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第125話 死相

 セル・フレイムによる内部からの攻撃は、確実に桐生の左腕にダメージを与えた。


「ふん、この程度で……いい気になるなよ?」


 だが桐生は、なんて事はないとばかりに左腕を回す。


 実際、桐生の左腕を破壊したければ、今の攻撃を何度も繰り返すか、もう少しだけ長く触れていなければならないだろう。 桐生の攻撃を回避しながらだが。


(こっちはたった一撃与えるだけで寿命が縮まりそうだってのに。 でも、突破口は見付けた。 あとはやるだけだ!)



「キシャアアアアーッ!!」


 ブライトが奇声をあげて動き出す。 当初の単調な動きではなく、光速で撹乱しながら隙を見ては桐生の鎧に覆われていない関節を狙って攻撃を仕掛ける。


 それでも桐生のガードは堅く、攻撃が当たるのは十回に一度、桐生にダメージを与える為にはそれを、更に幾度となく繰り返さなければならないのだ。 しかも、一撃即死級の桐生の攻撃を掻い潜りながら……。


(生きた心地がしねー! でもこれを繰り返すしかないんだ!)



 そんな光輝に、ホワイトが愚痴る。


「なにやってんのよ。 傷は死ななきゃ治してあげるんだから、桐生の攻撃なんてある程度無視すればいいでしょ?」


「……アンタさぁ、俺を殺したいの? 助けたいの? いい加減なに考えてんだか分からないから黙っててよ」


「むっ……助けたいわけないだろうが! ……多分。 もう、自分でもわかんないのよ……ブツブツ……」


 桐生との戦いに集中している光輝は、ホワイトの言葉を最後まで聞く事はなかった。



 ホワイトが提案した捨て身の攻撃。 だが、ホワイトに強制的に回復してもらえるなど、光輝のプライドが許さなかった。 自分の力だけで、桐生とどこまで渡り合えるか確かめたかったから。



 光輝にとっては命を投げ出すかの様な紙一重の攻防が続く……が、そんな中、最初に桐生の方が捨て身の攻撃を繰り出して来た。


(隙ありっ!)


 ブライトは双剣で桐生の右腕を狙いつつ、それをガードしようとした左腕を掴まえた。


 だが、桐生はわざと左腕をブライトに掴ませたのだ。 あからさまだと罠である事がバレるため、あくまで流れの中で掴まれたのだと演出して……。


(掴まえた! セル・フレイムを喰らえっ!)


 先程の様な一瞬ではなく、桐生の左肘にしっかりとセル・フレイムを発動させる。 その左肘の内部で細胞が爆発を起こしているだろう。 だが、桐生は笑みを浮かべた。


「掴まえたのはこっちだ!」


「うぎっ!? はなせっ!」


 攻撃された左腕で、ブライトの首を掴む。 そしてそのまま、腹に剣を深く突き刺したのだ。


「ごはっ……」


 剣は完全にブライトの腹を貫通している。 セル・フレイムを発動しなければ、確実に致命傷となるだろう。


「くそっ!」


 光輝は桐生の罠にまんまと引っ掛かった事に声を荒げる。


「言わんこっちゃない。 仕方ないから直ぐに治してあげるわ……セル・フレイ……きゃぁっ!?」


 呆れた表情でセル・フレイムを発動しようとしたホワイトを黒炎が包み込む。 光輝がクァース・フレイムで静止させたのだ。


「…………やめろ。 もういいよ……。 熱くなって、本来の目的を忘れちまってたが、これでいいんだ」


「あがががっ……何言ってんのよ! 桐生に勝ちたいんじゃなかったの? 現に、さっきまでのおまえの表情、この場所に来てから一番生き生きしてたじゃない!」


 剣が引き抜かれ、倒れるブライトの視界越しに空を眺めながら、光輝は苦笑いを浮かべた。


「フッ……アンタも消えたくなくって必死だな。 いいんだよ、これで。 これでボスが死ぬ事はない。 アンタも俺となんて嫌だろうけど、一緒にあの世に行こうぜ」


「ぎぎぎっ……だ、黙ってようかと思ったけど、既に霊体の私には見えるんだ。 ……桐生には、既に()()が見えてるよ」


 桐生に死相……。 だが、クァース・フレイムの黒炎で身動きが取れないホワイトが放った言葉を、光輝は気にも止めなかった。 もう、自分は完全にこの世から消え去るのだと、覚悟を決めようとしていたから。



