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第134話 ゲート

「…………ぐほぁっ!?」


 戦闘開始数秒。 まずはスカルが倒れた。


 これにはジョーカーも苦笑いを浮かべている。


「いや〜……これ、続ける意味ないよね?」


「なら降参するか?」


 スカルとジョーカーの二人は、クァース·フレイムで動きを制限され、次の瞬間にはスカルの鳩尾に拳がめり込んでいたのだった。



「……いや、折角だから戦らせてもらうよ。 奇術師としてのプライドがあるんでね」


「あっそ。 でも、動けないなら……これでおしまいだ!」


 スカル同様、フラッシュで急接近して拳をジョーカーの鳩尾に叩き込む……が、手応えが感じられなかった。


「ん?」


 ジョーカーだった物はマントに変わっていて、光輝の背後ではナイフを構えたジョーカーが佇んでいた。


 振り下ろされるナイフ……が、光輝は既にその場にはいない。 


「遅い……」


 ジョーカーの背後から光輝の声が聞こえる。


 この状況は、ジョーカーが比呂と対峙した時とほぼ同じパターン。


 あの時の状況を、ジョーカーは何度も反芻していた。 あの状況を打開するにはどうすれば良かったのかを。


 それが……


「かかったね、ブライト君!」


 光輝の足下が爆発した。 ジョーカーは、予めその場所に小型爆弾を見えないように設置していたのだ。



 タイミング的に少なからずダメージを与えられたと確信しながら、ジョーカーは振り返る。


 ……だが、そこに光輝の姿はなかった。


「奇術師か……。 多分、俺の行動を誘導して爆弾を爆発させたんだろう……中々の策士だったな」


 爆弾はロンズデーライトで覆われ爆風は抑え込まれていた。 そして、ロンズデーライトの刃がジョーカーの首元に沿えられた……。



「くっ……やあ、まいったよ。 降参、降参するよ」


 完全に白旗を上げたジョーカーは、呆れた様に両手を上げる。


「それにしても、君があの時のグラサンマフラーだったとはね……。 あの時の新兵……真田とは旧知の仲なのかい?」


「ああ、一応幼馴染ではあるが」


「そうか。 僕らは爆弾テロの際、真田と交戦してね。 今と似た展開になり、なんとか逃げ延びたんだ。 真田のギフトは計り知れなくて恐ろしかったけど、君の場合はギフトを知っていてもどーにもならない、つまりはどっちも化け物だね」


 ジョーカーは当時、比呂のギフト能力がどんな類なのか分からなかった。 光輝に関しては、全てではないにしろ同じ組織の人間としてロンズデーライト、フラッシュ、インビジブル・スラッシュは把握していたが、把握していて策を練っても、結局は圧倒的な力の前では無意味なのだと思い知らされた。



「なるほど、モストデンジャラズが手も足も出ないとは。 流石は漆黒の悪魔だな」


 ジョシュアが満足そうに光輝に拍手を贈る。


「……試したのか?」


「ああ。 君が本当に桐生辰一郎が命を投げ捨ててまで救った価値がある男なのかをね」


 光輝の胸がチクリと痛む。 全てを割り切ったつもりではいたが、まだ桐生との事は消化しきれていなかったから。


「……で、結果はどうなんだい?」


 突然試された上に、桐生の事を蒸し返された光輝は不機嫌そうにジョシュアを睨む。


「うむ、合格かな。 ま、もう時間がないから、どのみち君には頑張ってもらわなければならないんだけどね」


「時間がない? どういう意味ですか?」


「……やはり知らないか。 今、ヨーロッパとアメリカの上空に強大なオーラを発するゲートが発生してるんだ」


「それは……つまり、どういう事なんですか?」



 ジョシュアは真剣な眼差しで口を開いた……。


「いよいよ……アンノウンが復活する」



 アンノウン……。 フェノムの支配者にして、人類最大の敵。 そのアンノウンが復活する……。


 いつかは来ると知ってはいたが、実際に復活が目の前だと知ると、得も言われない緊張が光輝を包んだ。


「アンノウンが……復活ですか」


「ああ。 アメリカはテキサス州上空、ヨーロッパはギリシャの上空にゲートが発生しているんだが、そのどちらにアンノウンが現れるかは分かっていない。 まさか、二箇所同時に現れるとは思えないが……最悪の場合も考えて準備せねばなるまい」


 同じ位強大で巨大なゲート。 仮に、片方にしかアンノウンが出現しなかったとしても、もう片方も同等の脅威になると考えられた。


「アンノウンが二体って……。 一体でも苦労して封印出来たって聞いてるのに?」


 アンノウンは、当時の世界トップのスペシャリストたちが多くの犠牲を払って漸く封印する事が出来た程の存在。 それが二体となれば、絶望的状況となるだろう。


「どちらも同じ位強大なゲートが発生してるんだ。 まあ、我々もまさかアンノウンが二体も現れるとは思いたくないが、戦力は分散せざるをえないだろう。 そこで、君たちだ」


