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第123話 現れた最強

※2021年11月30日 一部修正

 ――西暦二〇七二年五月三日 宮城エリア・山中




 ブライトと風香がひとつ屋根の下での生活を始めてから三日が経った。


 理性を失い、バーサーカー状態となったブライトが本能のままに風香に抱き付き、そのまま眠りについた光景を、光輝は複雑な心境で眺めていた。


「……なにやってんだよ……俺は……」


 自分の意志とは全く違う自分が、風香と抱き合ってる。 悔しさや寂しさ、風香に対する申し訳無さに自己嫌悪に陥っている光輝を、ホワイトは冷めた眼で睨んでいた。


「なんなのよ……ワタシは、愛する人を失って、こんなに苦しい思いをしてんのに……なんでおまえらは幸せそうに抱き合ってんだよ!」


「いや、あれは俺であって俺じゃないだろ!」


 ブライトと風香の生活は、日中は森で食料を調達しつつ、フェノムが現れれば撃退し、日が暮れると掘っ立て小屋に帰ってブライトが一方的に風香に甘え、風香もまた嬉しそうにブライトを甘やかす。 光輝からしたらなんとも羨ま……悔し……恥ずかしい光景だった。


 そもそも、カズールの話では次第に感情を失うとの事だったが、実際風香が現れるまでは感情を失った殺戮マシーンのごとくフェノムを狩っていたのだが、今では感情を失うというより本能のままに行動する幼児退行だったのではないかと思っていた。



「あれはあおまえの本性でもあるんだから、おまえの願望でしょうが! てゆーか、大人の男と女なんだから、もうちょっとヤル事があるだろ!」


 何故かホワイトの鼻息が荒い。 顔は真っ青だが。


「大人って……いやいや、な、なんば言うとっとや!? お、俺たちはまだそんな関係じゃないんだから……」


 目に見えて焦る光輝に、ホワイトは不気味な笑みを浮かべる。


「クックックッ……ガキめ。 おまえ……もしかしてその歳で童……」


「わーわー!! うるさいうるさい! テメエ今度こそホントに成仏させっぞ!?」


 顔を真っ赤にしてジタバタする光輝を、ホワイトは見下した様に見つめる。


「情けない……。 ま、風香もお子ちゃまだったから、ガキんちょ同士、なんの進展も無かったんだろうけど……むしろ自我を失って積極的になったんなら良かったじゃないか。 風香だって、とても幸せそうだしねぇ」


「いやぁ、だから、俺はそんな……」


 次第に声が小さくてなる光輝を、ホワイトは更に攻め立てる。


「風香はね、ずっと軍人として英才教育を受けて育って来たから、多分おまえが初恋の相手だったんだろうね。 それに、自分は将来国防軍でも上の階級になる人間だと理解していた。 だから、おまえとの恋を最後の恋だと決めてたんだろうにね……そんな風香の想いが実を結んだんだから、別に悲観するこっちゃないだろう?」


「……んな事言ったって……」


 光輝は風香と出会ってからの事を思い浮かべる。


 出会って間もなくしてギフトに目覚め、それからは目まぐるしい日常の連続だった。 とても恋愛を楽しんでいる暇など無かったハズだと。


「どーせ、忙しかったからとかって言い訳考えてんだろうけど、それは単におまえに甲斐性が無かっただけさ。 はぁ……可哀想な風香」


「ぬ~、さっきから聞いてりゃ知ったような口ばっか叩きやがって、おまえは風香とどんな関係なんだよ!」


「国防軍に私たちクラスの女性スペシャリストは少なかったからね。 私は風香とは姉妹みたいなもんだったわよ」


 まさかホワイトが風香とそんなにも親しい間柄だと知らず、光輝はホワイトに若干の後ろめたさを感じてしまった。


「なんだい? 恋人の姉みたいな存在と聞いて驚いたのかい? なめんじゃないよ、おまえからの哀れみなんざいらないわ。 哀れむ位なら私と……んんっ、私におまえを呪い殺させな!」


「いや……つーかさ、アンタ、俺を呪い殺すどころか逆に俺が死なない様にしてんじゃん」


 その言葉の意味を、ホワイト自身も理解していた。


「……仕方ないでしょ。 実際おまえが死んだら、おまえの精神の中で存在している私まで消えてしまうんだから」


 光輝の身体はどんな傷を受けようとも、セル・フレイムが自動で発動して回復する様になっていた。 だが、それはギフトが自動で発動していたのではなく、光輝の内側からホワイト自身がギフトを発動させていたのだ。