 倒れたブライトを見下ろしながら、桐生は呟く。


「どうした? ……さあ、立てよ。 その程度じゃないだろう? 立って、おまえの力を証明してみせろ!」



 自分に向かって立って来いと言う桐生の言葉を聞きながら、だが光輝の中では、どこか今の攻防で納得してしまっていた。


「……ブライトから生命力が抜けてくのが分かる……。 これで、楽になれる……」


 光輝にとって、自我を失ってからの時間は苦痛でしかなかった。 こんな事なら、早く消え去ってしまいたいと思ったのも一度や二度ではないのだ。


 消える=死。 怖くない訳が無い。 悔しくない訳が無い。


 それでも、ある意味最期に桐生と思いっきり戦えた。 それは、少しだけ光輝の心を満たしてくれた。


(結局、本当のヒーローにはなれなかったけど、それでも、ギフトに目覚めて……いろんな経験が出来たし、悪い人生じゃなかったよな…… )



 これまでの人生が走馬灯の様に思い出される。


 ヒーローに憧れた幼少期。 なれずにもがいた少年期。


 そして、ようやくギフトに目覚めてからの激動の日々。 黒崎に殺され、冴島に殺され、桐生に殺され、伊織に殺され、ネイチャー・グリーンに殺され、ネイチャー・ホワイトに殺され……。


(……あれ? よく考えたら俺って死んでばっかだな! なんかツラ過ぎる!)


 死を覚悟して目を閉じたが、浮かび上がるこれまでの死の記憶に、なんて人生だと内心でツッコむ。


(イヤイヤ、俺の人生嫌な事ばっかじゃなかったよな!? え~と、え~っと…………そうだ、彼女に会えた)


 脳裏に、一人の女性の顔が浮かび上がる……。



 ……その時だった。



「ウォーター・マスター……フロウ・プリズン!」


「ぬおッゴポゴボ!?」


 突然、桐生を水流の檻が閉じ込める。 不意を突いた攻撃と鎧の重量から、桐生は身動きが取れない。 その隙に、風香がワールド・オブ・ウインダムで風を操りブライトを自分の下へと救い出した。


「光輝君!? 光輝君、しっかりして!」



「ふ、風香!?」


 脳裏に浮かんだ張本人である風香の行動に、走馬灯など吹き飛んでしまった。 桐生との戦いに集中するあまり、風香の存在を忘れていたのだ。


 驚きでクァース・フレイムが解除された瞬間、ホワイトは即座にセル・フレイムを発動した。


「……あ!? 何勝手な事……」


「うるさい! だったらおまえは、このまま死んで風香を悲しませたいの!? それだけじゃない、このままおまえが死ねば、風香だって死ぬよ!」



 みるみるうちにブライトの腹に開いた穴が修復されていく……だが、ブライトは意識を失ったままだ。



「チィッ、おまえのせいで発動時間が遅れた! 回復するかは五分五分だよ、これじゃあ」


 セル・フレイムは万能な回復能力ではない。 勿論、破格の回復力を誇ってはいるが、あまりにも致命的な傷は時間が経過すればするほど回復が間に合わなくなる場合もあるし、病気等も末期症状まで至った病を治す事は不可能。


「……おまえが死ねば、きっと風香も死ぬつもりで桐生に立ち向かう! 風香の事、ちゃんと好きなんだろ? だったら、守ってみせなよ! じゃなきゃ、呪い殺すよ!」


「風香……」


 思えば、風香と出会った頃から劇的に光輝の日常は変わった。


 どこかひねくれ者だった自分に、風香はいつも笑顔で接してくれた。 ギフトが発現したからでもあるが、自分の人生が明るく拓けたのは、いつも隣に風香がいてくれたからだった。



「……ごめん、ホワイト……さん、頼む、もう一度だけ俺を助けてくれ。 風香だけでも逃がしたい」


「逃がす? あの娘はおまえを残して逃げたりしないよ。 あの娘を助けたきゃ、おまえも一緒に逃げるか、諦めて桐生を倒しな。 ……それに、おまえにさん付けで呼ばれるなんてゾワッとするから。 私の事は特別に……マ、マリーンって呼んでいいよ……」


 光輝は、何故か照れくさそうにするホワイト……篠田マリーンに、不思議と信頼感を覚えたのだった。

遂に光輝の自我が完全に消え去る時、殺戮に取憑かれた悪魔が生まれる。


次回、『狂人化の向こう側』


「俺ハ……能力者ヲ片ッ端カラ殺ス。 ソレダケダ!」

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