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第131話 決断

※連載再開に伴い、ここから大幅に内容を変更しました。

 光輝は山を降り、瑠美に預けられた財布からお金を拝借して着替えを済ませた。


 その後、長い山での生活、桐生との戦闘、そして別れ。 心身共に疲れ果てていた光輝は、ビジネスホテルで一晩を過ごした。


 翌日、三ヶ月もの間外界の情報を遮断していたから、ネットカフェを利用して山に籠もっている間に起こったフェノムによる災害に関しての情報を集める。


(……人類は想像以上の大打撃を受けたんだな。 その上、次はアンノウンまで復活するとなると……ハルマゲドンの再来になる)


 桐生は焦っていたのだろう……アンノウンが復活するかもしれない、でも、もう自分には時間は無いと。 だから、自分の命を捨ててまで、光輝を救ったのだと。


(……にしたって、後を託される者の身にもなって下さいよ……)


 今の光輝には、ギフトの弊害だった感情欠損の症状はもう消えている。 だからこそ、激しい感情が心を揺り動かす。


 桐生を殺した……。 それは桐生自身が望んだ事だとはいえ、 光輝にとっては一生償えない十字架となるだろう。 桐生の死は弊害が消えた光輝にとて、本来耐えられる出来事ではなかった。


(アンノウンは倒す……必ず。 でも、その後は……)


 桐生を殺してまで命を得たのだ。 だから、富も栄光も、友情も恋も、自分にはもう得る資格など無いのだと、心に決める。


 だが、今の自分には何もない。 


 金も、仲間も、存在自体も死んだものとされているのだ。 どれだけ強くても、一人で出来る事には限界がある。


(それでもやるしかない。 どんな手を使ってでも)



 ネットカフェを出て、アーケード街をあてもなく歩き続ける。


 電車に乗るにも飛行機に乗るにも金は必要だ。 瑠美の財布には一〇〇万円程入っていたが、それもいずれは尽きるだろう。 だが、金を稼ぐにしても存在自体がタブーとなってる現状、出来る行動は限られて来る。



 すると……


「心配になって来てみたら……今にも死にそうな顔してるじゃない?」


「……え? 瑠美……なんで?」


 現れたのは、瑠美だった。


「まったくもう…… 昨日は流れ的に引き止める雰囲気じゃなかったから聞かなかったけど、これからどうするのかと思ってね」


「わざわざか? ……俺はボスとの約束は絶対に果たすだけだ。 だから、アンノウンが現れるまで自分の力を磨く旅にでも出るよ」


 昨日別れたばかりの瑠美と再び会えるとは思っていなかった光輝は、少なからず驚いていた。


「黒夢は……どうなってる?」


「うん、ナンバーズには崇彦からボスの死が報告されたわ。 誰が殺したのかも……」


「そっか……」


 光輝は、黒夢のメンバーにとって精神的支柱であった桐生を殺したのだ。 どんな理由があろうとも、決して許される事ではないと自覚している。


 もう……苦楽を共にした仲間たちとは袂を分けたのだ。 自分には、もう黒夢の一員だと言う資格など無いのだと。


「で……崇彦が、新たなボスに立候補したわ。 ……まだ認められた訳じゃ無いけど」


「崇彦が? そっか……アイツはやればなんでも出来る奴だし、大丈夫だよな」


 光輝にとっても、普段の軽いノリの崇彦がボスになるのは違和感があったが、要所では相棒として幾度となく助けられて来た。 それに昨日の件で、どうやら崇彦は覚醒したらしい。


