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第126話 狂人化の向こう側

「光輝君! 光輝君!」


 倒れるブライトを心配そう抱き抱える風香。 傷は見るからに致命傷で、ブライトからは呻き声が洩れていた。



「……小賢しい技だな、水谷風香。 悪い事は言わん、この場から立ち去れ」


 水流の檻から脱出した桐生が、風香に歩み寄る。


「……貴方は、光輝君の仲間だったんでしょう!? なのに、一度ならず二度までも、なんで光輝君を殺そうとするの!?」


 風香が涙を流しながら叫ぶ。 ちなみに、風香が言った一度目は、総理大臣達を暗殺したブライトを桐生が粛清したとの情報を信じてのものだった。


「おまえがこのブライトと親密な関係だった事は聞いている。 だから教えてやるが、粛清はこちらで流したブラフだ。 コイツは、最後の仕事を終えた後、忽然と消えてしまったからな」


「……ブラフ? じゃあ何故? 突然消えたから、裏切者として今度こそ粛清しに来たんじゃないの!?」


 風香が厳しい目つきで桐生を睨むが、その様に桐生は反応を示さずに話し始めた。


「殺すつもりなんざ無い。 ほら、見てみろ……」


 桐生がブライトを指差すと、ブライトの傷口が白く燃えながら塞がっていた。


「ぐ……ぎぎぎっ……」


 そして、意識を取り戻したブライトは、上体を起こして桐生を睨んだ。


「流石だな。 今のでも死なないとは……そうこなくては」


「光輝君! 大丈夫なの!?」



 その光景を、光輝は苦しそうに見つめる。


「……風香、逃げるんだ! 早く!」


 風香を逃がしたい。 だが、ブライトは思い通りに動いてくれなかった。



「ころぉおすっ!」


 何事も無かったかのごとく、再び桐生に襲い掛かったのだ。



「何やってんだよ、俺!? 早く風香を逃がせ!」


 戦闘面での意志疎通は出来たが、やはり思い通りには動いてくれない。


「……だったら、やっぱり桐生を倒すしかないんじゃないの? じゃなきゃ、風香を救う事なんか出来ないわよ?」


「だから、俺はボスを殺すくらいなら…」」


「さっきも言ったけど、どうせ桐生は長くないよ!」


「そんなこと……うっ!?」


 突然、光輝を頭痛が襲った。 いや、頭痛というより、その感覚は……


「くっ……まさか、時間が……」


 その感覚に、なんとなくだが察しがついてしまった。


「完全に……俺が消える?」


「おまえ……身体が……!?」


 光輝の身体が、次第に薄くなっていく。


「くそっ、このタイミングで……」



 そして、ブライトにもまた異変が起きていた。


「ぐぅああアアアアッ!?」


 突然、叫びながら強烈なオーラを発散させたのだ。


「ぐっ……このオーラは!?」


 それは、桐生をして圧倒的な強者だと理解させる程のオーラだった。



「…………フウゥゥゥ……。 能力者……殺ス」


 ブライトからは先程までの狂人化の雰囲気が消え、冷静なアサシンの様な雰囲気を溢れ出て、桐生を睨んだ。


「こう……き君?」


 明らかに空気が変わったブライトに、風香も嫌な違和感を覚える。


 そんな風香を見ながら、ブライトは冷たく言い放った……。


「貴様モ能力者カ……貴様モ、後デ殺ス」



「くそっ、どうなってんだ!?」


 ブライトの変貌は、光輝にとっても理解不能の出来事ではあったが、必死でカズールの言葉を思い出す。


(カズールは、次第に狂人と化すとは言っていたが、完全に自我を失う前に対象を殺害した事で元に戻ったと言っていた。 ……まさか、これが狂人化の更に向こう側の、完全に自我が消え去った後の俺の姿なのか?)


 狂人化の段階では、ブライトにはまだ風香に対する感情が残っていた。 だが今のブライトにそれは無い。 桐生も風香も等しく敵だと認識している。


(まずい……このままじゃ風香まで!)


