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第129話 パーフェクト・ブライト

「ぐ、ぐぅっ……」


 風香のウォーターアローで少しだけ気を失っていた崇彦が意識を取り戻すと、立ったままの桐生と倒れた風香を囲んでいる光輝と瑠美がいた。


「ボス、生きて……」


 慌てて桐生の下へ駆け寄る崇彦に気が付き、光輝が立ち上がる。


「崇彦……」


 何かを言おうとしても何を言っていいのか思い浮かばず、光輝は黙って俯いてしまった。



「ボス! ボ……ス?」


 崇彦が桐生を軽く揺さぶると、立ったままだった桐生は糸の切れた人形の様に倒れてしまった……。


「…………」


 何も言わず、ただ桐生を見下ろす崇彦。


「崇彦……すまない。 …………すまなかった」


 光輝もまた、やはり何も言えず、ただ謝るしかなかった。



「ハハハッ……分かってるって。 おまえがボスを殺したくなかった事は。 だから、姿を眩ましたんだもんな。 分かってるって……」


 口調は軽いが、引き釣った笑顔と気の抜けた言葉が、崇彦の心境を物語っていた。


「崇彦……俺は……」


「ここにも! ……ボスは自分の意志で来たんだもんな。 うん、おまえを助けに来たんだろ? まったく……」


 光輝も、桐生はこの場所に来た時点で死を覚悟していたのだろうと理解していた。 だからこそ、崇彦には桐生の余命が僅かだった事と、自分に託してくれたアンノウン打倒を伝えなければと考える。


「崇彦、実はボスは……」


 だが、光輝の言葉は崇彦の叫びに遮られた。


「……分かってんだけどさぁ……それでも……納得出来ねーんだよ!」


「た、崇彦、聞いてくれ。 ボスは……」


「ボスはさあ! 俺たちフィルズ全員の光だったんだよなあ! 黒夢の……俺たち全員の夢もさあ、ボスだから成し得たんだよ! 俺にもおまえにも、他の誰にも出来やしない事を、桐生辰一郎だからこそ実現出来たんだよ!」


 改めて振り返るまでも無く、桐生の統率力と行動力は飛び抜けていた。 誰がどう考えたって、これからの世界に必要なのはブライトではなく桐生だと言うだろう。 光輝自身もそう考えていたのだから。


「やっと夢が実現して、これからだって時に……ボスがいなくなるなんて、絶対にあっちゃなんねーだろーっ!?」


 それは当然光輝にも分かっていた。 だからこそ、桐生を手にかけてしまった事に絶望したのだから。



 だが今は……


「全部おまえの言う通りだ、崇彦。 でも、ボスは最期に最も重要な任務を俺に託してくれた。 それは、ボス本人が自分では実現出来ないと言っていたからこそ、俺が生かされたんだと思う」


 桐生と、そしてマリーンの犠牲を乗り越えた事。 風香が無事だった事。 そして、恐らく自我を取り戻した事で、光輝は肉体的にも精神的にも一回り成長していたのだろう。


 桐生は、アンノウンが復活すると言った。 山に籠っていたから世界の状況は光輝には分からないが、この山にも現れたブラックホールがやはり世界中で現れたのだろうと察した。 それこそが、アンノウン復活の予兆なのだろうと考えた。


 そして、桐生は自分ではアンノウンを倒せないと言ったのだ。


 恐らく、桐生は光輝を試したのだ。 もし、自我を失った状態ではあったが、光輝が桐生に敗れていたら……期待に応えられなかったら、桐生は躊躇なく光輝を殺して自分が生き残ったであろう。 例え、余命が僅かだったとしても。