 その後の崇彦の表情を思い出し、アイツなら組織を良い方向に導くボスになれるだろうと心の中で思っていた。



 相棒が新たなボスとなった黒夢。 でももう、自分はその輪の中には入れないのだと思うと、胸に言いようのない寂しさが去来する。


「……ボスは全部知った上で、貴方に託したんでしょ? くよくよしてる暇は無いわよ?」


「……分かってる。 俺に出来るのは、もうアンノウンを倒す事だけだから」


 桐生を殺してまで命を得たのだ。 だから、富も栄光も、友情も恋も、自分にはもう得る資格など無いのだと、改めて心に決める。


 この命は、ただアンノウンを倒すためにだけに生かされたのだと。



「それで、風香は?」


 光輝は三日間の風香と二人だけの生活を思い出していた。


 内側から見ているだけだったが、それはとても穏やかで、あんな状態だった自分を風香は全て受け入れてくれた。


 もし風香に一緒にいてくれと頼めば、風香は応えてくれるかもしれないとも考える。 それでも、一人でアンノウンを倒す決心は揺るがなかった。 自分にはもう、人並みの幸せなど必要ではないと決めたから。


「風香は東京の国防軍の医務室に連れて行ったわ。 まだ目覚めた訳じゃないけど、命に別状はないだろうって」


「……ありがとう。 風香が目を覚ましたら、瑠美からヨロシク伝えておいてくれ。 今度こそ、本当にお別れだって」


 今の光輝は、もうリバイブ・ハンターの弊害による感情の変化は無い。 だからこそ、本来の光輝自身が決めた選択に、瑠美は納得出来なかった。


「本気で言ってるの? 風香は、国防軍での地位よりもアンタを選んだんだよ? 自分の命を投げ売ってまで、アンタを助けようとしたんだよ?」


「俺と一緒にいれば、また風香の身に危険を及ぼすだろ? 風香だけじゃない、瑠美も、崇彦も、俺はもう……これ以上大切な人を失いたくない」


 これからの自分の道は、最終的には人類最強の敵……ラスボスとの決戦という棘の道なのだ。 そんな危険な道に、仲間を巻き込みたくはなかった。


「バカだねぇ。 私や崇彦、黒夢の皆は勿論、風香だって国防軍の将軍だよ? アンタと一緒じゃなくても、アンノウンが復活すれば結局最前線に送られるさ。 どうせ棘の道に進まざるをえないなら、アンタが隣で守ってやればいいじゃない。 もう誰も失いたくないないんなら、自分の手で大切な人を守ってやりなよ」


「……風香が前線に送られる前にアンノウンを倒せばいいだろう?」


「そんな上手く行くわけ無いでしょ? 国防軍にも面子があるんだし、アンノウンが復活するとなれば黙ってないわよ。 それとも何? アンタは、自分の目の前で風香が死ぬのは耐えられないけど、自分の知らない所で死ぬのは良いって事? そんなの、アンタが逃げてるだけじゃないの!」


 瑠美の言葉に、光輝は返す言葉もなかった。 それでも……


「……そうだよ。 嫌なんだよ、目の前で死なれるのが。 ボスは俺の手で、俺の目の前で死んだんだぞ? も、もう……これ以上、あんなの耐えられねえよ」


 肩を震わして、光輝は俯いてしまった。


 ギフトの弊害による冷静で冷酷な光輝に慣れてしまっていた瑠美にとって、目の前で肩を震わせて俯いている光輝に、信じられないような……それでいて懐かしい感情を抱く。


「もう、俺は一人でいい。 一人でアンノウンを倒して……それで終わりにしたい」


「終わり? 終わりって何よ……」


 光輝は何も言わなかった。 終わりの意味を、光輝自身が終わりがなんなのかを明確にイメージして言葉にした訳ではなかったから。 今はとにかく、少しでも早くアンノウンを倒したい一心だった。



「……ふざけんじゃないわよ!!」


 突然瑠美が、俯く光輝の胸倉を掴む。


「勝手に消えて、散々心配させて……元に戻ったと思ったら、一人で戦って終わりにする? ふざけないでよ!!」


「…………」


 瑠美の目には、涙が浮かんでいた。 いつも強気で冷静な姉御肌の瑠美の涙に、光輝は唖然として何も言えなかった。


「アンタは、一人でなんでも背負って楽したいだけ! でも、そのせいでどれだけ周りが心配するか分かってない! 風香もそうだし、私だって! アンタが……す……し、心配だから!」


