えれば、人体実験に加担したも同然となる。 それだけは絶対に許せなかった。


「……卑怯な手を思い付くものですね。 仙崎大将が言った通り、国防軍の真の膿は貴方だ」


「くだらん。 俺は常に全人類の未来を見据えている。 貴様のちっぽけなプライドなど、来たるハルマゲドンで勝利を治める為には関係ないのだ」


 財前の全ては、ハルマゲドンでアンノウンを倒す為。 その為なら悪魔にだって魂を売る。 財前には、その覚悟があった。



 この状況でワールド・マスターのギフトを分け与える事を拒めば、他の将軍たちに間違いなく糾弾されるだろう。 かといって、比呂は財前の掌で踊らされるのは絶対に御免だった。


(どうすればいい……。 俺は、どうすれば……)



「待って下さい!」


 ここで、一人の女性の声が場の空気を変えた。


「華撃隊隊長·少将の水谷です。 先程のリバイブ・ハンターの説明には、誤りがある可能性があります」


 突然の風香の発言にギャラリーが注目する中、財前だけはその発言を遮ろうとした。


「水谷少将……君達華撃隊は、都内爆弾テロでも失態を犯し、その上君は仙台で任務中にも拘らず隊を抜けて休暇をとるなど、現在少将としての資質が問わている立場だろう? そんな君がこの場で発言するなど……身の程を弁えたまえ」


 国防軍での風香の立場は、仙台での件を踏まえてますます窮屈になっていた。


 所詮は英雄鬼島の孫だから優遇されていただの、結局女には将軍は務まらないなど、様々な苦言は陰口を超えて、風香の耳にもしっかりと届いているほど。


「私は……人の命が懸った誤りを、見過ごせません!」


 それでも風香は発言を止めようとしなかった。


 仙台の山中で、光輝は自我を失い狂人化していた。 何故そうなったかを風香は詳しく知らなかったが、それがギフトによる弊害だと感じていた。 それでも先程の説明では狂人化のリスクを一切話さなかった。 そこに、何か意図的なものを感じたのだ。



「ええい、うるさい。 君には今度の人事会議で降格処分が下る予定だ。 そもそも、本来君をこの場にも呼んだつもりもなかったのだが?」


 実際、風香は将軍であるにも関わらず、この場に招集されていなかったのだが、将軍クラスが軒並み集められると知り、何か嫌な予感がして参加したのだ。


「私は仙台の山中で、ブライ……がっ!?」


 突然現れた掌に、風香の喉が締め付けられる。


「黙れと……この私が言ったのだ。 国防軍元帥の私がな」


 財前が風香に向かって手をかざしているが、掌だけが消えていた。


 ギフトランクA−、トランスセンデンス・ハンド。


 財前のギフトであり、自分の手を半径一〇〇メートルであれば何処にでも出現させる能力。


一見地味にも見えるが、財前は鍛錬の末近接格闘なら桐生にも引けを取らないし、握力は三〇〇キロを超える。 その上、ナイフや拳銃など殺傷能力の高い武器を持てば半径一〇〇メートルであればどこでもノータイムで攻撃が可能となる。



「かはっ……!?」


 財前の風香を締め付ける力が次第に強くなる。


 その状況を看過出来なかった比呂は、財前に反旗を翻す覚悟を決める。 風香には、償いきれない負い目があったから……。



「いい加減にして下さい、財前げん……えっ!?」


「うぐっ!?」


 財前が突然呻き声を上げる。 と同時に、禍々しいオーラと共に、財前の掌を黒く鋭利な手が貫いていた。


「なっ……なんでここに!?」


 風香の隣で、風香の肩を優しく抱えている人物に、比呂は驚きを隠せなかった。



「リバイブ・ハンターの量産か……。 相変わらず国防軍ってのは胸糞悪い集団だな……」


 それは、頭部こそ目元を隠す仮面のみに変わっていたが、公には桐生に粛清されたと言われていた漆黒の悪魔ブライトだと一目で分かる程、強大なオーラを纏った光輝だった……。

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