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第124話 経験の差

「しいぃぃぃねえぇぇえっ!」


 ブライトがフラッシュを駆使して桐生の周辺を縦横無尽に動きながら、一方的に攻撃を仕掛ける。 だが、その全てに桐生は反応し、ブロッキングで対応する。


「自我を失ってるからか? 動きが単調過ぎて、おまえの動きが手に取る様に分かるぞ……ほらっ!」


 言葉の通り、ブライトの動きを先読みするかの如く、桐生の拳がブライトを襲う。


「ぐおぉ!?」


 ブライトはガードしたものの、同じロンズデーライトで硬質化しているにもかかわらず、ガードした腕のロンズデーライトにヒビが入った。



「同じロンズデーライトのギフトを持っていたとしても、おまえと俺とではギフトの熟練度が違う、知識が違う、そもそもの実力が違う!」


 動きの止まったブライトに、桐生の豪腕が振り落とされる。 その拳は、ブライトのロンズデーライトのブロックを粉々に打ち砕き、そのままボディーを打ち抜いた。


「がはあっ!?」



 ブライトと桐生とでは、ロンズデーライトの硬度も違った。 更には、巨大にすればする程重量が増す為、元々の身体能力の影響から、ブライトでは扱えない重量のロンズデーライトを桐生は鎧としてその身に纏う事が出来るのだ。


「ブライト……おまえのギフトはどれもこれも破格の能力だ。 だが、俺にはロンズデーライトだけあれば充分。 俺は、この能力を磨き続けて最強となったのだ」


「ぐっ……くっそおっ!!」


 大ダメージを与えられたブライトだったが、その傷はセル・フレイムによって即座に回復させられた。



 その光景を内側から見ていた光輝は、ホワイトの胸ぐらを掴んだ。


「やめろっ! 勝手に回復させんじゃねえっ!」


「ヒヒヒヒヒッ、桐生を殺せば、おまえの精神を殺す事が出来るんだ。 簡単には死なせないよ?」


「てめぇっ…」



「きええええええっ!」


 どんなに攻撃を受けようと、直ぐにダメージが回復するブライトは、恐れを知らずに桐生に襲い掛かるが、桐生の硬いガードを崩す事が出来ない。


 フラッシュとロンズデーライト。 この二つのギフトだけでも、ブライトは世界最強クラスの実力者足り得る。 だが、ロンズデーライトだけを磨きあげた桐生にとって、今のブライトなど英雄・鬼島に比べれば相性面で与し易い相手だった。


「ブライト、今のおまえには俺に届きうる攻撃が無い。 俺の盾を脅かす矛を持たぬ者など、俺の敵では無い!」


「うるせえあああっ!!」


 インビジブル・スラッシュを乱打するが、桐生の鉄壁の鎧には傷一つ付ける事が出来ない。


 クァース・フレイムの黒炎が桐生を包み込むが、鎧にダメージを与える事はおろか、身体の自由を奪う事も出来なかった。


 セル・フレイムは対象に触れないと発動出来ないし、インビジブル・スラッシュよりも殺傷能力が低い上に扱いにも慣れていないワールド・オブ・ウィンダムでは、当然桐生にダメージを与える事は出来ない。 サイレント・ステルスで姿を消しても桐生なら僅かな気配を察知する上に肝心の攻撃が効かない為、ブライトは八方塞がりとなった。



 光輝は……桐生を殺す位なら、自分が犠牲になってもいいと本気で思っていた。 だから今がある。


 なのに、桐生の圧倒的な強さを目の当たりにし、その胸中には別の感情が宿っていた。


(ボスを殺すのが嫌だから逃げた? はあ? 何が殺すのが嫌だよ。 俺なんて、まともに戦ってもボスに全然敵わないじゃないか)


 拳を強く握る。 自惚れではなく、自分は既に桐生と互するか、それ以上の強さを手に入れたと思っていた。 だが、現実は全く桐生に歯が立たなかったのだ。


 それは、ブライトとして築いた黒夢ナンバーズのナンバー1としてのプライドを大きく傷付けた。


(……どうすれば俺の攻撃はボスに届く? 確かにロンズデーライトの熟練度では劣ってるだろうけど、他のギフトを有効に使えば絶対に突破口は見つかるハズなんだ)


 桐生を殺したくないと思っていた。 だが、気が付けば光輝はどうやれば桐生に勝てるのかを真剣に考え始めていた。


(今の俺に戦術も糞も無い。 ただ手持ちのギフトを手当たり次第使ってるだけだ。 俺に自我が残ってたら……まず遠い間合いからクァース・フレイムとインビジブル・スラッシュのコンボで、僅かでも良いからボスの動きを止める。 その隙に、フラッシュとロンズデーライトのコンボでボスの鎧の唯一の弱点である関節を地道に攻撃する。 もしくは、接近してセル・フレイムで内部破壊を狙うか……。 確かに、火力と防御力ではボスには及ばないだろうが、スピードは圧倒的に勝ってるんだから、長期戦に持ち込むのも手だな……)


