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第122話 光輝の世界

久々の新章突入です。 それに伴い、前話を加筆してますので、まだの方は是非そちらも読んで下さいね。

 ――西暦2072年4月30日 宮城県 山中




 果てしなく広がる不毛の大地。黒い靄がかかっており、視界が非常に悪いこの空間は、リバイブ・ハンターが発現した事で光輝の頭の中に生まれた空間。生と死の狭間と光輝の深層心理が合わさった奇妙な世界だ。


 本来なら光輝が一度死んだ際、蘇るまで待機させられる場所である。



 この場所で光輝が目覚めた事は過去に一度だけあったが、それはネイチャー・ホワイトの怨念が光輝の思念に紛れ込んだ事によるエラーが原因だった。


 そしてまた、光輝は今、この空間で膝を抱えながら座っている。


(はぁ……俺はいつまでここにいなきゃいけないんだろう)


 リバイブ・ハンターの弊害により、光輝は次第に自我を失っていった。 そして気が付くと、光輝はこの場所にいたのだ。


 ほとんど自我を失った自分を、内側から眺めながら。



「フフフフッ……またおまえの存在が薄くなってきているね……いい気味だわ」


 そんな光輝の背後に、真っ白な衣装と真っ黒な長髪を靡かせた女……ネイチャー・ホワイトが現れて、不気味に微笑んでいた。


「……またアンタか。 いい加減成仏しろよ」


「キキキキッ、おまえが生きてるうちに成仏なんてしてやるもんか。 なんせ、おまえももうすぐ消えてなくなりそうなんだからね」


「……はぁ、じゃあもう好きにしろよ」



 光輝が完全に自我を失ったのは、桐生からの指令をやり遂げ、逃げるように東北の山中に籠ってから暫くした頃だった。


 はじめは自殺も考えた。 だがそんな時、目の前にブラックホールが現れて、大量のフェノムが出てきたのだ。


 近年は存在が確認されなかったレベルのフェノムが次々と現れるのを、光輝は黙って見ていられなかった。



 続々とブラックホールから溢れ出るフェノムを殲滅する日々が続く。 危険度レベルが8以上のフェノムが相手でも、もはやブライトの敵ではなかった。


 そして……その最中、気が付けは光輝はこの空間にいて、狂った様にフェノムを狩り続ける自分を眺めていたのだ。



(こんな事なら直ぐに自殺してりゃ良かった。 ……いや、俺には自殺する勇気なんて無かったんだ)


 フェノムがもし山を下り、市街地まで侵攻すれば、街はたちまち壊滅してしまうかもしれない。 ならば、自分が戦らなければならないと、壮絶なフェノム掃討戦が始まった。


 だがそれは只の言い訳で、フェノムが現れた時光輝は自分の中で、フェノムを倒さなければいけないから、自殺してる場合じゃない……自殺しなくても良いんだという、大義名分を得たのを覚えていた。


 結局、自分は自殺する事も出来なかったのだと己を責めていた。 狂人と化したブライトがどれだけ危険な存在かをよく知っていたのだから。



「ヒッヒッヒッ、諦めなよ。 もう時は戻せないんだ。 おまえが殺した、私の愛しいレッドやイエローが戻って来ない様にね」


 ホワイトが愉快そうに笑う。 そんなホワイトを光輝は無視する。 彼女に対して罪悪感が無い訳ではなかったが、それでもレッドやイエローを殺したのは戦闘中の事だったのだから、文句を言われる筋合いはないと。



 今日もまた、自我を失った自分……ブライトが獲物を求めて森をさ迷っているのをボ~っと眺めていた。


 すると、何か強大な敵を察知したのか、ブライトは急に走り出した。


(またフェノムが現れたのか? 山に籠ってからは世界がどうなってるのかは分からないが、これが各地で発生してたのだとしたら、黒夢の皆も今頃大変な思いをしてるんだろうな)


 黒夢の仲間たちが、フェノムの対処に奮闘しているであろう事を想像し、肝心な時に組織の為に何も出来なくなってしまった自分を卑下する。



 ブライトがガイアドラゴンを発見し、戦闘モードに入る。


(……ガイアドラゴンか。 まあ、今更どんなフェノムが現れようとも、俺の敵じゃないしな……)


 高レベルのフェノムすらも相手にならない程の強さを持った存在。 それは、まさに自分が憧れていたヒーローに相応しい存在だった。


(ヒーローか……。 フフフッ、見た目はヒーローなんてとんでもない、完全に悪役だけどな)