 それでも、崇彦にはそんな事情は伝わらなかった。


「おまえがボスの代わり? ふざけるな……ボスの代わりなんて、他の誰にも勤まるもんか!!」


 崇彦から殺気が溢れ出す。 相棒として、親友として、苦楽を共にしてきた光輝に対して向けられた殺気が。


「崇彦、聞いてくれ。 ボスは……」


「だぁまぁれえええっ!!」


 超至近距離から光輝にイビル・アイが発動する。


「ちょっ、崇彦!?」


 瑠美が驚きの声を上げるが、気が付けば光輝は消えていて……次の瞬間には崇彦の背後にいた。


「崇彦、納得出来ないのは分かるけど、俺の話を聞いてくれないか?」


「うるせえ! なに余裕ぶっこいてやがる!!」


 崇彦が背後の光輝に蹴りを放つが、光輝はそれを片手で受け止める。


「……近い未来、アンノウンが復活するんだ。 俺は、ボスに代わってアンノウンを倒さなければならない。 それがボスの遺言だから。 それまでは、死ぬわけにはいかないんだ」


「ふざけんな! ボスの代わりなんていねーんだよっ!!」


 イビル・アイの速射砲。 だが、光輝はその全てをロンズデーライトで硬質化した腕で弾き飛ばした。


(……驚いた。 ロンズデーライトが飛躍的にパワーアップしてる)


 殺した者を殺す事によって、ギフト能力は飛躍的に進化する。 光輝のロンズデーライトは、今や桐生のロンズデーライトに匹敵する成長を遂げていた。



 光輝がロンズデーライトを発動する。 すると、足元からまるで新たなコスチュームの様にロンズデーライトが身体を覆い始める。


 桐生は重量のある鎧姿だったが、光輝の鎧は機動力を重視したもので、身体の要所にプロテクターを装着したものだった。


 そして、最期に目元だけを隠した仮面が装着される。 ロンズデーライトを駆使した、全て自前の装備が完成する。


 今ここに、攻撃力、防御力、機動力。 その全てが世界最高峰であろう、パーフェクト・ブライトが誕生したのだ。



 崇彦はその姿を目の当たりにして、強さの面で光輝が完全に桐生を超えた事を知った。


「崇彦。 今は頭に血が昇ってるだろ? 一度冷静になった時、もう一度話そう」


 崇彦は動けなかった。 どうやったって、何をしたって、自分では絶対に光輝をどうにか出来る自信が無かったから。



 それは……崇彦が桐生の置き手紙を見た瞬間だった。


 初めて、光輝に対して抱いた感情。



 今まで自分は、飄々と、ナンバー1よりナンバー2がお似合いだと自覚して、ある種自由に行動して来た。



 “俺の身に何かあった場合に限り、ブライトを黒夢の新たなトップとする”