 それは、光輝が初めて桐生と対峙した時と同じ、肘や膝などの鎧で覆われていない箇所をピンポイントで攻撃する作戦だったが、今のブライトに狙いを定める事を望むのは難しいだろう。


 しかし、光輝の予想を裏切り、ブライトは光輝のシュミレーション通りに動き始めた。


(……え? なんでだ?)


 自我を失ったからこそ、光輝は自分の中に閉じこもった存在となった。 なのに、光輝の考えがブライトに伝わっているかの様に、突然ブライトの動きが変わった。



 実際光輝の考えは、桐生にとっても厄介なものだった。 どんな攻撃でも凌げる自信はあったが、圧倒的なスピードを駆使して丁寧に正確に、一撃で倒そうなどとは考えないヒットアンドアウェイの戦法は、桐生にとって唯一の効果的な戦法でもあったのだ。


「いきなり動きが変わったな……まさか、自我を取り戻したのか?」


「しねっ、しねっ、しねっ、しねぇっ!」


 動きの精度は上がったものの、やはりブライトは狂人化している。


「気のせいか。 しかし厄介だな……自我を失いながらも熟練の戦士の様に立ち回れるとなると、俺も今以上に本気を出さねばならん」


 桐生がロンズデーライトで左腕に盾を、右腕に剣を造り出す。


「今度はこっちから行くぞ」


 光速で向かって来るブライトの動きを盾で受け止め、剣を横凪ぎに一閃。 これをブライトは辛うじてかわしたが、当たれば一撃で即死ものの攻撃だった。



(なんだよ、今の? あんなの、俺がロンズデーライトでガードしようとしても無駄じゃないか?)


 光輝は、改めてロンズデーライトの有能性を……人類最強と呼ばれていた桐生辰一郎の恐ろしさを知らされた。


(何が人類最強は世代交代しただ。 俺なんて、全然ボスに敵わないじゃねーか。 ……でも、このまま大人しく負ける訳にはいかない)


 ブライトが自分の意思通りに動いてくれる事を知った今、光輝は更にどんな戦法が桐生に通用するかをシミュレートする。 その表情は……強者を前にした喜びを隠せずに笑みを浮かべていた。


(そっちが剣と盾なら、こっちは双剣で、圧倒的なスピードで撹乱してやる!)



 ブライトが両腕に短剣を造り出す。


 そして、一気に間合いを詰め、至近距離で桐生の攻撃をかわしながら一方的に攻撃を当てる。


「チィッ、この攻撃は厄介だな」


 手数に圧倒される桐生だが、一撃でも喰らえば即死の危険性もあるブライト……光輝にとっても、背筋にジットリと冷たい汗が浮かび上がる程の緊張感が溢れていた。



(このまま行けば、いずれボスの関節にダメージを与える事は出来るだろうけど、そう易々と事が進む訳が無い。 相手は、百戦練磨の桐生辰一郎なんだから)


 光輝の想像通り、如何に関節が弱点と云えど、一定のダメージを与えるためには幾度となく攻撃を当てなければならない。 それでも、光輝は持久戦を覚悟で何度も攻撃を仕掛けていたのだが、ここで桐生がアクションを起こす。


 敢えて、ブライトの攻撃を受けながらも腕で抱え込み、その隙にカウンターを狙ったのだ。


「どうやらここまでの様だな、ブライト!」


 絶体絶命の危機。 だが、光輝はこの展開を予想し、逆に笑みを浮かべていた。


(ようやく触れる事が出来た……)


 次の瞬間、抱え込まれた腕からセル・フレイムが発動した。


「なっ……ぐおっ!?」


 桐生は瞬時にブライトの腕を離す。 外傷は無い。 だが、今の一瞬で桐生の左腕の関節は内部からダメージを受けた。


「……やれやれ、スピードだけでも厄介なのに、触れられただけでも駄目なんてな……どんだけチートなんだ」


 あの桐生が、ブライトの複数のギフトに脅威を抱いた。



 戦況の流れが変わった。 ようやく、これでブライトと桐生の戦況が五分五分になったと言える。


(まだまだ、勝負はここからだ!)

桐生との経験の差は歴然。危機に陥るブライトだったが、その時ホワイトが呟く……。


次回、『死相』


「……生命力が抜けていくのが分かる……。 これで、楽になれる……」

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