 装備は既にボロボロ。 髪もボサボサで、ヘルメットも既に辛うじて目元を隠している程度に過ぎない。 全身真っ黒な風貌は、誰がどう見ても正義の味方には見えないだろうと光輝は自嘲する。



 そうこうしているうちに、ブライトはガイアドラゴンの下に辿り着き、あっという間に殲滅してしまった。


「キィーッ! 相変わらず憎たらしい程の強さだねぇ……おや? どうやら先客が居たようだよ?」


 ホワイトの言葉に、光輝も外側に目をやる。 すると、そこには見覚えのある女性が傷だらけで立っていた。


「あ……梓? なんでこんな所に……いや! それどころじゃない! 早く逃げろ!」


 何故、幼馴染みである梓がこんな所にいるのかは分からなかったが、それ以上に今のブライトにとって、自分以外の存在は全て敵なのだ。 このままでは梓の命が危ないと、光輝は焦った。



「梓! 無事で良かった! 他の三人は!?」


 すると、またも見覚えのある女性……大久保が駆け寄ってきた。


 その後も吉田(この段階では吉田だとは気が付けなかったが)が駆け付けたが、その吉田の後方の人物に光輝の視線は釘付けになってしまった。


「……風香?」


 もう、会う事もないだろうと思っていた水谷風香に、光輝は激しく動揺していた。


 最後に風香に会ったのは山に籠る前、風香がヴァンデッダに敗れて寝込んでいる時に、惜別の挨拶がわりに様子を見に行っただけではあったが、その時は若干の温もりをは感じたものの心が激しく揺れ動くことはなかった。 それもまた、リバイブ・ハンターの弊害により感情の起伏が無くなっていたから。


 だが、今の内側に存在する光輝には、弊害による感情への影響は無くなっている。 本来の周防光輝にとって、風香の登場は激しく心を揺さぶった。



「まずい……逃げてくれ、風香!」


「なによ……おまえ、風香を……ああ、なるほどね……」


 ホワイトは、光輝がショッピングモールで死を偽装した場面にも立ち会っていたし、風香とは親しい間柄でもあった。 明確に風香の想い人が光輝だったと聞かされていた訳ではなかったが、これまでの風香と現在の光輝の様子で全てを察し、またも不気味な笑みを浮かべた。


「そう……おまえたち……ククククッ、これは大変ね。 制御出来ない自分の手によって、愛する人が殺されるかもしれないとは……カカカカッ、いい気味だ! 苦しめ! 愛する人を殺された私のように! おまえも、おまえ自身が愛する人を殺して、苦しめ! 悩め! 悶えろ! キャハハッガハッ!?」


 光輝の硬質化した手刀がホワイトの首を跳ねた。


「黙ってろ! くそぅ……頼む! 風香を殺さないでくれ! 今すぐ、俺が消えていなくなるから!」


 そうは言っても、ある種の思念体みたいなものである光輝は、自害する事も出来ない。


「……ムダムダムダムダ、成仏しなくて良かった。 おまえのこんな苦しむ顔が見れたんだから!」


 同じく思念体みたいなものであるホワイトは、何事もなかったかのごとく復活していた。



 外では、ブライトが吉田を倒し、狂った様に叫んでいる。 そして、遂に風香に視線を向けた。


「つぎはおまえか?」


 張り手が風香の頬を叩く。


「ああっ!? やめろ、やめてくれっ……」


 必死に叫ぶ光輝だったが、今の自分は何も出来ない。 これほど自分の無力さを恨んだ事は無いほどに、未練たらしく生き延びてしまった事を後悔した。



 だが、風香は……風香の表情は、聖母の様な慈愛に満ちていて、自分を見つめていた。


「生きていてくれた……。 それだけで私は……」


 そう言って、風香は嬉し涙を流しながら、無防備にブライトに抱きついたのだ。



「風香……ごめん、ごめん、風香……」


 何も出来ない自分への怒り。 そして、自我を失ったブライトによりその命を散らしてしまうであろう風香への申し訳なさから、光輝は涙を流しながら頭を抱えて踞ってしまった。



 ……だが……



「ふう……か? ……ふうか! …………ふうかだ! ふうかだ!」


 ブライトは、まるで子どものように無邪気に名前を呼びながら風香に抱きついた。



「…………え?」


 その光景を、光輝は理解出来ずに眺めていた……。

ブライトと風香の共同生活から三日。平穏な二人だけの世界にジェラシーを覚える光輝だったが、それでも風香との生活にやすらぎを感じていた。


だが、そんな平穏な生活は長くは続かなかった……。


次回、『現れた最強』


「おまえが生きる為には俺を殺さなければならないんだろう? だったら……俺がおまえを殺してやる……ブライト」

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