 だが……桐生が残した置き手紙に書かれてあった文面は、崇彦にとって初めて、光輝への激しい嫉妬心を掻き立てたのだ。


 自分がこの世で最も尊敬し、最も信頼して欲しいと思っていた桐生は、最期に自分では無く光輝を選んだ。


 その瞬間、自分でも気付かなかった感情が溢れ出したのだ。 そして、今目の前にいる光輝を見て、その感情は崇彦の心の中で爆発した。



「ボスの代わりは……この俺がする! 俺じゃなきゃ駄目なんだ!」


 爆発する感情と共に、崇彦を不思議な感覚が襲った。 身体中が熱く、何かとてつもない力が蠢いている様な、そんな感覚が。



「……崇彦?」


 光輝も、そして瑠美も、崇彦の異変に気付く。


「うおおおおおおおおおおっ!!」


 崇彦が叫ぶ。 溢れ出るオーラを見て、経験者でもある光輝は勘づいた。


「まさか……覚醒したのか?」


 覚醒は精神的に追い詰められた際に起こりやすい現象である。 それを知っている光輝は、自分が桐生の事で、それ程までに崇彦を追い詰めてしまったのだと自覚した。



 崇彦が静けさを取り戻す……。 見開いたその眼に、先程までの焦りや嫉妬で揺らいでいた弱々しさは消えていた。


「……これが、覚醒ってヤツか……」


「崇彦……俺は……」


 追い詰めてしまった負い目から、光輝は崇彦に謝罪しようとするも、それを崇彦が遮った。


「もういい。 ただ、どんな理由であれ、おまえはボスを殺した。 もう、元には戻れねえよ」


 どこか吹っ切れた表情で、崇彦は言った。


「おまえはおまえでボスに託された事をやり遂げれば良い。 俺も、俺にしか出来ないやり方で、ボスの託した想いを実現させる。 だから……黒夢のボス・桐生辰一郎を殺したおまえは、今日から俺の……俺たち黒夢の、敵だ」


 その言葉を受けて、光輝は反論する事は無かった。 むしろ、当然だと。



「そうか……。 そう思われて当然だな」


 光輝は納得した様に頷くと、それ以上崇彦に何かを伝えるのを止め、瑠美に視線を向けた。


「……瑠美、風香をお願い出来るかな?」


「え? ……まさか、またこのままいなくなるの?」


 光輝は黙って頷く。


 ただでさえ、訳も知らず勝手にいなくなった光輝に、瑠美は憤りを感じていた。 なのに、ようやく再会出来たと思ったら、今度は明確な理由を伴って、またいなくなろうとしている。


「ちょっと待ってよ。 崇彦、アンタ、光輝が信じられないの? アンタたちは相棒でしょ?」


「信じる信じないじゃ無い。 相棒だからこそ、引くに引けない意地があるんだ」


 崇彦は光輝に背を向ける。


「黒夢には、ブライトが桐生辰一郎を殺害した者として報告する。 結果、組織のメンバーかどう考え、どう動くかは、各々の好きにさせる」


「……事実だからな。 そうすれば良い」


 桐生を殺した張本人を、果たして黒夢のメンバーが許すだろうか? そんな事は考えるまでもなかった。 黒夢ナンバーズを始め、桐生を慕う者たちが大人しく黙っている訳は無いのだから。



「崇彦、ありがとう……なんだかんだで、おまえは優しいな」


 世界屈指の組織、黒夢から命を狙われる立場になるかもしれないにもかかわらず、光輝は崇彦に礼を言った。


 桐生を殺した事を考えれば、黒夢のメンバーに恨まれた方が罪悪感や負い目が少しでもマシになるから。


 ……崇彦がそれを意図したかは判らないが。



「じゃあ、頼んだぞ、瑠美」


「……色々と釈然としないけど、分かったわ。 じゃあ、これあげる。 無一文じゃ困るでしょ?」


 瑠美は光輝に自分の財布を渡した。


「え? いいよ別に……」


 瑠美は困った様に遠慮する光輝を見て、昔の光輝に戻ったのだと感じた。 最近の光輝なら、冷静に淡々とに対応していただろうから。


「いいから持って行きなさいよ。 私の方が歳上なんだか、遠慮はしなくていいからね」


 ちょっと語気強めの留美に、光輝は苦笑いを浮かべる。


「瑠美には敵わないなぁ。 分かった、ありがたく借りとくよ」



 崇彦は背を向けたまま、動かなかった。


「崇彦、おまえたちがどんなに俺を敵だと思っても、俺は黒夢の為なら出来る事があれば何でもする。 俺にとって、おまえはかけがえのない相棒だから。 じゃあ、またな」



 そう言って、光輝が姿を消した……その時だった。



「これは一体……どういう事なんだYO……?」


「…………おい、どーなってんだ、コラァ!?」


 現れたのは、黒夢の運営統括本部長のライン、ナンバーズのナンバー8・クロウだった……。

覚醒した崇彦は、黒夢に帰り、桐生の死を告げる。そして……


次回、『新たなトップ』


「黒夢を…………俺に継がせてくれないか?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 連続更新・・・ 「まさか……作者氏覚醒したのか?」 [一言] これは応援せざるを得ない、がんばってください
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