「…………え? 何言って……!?」


 瑠美は光輝の頬を両手で挟み、そして……光輝の唇に強引に自分の唇を押し当てた。



 固まる二人。 ……どれだけの時間が経っただろう? 瑠美が唇を離し、光輝を見つめる。


「アンノウンを倒すんでしょ? ……私も一緒に行くわ」


「おまっ……何を……」


 心の中では、瑠美が一緒にいてくれれば色んな面でありがたいし、大きな助けになるだろう。 でも、だからこそ、仲間を危険な目にあわせたくなかった。 守りきれる保証が無いのもそうだが、自分にはそんな資格は無いと決めつけていたから。



「黙れこのヘタレ! 大体、アンタ一人で何が出来るの?」


「……えっ?」


 今の光輝は、世界最強クラスの戦闘力を誇るだろう。 だが、本人も自覚しているが、光輝は戦う事以外は何も出来ないのだ。


「大体アンタ、一人暮らしもした事無いんでしょ? ご飯は? お風呂は? 寝る場所は? お金は? どうやって生活するつもりなのよ?」


 お金は黒夢の任務で稼いだ分を引き落とせば数年は遊んで暮らせるだろうが、黒夢と敵対するかもしれない今、その金を引き落とせるかも分からない。 その上、瑠美の指摘は尽く光輝にとって頭が痛くなる事ばかりだった。



「いや、でも……」


 瑠海は光輝の胸ポケットに入っていた自分の財布を取り出す。 すると、瑠美は財布の中から小型の発信器を取り出した。


「元々、私は一度本部に戻って荷物をまとめたらアンタと一緒に行こうかと思ってたんだ。 今の光輝、一人にしたらどんどん闇落ちしそうだったから。 案の定だったじゃない」


「おまえ……最初から着いてくる気だったの?」


「勘違いしないでよね。 ……そう、子守りみたいなものよ。 ボスはアンタに全てを託した。 私は、ボスの願いが成就するように、アンタをサポートする必要がある。 それだけの事だから」


「だから、遊びに行くんじゃないんだぞ? アンノウンだぞ? ハッキリ言って、正真正銘のラスボスだぞ?」


「自分の身ぐらい自分で守れるわよ。 なんなら、いざとなったらアンタの事もこの私が守ってあげるわよ。 大体光輝のクセに私を守ってやるなんて生意気なのよ。 このヘタレが」


 瑠美のヘタレ発言には様々な意味が籠められていた。



「それに私、もう崇彦にも光輝に着いていくって言って、黒夢を抜けて来っちゃったのに、これで私を置いてくなんて、アンタ男としてありえないからね?」


 図々しく言ってのける瑠美に、光輝はタジタジだった。


「さっきのキスは……勘違いしないでよ? あれはアンタの目を覚まさせる為にやっただけだから。 私は、アンタみたいなグジグジした男は嫌いなの。 頼もしくてクールな大人の男性がタイプなんだから」


「だ、だよな? それにしてもいきなりキスするなんて……」


(……だ、だよな? ってなによ?)


 ……瑠美的には一大決心からの行動だったが、やはり恥ずかしさを隠す事が出来ず、憎まれ口を叩いたのだが、光輝があまりにもすんなり納得してしまった事にムカムカしてしまった。



 その後もイラつく瑠美に問答無用で言われ放題の状況に、光輝は追い詰められていく。


 そして……


「分かったよ……。 そんなに着いて来たきゃ着いて来い。 でも約束しろよな。 絶対に死なないって」


 最後には光輝も折れ、瑠美の同行を認めてしまった。


「……ヘタレのクセに上から目線なのがちょっぴりムカつくけど、仕方ないから許してるわ」



 こうして、光輝は瑠美という頼りになる存在と行動を共にする事になった。


 そして、アンノウンの復活は、もう目の前まで迫っていたのだった……。

※この回は今後の方向性を大きく変える重要な回でした……。詳細は活動報告にてダラダラと喋りますが、あまり裏設定を好まない方は絶対に覗かないでね。


※本当に重要な回でした……。ここから、物語は大きく変化します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど。12月1日からここが変わるんですね。
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