 光輝がそれに気付いたのは、自我を失ってからだが。



「アンタ、自分の身を削ってでも俺を殺したいほど憎いんだろ? だったら、なんでそんな逆効果な事するんだよ」


「わ、私は……そう、おまえが戦いの中でアッサリと死ぬなんて許せないんだよ! おまえには、精神的に苦しんで苦しんで苦しんでもらって、最期には私自身の手で殺したいんだ。 それまでは簡単に死なせる訳にはいかないと思ってたけど……おまえが完全に自我を失えば、おまえ自身が消えるんだろう? だったら、おまえが後悔しながら消えるのを私は見届けてやるまでさ……ヒッヒッヒッ」


 何か矛盾を感じたものの、光輝はそれ以上ホワイトと会話するのを止めた  正直、よくよく見たら今のホワイトはジャパニーズホラーに出てくる怨念そのもので、見てて怖くなっていたからだ。


(怖っ……正直、俺、お化けの類いって苦手なんだよなぁ)



 そして今日も変わらず、ブライトと風香の穏やかな時間を眺めていると、ブライトが何かに気が付いた様に立ち上がった。


(なんだ? どうしたんだ?)


 ブライトは自我を失ってからこれまで、狂気的ではあったが焦った表情は見せなかった。 どんな危険度レベルの高いフェノムでも、余裕を以て行動していたのだが、今はかなり警戒している。



 続いて、風香もまた、何かに気が付いて警戒体制をとった。


「何……この強大なオーラは?」


 風香もまた、国防軍でもトップクラスの実力者だ。 その風香が、今は強大なオーラを感じ取り身体を震わせている。


「……きょうしゃだ……やべーきょうしゃだ!!」


 ブライトの腕輪が光ると、真っ裸をボロボロの装備が包み込み、そして家を飛び出していった。



(強者? 今の俺が強者だと判断するなんて、レベル10のフェノムでも現れたのか?)



 ブライトが森を疾走すると、目的である強者は直ぐに見付かった……。


 その強者はフェノムなどではなく、漆黒の鎧に身を包んだ人間だった……。


(まさか……なんでここに!?)



「みつけたー!! きょうしゃあっ!」


 ブライトの様子を見て、その強者は口を開いた……。


「……馬鹿野郎。 もう自我を失っちまったか」


 強者……桐生辰一郎は、狂人と化したブライトを悲しげに見つめていた。



「きょうしゃ、ころす!」


 ブライトがフラッシュを発動し、桐生にパンチを放つ。 だが……


「ふんっ!」


 桐生はブライトの動きを捉え、逆にカウンターの拳でブライトを吹っ飛ばした。



「光輝君!?」


 数十メートル吹っ飛ばされたブライトは、着替えを済ませて後を追い掛けて来た風香の前に転がって来た。


「光輝君、大丈夫!?」


 強烈なカウンターの一撃だったが、ブライトもまた、硬質化した腕でしっかりガードしていた為大きなダメージを受けてはいない。



(なんで……なんであなたが来るんだよ、ボス!)


 光輝が、自分を犠牲にする現状を受け入れたのは、全ては桐生を殺したくなかったからだ。 だから、何も言わず消えたのだ。 自我を失えば、間違いなく自分は桐生の命を奪おうとすると知っていたから。



「リバイブ・ハンターの代償か……。 おまえが生きる為には俺を殺さなければならないんだろう? だったら……俺がおまえを殺してやる……ブライト」


 完全に戦闘モードに入る桐生に、ブライトは嬉しそうに嗤った。


「あ~、アンタをみてたら、ものすごくころしたくなってきた……。 ぜったいにころす!!」


(や、やめろ……これじゃあ、俺がなんでこうなってるか、意味がなくなっちまう!)


 光輝の想いとは裏腹に、ブライトは完全に殺意に充ちている。


「見くびられたもんだな。 この俺を殺せると思っているとは……」


 桐生の身体から一際強大なオーラが溢れ出す。



「桐生辰一郎……何故ここに!?」


 桐生の登場に、風香も驚きを隠せなかった。 その強大なオーラに対する恐怖も……。



「さあ、かかって来い。 俺が、おまえにトドメを刺してやる」


「ころおおおおおおすっ!」


 桐生辰一郎とブライト。 最硬にして最強である二人の決戦が、幕を開けたのだった。

桐生との経験の差は歴然。危機に陥るブライトだったが、その時ホワイトが呟く……。

そして、光輝の中には久しく忘れていた戦う事の喜びが蘇っていたが……。


次回、『経験の差』

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