「クソッ、ボス、頼む! 早く俺を……ぐわああっ!?」


「ああ! こ、光輝!?」


 次第に薄くなって悶える光輝を、マリーンが抱き抱える。


「気をしっかり持つんだよ! おまえがこのまま消えたら、例え桐生を殺しても、多分もう元には戻れないよ!」


「ぐっ……なんでおまえにそんな事……」


「私は既に霊体だからね……人の魂と肉体の繋がりみたいなもんを感じとる事が出来るのさ。 だから、多分だけどおまえが消えたら……もうどんな事をしても元には戻れない」


 リバイブ・ハンターの弊害をホワイトに話した事は無い。 なのに、なぜかホワイトは全てを知っている様だった。


「私は、ずっとこの場所でおまえの事を見てきたんだ。 おまえの本当のギフトも、その弊害も、全部聞いてたから知ってるのさ。 おまえが、その弊害にどれだけ苦しんでいたかもね……」


「な、なるほどね……なら、良い気味だろう? 恨んでる俺が苦しんでるのを見て来て、遂には消えちまうんだから……」


 光輝の皮肉に、マリーンは何も言わず、寂しげに光輝を見つめていた……。



「……何があったかは知らないが、強さだけは漸く本来のおまえに戻ったか?」


 桐生はブライトを見て確信する。 黒夢のナンバー1として活動していた頃のブライトに比べて、狂人化していたブライトは戦闘面であまりにも未熟に感じられた。 だが、今のブライトは間違いなく、桐生自身が認めていた頃の強さを取り戻したであろう事を。


「俺ハ……能力者ヲ片っ端カラ殺ス。 ソレダケダ!」


 光速の拳が桐生を襲う。 先程まではビクともしなかった桐生のガードに一撃でヒビが入った。


「ぬぅ……なるほど、これが権田を圧倒したおまえの本来の力か。 面白い……」


 桐生も反撃するが、フラッシュを駆使するブライトはアッサリと回避した。


「攻撃力、防御力でも俺に引けを取らず、機動力は追随を許さない上に、致命傷をも即座に治す回復力か……。 やはりおまえこそ、俺が……いや、世界が求めていた救世主……」



「今ならまだ間に合う……早く桐生を!」


「駄目……だ……ボスを、絶対に……」


 マリーンは、今にも消え入りそうな光輝の胸ぐらを掴む。


「これも……霊体の私だから見えるんだけどね。 ……桐生は、もう長くない」


 先程も、マリーンは桐生に死相が見えると言っていた。 光輝はまともに聞いていなかったが。


「どう……ゆう……?」


「分からないさ! でも……多分だけど、桐生は病に侵されてる。 それも、セル・フレイムでもどうしようもないレベルの病にね……」


 病……。 桐生が病に苦しんでいたなど、光輝は全く気付かなかった。 それもそのはずで、光輝は桐生への殺意を抑える為、長い間直接会う事を避けていたのだから。


(なんて事だ……。 だったら、病が進行する前に、もっと早くに俺が気付いてれば、治せてやれてたかもしれないのに……)


「多分ばっかで悪いけど、桐生の病はギフトでどうにか出来るものじゃ無いよ。 そう、あれは病というより、()()みたいなもんだね」


 呪い……。 だとすれば、その呪いはいつから桐生を蝕んでいたのだろう? だとすれば、桐生がこの場所に来た本当の目的は……


「俺に……殺される……ため?」



 ブライトと桐生の戦いは熾烈を極めた。


 機動力ではブライトが圧倒しているものの、桐生にはそれを補う経験があった。



 一進一退の攻防だったが、徐々にブライトの攻撃が桐生を削っていく。 そして、戦い始めて五分が過ぎた頃、桐生は突然血反吐を吐いた。


「ぐふっ……発作か。 次第に感覚が短くなっていたが、ここで来るとはな……どうやら時が来たという事か……」


「……ドウシタ、能力者。 モウ終ワリカ?」


 全身を覆っていた鎧までもが消えていく。 そして、桐生は片膝を着いた。


「聞け、ブライト! アンノウンは、間もなく復活する。 そして、俺ではアンノウンを倒す事は出来ないだろう……。 だが、おまえなら、俺を超えたおまえなら、アンノウンを倒せるかもしれない」


 桐生が立ち上がり、まるでブライトを招く様に両手を広げる。


「ブライト……さあ、殺せ。 そして、戻って来い。 戻って来て……人類を救えっ!」


「死ネェ、能力者アアァッ!!」


 ブライトがフラッシュを発動しながら、桐生目掛けてロンズデーライトの短剣を突き出した!



「やめろおおおおっ!!」


 その時、叫び声と共に、一筋のレーザービームがブライト目掛けて飛んで来た……。


 ブライトは桐生への攻撃で、レーザービームには気付いていない。 このままの軌道をだと、正確に心臓を貫くだろう。


「光輝君!」


 ……そのレーザーは、ブライトの前に立ちはだかった風香の身体を貫く。


 そして、ブライトの短剣も、桐生の胸を貫いた……。

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