「俺たち……ですか。 勿論、俺たちもアンノウンを倒す事を目標に活動して来たんだから、当然決戦には参加しますよ」


「だろうね、君はあの桐生辰一郎に託されたのだから、その義務がある。 ただ、さっきも言ったように、ゲートは二つある。 それで、世界中のトップが一同に介し、それぞれの戦力分けを行った。 まず、ギリシャのゲートは、ヨーロッパとアジアのスペシャリスト連合で攻略にあたる。 日本からも、国防軍と黒夢から選抜されたメンバーの参加が決まっている」


 日本……国防軍や黒夢などのフィルズはギリシャのゲートに向かう。


「そしてアメリカのゲートは、北米南米含むアメリカ全土のスペシャリスト連合で攻略する。 君たちには、我々アメリカのスペシャリスト連合に参加してもらいたいんだ」


 ブライトは既に死んだとされているが、恐らく上層部には生存がバレているだろうと光輝も予想はしている。 そう考えると、日本側と合流しなくても済むアメリカ連合に加わるのは悪い事ではないと考えたが……。



「アメリカですか……。 瑠美、カズール、おまえたちはそれでいいか?」


 現在、光輝は単独ではなくブレイカーズとして活動してるのだ。 個人の考えではなく、メンバー全員の意見が聞きたいと考えた。


「ギリシャでもアメリカでも、脅威は今の所一緒なんでしょ? なら、私はどちらでもいいわ」


「俺は……本来ならギリシャへ向かわなければならないだろうし、連合もそうしてくれと言ってくるだろう。 だが、俺は兄弟と行動を共にしよう。 人類最強の敵と戦うんだ、せめて気心の知れた仲間と共に立ち向かいたい」


 カズールはドイツで英雄としてトップクラスのスペシャリストの地位を確立している。 国の意に反し、アメリカ側のゲートに向かうとなれば、少なくない軋轢を生むかもしれない。 それでも、もうカズールは自分の知らぬ所で大切な仲間を失うのを容認出来なかったのだ。



 カズールが難しい立場なのは光輝も知っていたが、それでも自分と行動を共にしてくれると言った仲間に、これ以上言う事はなかった。


「……分かりました。 俺たちブレイカーズは、アメリカ連合に参加します。 ただ、今更なんですけど、貴方は何者なんですか? いや、協会会長とかエルビンの弟とかじゃなく……」


 光輝は、ジョシュアに桐生と同じ雰囲気を感じていた。 協会会長という真っ当な役職だけではなく、どこか桐生の様なアウトローな雰囲気を。


「ああ、私は……というより、順を追って話そうか。 私と兄や……あの最後の場にいたメンバーの事を」


「あの場にいたメンバーって?」


「……アンノウンとの最終決戦。 その場にいた五人のスペシャリストの事さ」


 アンノウンとの最終決戦。 史実では、その場にいたのは日本の国防軍から鬼島と桐生、アメリカからはエルビンの三人とされている。


「五人? 確か、三人じゃ……」


「確かに、アンノウンと対峙したのは三人だ。 だが、それをサポートしていたのが現在日本の国防軍元帥・財前と……この私だ」


 ハルマゲドンは、世界中から優秀なスペシャリストが一〇〇人集結し、生き残ったのは六人とされている。 中でも、アンノウンと対峙したのは鬼島、桐生、そしてエルビンの三人と語られていた。


「財前は、もし三人が敗れた際の報告要員として、そして私は……三人の後を継ぎ、次代のスペシャリストたちを導く存在として、最終決戦を見守っていたんだ」


「……その情報って、公にはされてないですよね? どんな文献にも載ってませんでしたし」


 光輝はスペシャリストに憧れ、中でも鬼島が関わる文献はある程度目を通していた。 だが、最終決戦に三人以外のスペシャリストがいたとは知らなかったのだ。


「そうだ。 鬼島さんはその後、英雄として讃えられたが、何故桐生の名が鬼島さんほど世間に公表されていないか不思議に思った事はなかったかい?」


「それは……ボスは直ぐに軍を辞めて、フィルズとして黒夢を結成したからでは?」


「確かにそうだが、最終決戦から桐生が軍を抜けるまで三年の期間があった。 それでも、桐生は鬼島さんほどは英雄として讃えられなかった。 それには、あの決戦を生き残った四人の約束があったからだ」


 四人の約束……。 それが、全ての物語の始まりなのだと、光輝はこの後知る事になるのだった。

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